2019.02.15 ON AIR

ハウリン・ウルフのサイドマンとして名曲を残したギタリスト、
ヒューバート・サムリン

Tribute To Mr.Hubert Sumlin

The Real Folk Blues/Howlin Wolf (Chess/MCA MVCM-22019)

The Real Folk Blues/Howlin Wolf (Chess/MCA MVCM-22019)

The Back Door Wolf/Howlin Wolf (Chess/MCA CHD-9358)

The Back Door Wolf/Howlin Wolf (Chess/MCA CHD-9358)

Heart&Soul/Hubert Sumlin (Blind Pig BP7 3389)

Heart&Soul/Hubert Sumlin (Blind Pig BP7 3389)

 

ON AIR LIST
1.Killing Floor/Howlin’ Wolf(guitar:Hubert Sumlin)
2.Love Me Darlin’/Howlin’ Wolf(guitar:Hubert Sumlin)
3.Do The Do/Howlin’ Wolf(guitar:Hubert Sumlin)
4.Coon On The Moon/Howlin’ Wolf(guitar:Hubert Sumlin)
5.Old Friends/Hubert Sumlin

去年の暮れに「サイドマン」というブルーズの映画が公開されました。映画の内容はいろんなブルーズマンのバックで主役を支えてきたサイドマンの話なんですが、シカゴブルーズの大物ハウリン・ウルフのギタリストのヒューバート・サムリン、マディ・ウォーターズのピアニストとして長くバックを務めたのパイントップ・パーキンス、そしてやはりマディのドラマーを務めたウィリー・スミスの3人が中心になってるのですが、主役ではない、メインのスポットライトは当たらない彼らの音楽を支える気持ちや精神を知るとてもいい映画でした。

今日はその3人の中からヒューバート・サムリンです
ヒューバート・サムリンはミシシッピー生まれですが、育ったのはウエストメンフィスで若い頃からハーモニカのジェイムズ・コットンたちとつるんでブルーズを演奏してました。それが1954年に当時のメンフィスのブルーズの大物ハウリン・ウルフに声をかけられて一緒にシカゴに移り住みます。ウルフは一旗あげにシカゴに向かったのですが、若いヒューバートにこいつは才能があると思ったのでしょう。それからウルフが亡くなるまでヒューバートはほとんどウルフのサイドマンとして活躍します。

2011年に80歳でヒューバートは亡くなったのですが、やはり間違いなく一流のブルーズギタリストでした。

ヒューバート・サムリンのギターというとまず想い出すのはやはりハウリン・ウルフの右腕として録音した「Killing Floor」という曲ですが、イントロと途中に出てくる曲のテーマのようなフレイズはヒューバート特有のシャープな切れ味です。
1.Killing Floor/Howlin’ Wolf(guitar:Hubert Sumlin)
いまの曲はジミ・ヘンドリックスがアメリカに凱旋帰国した最初のコンサート「モントレーポップフェスティバル」の一曲目に演奏したのですが、そのジミヘンはじめエリック・クラプトン、キース・リチャーズなどロックギタリストでヒューバート・サムリンのギターが好きな人が多いです。それはヒューバートのギターがロックしていて幅広く上手い人ではないけれどすごく印象に残るギターを弾く人だからでしょう。

次の曲はハウリン・ウルフのChange My Wayという1975年にリリースされたアルバムに入っているのですが、録音はほぼ10年前の1964年。リリースされた75年はレコード会社のチェスが倒産寸前で、まあ結局はその直後会社が身売りされてしまうのですが、60年代にウルフが録音した過去のシングルを集めてアルバムにしてなんとか金稼ぎをしょうとチェスはしたんでしょう。でも、収録されている曲はどれも素晴らしくて、ヒューバートのギターもギラギラに冴えてます。
2.Love Me Darlin’/Howlin’ Wolf(guitar:Hubert Sumlin)
いまの曲で多用されていたフレイズの最後の音をキュッと鳴らすのもヒューバートのギターの特徴です。

