2018.09.14 ON AIR

私はジョン・リー・フッカー病

From Detroit To Chicago 1954-58/John Lee Hooker(SAGA 532 122-3)

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ON AIR LIST
1.Shake,Holler and Run/John Lee Hooker
2.Hug And Squeeze You/John Lee Hooker
3.Every Night/John Lee Hooker
4.I Love You Honey/John Lee Hooker
5.Mambo Chillun/John Lee Hooker
6.Dimples/John Lee Hooker

私の好物ジョン・リー・フッカー!
もうジョン・リー・フッカーの音源の重要なところはすべて持っているし、怪しげなブートの音源までも持ってるんですが、知らないジャケットを見ると思わず手に取ってしまうというジョン・リー病です。
今日聴くアルバムも先日ツアー途中の中古レコード店でゲットしたものですが、ジャケットの感じがよかったんですね。買った理由はそれだけです。
レコードレーベルはSAGA BLUESと書いてあって知らないレーベルで、あとで調べたらフランスのレコード会社。ライナーもフランス語で書いてあります。
アルバム・タイトルが”From Detroit To Chicago 1954-58″で、まあ若かった頃のジョン・リーだろうと、ブートでなければモダンレコードとVEE JAYレコードの録音のものだろうと予測してゲットしました。
ジャケットの感じというのが僕にとってはすごく大事なんですが、もちろんジャケットでだまされたこともあります。いいジャケットなのに中身の録音がダメ~いうのもあります。あとはジャケット裏の曲目とか・・・ライナーが書いてあるといいんですが、これは曲目だけ。
でも、この50年代半ばから後期にかけてのジョン・リーはまず間違いないと思って買ったら、やっぱりモダンレコードとVEE JAYレコードの録音物ですでに持っている音源だけどやっぱりいい。
楽しいのはこのアルバムを選曲した、つまりコンピレーションした人のセンス。このアルバムに関していえば実にいいセンスしてます。コンピレーションというのはそれを選んだレーベルのセンスが出るので面白いです。

まずはモダンレコード時代のワイルドな、凶暴なジョン・リーから。アルバムの1曲目1954年録音
1.Shake,Holler and Run/John Lee Hooker
歪んだギターの音とジョン・リーの硬質な刃物のような歌声がたまりませんが、この曲はどう考えても同じ1954年にジョー・ターナーが歌って大ヒットした”Shake,Rattle and Roll”のパクリでShake,Holler and Run”にしたんでしょう。同じ年に「よし!いまやろ!」とすぐ出す感じが最高です。ジョン・リーは小節数が変則な歌い方をするのですが、流石モダンレコードのスタジオ・ミュージシャンたちのバックはしっかりしていてちゃんとついていってます。ジョン・リーのこういうちょっとヒヤヒヤするところも僕にとってはもう堪らん感じです。
次もモダンレコード時代の曲です。ちょっとポップな感じもあるいい曲です。
もうひとりのギターはデトロイト時代ずっとジョン・リーとデュオでやってきたエディ・カークランド。
2.Hug And Squeeze You/John Lee Hooker

ジョン・リーの曲は大体底なし沼のようなドロドロとしたスローブルーズとアップテンポの二本立てでヴァリエーションはあまりありません。
バンドをつけた録音もあれば弾き語りもあり、2,3人でやってる録音もありますが、バックがいようがソロだろうがジョン・リーは変りません。
彼自身はただギャラもらえたらそういうことはどうでもいいんだと思います。
どんなシチュエーションでもジョン・リーの歌やギターは何も変わらないので、こういうブルーズマンは酒飲ませて勝手にやらせるしかないのでしょう。
録音する曲もこんなんどうやと言われたらそれも録音するし、曲が足りなかったらその場で自分で適当に作って録音する感じです。それでその場でギャラもらって「ありがとう、さよなら」で、そのアルバムが売れようが売れなかろうがジョン・リーはなにも気に留めてないと思います。
つまり、戦前の弾き語り時代からブルーズを歌って来たブルーズマンはみんなそうやってその日その日を生きてきたわけです。明日のことなんか考えることも出来ないし、それより今夜の食事と酒のお金ですよね。ちなみにジョン・リーはモダンレコードと契約している時でも金欲しさに他の会社からも違う名前、偽名、例えばテキサス・スリムとかデルタ・ジョンとかジョニー・リーとかで録音する強者ですから。
そういう生活そのものがブルーズのレコーディングにも反映されていくわけです。
では、ここでスローブルーズを一曲。
3.Every Night/John Lee Hooker
いまのも小節数がグダグダで、おっ、いいなと思うギターソロも最後まで弾かず途中で終わってしまうんですが、これがジョン・リーなんですよ。ギターソロなんかええ感じで始まったんですがね・・・
ジョン・リー・フッカーはブルーズの定番の型、つまり12小節でワンコーラス、5小節目でコードチェンジ(サブドミナント)へというような定型の約束ごとを守りません。なのでバックのミュージシャンたちがどうしょうかとウロウロして、演奏がバラバラになってしまうこともよくあります。でも、ジョン・リーは変らずマイペースで突進していきます。結局、バックもジョン・リーの歌に合わせるしかないということになります。まあ全然の弾き語りのブルーズマンにはよくあることです。
いまのはヴィージェイ・レコード時代でもうひとりのギターは名人エディ・テイラーです。たぶん録音はそのエディ・テイラーがジョン・リーの歌に合わせるように指示しているんやないでしょうか。それでもジョン・リーは小節関係なしに気ままに歌って、気ままにギター弾いてます。もうすごいです。
ヴィージェイ・レコードのレコーディングスタッフは時代の音楽の流れにジョン・リーを乗せようとして次のようなちょっとポップ感(というても知れてますがね、ポップ感も)のあるブルーズも持ってくるんです。それに本人も乗って歌うんですが、基本ミシシッピーの洗練されない感じがどうしても歌声に出てしまうんですが、それがいいんですね。次は1958年久しぶりにチャートに登場したジョン・リーです。
4.I Love You Honey/John Lee Hooker
ヴィージェイ・レコードのプロデュースのおかげでジョン・リーはあまり過去の人にはならないで音楽を続け、このヴィージェイ時代のヒットでヨーロッパでも人気が出てツアーズにも行く事になります。
次の曲はジョン・リーの最大のヒットのBoogie Chillunのリメイクというか、柳の下にどじょうが二匹を狙ったのか、ブギをマンボのリズムに変えてみましたというような曲です。マンボ・チランというタイトルですが、チランはチルドレン、チャイルドつまり子供、ガキですね。
「もし、家の中でマンボ踊るのをおふくろが許してくれなくてもオレは気にせえへんよ。ベイビーとマンボ踊るよ。オヤジはおふくろにオレにマンボさせてやれよと言うけど、おふくろがあかんっていうてる。でも、オレはマンボするよ。マンボ」これ、元々のブギも下ネタ言葉の意味がありますが、どうもマンボもそういう風に使ってる感じですね。
5.Mambo Chillun/John Lee Hooker

ジョン・リー・フッカーは決して器用なブルーズマンでもなく、音楽性も広くなく、生涯残した曲は似たようなものが多いです。でも、その時代、その時代で波に少しは乗る頭の柔軟性があったのだと思います。そして、他のブルーズマンには決してできない自分のブルーズを確立していきました。それは本人が無意識にやったことだと思います。