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2018.07.06 ON AIR

LPレコードで聴くブルーズ/いまも歌い継がれる名曲を残した60年代のブルーズシンガー、トミー・タッカー

Hi-Heel Sneakers/Tommy Tucker (CHECKER LP-2990)
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ON AIR LIST
1.Hi-Heel Sneakers/Tommy Tucker
2.Just For A Day/Tommy Tucker
3.Hard Luck Blues/Tommy Tucker
4.It’s A Mighty Hard Way/Tommy Tucker
5.Long Tall Shorty/Tommy Tucker

「ハイヒール・スニーカーズ」という曲はブルーズの中では有名なので知っている方もいると思います。この曲はブルーズではバディ・ガイ、バイントップ・パーキンス、ビリーボーイ・アーノルド、マジック・サム、ロックではビル・ヘイリー、エルヴィス・プレスリー、ジョージ・サラグッド、フェイセズ、ソウルではスティービー・ワンダー、ティナ・ターナー、ジャズではラムゼイ・ルイスやジミー・スミス、カントリーではカール・パーキンス、他にもホセ・フリシアーノのカバーも有名です。
そのオリジナルが今日聴くトミー・タッカー。
60年代に活躍したR&Bシンガーでキーボード奏者でもあり、ソングライターでもあります。1933年に生まれ82年に亡くなってますから49年という短い人生でした。
そしてトミー・タッカーと言えば「ハイヒール・スニーカーズ」、「ハイヒール・スニーカーズ」と言えばトミー・タッカーと言われるそのヒット曲を聴いてみましょう。
1964年にチャートの11位。赤いドレスを着て、流行のウィグ被って、ハイヒール・スニーカーズという当時最先端の黒人おしゃれファッションで夜遊びに行く女性の歌です。
1.Hi-Heel Sneakers/Tommy Tucker
元々はブルーズのヒットメーカー、ジミー・リードの”Big Boss Man”という曲のビートをいただいたものですが、とにかく「イナタイ」です。
実は昔ニューオリンズへ行った時に、黒人がたくさん集まってる靴屋さんに入って「ハイヒール・スニーカーズありますか?」って訊いたら、「そんな古いもんあるわけないやろ」と笑われて「いまはジョーダンや」言われてナイキのエア・ジョーダンを持ってこられたことあります。
でも、最近また若い女の子の間でちょっと流行ってるそうです、ハイヒール・スニーカーズ。
いまやブルーズのスタンダード・ナンバーとなって歌い継がれる名曲ですが、この曲が有名過ぎてトミー・タッカーはいわゆる「一発屋」さんに思われているのですが、果たしてそうなんでしようか・・と今日はこのアルバムをじっくり聴いてみたいと思います。

トミー・タッカーはブルーズ、ジャズ、R&Bちょっとポップなものまでいろんなタイプの曲を録音しているのですが、次の曲なんかはSomething You GotとかI KnowのようなニューオリンズR&Bの匂いもあるファンキーなものでトミー・タッカーのパワフルな歌がすごくいいと思います。まさに60年代R&Bです。
2.Just For A Day/Tommy Tucker

彼の経歴を読んでみると彼のお父さんがローカルシーンのピアニストで、小さい頃から音楽はたくさん聴いていて音楽の成績はいちばんだったみたいです。彼は9人家族の中で育ったけれど高校生の頃に家が金銭的に苦しくなって学校を辞め働き始めます。それで以前から興味のあった音楽のあるホンキー・トンクでも働き始めピアノを覚えてローカルバンドに入ります。その頃はジャズを志向していたようで一時盲目のジャズ・サックス・プレイヤーのローランド・カークのバックでピアノを弾いていたこともあります。
それで本人はジャズの曲にもアプローチしていてこのアルバムにもジャズ・スタンダードの”Come Rain Or Come Shine”なんかも歌っているんですが、いまいちです。
1960年にはアトランティックレコード傘下のレーベルアトコからシングルを一枚出してますが、ヒットしなかったんですが、64年にチェスからの「ハイヒール・スニーカーズ」大ヒット!

一曲ストレートな彼のブルーズを聴いてみようと思うのですが、ブルーズ・シャウターとして40年代から50年代に活躍したロイ・ブラウンのヒットを歌っています。これはもう悲しい歌詞で「道端の岩がオレの枕、冷たい地べたがオレのベッドで、ハイウェイがオレの家もう死んだ方がいい。お袋は死んだし、オヤジはオレを家から追い出した。靴があるだけで服の着替えもない」というまさにブルーズな曲です
3.Hard Luck Blues/Tommy Tucker
ストレートでパワフルでいい歌です。もう何曲かヒット曲があったらもっと有名になれる人だったと思います。まあ、シングル1枚出して消えてしまうシンガーも多いこの世界ですから、こうしてアルバムまで出せたのは売れた方なのかも知れません。

彼は自分で曲も作る人でオリジナル曲で「毎日毎晩働いて金を稼ぐために生きていくのはほんまにしんどい」という歌です。
4.It’s A Mighty Hard Way/Tommy Tucker
いい曲だと思うんですが、これもそんなにヒットしなかったんですね。
トミー・タッカーが活躍していた60年代半ばといえばすでにビートルズもデビューして、イギリスのロックバンド次々にアメリカでもヒット出していく時代で、黒人音楽は完全にソウルとファンクの時代になっていくんですが、そういう流れには乗れなかったんですね。66年に一度音楽界から去ってしまって違う仕事をしていたんですが、70年代に入って再び音楽の世界に現れます。でも、レコーディングのチャンスには恵まれず晩年は寂しいものだったらしいです。

