2019.08.23 ON AIR

ニューオリンズの至宝、ドクター・ジョンの死 Vol.2

Gris-gris/Dr.John,The Night Tripper(ATCO 7567-80437-2)
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In The Right Place/Dr.John(ATCO 7567-80360-2)
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ON AIR LIST
1.Gris-Gris Gumbo Ya Ya/Dr.John
2.Right Place Wrong Time/Dr.John
3.Peace Brother Peace/Dr.John
4.Traveling Mood/Dr.John
5.Such A Night/Dr.John

前回聴いてもらったドクターの”名盤GUMBO”は多くの人にニューオリンズの音楽の素晴らしさを知らしめました。
その”GUMBO”がリリースされた四年前1968年にドクターが作った不思議なアルバムが“Gris-Gris”(グリグリ)です。
このアルバムは当時のウエストコーストで流行っていたサイケデリックロックとニューオリンズの音楽を融合させてそこにニューオリンズのヴードゥー教のエッセンスをふりかけたサイケなアルバムです。ジャケットからして煙に包まれ、下からドクターにライトを当てた稲川淳二風のジャケットなんですが・・。
このアルバムは話によると、ドクターはピアノのロニー・バロンをドクター・ジョンという架空の人物に仕立て上げたコンセプト・アルバムを作ろうとしたのですが、ロニー・バロンが「ドクター・ジョンなんてなるのはイヤや」となって・・それで仕方なく自分がドクター・ジョンになったらしいです。ここで本名マック・レベナックはドクター・ジョンになったのですが、それが後々すごい芸名になったわけですから人生わかりません。
どんな音楽かというのを説明するのは難しいので聴いてみてください。
1.Gris-Gris Gumbo Ya Ya/Dr.John
お聞きのような音楽ではっきり言って僕は好きじゃないです。
サイケデリック・ロックが嫌いなわけではないのですが、僕にとっては退屈な音楽でした。「オレのことをみんなはドクター・ジョン、そしてナイトトリッパー(夜の旅人)と呼ぶ」と言って始まるのですが3分くらいで退屈です。
この“Gris-Gris”というアルバムはロスアンゼルスで録音されたのですが、実は1964年にドクターはニューオリンズからロスに移住しました。その前にドラッグ関係で刑務所に服役していたのですが、ムショから出てきても警察に目をつけられてニューオリンズで仕事がやりにくくなったからです。あと昔から酒もドラッグも売春などもあった南部でいちばんの歓楽街だったニューオリンズを時の知事がもっと清い街にしょうとして取り締まりを強くしたため、ニューオリンズのミュージシャンたちが演奏する場所がどんどん減ったということもありました。仕事がなくて他の街へ行かざるを得なくてドクターもレコーディング・ミュージシャンとしての依頼があったロスに移ったわけです。
それでロスで自分のアルバムの録音のチャンスを得てこの「グリグリ」のリリースとなったわけです。
アルバムリリースの68年といえばもうウエストコーストはLSDなんかを使ったサイケデリックテ・カルチャーが流行っていてこういうアルバムをドクターも作ったわけですが、1部では高い評価を得ましたが、あまり売れませんでした。時にドクター28才です。この後にもう一枚この「グリグリ」の続編「バビロン」というアルバムを出しています。
それで話は前後しますが、そのあと72年に前回聴いてもらった”GUMBO”を録音します。”GUMBO”はニューオリンズへの回帰と歴史あるニューオリンズの音楽をみんなに知ってもらいたいというコンセプトだったのですが、次の翌73年の”In The Right Place”は当時のup-to-dateなニューオリンズの音楽を作ったものでした。
プロデュースはアレン・トゥーサン、バックはザ・ミーターズというニューオリンズ・ファンクの塊みたいなサウンドとグルーヴをバックにして、新しいドクターの本領が発揮されたアルバムとなりました。
2.Right Place Wrong Time/Dr.John
このアルバムで僕はミーターズというグループを知りました。いわゆるニューオリンズ・ファンクのグループですが、ジェイムズ・ブラウンがやっていたファンクでもない、ウエストコーストやイーストコーストのファンクでもないニューオリンズ独特ファンクを作ったグループです。
オルガンがアート・ネヴィル、ギターがレオ・ノセンテリ、ベースがジョージ・ポーター、ドラムがジガブー・モデリステの4人。またミーターズの話をすると時間がかかるのでまたいつか取り上げます。この4人のつくるグルーヴをバックに歴史あるニューオリンズの音楽を継承しつつ、新しい時代にニューオリンズR&Bを進めた一枚でした。
3.Peace Brother Peace/Dr.John
名プロデューサーのアレン・トゥーサンに凄腕ミュージシャンが集まったミーターズがバックをやり、その上に乗っかったドクターですからもうバリバリです。
ドクターが”GUMBO”や”In The Right Place”をリリースして、アレン・トゥーサンも70年からソロアルバムをリリースし始めて75年には”Southern Nights”という名盤も出して、スタジオ・ミュージシャン的だったミーターズも69年から自分たちのアルバムをリリースして再びニューオリンズは熱い音楽シーンを作り出し始めました。
口笛から始まる次の曲なんかリズムとメロディ、ムードがもう完全にニューオリンズの音楽という感じがします。
4.Traveling Mood/Dr.John
こういう曲を聴くとニューオリンズへ行きたくなりますね。
そして、このアルバム”In The Right Place”にはドクターが生涯歌い続けることになる名曲が収録されています。
パーティに来た友達の彼女を好きになってしまって彼女を奪おうとしている歌です。「なんて夜なんだ、月明かりの下スウィートな気持ちでフラフラしている。親友のジムの彼女をオレは奪おうとしている。でも、オレがやらなければ誰か他の男が彼女を奪うだろう。でも、彼女が一緒に歩きませんかとオレに言ったんだ。もうなんて夜だ、なんて夜だ」
5.Such A Night/Dr.John
ロマンチックないい歌ですね。他のミュージシャンがカバーしたものを聴いたこともあるのですが、この曲は他の人がやっても無理だとおもうくらいドクターの匂いがついています。

ドクターはこれ以降もたくさんアルバムを出しています。次回はちょっとジャズテイストのドクター・ジョンも聴いてみたいと思います。まだまだ続くドクター・ジョン!