2019.09.06 ON AIR

ニューオリンズ・リズム&ブルーズの道を作った偉大なプロデューサー、デイヴ・バーソロミュー vol.1

The Best Of Fats Domino (EMI CDP 7 46581 2)
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New Orleans The Ultimate Collection (Union Square Music)
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The COSIMO MATASSA STORY (PROPER BOX 129)
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ON AIR LIST
1.The Fat Man/Fats Domino
2.I Hear You Knocking/Smiley Lewis
3.Ain’t That A Shame/Fats Domino
4.Country Boy/Dave Bartholomew and His Orchestra
5.My Blue Heaven/Fats Domino

ここ三回に渡って先頃亡くなったドクター・ジョンの追悼ON AIRをしましたが、実はそのすぐあと6月23日にドクターの大先輩であり、同じニューオリンズ音楽にとって大切なミュージシャン、デイヴ・バーソロミューが亡くなりました。100才でした。50年代のニューオリンズ・サウンドの偉大なプロデューサーでした。
彼がプロデュースしたミュージシャンをざっと挙げてみると、まずファッツ・ドミノ、シャーリー&リー、アール・キング、ロイド・プライス、スマイリー・ルイス、クリス・ケナー、フランキー・フォード、ロバート・パーカーともう錚々たるニューオリンズのミュージシャンが出てきます。
まずはデイヴ・バーソロミューがプロデュースして最も売れたこの人、ファッツ・ドミノ
曲名がThe Fat Manですから「太った男」ですが、「オレはみんなに太っちょと呼ばれて、200ポンドあるけどこの界隈の女の子にはモテモテなんよ。ランポートとカナルストリートの角でクレオールの可愛い女の子を眺めてる」
ファッツ・ドミノのファッツも太っちょというあだ名ですが、太っちょのドミノが歌う太っちょ男です。
1.The Fat Man/Fats Domino
この曲はファッツ・ドミノの1949年12月リリースのデビュー曲でデイヴ・バーソロミーがファッツをプロデュースした最初の曲でもあります。この曲がすぐR&Bチャートの2位まであがります。
この曲はそれまで流行っていたビートとは違うグルーヴを出した画期的な曲で、ドラムを担当したアール・パーマーはいわゆる「バック・ビート」を最初に打ち出したのはこの曲だと言ってます。だからR&Bだけでなく、のちのポピュラー・ミュージック全体に広がっていくバック・ビートの最初の曲としてこれは非常に重要です。
いまアール・パーマーの名前を出しましたが、この頃バーソロミューが自分のバンド「デイヴ・バーソロミュー・オーケストラ」に集めたニューオリンズの優れたミュージシャンが、ウッド・ベースがフランク・フィールズ、アーネスト・マクリーンがギター、サックスのアルヴィン・レッド・タイラー、リー・アレン、それにトランペットのデイヴ・バーソロミュー、そしてこの曲のピアノと歌がファッツ・ドミノ。

