2017.04.21 ON AIR

思い出のムッシュ(ムッシュかまやつさんを偲んで)vol.1

img01

THE SPIDERS BEST TRACKS (TEICHIKU TECH-25043)

img02

かまやつひろしGolden Best (ウルトラヴァイヴ CDSOL-1126)

ON AIR LIST
1.フリフリ/ザ・スパイダース
2.ノーノー・ボーイ/ザ・スパイダース
3.エレクトリックおばあちゃん/ザ・スパイダース
4.どうにかなるさ/ムッシュかまやつ
5.ゴロワーズを吸ったことがあるかい/ムッシュかまやつ

この番組にも出演していただいたムッシュかまやつさんが去る3月1日に亡くなられました。
僕は生前仲良くしていただいて、ツアーも何度も一緒に回っていただいてこの弘前にも二度来ていただき、この番組にもご出演いただきました。ライヴ、コンサートもたくさんご一緒して僕のバンド「ブルーズ・ザ・ブッチャー」と一緒に作ったアルバム”Rockin’ With MosIeur”もあります。本当にお世話になりました。ご冥福をお祈りします。
個人的にもよくお酒を飲みにお誘いいただいて、オフの日にも時々お伴しました。ムッシュとは本当に楽しい思い出しかないです。
ムッシュは楽しいことや面白いことやふざけたことが大好きでしたので、今日はそういうムッシュのことを話をしながら、僕が好きなムッシュの音楽を聴いてみます。

僕が初めてムッシュを遠くから見たのは1965年でした。
1965年イギリスのピーターとゴードンというデュオが来日しました。彼らはビートルズのジョン・レノンとポール・マッカートニーに曲を書いてもらった「愛なき世界」”World Without Love”という曲が世界的にヒットしてそれで日本にもくることになったのです。その彼らのコンサートを僕は実の兄とふたりで見に行くことにしました。その頃、僕は名古屋に住んでいて会場は金山体育館というところでした。その時の共演がムッシュがメンバーだったスパイダーズでした。その時中学三年、僕は外タレのコンサートも生まれて初めてでしたが、エレキのロックバンドを生で聴くのもも初めてでした。だから、僕の初エレキバンドの体験はスパイダーズだったのです。スパイダーズは自分たちの演奏が終わったあと、今度はピーターとゴードンのバックもやったんです。ピーターとゴードンはデュオで自分たちのバックバンドはイギリスから連れてこなかったんです。
僕はピーターとゴードンよりも、スパイダーズの演奏のことをよく覚えていて、とにかく客席のファンの女の子たちからキャーキャーと歓声がすごかったです。そのことをムッシュに言うと「それはマチャアキとジュンちゃんへの声援ですよ」と言われましたが、ムッシュもすごく人気があったように思います。それを見て僕はエレキバンドやると女の子にも持てるんやなと勝手に心に刷り込んでしまいました。

今日最初に聴いてもらうのは1965年5月のリリース。スパイダーズの最初のシングルです。ムッシュは「この曲は日本人に馴染みのある三三七拍子のリズムでアレンジした」と言われてまして、ドラムの田辺さんのビートが確かにそうです。それから不思議な事にこのシングルのジャケット写真にはムッシュが写っていないんで「なんで写ってないんですか?」と訊きましたら、撮影の時に遅刻しましたとムッシュは笑ってました。
1.フリフリ/ザ・スパイダース
グループ・サウンズと呼ばれた当時のロック・バンドの中では、スパイダースがオリジナルもいちばん洋楽に近いテイストを持っていたし、取り上げるカバー曲のセンスもスパイダースがいちばんよかったと思います。あとはバンドのムードがファンキーで明るかったですね。

いまの「フリフリ」の翌年66年に出された次の曲で僕はスパイダースがすごく好きになりました。これは作曲がムッシュで作詞はドラムの田辺さんが書かれています。歌詞も曲も自然でおしゃれで、そして切ない。学校の行き帰りに歩きながらよく口ずさんでいました。
2.ノーノー・ボーイ/ザ・スパイダース

ムッシュと当時の音楽の話をしているとビーチボーイズやジャンとディーンといったサーフ・ミュージックも好きだったと言われてましたが、次の曲なんかはその影響が出ている曲で、コーラスのアレンジなんかはビーチボーイズ風です。
ムッシュと飲んでいる時にボクがこうして弘前でラジオの番組もやっているので、一度弘前にライヴに行きませんかとお誘いしたところ、ムッシュのおじいさまがこの弘前のご出身ということを言われまして、それなら是非ということで、二度弘前に来ていただきました。その時弘前の街をふたりで歩いていると「うちのおやじ系の顔の方がたくさんいらっしゃいます」と言われてました。
次はスパイダーズの後期に作られた歌ですが、弘前のおばあちゃんと最初に出てきます。
3.エレクトリックおばあちゃん/ザ・スパイダース

ムッシュはスパイダーズでロックに入る前にカントリー&ウエスタン歌われていた時期がありました。グループサウンズが流行る前は、プレスリーなんかのロカビリーが流行っていて、その前はカントリー&ウエスタンでジミー時田さんとか小坂一也さんとかカントリー・シンガーの方がいて、あと日本のポピュラーミュージックはジャズでしたね。
それで次の歌はちょっと裏声を出すカントリーの唱法をムッシュは使われているのですが、そのことを僕が言うと「やはり三つ子の魂でしようか」と笑われてました。この曲は作詞が山上路夫 さんで作曲がムッシュです。僕の大好きな曲のひとつです。
4.どうにかなるさ/ムッシュかまやつ
「愛してくれた人もひとりいたよ」というところが好きなんですが切ないですね。ひとつのところに留まらないで他の街へ行ってしまうというのは、ブルーズにもある男の放浪のパターンです。
ムッシュはカントリーだけでなく、ジャズにもそしてフォークやニューミュージックにも精通されていて、次の歌はボブ・ディランが作るトーキングブルーズ的なテイストです。この歌が大好きな人も多いと思います。
生きてるんだから何か自分の好きなことにほかのことを忘れるくらい熱中しなければダメだというメッセージが込められていると思います。
最初の「ゴロワーズを吸ったことがあるかい」という歌詞のはじまりからの展開が素晴らしいです。

5.ゴロワーズを吸ったことがあるかい/ムッシュかまやつ

僕はゴロワーズの三番の歌詞が格別好きなのでここに記しておきます。
(君はたとえそれがすごく小さな事でも何かにこったり狂ったりした事があるかい
たとえばそれがミック・ジャガーでもアンティックの時計でも
どこかの安い バーボンのウィスキーでもそうさなにかにこらなくてはダメだ
狂ったようにこればこるほど 君は一人の人間として
しあわせな道を歩いているだろう)
ムッシュはこの歌のように最後までいろんなことに興味をもち、いろんなことに感動して、楽しく生きて、そして誰にでも優しく接した方でした。
僕はムッシュだけがなんでも話せるこの音楽業界のたったひとりの先輩でした。一度だけいただいたアドバイスはずっと心に残るものでした。
去年入院された12月には「ホトケさんに負けたくないから必ず出所します」とメールをいただきました。出所と書かれていたことがすごくムッシュらしくて面白かったのですが・・、そういうウィットいつも効かせてくれる方でした。本当に残念です。
来週は僕のバンド「ブルーズ・ザ・ブッチャーとムッシュがコラボして作ったアルバム”Rockin’ With Mosieur”を聴きます。