2018.12.07 ON AIR

Otis Rush 追悼 vol.2 「コブラレコード時代のラッシュ」

Otis Rush/I Can’t Quit You Baby(The Cobra Sessions 1956-58) (P-Vine PCD-24038)

Otis Rush/I Can’t Quit You Baby(The Cobra Sessions 1956-58) (P-Vine PCD-24038)

Otis Rush/This One’s Good ‘Un(Blue Horizon 7-63222)

Otis Rush/This One’s Good ‘Un(Blue Horizon 7-63222)

 

ON AIR LIST
1.Double Trouble/Otis Rush
2.It Takes Time/Otis Rush
3.All Your Love(I Miss Loving)/Otis Rush
4.If You Are Mine/Otis Rush
5.My Love Will Never Die/Otis Rush

去る9月20に亡くなった偉大なブルーズマン、オーティス・ラッシュ追悼の二回目です。
前回、コブラレコード時代のラッシュのアルバムがなかなか手に入らなかった話をしましたが、今回はそのアルバム、コブラのラッシュです。
オーティス・ラッシュが50年代半ばにシカゴのコブラ・レコードに録音した曲を集めた赤い縁取りがしてある、通称「コブラのラッシュ」のレコード盤を初めて手にした時は感無量でした。アルバムタイトルは「This One’s A Good ‘Un」。1969年、リリースしたのはイギリスのレコード会社ブルーホライズン
このアルバムに収録されているオーティス・ラッシュの音源は現在日本のP-Vineレコードのコンピでリリースされている。間違いなくブルーズの歴史に残るものだ。

このアルバムのA面の一曲目にレコード針を載せた途端に聴こえて来たマイナー調のこのブルーズが、当時の自分の心に覆い被さり、訴えかけるような歌と泣き叫ぶようなギターの音色にたまらない気持ちになったのを覚えている。
社会の下層に生きる黒人若者の苦しみと苛立ちを感じさせるブルーズ。「愛も仕事も失ってダブル・トラブル(二重の苦しみや)オマエも一生懸命やれば大金もちになれるってみんなはいうけど、オレは着ていく服もないんや」
1.Double Trouble/Otis Rush
1958年の録音。

ラッシュは重いスロー・ブルーズで人気があるけれどアップにも素晴らしい曲がある。のっけのエグ味のある音でギターが切れ込んでくる次の曲は、当時のラッシュのブルーズマンとしての勢いさえ感じさせてくれる。
プロデューサーであるウィリー・ディクソンがベース、ドラムにフレッド・ビロウ、リズムギターにルイス・マイヤーズ、ピアノにリトル・ブラザー・モンゴメリーと、申し分のないシカゴの一流ブルーズマンがバックアップをした充実の一曲です。
2.It Takes Time/Otis Rush

ラッシュはマイナー調の曲が何曲があったことや、彼の歌声がヘヴィな印象を与えることから少し暗いイメージで捉えられている。それが好きではないと言う人もいるけど、日本ですごく人気があるのはその少し暗いイメージとウエットな感覚だと思う。いわゆる黒人のあっけらかんとしたファンキーな明るいイメージではない、内省的なものを感じさせる歌がやっぱりラッシュという感じだ。
次の曲はマイナー調の曲だけどラッシュにしてはファンキーな一曲。
3.All Your Love(I Miss Loving)/Otis Rush

1956年から58年の間にコブラレコードではシングルが8枚、つまり16曲録音された。インディーズとしてはラッシュのシングルは売れていたしまだまだコブラでリリースが続くはずだったが、情けないことに社長のイーライ・トスカーノが大の博打好きで借金を作ってしまい会社は倒産。社長はギャングに殺されてしまった。そこからラッシュの不遇の時代が始まる。
コブラが全盛だった50年代中後期はブルーズからR&Bに黒人音楽の主流が移っていく時代で、プロデュースのウィリー・ディクソンは次のようなR&Bタイプの曲を書いてヒットを狙ったのだと思う。
4.If You Are Mine/Otis Rush

このコブラレコードが60年代を待たずに倒産してしまい、ラッシュはウィリー・ディクソンの紹介でチェスレコードと契約するのだが、チェスはいまいちラッシュをプッシュしなかった。この素晴らしい才能を持った若いブルーズマンに力を入れなかった。それでボビー・ブランド、ジョニー・エースがいるデュークレコードと契約するのだが、ここでもわずか”Home Work”一曲しかリリースされないまま数年が過ぎてしまった。いったいデュークレコードは何を考えていたのかと思うが、そんな不遇の60年代の10年をラッシュはコンピレーション・アルバムに単発でレコーディングするだけでソロアルバムはずっとないまま過ごしてしまう。やっと出たと思った69年コテリオンレコードからリリースした”Mourning In The Mornig”はプロデュースがよくなくて本領は発揮できていない。そして71年にキャピトルに録音した”Right Place,Wrong Time”はその後5年も発売されないというまたまた不遇な時を過ごしてしまう。

こういう風にレコードがリリースされない状態が何年も続いたことはラッシュの精神にダメージを与えたと思う。
来週はその60年代終わりにリリースした”Mourning In The Mornig”から始めたいと思います。
今日聴いたコブラレコード時代のラッシュはどうしても聴いて欲しいブルーズです。赤いアルバムジャケットも出していますので番組のHPを見てください。