2019.09.20 ON AIR

変らぬ精神、変らぬ歌心-メイヴィス・ステイプルズのニューアルバム”We Get By”

We Get By/Mavis Staples (ANTI CAT.# 7670-2)
img

ON AIR LIST
1.We Get By/Mavis Staples
2.Change/Mavis Staples
3.Brothers And Sisters/Mavis Staples
4.Hard To Leave/Mavis Staples
5.One More Change/Mavis Staples

ここ数年早いペースでメイヴィス・ステイプルズはアルバムをリリースしています。この番組を聴いているみなさんの中にも「またメイヴィスや」と思っている方もいると思います。
それはメイヴィスの歌が必要とされている証のひとつではないかと僕は思ってます。今回のアルバム”We Get By”はすべてベン・ハーパーが全曲新しく書き下ろし、プロデュースもしています。

ここ数年リリースされたアルバムには、60年代の公民権運動の頃から変らない彼女の人種差別反対の意志や平和への思いやマイノリティへの気持ちが一貫して表されています。しかし、エンターテイメントとしての音楽を忘れないで、しかもそこにメッセージをしっかりこめる彼女の姿勢に共感する人が多いからこそアルバムはリリースされるのだと思います。ミュージシャンが政治や社会のことについて発言したり、それに関する歌を作って歌ったりすることに僕は反対ではありませんが、それはあくまでも音楽というエンターテイメントとしてクオリティがあってこそだと思います。
例えば、ジョン・レノンの”Imagine”という曲は世界平和を願った歌ですが、あの歌の歌詞の意味をたとえ知らなくてもあの曲は素晴らしいものです。そして、意味を知るといかにあの歌でジョンが平和を願ったかわかりより共感するのだと思います。メッセージも素晴らしいですが、楽曲としてもあの曲は素晴らしいです。つまりエンターテイメントになっているわけです。だからいまでもあの曲は生き続け、歌われているわけです。
メイヴィスのアルバムも同じです。
では、まずアルバムタイトル曲を聴きますが、誰もが口ずさめる心に残るいい曲です。
「私たちは愛と信頼の上でなんとかやっていく、私達は笑顔でやっていく、仲間の助けで何とかやっていく、よい時も悪いときもなんとかやっていく」
1.We Get By/Mavis Staples

次の曲はChangeというタイトルですが、「自分の周りのことを変えよう。大きな声ではっきり言おう私達は周りのことを変えなければいけない。毎日毎日 毎年毎年変えて行こう」
Changeと言えばオバマ前大統領が選挙の時のスローガン「Change Yes,We Can」を想い出しますが、いまのトランプ大統領になってから差別や貧困は更にひどくなっていることに対して改めてこの言葉を出してきたように思います。
やっぱり変えなければダメだというメッセージです。
2.Change/Mavis Staples
今回、楽曲の提供とプロデュースしたベン・ハーパーはメイヴィス2016年のアルバム『LIVIN’ ON A HIGH NOTE』に収録されている「Love And Trust」を作ったときに、メイヴィスのアルバムをプロデュースしたいと本人に申し出たらしいです。その時にメイヴィスが「またいい曲を作ってくれたらいいわ」と言ったそうです。それで今回ベンは全11曲、すべてを書き下ろしてメイヴィスをプロデュースしたわけです。
ここまで思わせるメイヴィスってすごいです。過去プリンスもメイヴィスのアルバムをプロデュースしていますし、ステイプル・シンガーズ時代にはカーティス・メイフィールドがプロデュースしたアルバムもありました。ライ・クーダーがブロデュースした「WE’LL NEVER TURN BACK」そして近年はウィルコのジェフ・トゥーディがプロデュースしています。こんなにいろんなミュージシャンがメイヴィスをプロデュースしたがるのは、彼女の歌の力でしょう。そして、彼女もまたプロデュースしてくれる人との信頼関係を築くのがうまいのだと思います。みんなメイヴィスが好きなんですね。キース・リチャーズもMAVIS!って書いたTシャツ着てます。僕もあれ欲しいです。
次の曲のタイトルのブラザー・アンド・シスターズという言葉はそれこそ60年代終わりから70年代にかけて黒人たちが結束を表す言葉としてよく使ってました。
いま、この言葉がメイヴィスから歌われるとき、それは世界中に対する兄弟姉妹、Brothers And Sistersということのように思えます。
「同じところに留まっていないで、あなたの周りを変えるいろんなことを考えてみよう、ブラザーズ&シスターズ。お互いに助け合い、お互いに強く生き、お互いに困難なことに立ち向かおうブラザーズ&シスターズ」
3.Brothers And Sisters/Mavis Staples

メイヴィスは80才です。僕は彼女のツイッターをフォローしているのですが、驚くぐらい精力的に活動しています。アルバムをつくるだけでなく自分のバンドでツアー、そして大きなフェスティバルにもたくさん参加しています。
前もこの番組で言いましたが、彼女が年とってからこれだけいろんな聴衆とミュージシャンに支持されているのは、彼女が変らない生き方を貫いているからだと思います。信念が変らないことは大切です。そして、強い信念とともに大切なのは人柄、表面的な優しさではなくてすべてを越えた偏見のない優しさや正義です。どんな人の心にも寄り添えるような気持ちです。メイヴィスの歌と生き方が自分の背筋を伸ばしてくれます。
彼女を初めて聴いたのは70年代最初のスタックスレコードから出されたステイプル・シンガーズのアルバムでした。とても力強い歌の中に大きな包容力を感じました。それはいまも変りません。
4.Hard To Leave/Mavis Staples

このアルバムのジャケットは、黒人の子供たちが柵がめぐらされた向こうにある遊園地のようなところで遊ぶ白人の子どもたちを見ているとても切ないアルバム・ジャケットです。
同じ子どもが同じ環境で遊べない、育つことができない・・これがいまだに解消されない。メイヴィスはずっと静かにプロテストしています。
5.One More Change/Mavis Staples