2018.03.09 ON AIR

絶大な人気を誇ったサザン・ブルーズのボス サニーボーイ・ウィリアムスン(アレックス・ライス・ミラー)Vol.1

King Biscuit Time / Sonny Boy Williamson(P-VINE Records PCD-24117)

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ON AIR LIST
1.Come On Back Home/Sonny Boy Williamson
2.Do It If You Wanna/Sonny Boy Williamson
3.Eyesight To The Blind/Sonny Boy Williamson
4.Pontiac Blues/Sonny Boy Williamson
5.Nine Below Zero/Sonny Boy Williamson

先頃リリースされたこの番組の10周年記念アルバムに南部のブルーズマンのフランク・フロストの”Things You Do”という曲を収録しました。
その時に「サザン・ブルーズ」とか「サザン・ビート」という言葉を自分があまり考えないで使っていることに気づきました。
サザン・ビートとかサザン・ブルーズっていうのは「南部のビート、南部のブルーズ」ということですが、南部と一口に言っても広いアメリカのどこを指すのか・・。
真っ先に南部と言って僕が想い出すのがミシシッピーですが、そのミシシッピーの東にあるアラバマ、西に接しているのがアーカンソーあたりも南部と僕は思っています。ミシシッピーの更に南のルイジアナとその西テキサスといった土地がそれぞれ独自のブルーズがつくられていたので、ブルーズという観点から見るとルイジアナとテキサスはまた別のものになります。ミシシッピーの北のテネシーはメンフィスという大きな街がミシシッピーのすぐ北にあることから、このメンフィスのブルーズも南部のブルーズに入るかと思いますが、別にメンフィス・ブルーズという呼ばれ方もします。

サザン・ビートのサザン・ブルーズと言って真っ先に思い浮かぶのがサニーボーイ・ウィリアムスン。ブルーズを知っている方の中には「いやいや、サニーボーイはシカゴのチェスレコードだから南部やないやろ」と言う人がいるかも知れませんが、サニーボーイはミシシッピーのグレンドーラという町に生まれ、どうも子供の頃からまともに働くことがイヤでハーモニカを覚えて最初はミシシッピー一帯を放浪してて、やがてとなりのアーカンソーのヘレナで少し腰を落ち着けたみたいです。ヘレナで人気が出て最初の録音もミシシッピーのジャクソンでやりました。この南部時代の彼の活動と録音が実はとても大切なのですが、サニーボーイというとチェスレコードのレコードの話題になりがちです。でも、今日は彼が最初に活躍した南部時代のサザン・ブルーズを聴いてみます

ちょうどサニーボーイが南部一帯で人気になりだした頃にエレキのバンド形態のブルーズが広まり確立された時期で、レコーディングする前にサニーボーイのバンドはエレクトリック・ブルーズバンドとしてしっかりと音楽的にも出来上がっていました。まずは一曲。
1951年トランペット・レコードがミシシッピーのジャクソンで録音。リリースした。この曲かっこいいです!
1.Come On Back Home/Sonny Boy Williamson
本当にノリのいいシャッフル・ビートが気持ちいいです。よくスイングするビートで、この骨太な感じがサザン・ビートですね。シカゴのビートなんか比べるとラフな感じがしますが、ビートの押しがグイグイ来ます。またギターとハーモニカのアンサンブルも素晴らしいです。

このレコーディングの10年くらい前、40年代のはじめからサニーボーイは南部一帯で人気がありました。
その人気のきっかけになったのは、アーカンソー州のヘレナと言う町メンフィスの近くですが、そこにKFFAというラジオ局があって、「キングビスケット・ショー」という15分番組のDJと生演奏をサニーボーイが任せられるわけです。その番組はギャラないんですが、自分たちの夜のライヴの告知をさせてもらえるんですね。もちろん当時はラジオの文化ですからみんなラジオを聴いてるわけです。それで「今夜どこどこの店でライヴやるからみんな来てや~」と宣伝するわけです。それでお客さんがたくさん来るということ。またラジオで生演奏するというのも画期的やったんですね。それでじわじわサニーボーイの人気は上がっていったんです。B.B.キングもミシシッピーのインディノアラでその番組を楽しみに聴いてたそうです。それで次の曲のような演奏をラジオでしていたわけです。こんな曲がラジオから流れてきたら、そりゃライヴ観に行きたくなるでしょう!
2.Do It If You Wanna/Sonny Boy Williamson

