2018.11.09 ON AIR

追悼:アレサ・フランクリン vol.3
アレサのゴスペル

Amazing Grace/Aretha Franklin(Atlantic/RHINO R2 75627)
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ON AIR LIST
1.What A Friend We Have In Jesus/Aretha Franklin
2.How I Got Over/Aretha Franklin
3.Precious Lord/Aretha Franklin
4.Amazing Grace/Aretha Franklin

8月16日に逝去してしまった偉大なシンガー、アレサ・フランクリンの追悼特集は三回目になります。
今日は彼女の音楽的なルーツ、ゴスペルを歌ったアレサを聴いてみようと思います。
知っている方も多いと思いますが、アレサのお父さんは非常に有名なレヴァレント、つまりバプティストの牧師さんだったのです。クラレンス・ラヴォーン・フランクリン、C.L.フランクリンといいます。
レヴァレントの多くは黒人たちの日常の大変さや苦しみの話をしながら、それを神様が救ってくれていつの日か苦しみのない天国に行けるのだというような説教をしながら歌にそのまま流れていくというスタイルです。そのレヴァレントの中でもアレサのお父さんは「百万ドルの声」と呼ばれたほど声がよくて、録音されたレコードは50年代にすごい勢いで売れました。ゴスペルのレコードの中にはほとんど説教で終わっているものもたくさんありますが、アレサのお父さんが途中で歌いだす声は素晴らしくて普通に歌手としても成功したのではないかと思います。
サム・クックはじめ自分の父親が牧師さんというシンガーはたくさんいます。でも、アレサのお父さんは超有名でした。その有名な牧師さんの子供として、しかも歌のめちゃ上手い子供としてアレサは有名でした。当然、父親も自慢の娘で自分の教会で歌わせるだけでなく、ツアーにもつれていき14才で初めてゴスペルを録音しています。その音源を聴くと大人になってからと何も変わっていない。つまり、14才ですでにアレサは超一流の歌手として出来上がっています。

小さい頃の彼女の当時のアイドルはゴスペルのウォード・シンガーズのリード、クララ・ウォードでした。クララも当時超人気のゴスペル・シンガーで、お父さんの教会へ来て歌うこともたびたびあり、アレサの憧れのシンガーでした。
でも、クララはお父さんの愛人でもありました。アレサの歌い方にクララの感じが入っているのはお父さんに「ほら、私はクララみたいに歌えるよ」と言いたかったのかも知れません。
ちなみに牧師さんというと清廉潔白なイメージがありますが、アメリカでは必ずしもそうではなく愛人がいたり、旅先で女性に手を出したり、お金に汚かったりという牧師さんも結構います。つまりゴスペルはレコードも売れるし、ゴスペルシンガーも説教をする有名な牧師さんも教会のアイドルでひとつのビジネスでもあるわけです。ゴスペルの天才少女をもち、「百万ドルの声」といわれた牧師父C.L.フランクリンはそれはみんなにチヤホヤされ、お金もあり・・ということで女性にも手を出していたわけです。
では、今日はまずアレサのゴスペル・アルバムとして有名なライヴ・アルバム”Amazing Grace”から一曲
ゴスペルのスタンダードな曲
クワイア(聖歌隊)をバックに本当に堂々とした・・というかここが自分のホームのような自由なアレサの歌が聴けます。
1.What A Friend We Have In Jesus/Aretha Franklin

この日のライヴにはアレサが尊敬したゴスペル・シンガー、クララ・ウォードも聴きに来ています。もちろんお父さんも、でも、クララはお父さんの愛人でもあるわけです。そんな中、アレサはクララも歌ったゴスペル・クラシックを歌っています。どんな気持ちだったのでしょう。
「How I Got Over どんな風に私は乗り越えてきたのだろう。神様のおかげだ。私達のために命を捧げなくなった神様に私は感謝する。神様は私を導いてくれる」
2.How I Got Over/Aretha Franklin
実は僕は1975年にロス・アンゼルスでアレサのライヴを一度観ています。フォーラムのような大きな会場で、ちょっとクリスマスが近づく頃でほとんどゴスペルをアレサは歌いました。今日聴いているライヴのように大勢の聖歌隊が最初に歌っていたのですが、何人いてもアレサが登場すると彼女の声はスコーンと通るんです。もうとんでもない声量、そして揺るがないピッチ、そしてどんど聴く者を高みつれていく歌の力にほんとうに驚きました。

このアルバム”Amazing Grace”は1972年にロスの教会でライヴ録音されたものですが、バックのメンバーはドラムにバーナード・パーディ、ギターにコーネル・デュプリー、パーカッションにポンチョ・モラレス、この3人は前年の素晴らしいフィルモアウエストのライヴのメンバーと同じです。ベースはチャック・レイニー。アレンジはすべてアレサ本人がやっています。そして牧師のジェームズ・クリーヴランドがこの日の司教でこの催しを取り仕切り、説教もし歌も歌っています。
そして、このアルバム”Amazing Grace”の特徴はゴスペルの曲とポップな曲を融合したところで、マーヴィン・ゲイの「ホーリー、ホーリー」を歌ったり、インストですがジョージ・ハリスンの”My Sweet Lord”も演奏されています。
次の歌はイントロの歌い出しはキャロル・キングの名曲”You’ve Got A Friend”でそこからゴスペルの”Precious Lord”へ流れ、また”You’ve Got A Friend”へ戻るというアレンジですが、このアレンジはアレサだから歌えるので他の歌手では無理です。もう神がかってます。ポップの曲をゴスペルにしてしまうというワザはやはりアレサだからです。
3.Precious Lord/Aretha Franklin
もう鳥肌ものというか・・・信仰のない僕のような者までを天国に連れて行くようなこの歌の力はなんでしょう。多くの黒人たちが日曜日教会で牧師さんの説教とこういうゴスペルの歌に日々の苦しい、抑圧された心を解放される理由がなんとなくわかります。こういうゴスペルの中にいる時だけ高揚する心を彼らは自由にできる。つまりアレサは苦しんでいる黒人たちをそのゴスペルの歌の力で自由にし、束の間ですが解放してあげているわけです。
そして、歌っているアレサ自身も愛人のいる父のことも、それゆえに家を出ていった母のことも、ヒモのようないいかげんなDV男である旦那のことも忘れられ、心を神様に捧げるように全身全霊をもって歌い、心を解放できたのではないでしょうか。
最後にアルバム・タイトル曲、Amazing Graceを16分以上あるんですが、聴けるところまで聴いてください。
4.Amazing Grace/Aretha Franklin

このアルバム、是非ゲットしてください。ネットでもレコード店でも手に入ります。たぶん一生聴くアルバムになると思います。
そして、アレサのことをもっと知りたい方はアレサ・フランクリン「リスペクト」というディヴィッド・リッツが書いて、新井崇嗣(あらいたかつぐ)さんが訳された本を一度読んでみてください。