2018.07.06 ON AIR

LPレコードで聴くブルーズ/いまも歌い継がれる名曲を残した60年代のブルーズシンガー、トミー・タッカー

Hi-Heel Sneakers/Tommy Tucker (CHECKER LP-2990)
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ON AIR LIST
1.Hi-Heel Sneakers/Tommy Tucker
2.Just For A Day/Tommy Tucker
3.Hard Luck Blues/Tommy Tucker
4.It’s A Mighty Hard Way/Tommy Tucker
5.Long Tall Shorty/Tommy Tucker

「ハイヒール・スニーカーズ」という曲はブルーズの中では有名なので知っている方もいると思います。この曲はブルーズではバディ・ガイ、バイントップ・パーキンス、ビリーボーイ・アーノルド、マジック・サム、ロックではビル・ヘイリー、エルヴィス・プレスリー、ジョージ・サラグッド、フェイセズ、ソウルではスティービー・ワンダー、ティナ・ターナー、ジャズではラムゼイ・ルイスやジミー・スミス、カントリーではカール・パーキンス、他にもホセ・フリシアーノのカバーも有名です。
そのオリジナルが今日聴くトミー・タッカー。
60年代に活躍したR&Bシンガーでキーボード奏者でもあり、ソングライターでもあります。1933年に生まれ82年に亡くなってますから49年という短い人生でした。
そしてトミー・タッカーと言えば「ハイヒール・スニーカーズ」、「ハイヒール・スニーカーズ」と言えばトミー・タッカーと言われるそのヒット曲を聴いてみましょう。
1964年にチャートの11位。赤いドレスを着て、流行のウィグ被って、ハイヒール・スニーカーズという当時最先端の黒人おしゃれファッションで夜遊びに行く女性の歌です。
1.Hi-Heel Sneakers/Tommy Tucker
元々はブルーズのヒットメーカー、ジミー・リードの”Big Boss Man”という曲のビートをいただいたものですが、とにかく「イナタイ」です。
実は昔ニューオリンズへ行った時に、黒人がたくさん集まってる靴屋さんに入って「ハイヒール・スニーカーズありますか?」って訊いたら、「そんな古いもんあるわけないやろ」と笑われて「いまはジョーダンや」言われてナイキのエア・ジョーダンを持ってこられたことあります。
でも、最近また若い女の子の間でちょっと流行ってるそうです、ハイヒール・スニーカーズ。
いまやブルーズのスタンダード・ナンバーとなって歌い継がれる名曲ですが、この曲が有名過ぎてトミー・タッカーはいわゆる「一発屋」さんに思われているのですが、果たしてそうなんでしようか・・と今日はこのアルバムをじっくり聴いてみたいと思います。

トミー・タッカーはブルーズ、ジャズ、R&Bちょっとポップなものまでいろんなタイプの曲を録音しているのですが、次の曲なんかはSomething You GotとかI KnowのようなニューオリンズR&Bの匂いもあるファンキーなものでトミー・タッカーのパワフルな歌がすごくいいと思います。まさに60年代R&Bです。
2.Just For A Day/Tommy Tucker

彼の経歴を読んでみると彼のお父さんがローカルシーンのピアニストで、小さい頃から音楽はたくさん聴いていて音楽の成績はいちばんだったみたいです。彼は9人家族の中で育ったけれど高校生の頃に家が金銭的に苦しくなって学校を辞め働き始めます。それで以前から興味のあった音楽のあるホンキー・トンクでも働き始めピアノを覚えてローカルバンドに入ります。その頃はジャズを志向していたようで一時盲目のジャズ・サックス・プレイヤーのローランド・カークのバックでピアノを弾いていたこともあります。
それで本人はジャズの曲にもアプローチしていてこのアルバムにもジャズ・スタンダードの”Come Rain Or Come Shine”なんかも歌っているんですが、いまいちです。
1960年にはアトランティックレコード傘下のレーベルアトコからシングルを一枚出してますが、ヒットしなかったんですが、64年にチェスからの「ハイヒール・スニーカーズ」大ヒット!

一曲ストレートな彼のブルーズを聴いてみようと思うのですが、ブルーズ・シャウターとして40年代から50年代に活躍したロイ・ブラウンのヒットを歌っています。これはもう悲しい歌詞で「道端の岩がオレの枕、冷たい地べたがオレのベッドで、ハイウェイがオレの家もう死んだ方がいい。お袋は死んだし、オヤジはオレを家から追い出した。靴があるだけで服の着替えもない」というまさにブルーズな曲です
3.Hard Luck Blues/Tommy Tucker
ストレートでパワフルでいい歌です。もう何曲かヒット曲があったらもっと有名になれる人だったと思います。まあ、シングル1枚出して消えてしまうシンガーも多いこの世界ですから、こうしてアルバムまで出せたのは売れた方なのかも知れません。

彼は自分で曲も作る人でオリジナル曲で「毎日毎晩働いて金を稼ぐために生きていくのはほんまにしんどい」という歌です。
4.It’s A Mighty Hard Way/Tommy Tucker
いい曲だと思うんですが、これもそんなにヒットしなかったんですね。
トミー・タッカーが活躍していた60年代半ばといえばすでにビートルズもデビューして、イギリスのロックバンド次々にアメリカでもヒット出していく時代で、黒人音楽は完全にソウルとファンクの時代になっていくんですが、そういう流れには乗れなかったんですね。66年に一度音楽界から去ってしまって違う仕事をしていたんですが、70年代に入って再び音楽の世界に現れます。でも、レコーディングのチャンスには恵まれず晩年は寂しいものだったらしいです。

「ハイヒール・スニーカーズ」のような大ヒットが出るとやはり「柳の下にどじょうが二匹」的なことで同じような曲をリリースします。それが次の曲なんですが、「ハイヒール・スニーカーズ」の時よりもバンドがタイトでゴージャスになっているのが面白いです。でも、ヒットしませんでした。どじょうは二匹いなかったんですね。でも、歌はすごくいいと思います。同時代のR&Bシンガー、ドン・コヴェイがオリジナル・シンガーですが、60年代にイギリスのロック・グループ「キンクス」がヒットさせたので知ってる人も多いと思います。
この曲のリズム・パターンも基本的にHi-Heel Sneakersとほぼ同じで60年代半ばこのパターンが流行ったんですね。この曲はイギリスのキンクスなどがカバーしています。
5.Long Tall Shorty/Tommy Tucker

一曲しかヒットがなかったトミー・タッカーですが、いまもこの曲が歌い継がれていると知ったら嬉しかったでしょうね。
今日は60年代の「Hi-Heel Sneakers」の素晴らしいR&Bシンガーそしてソングライターだったとトミー・タッカーでした。