2019.08.02 ON AIR

60年代初期イギリスのモッズたちが愛したR&BそしてBLUES vol.1

Stirring Up Some Mad Soul ACTION(JASMINE  JASCD!046)

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ON AIR LIST
1.Let’s Go Let’s Go Let’s Go/Hank Ballard And The Midnighters
2.Louie Louie/Richard Berry And The Pharaohs
3.Hitch Hike/Marvin Gaye
4.Shop Around/Mary Wells
5.You Better Move On/Arthur Alexander

みなさんは50年代終わりから60年代にイギリスの若い人たちの間でモッズというカルチャー・ムーヴメントがあったのをご存知でしょうか。モッズはMODともMODSとも表記されますがModernismの略。
モッズのムーヴメントというのはファッションや音楽、ヘアースタイル・・まあライフスタイル全般に関してのもので、まあ当時の流行の先端をいく洒落者、遊び人でしょうか。彼らが好んだ音楽はアメリカのR&Bやブルーズやジャズやジャマイカのスカ、ときにはカリプソなんかも好まれてクラブで流れていたそうです。
僕はモッズと聞くとイギリスのバンドのザ・フー、スモール・フェイセス、キンクス、スペンサー・ディヴィス・グループを想い出すのですが、モッズに当時対抗していたのが、ロッカーズという革ジャンに革のパンツスタイルのバイクに乗る一団で、ビートルズの初期の写真を見るとそういう出で立ちでロッカーズだったことがわかります。

今回はモッズの話なのですが、ロンドンに「アメリカーナ」というクラブが1950年代半ばにオープンしてそこに夜な夜なロンドンのヒップな連中が集まってきていました。そのクラブの流れで60年代にフラミンゴ・クラブというのが出来てそこにいわゆるモッズと呼ばれる連中がたむろしていたそうです。今日聴いてもらうアルバム”Stirring Up Some Mad Soul”というアルバムはそういうモッズのクラブでよく流れていた曲のコンピレーションです。
”Stirring Up Some Mad Soul”というアルバム・タイトルなんですが、「奮い立つ熱狂のソウル」とでも訳すのでしようか。まずこのアルバムに入っているR&Bを聞いて来週ブルーズを聴こうと思ってます。と言ってもこの頃の黒人音楽はブルーズがR&Bそしてソウル・ミュージックに移っていく時代なので、R&Bやブルーズの明確な線引きが難しい曲もたくさんあります。
最初はハンク・バラードとミッドナイターズのLet’s Go Let’s Go Let’s Goですが、ハンク・バラードが好きという人に日本であまり会ったことがありませんが、彼はロックの殿堂入りもしているアメリカのR&Bのレジェンドで1954年”Work With Me Annie”というのが大ヒットしてそのあとこのアニーのシリーズを連発”Annie Had a Baby”  “Annie’s Aunt Fannie”と出してます。
まずは1960年のヒットのこの曲を。
1.Let’s Go Let’s Go Let’s Go/Hank Ballard And The Midnighters
いまのハンク・バラードというシンガーは最初ドゥワップやコーラスグループをやって、そこからソロになったのですが、なかなか甘いルックスをしてまして、人気があったやろなと思います。

リチャード・ベリー・アンド・ファラオズ(英語発音はフェロウズ/エジプトのファラオのこと)のリチャード・ベリーは50年代中頃から60年代にかけてウエストコーストで活躍したミュージシャン。もうリチャード・ベリーと言えばこの曲「ルイルイ」「ルイルイ」と言えばリチャード・ベリー。同じ曲名の太川陽介さんの「ルイルイ」より僕にはこっちの「ルイルイ」いかにもモッズの連中が好きなダンスナンバーです。
1956年の大ヒットです
2.Louie Louie/Richard Berry And The Pharaohs
リチャード・ベリー アンド ザ・フェロウズで「ルイルイ」でした。この曲は世界中で1000以上のカバーがあるそうです。当時の定番のパーティ・ソングだったのでしょう。

次はローリング・ストーンズが1965年4枚目のアルバム「Out Of Our Heads」でカバーしていたマーヴィン・ゲイの、これも大好きな曲です。
マーヴィン・ゲイと言えば、ソウル・ミュージックを代表するシンガーで大ヒット曲”What’s Goin On”はソウルの名曲のひとつですが、いまから聞いてもらう「Hitch Hike」は1962年のマーヴィンの初期の曲です。めちゃヒットしたわけではなくてアメリカのR&Bチャートで12位ポップチャートで30位くらいの曲で、イギリスではチャートにも出てきてなかった。こういうちょっとマニアックなカッコいい曲をモッズの連中は好きだったんですね。
クラブで「オマエ、これ知ってるけ?」「これがカッコええねん」というようなマニアックな自慢の会話が聴こえてきそうです。
3.Hitch Hike/Marvin Gaye
まだR&Bのテイストが濃いいい曲ですHitch Hike。
次もマーヴィン・ゲイと同じモータウン・レコードのシンガーで女性シンガーのメリー・ウエルズ。曲は1960年にスモーキー・ロビンソン率いるミラクルズがR&Bチャート1位にまで押し上げた曲で”Shop Around”
その翌年にこのメリー・ウエルズがカバーしてます。60年代中頃からモータウン・レコードはテンプテーションズ、スプリームス、フォートップス、スティーヴィー・ワンダーと次々とスター・シンガーを送りだすのですが、それ以前にイギリスのモッズの連中はモータウン・ソウルの素晴らしさに気づいていたんですね。
メリー・ウエルズは「ザ・ワン・フー・リリー・ラヴス・ユー」「ユー・ビート・ミー・トゥ・ザ・パンチ」「トゥー・ラヴァース」といったヒット曲、更に大ヒットの「マイ・ガイ」などでモータウン・レコードの初期に会社を支えた素晴らしいシンガーです。

4.Shop Around/Mary Wells
最後はまたローリング・ストーンズもカバーしていた曲で、オリジナルはアーサー・アレキサンダーが1961年にリリース。このアーサー・アレキサンダーというシンガーは本国アメリカではそんなに大ヒットしなかったのですが、イギリスのビートルズが彼の「アンナ」「ア・ショット・オブ・リズム・アンド・ブルース」「ソルジャー・オブ・ラヴ」などを好んでカバーしてました。
アーサー・アレキサンダーは歌い方があっさりしていてあまり黒人っぽくないところがミソで、カントリー・ソウルとも呼ばれています。シンガーとしてはあまり成功しなかったので70年頃には音楽界を引退してしまうのですが、彼が遺した曲はいま聞いてもすごくいいです。
5.You Better Move On/Arthur Alexander
朴訥に歌われている感じもいいし、ちょっと哀愁があるところもいいですね。ストーンズは1964年にリリースした4曲入りEP盤でカバーしてます。

50年代中頃からイギリスの若い人たちのアメリカの音楽に対する興味はどんどん盛り上がっていってビートルズの登場で今度はイギリスの音楽をアメリカに輸出することになっていくのですが、やはりこういうモッズ連中のマニアックなセンスの良さというのもイギリスならではで、のちにイギリスからジャマイカのレゲエの波が世界中に広がるんですが、イギリスのセンスに共鳴するところはたくさんあります。
来週はこのアルバムStirring Up Some Mad Soul ACTIONからブルーズのトラックを聞いてみようと思います。