レコーディングに関して一般のリスナーがプロデューサーというのを意識したのは、たぶん70年代に入ってからだと思います。音楽関係者の間では60年代から、例えばビートルズのプロデューサーのジョージ・マーチンとかロネッツなどをプロデュースしヒット曲をたくさん送り出したフィル・スペクターだとかアトランティックレコードのジェリー・ウェクスラーの名前は取り沙汰されてましたが、レコードを買う一般のリスターは別にプロデューサーが誰であるかなんてまあどうでもいいんですよね。買ったレコードのその曲がよければいいわけで・・・。ミュージシャンのファンにはなりますが、プロデューサーのファンにはならないですよね。ところがミュージシャンにとって、レコードを作る段階においてプロデューサーはとても大切です。アルバム制作の責任者ですから、ミュージシャンの個性や音楽的な意向を考えて、しかも売れるものを作らなければいけない立場です。つまり、音楽的な知識や素養もなければいけないし、世の中でどんな音楽が好まれるかというのを知ってないと売れない。しかも少し新しいと思われるテイストを音楽に入れることも大切です。それでも確実にこれは売れると確信を持てることは少ないと思います。
40年代からデイヴ・バーソロミューは優れたミュージシャンを集めてクラブで演奏していたので、お客さんにどんな音楽が好まれるのかがわかっていたのではないでしょうか。そして、優れたミュージシャンを聞き分ける耳を彼が持っていたことがすごいと思います。あとバーソロミューは作詞作曲が出来たところも素晴らしいです。次の1955年にチャートの2位まで上がった大ヒットもバーソロミューが曲を書き、プロデュースしたものですが、これを歌ったスマイリー・ルイスはこの曲で世の中に知られるようになりました。
「出ていって長い間いなかったオマエが帰ってきてドアをノックしてる。ノックの音は聴こえてるよでもオマエは中には入れない。いま住んでるところへ帰りな」という一旦捨てられた男の意地でしょうか。
2.I Hear You Knocking/Smiley Lewis

いまの”I Hear You Knocking”と同じ55年に、これはR&Bチャートの1位になりポップチャートでもトップ10に入った大ヒットをバーソロミューとファッツ・ドミノのコンビはリリースします。
ジョン・レノンほかたくさんのカバーがあり、ロックンロールの名曲といわれてますが僕はR&Bだと思っています。それまでにはないグルーヴ感をもった斬新なR&Bだったと思います。
3.Ain’t That A Shame/Fats Domino
いまの曲もファッツ・ドミノとバーソロミューの共作です。ふたりはステージでも一緒で、つまりデイヴ・バーソロミュー・オーケストラがずっとファッツのバックバンドとしてライヴもやったわけです。ですからバンドのグルーヴやアンサンブルも当然鍛えられていくし、新しいアイデアも出て曲も次々生まれたわけです。ちなみにバーソロミューはトランぺッターでシンガーでもあります。彼自身のヒットはなかったのですが、プロデューサー、アレンジャー、タレントスカウトの才能のは秀でていた人です。でも、ここで彼がソロでレコーディングした曲を聴いてみましょうか。
この曲がいちばんチャートに上がった曲でR&Bチャートの14位まで行きました。
4.Country Boy/Dave Bartholomew and His Orchestra
この曲のあとにほとんど曲は一緒で歌詞だけ変えたCountry Girlという曲を録音しているんですが、鳴かず飛ばずでした。
バーソロミューは1940年代の終わりに「インペリアル・レコード」とプロデューサー、タレントスカウトの契約をしました。インペリアル・レコードにとっては次々とヒットを量産してくれるバーソロミューは重要な人でした。ミュージシャンの個性を見抜く力に長けていて、ドラムのアール・パーマーを中心としたビートは明らかに他のグループにはない斬新な、強力なビートを打ち出していました。ビートを強調したダンス・ミュージックとして新しいニューオリンズ・サウンドを50年代はじめに作ったのは、間違いなくデイヴ・バーソロミューでした。

僕は昔、次の曲名からいただいたバンド名をつけていました。そのくらいこの曲が好きですが、実はこの曲はファッツ・ドミノのオリジナルではなく、1927年という遠い昔につくられた曲だったのです。でも、多くの人はファッツのバージョンでこの曲を知ったと思います。うちの親父も聴いていました。
私がこの歌を初めて聴いた小学生の頃、英語ももちろんわかりませんでしたが、この歌のもつ幸せなテイストを私は感じたのかも知れません。
5.My Blue Heaven/Fats Domino
50年代にブルーズから生まれた新しいR&Bという音楽をつくりあげ、新しいグルーヴを作り、ひいては新しいポップスの基本を作ったのがデイヴ・バーソロミューと彼のオーケストラのメンバーでした。
次回もう一回この偉大なプロデューサー、バーサーソロミューの残した音源を聴きます。