次はサニーボーイ・ウィリアムスンの1951年デビュー曲。初めてのレコーディングの時サニーボーイは54才です。54才というのはかなり遅いデビューですが、ラジオで人気が出始めた40年代はじめから、10年間くらいどうしてレコーディングしなかったか不思議で先日ブルーズンソウル誌の編集長の濱田くんに聴いてみました。彼曰く第二次世界大戦の影響で40年代半ばから終わりにかけてレコード盤(当時はまだLPではなくSP盤との時代のものでシェラックという素材を使っていた)の素材が手に入らなくなってレコード自体が作れなくなったという時代があったそうです。そして、本人も夜な夜なやるライヴやストリートで演奏するだけでまあまあ稼げていたのでそれほどレコードに執着がなかったのでは・・。
では、デビュー曲ですが、この歌はまあすごい歌詞で「あの女と寝たら、目がみえなかった者が目が見えるようになるんだ」と、それくらいいい女なんだと言いたいんだと思います。この曲はのちにB.B.キングがカバーしています。
この曲のイントロをよく聴いておいてください。
3.Eyesight To The Blind/Sonny Boy Williamson
イントロの入り方がちょっとドサクサなんですが、サニーボーイはイントロに入るための「1.2.3」というカウントを数えないでハーモニカから自分のテンポで入ってくるので、ドサクサになってしまうのですが、黒人のブルーズマンはカウントしない人が多いです。イントロのフレーズ、いまやったらハーモニカのフレイズでその曲のテンポとかノリをキャッチしろということなんですね。ひとつの美学なんでしょうか、おもしろいです。また、イントロがちょっとドサクサでもそんなこと余り気にしないですね。それよりも全体のノリが大事なんでしょう。

次のポンティアック・ブルーズのポンティアックはもちろん車ことで、キャデラックよりは少し安い価格だったのでお金を持った黒人にも人気の車種だったようです。やっぱり女性にモテてるには車は大切なアイテムだったんでしょうね。彼女を自分のポンティアックに乗せてドライヴするという歌ですが、最後に男の腕に持たれて「あんた、すべてがええ感じやわ。気持ちええわ」って彼女がいいます。
4.Pontiac Blues/Sonny Boy Williamson

サニーボーイはV8フォードというブルーズも歌ってますが、車を題材にしたブルーズは多いです。
ちょっと売れて有名になるとブルーズマンはみんなその時の最新の車を買ったみたいやし、自分の車をわざわざアルバムジャケットに出して「どや、オレの車」みたいなブルーズマンもいます。
さて、聴いてもらっていてわかると思いますが、サザン・ビートと呼ばれるこういうビートは武骨な感じがするんですが、すごくダンスしたくなる、身体動くビートなんですね。こういう典型的なサザン・ビートのサザン・ブルーズを作り出したのが、このサニーボーイと彼のバックのドラマーだったベック・カーティスとかギターのヒューストン・スタックス、ロバート・ジュニア・ロックウッド、ピアノのパイントップ・パーキンスとかウィリー・ラヴというミュージシャンだったんです。40年代から50年代最初まで彼らはそれはもうすごい人気やったそうです。そんなに人気があってもサニーボーイはライヴやラジオの番組をすっぽかしたりする人やったそうで、周りにいる者が大変ですよね。

最後の曲はNine Below Zeroという曲ですが、これは気温のことで零下9度ということです。めっちゃ寒いです。その寒いそとに追い出されたという歌で、オレはお金も愛も彼女にすべてあげた。そやのに彼女には新しい男ができてオレを追い出した零下9度の外に。オレは住むとこもないし、10セントももってないのに・・・。
5.Nine Below Zero/Sonny Boy Williamson

このNine Below Zeroをサニーボーイはシカゴに移ってからチェス・レコードでもう一回レコーディングしているんですが、次回はそのシカゴに行ってからのサニーボーイの話をしながら彼のブルーズを聴こうと思ってます。