2018.06.15 ON AIR

76才の現在もキュートでエレガントなR&Bシンガー,バーバラ・リン
Here Is Barbara Lynn/Barbara Lynn(Atlantic/Warner Music WPCR-27530)
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ON AIR LIST
1.You’ll Lose a Good Thing/Barbara Lynn
2.Only You Know How To Love Me/Barbara Lynn
3.I’ll Suffer/Barbara Lynn
4.Maybe We Can Slip Away/Barbara Lynn
5.This Is The Thanks I Get/Barbara Lynn

5月26日から順次全国公開されている”I AM THE BLUES”という映画をみなさんご覧になられましたか。
ミシシッピーのデルタ、ノースヒル・カントリーそしてルイジアナ・バイユーといったあたりの現在のブルーズの状況を捉えた映画で、ボビー・ラッシュ、ヘンリー・グレイ、レイジー・レスターなど南部出身のブルーズマンがたくさん出演しています。
B.B.キングやボビー・ブランドたちが亡き後、衰退している南部のブルーズ状況の中にありながら自分の音楽としてブルーズが必要な人たちとブルーズマンの現状とらえたドキュメントで是非観ていただきたい作品です。
今日はその映画の中で僕が格別に好感を持った、というより彼女が出演しているので観てみたいと思ったくらいですが、女性R&Bシンガー、バーバラ・リンを今日は聴いてみようと思います。
1968年アトランティック・レコードがリリースしたアルバム「Here Is Barbara Lynn/Barbara Lynn」
現在バーバラ・リンは76才。映画で観るとめちゃ元気です。姿勢もしっかりしているし、頭もしっかりしている感じです。
ではまず彼女と言えばこの曲
「もし、私を失ったら、あなたはいいものを失うことになるのよ」
1962年R&Bチャート1位、ポップチャートも8位まであがった大ヒット。オリジナルレコーディングは彼女が20才の頃。このテイクは26才。でも、10代のような可憐さがまだ残っている歌声です。
1.You’ll Lose a Good Thing/Barbara Lynn
映画”I AM THE BLUES”の撮影のためのパーティに呼ばれたバーバラ・リンは昔の友達や知合いを前に向かって「女性だったらこの歌の意味がわかるわよね」と言っていまの歌を歌い始めます。

彼女はギターを弾くのですが、そのサウスポーで弾くギターの腕前も衰えていない感じでした。めちゃ上手いというわけではないんですが、ときおりコードを絡めてソロを弾いたりする感じはちょっとジミ・ヘンドリックスみたいでにんまりしてしまいます。とにかくギターのリズムがすごくいいです。

バーバラ・リンは子供の頃、ピアノを弾いていたのですが、エルヴィス・プレスリーを観てギターを弾いて歌うのがかっこいいと思いギターを弾くようになったそうです。高校生の時にバンドを結成して活動するようになるのですが、その頃の好きなミュージシャンがブルーズのギター・スリムとジミー・リードで、女性歌手はというと黒人歌手ではなく白人のブレンダ・リーとコニー・フランシスなんですね。この辺りが彼女が他の黒人女性シンガーとちょっとテイストの違いになっているのかも知れません。
白人歌手を好きだったというのがちょっと意外でしたが、普通だったらアレサ・フランクリンとかルース・ブラウンとかダイナ・ワシントンという黒人女性シンガーの名前が出るところですけどね。
次の歌なんかにバーバラのそういうポップテイストがあります。
「ほかの人を好きになったこともあったけど永遠のものじゃなかった。でも、私はもう変えたくないの。あなたの愛にとらわれているから。あなただけが私の愛し方を知ってるの」
2.Only You Know How To Love Me/Barbara Lynn
甘酸っぱい10代の歌で同時代のモータウンレコードの影響も感じますが、そこはやっぱりサザンですからバックの音作りもシンプルでストレートです。
一曲目の大ヒットした「You’ll Lose a Good Thing」もバーバラ本人が作詞作曲したものですが、彼女はソングライターとしても才能のある人でいい曲つくるんですよ。次の曲も彼女の自作です。
サザン・テイストのあるR&Bバラードです。悪い男にでもひっかかっているのでしょうか。いつか私の日が来るでしょう。そしてあなたは孤独な男になるでしょう。それまでは私が苦しむのよ。それまで私は我慢するの。
3.I’ll Suffer/Barbara Lynn
彼女の歌にはどこか品があるんですよね。いまのような熱いソウル・バラードを歌ってもむき出しの感情ではないうっすらと哀愁でコーティングされているような感じです。

1984年に彼女は日本に来て日本のミュージシャンとツアーを回ったんですが、その人柄の良さはいろんなところで耳にしました。
20才でチャート1位になるような大ヒットを飛ばすと天狗になるシンガーもいますけど、小さい頃からの育てられ方がよかったのか人柄の良さが歌に出てるような気がします。

次の曲は「私達はこっそりそこを抜け出して、ふたりっきりの恋人の時間を過ごすの」と60年代に流行ったガールズ・コーラスグループにこういう曲あったような・・。
4.Maybe We Can Slip Away/Barbara Lynn

ちょっと映画”I AM THE BLUES”に話を戻すと、そんなに有名なブルーズマンは出てこないんですが、去年ですかグラミーを取ったボビー・ラッシュがいちばん有名でしょうか。そのボビー・ラッシュが「B.B.キングもレイ・チャールズももういない。オレたちが最後のブルーズだ」と言うのですが、確かにB.B.のようにブルーズのアイコンになるような人がいません。でも、ブルーズがなくなるわけではないんですよ。
この映画に出てくるミュージシャンももうおっさん通り越しておじいちゃんになっている人が多いんですよ。しかも、ほとんど頑固じじいです。その頑固さが微笑ましくもあります。それに比べると女性のバーバラ・リンは柔らかいというか穏やかで、そして何よりエレガントです。
76才になってもこのアルバムが録音された26才の頃と変らないエレガントさが素敵でした。
最後にもう一曲。これも彼女の自作の曲です。
愛する男と幸せな家庭を作ろうとあくせく働いてきたのに、男が他に女を作った。
5.This Is The Thanks I Get/Barbara Lynn

バーバラ・リンは76才になったいまも現役で歌っているのでもう一度来日して欲しいです。キュートで、エレガントででも自分の音楽の芯はしっかりもっているすばらしいシンガーです。
映画「”I AM THE BLUES」で確認してください。