2016.09.23 ON AIR Lil Son Jackson

Lil’ Son Jackson~テキサスの素朴なブルーズマン

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Lil Son Jackson/Rockin’ An’ Rollin’(Imperial)

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Lil Son Jackson/Lil Son Jackson(Arhoolie/P-Vine PCD93734 )

ON AIR LIST
1.Roberta Blues/Lil’ Son Jackson
2.Rockin’ and Rollin’/Lil’ Son Jackson
3.Mr.Blues/Lil’ Son Jackson
4.Turn Your Lamp Down Low/Lil’ Son Jackson
5.Rocky Road//Lil’ Son Jackson

前回のライトニン・ホプキンスの流れから同じテキサスのカントリー・ブルーズマン、リル・サン・ジャクソン
リル・サン・ジャクソンはライトニン・ホプキンスやジョン・リー・フッカーやロバート・ジョンソンから受けるような強烈な衝撃はないのですが、何とも言えない素朴な魅力があります。テキサスの田舎のジュークジョイントで週末の夜に、一杯やりながらのんびり演奏しているようなダウンホーム感はこの人独特のものです。
歌もギターも卓越した技があるわけではないのですが、ギターのリズムがすごくいいのでそのグルーヴだけで充分です。
まずは一曲聞いてください。1948年リル・サン・ジャクソン初めてのレコーディング曲です。
Roberta Blues

リルはリトルのことですが、本名はメルヴィン・ジャクソン。リル・サンですから、まあジャクソンさんとこのちっこい息子という感じかな。
彼はテキサス州のタイラーという街で生まれてます。タイラーというその知らない街を調べてみました。検索するといちばん最初に出てくるのがバラで有名な街で、アメリカいちばん大きなローズガーデンがあるようです。ブルーズとは関係ないのですが、ガーデニングに興味のある僕としてはまずぐっと惹かれました。写真を見ると街のいろんなところに花が咲いていてすごくきれいな街で行ってみたいですね。
しかし、やはり昔は綿花畑が一面にあったようでリル・サン・ジャクソンの親は多くの黒人と同じようにシェア・クロッパー(小作人)として綿花畑で働いてました。でも、お父さんはブルーズが好きで、おかあさんはゴスペルが好きでギターを弾いて歌ってた音楽好き一家だったようです。彼も仲間と”Blue Eagle Four”というグループを作ってスピリチュアルズとかゴスペルを歌っていました。
このタイラーと言う街は大きな街のダラスから約160キロ東でとなりのルイジアナ州のシェリヴポートという大きな街との真ん中くらいにあります。
テキサスと言えばブラインド・レモン・ジェファーソンの出身地ですから、もちろんジャクソンも聞いていたのですが、すごく好きなブルーズマンはロニー・ジョンソンだったらしいです。ロニー・ジョンソンはB.B.キングも大好きだったんですが、本当に人気のある人で20~30年代のギターを持ったブルーズマンはよく名前を上げます。

彼は車が好きだったようで車の整備工をやっていたこともあり、1960年アーフリーレコードからリリースされたアルバム”Lil’ Son Jackson”のジャケ写は、彼が整備工場で油にまみれた整備服を来て写っています。
軍隊でヨーロッパに行って、帰ってきてからはハウスパーティなんかで小遣い稼ぎしてたらしいですが、四つ違いのライトニンがゴールドスターからレコードを出して売れ始めていたので、「よっしゃ、オレも一発やってみよか」となったんでしょう。
1950年にはRockin’ and Rollin’  がヒット。この曲はのちにB.B.キングなどが”Rock Me Baby”と替えてヒットしたその原曲です。
Rockin’ and Rollin’

彼はRockin’ and Rollin’が売れてから弾き語りではなく、バンドをつけて演奏するようになります。ドラム・ベースにピアノ、サックスなんか入ってくるんですが、これがあまりいい効果を出さなくて、どっちかというと彼の飄々とした感じがなくなってしまって、普通のよくあるブルースになってしまった
Mr.Blues

まあ、悪くはないですが、1.2曲目にあったかれの素朴さが無くなってしまっているような・・。
それでも彼はバンドでやることが気に入ってたので、バンドとツアーを回っていたんですが、ある時車の運転手が居眠りをして交通事故に遇うんです。この事故がきっかけで彼は音楽をやめてしまい車の整備工になってしまう。よくあるんですよ、ブルーズとかR&Bを歌ってて事故にあったりすると、邪悪な音楽をやっているから神様に見放されてそういう目に会うんだということでやめてしまう人が。
それが1960年に「フォーク・ブルーズのリバイバル」が来て、再び彼は探し出されてアーフリーレコードで録音されます。そのジャケットがさっき言った整備工の格好で写っているやつです。この時まだ45才ですからほとんど衰えてないです。そのアーフリーのアルバム”Lil Son Jackson”から一曲
Turn Your Lamp Down Low
これは”Bay Please Don’t Go”ですよね(笑)

でも、このアーフリー・レコードで一枚だけアルバムを出したあと、彼はまたプツと演奏をやめて以後音楽に戻ることはなく、76年にテキサスのダラスで61才で亡くなりました。
なんかすごく惜しい気がしますけどね。これだけ歌えるのやからあと何枚かアルバムを残してもよかったんでしょうが・・・。でも、それが彼の生き方やったんでしょうね。整備工やりながら日曜日には教会へ行く。その教会でスピリチュアルを歌っていたかも知れません。それが彼にとって平穏な、望んでいた人生やったかも知れません。
最後にもう一曲、「オレは6才の頃からずっと岩だらけの道を旅している。友達も知合いもなく、オレには行くところもない。まだほんのガキの頃にオレは時々考えたよ。人生なんて生き続ける価値なんか何にもないんやないかって。みんなと同じようにこの世はしんどいことばかりに見えた。セディ・リーという可愛い彼女に会うまでは」
Rocky Road
21世紀、2016年私は自分の部屋でリル・サン・ジャクソンを聞きながら彼が生まれ、育ったテキサス、タイラーという知らない小さな街に思いを馳せるわけです。すると、テキサスのタイラーという小さな街の街角で歌っているリル・サン・ジャクソンが目に浮かんでくるんですよ。僕は自分が好きになったブルーズや歌を歌っているその人自身のことも知りたくなるんですね。大げさに言えばどんな生涯を送って、この曲はいつ作ったんやろかとか・・。そんなこと調べて知ってもあまり役には立たないですけどね。なんか個人的にはすごい幸せな時間なんですよ。
たぶん、この番組を聞いていなかったら、一生で出会わない歌がブルーズがたくさんあると想います。これからもこの番組からブルーズの世界に入っていってください。