ハウリン・ウルフはヒューバート・サムリンを自分の息子のように可愛がっていたそうで、ヨーロッパでツアーをする時もイギリスでエリック・クラプトンやスティーヴ・ウィンウッドたちとレコーディングする時も必ずヒューバートを参加させることがウルフの条件だったという。

次の曲Do The Doなんかはイギリスの60年代ブルーズ・ブームでみんなが好きだった曲だったと想います。
リズムもサウンドも曲のムードももちろんウルフの歌もサムリンのギターもみんなロックしてますから。
3.Do The Do/Howlin’ Wolf(guitar:Hubert Sumlin)
いやワイルドな曲ですがやはりウルフの歌とサムリンのギターの中にあるアグレッシヴなテイストがすごいです。

1976年にハウリン・ウルフは65歳で亡くなったのですが、最後のアルバムとなったのがその3年前に録音されたThe Back Door Wolfというアルバム。すでにウルフは病に冒されて身体は弱ってましたが、最後の力を振り絞るように歌っています。その最後までやはりヒューバートはウルフの右腕としてバックをしっかり務めています。
やはりウルフにはヒューバートがいなければということをしっかり焼き付けたウルフのラスト・レコーディングでした。では、そのアルバムから僕が一番好きな曲でCoon On The Moon。Coonというのはスラングで黒人の蔑称でいい言葉ではないですが、黒人が自分たちでわざと自分たちをそう呼ぶときは黒人であることに誇りを持ってるということです。Coon On The Moon/月の黒人。韻を踏んでます。
「子供の頃は南部で育った。中古の服を着て大きな屋敷の裏に住んでた。時代は変ったオレたちも月に行くかも。奴ら白人はオレたちと一緒に遊ばなかったし、オレたちは学校にも行けなかった。年とるまで綿花を摘んでいたもんだ。時代は変ってオレたちも月へ行く。毎日ブーツを履いてたけど新しい靴を履くんだ。ある朝目覚めたら黒人が月にいるかもよ」
4.Coon On The Moon/Howlin’ Wolf(guitar:Hubert Sumlin)
いまの曲が入っているウルフのラストアルバム「The Back Door Wolf」を聴いているとすごいウルフの気迫のようなものが伝わってきます。そして、最後までブレずに自分のブルーズスタイルを貫き通したウルフに感動し、その最後のアルバムでもウルフの歌に的確なギターを弾いているヒューバートにも心打たれます。

実はヒューバート・サムリンはソロ・アルバムを10枚以上出しているのですが、いかんせん歌があまりよくなくて今回もソロ・アルバムをいろいろ聴いてみたのですが・・それで一曲だけ1989年にリリースされた彼のソロ”Heart&Soul”から聴いてみましょうか。ハーモニカにヒューバートのメンフィス時代からの仲間ジェイムズ・コットンが参加しています。この時ヒューバート58歳、コットンはちょっと下で54歳。
ふたりのことを歌った曲でしょうか

5.Old Friends/Hubert Sumlin
ヒューバート・サムリンはボスだったウルフが亡くなってからしばらく仕事がなくて困っていたようで映画「サイドマン」にはその頃の話も出てきます。自分が主役ではなくてそれを支える立場にいる仕事をしている人たちは音楽でなくてもたくさんいます。でも、いまに残るウルフの歴史的なブルーズの名作はこのサムリンなくして絶対に生まれなかったものです。時に一生懸命やったことの賞賛を受けるのはバックやサイドで支えた人たちでなくて、主役の人だけということも多いと思います。でもやはりしっかり見ている人はいて「サイドマン」のような映画ができるんですね。
サムリンが長くウルフのバックを務めたのはウルフが自分のバンドのサイドマンを大切にしたからです。そして、ウルフが亡くなってから晩年サムリンは再評価を受けていろんな賞を受けたり、大きなコンサートにも呼ばれました。なかなかいい晩年だったように思えます。映画の中でドラマーのウィリー・スミスが言うんですよ「貧しくても楽しくないとね」って笑いながら・・素敵な言葉でした。
映画「サイドマン」もし機会があれば是非ご覧下さい。