「ハイヒール・スニーカーズ」のような大ヒットが出るとやはり「柳の下にどじょうが二匹」的なことで同じような曲をリリースします。それが次の曲なんですが、「ハイヒール・スニーカーズ」の時よりもバンドがタイトでゴージャスになっているのが面白いです。でも、ヒットしませんでした。どじょうは二匹いなかったんですね。でも、歌はすごくいいと思います。同時代のR&Bシンガー、ドン・コヴェイがオリジナル・シンガーですが、60年代にイギリスのロック・グループ「キンクス」がヒットさせたので知ってる人も多いと思います。
この曲のリズム・パターンも基本的にHi-Heel Sneakersとほぼ同じで60年代半ばこのパターンが流行ったんですね。この曲はイギリスのキンクスなどがカバーしています。
5.Long Tall Shorty/Tommy Tucker

一曲しかヒットがなかったトミー・タッカーですが、いまもこの曲が歌い継がれていると知ったら嬉しかったでしょうね。
今日は60年代の「Hi-Heel Sneakers」の素晴らしいR&Bシンガーそしてソングライターだったとトミー・タッカーでした。

2018.06.29 0N AIR

アメリカンロックの偉大なひとり、ライ・クーダーの新譜

THE PRODIGAL SON / Ry Cooder(Fantasy Records / Hostess HSU-10202)

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ON AIR LIST
1.Straight Street/Ry Cooder
2.Prodigal Son/Ry Cooder
3.Nobody ‘s Fault But Mine/Ry Cooder
4.I’ll Be Rested When The Roll Is Called/Ry Cooder

今日は5月にリリースされたライ・クーダーのニューアルバム”THE PRODIGAL SON”
ライ・クーダーは60年代からブルーズ、ジャズ、カントリー、テックス・メックスなどアメリカの様々なルーツ・ミュージックを探求しながら、メキシコ、キューバ、ハワイアンなどワールド・ミュージックにも精通。その様々な音楽を自分のフィルターを通してアルバムを作り続けてきただけでなく、映画音楽でも高い評価を得ている才人なのはみなさんご存知だと思います。

新しいアルバム「THE PRODIGAL SON」はスピリチュアルズとゴスペルを取り上げていて宗教色の濃いアルバムになってますが、そこはさすがライ・クーダー、すべて自分のテイストにしてしまってます。

まずアルバムの一曲目を聴いてみましょう。オリジナルはゴスペル・グループの「ピルグリム・トラべラーズ」が1950年代にヒットさせた曲です。ピルグリム・トラべラーズは1930年代にテキサスで結成され、その後ロスアンジェルスで活動した40年代後半から50年代にかけてのゴスペルを代表するグループ。レイ・チャールズも憧れたグループです。
歌詞の内容は「前に住んでいたところにいた悪魔にとりつかれていたけど、神様がそこから出て行くようにと言われたので引っ越した。引っ越していまは真っすぐな通りに住んでいる」真っすぐな通り(ストレート・ストリート)というのは真っすぐに生きるということなんでしょうね。
1.Straight Street/Ry Cooder
いいですね。ソウルフルででも無理なく、淡々としていて僕はこういう感じ好きです。この曲はまっすぐに生きるというライ・クーダーの声明なのではないでしょうか。

次の曲はアルバム・タイトル曲の「ザ・プロディガル・サン」
今回、このタイトルを見た時に真っ先に頭に浮かんだのが20年代から30年代に活躍したロバート・ウィルキンスの「プロディガル・サン」。
邦題が放蕩息子で、ローリング・ストーンズがアルバム「ベガース・バンケット」でカバーしていました。
でも、このライのバージョンはザがついていて「ザ・プロディガル・サン」。曲も歌詞もまったく違います。
でも、曲の題材はもともと同じ聖書に出てくるもので、父親から結構な金をもらった息子の弟の方が、明日のことも顧みずに散財してやりたい放題する。でも、弟は財産をすべて使い果たしてボロボロになって家に戻って来る。その戻って来た放蕩息子の弟を父親はあたたかく迎える。それを見た兄が僕はおとうさんの元で地道に働いてきた。弟はあんなにやりたい放題やって金を使い果たして帰ってきた。その弟をどうして温かく迎えられるのか、と父に訊くと「いなくなって、死んだと思っていた息子が、オマエの弟が生きて帰ってきたのだから温かく迎えて喜ぶのは普通だろう」と言う。この例えは父親は神様で弟はいろいろ罪を置かす私たち人間。父である神様の大きな愛情を表している話とされている。
2.Prodigal Son/Ry Cooder
ライ・クーダーがは1970年にリリースした初めてのソロ・アルバムで盲目のエヴァンジェリスト、ブラインド・ウィリー・ジョンソンの”Dark Was The Night,Cold was the ground」を録音して、それは映画「バリ、テキサス」でもとても印象的に使われていた。ライがブラインド・ウィリーのスライド・ギターと彼の音楽性に影響されているのは有名だが、今回再びそのブラインド・ウィリーも録音したゴスペルのトラッド”Nobody ‘s Fault But Mine”を収録している。
「誰のせいでもない、誰のせいでもない、この自分のせいだ。家には聖書があるのに、聖書を読まないからオレの魂は迷ってしまった。誰のせいでもない聖書をちゃんと読まなかった自分のせいだ」
3.Nobody ‘s Fault But Mine/Ry Cooder
バックにバイオリンが不安な音を奏でながら少しヘヴィなライの歌声、そして美しく鋭いスライド・ギターの音。スライド・ギターの腕はやはり絶品です。録音の状態も完璧ではないでしょうか。こういうのは白人ではもうライ・クーダーの独壇場ですね。オリジナルのブラインド・ウィリーの原曲に新たな息を吹き込んだ感じがします。

ライ・クーダーはブルーズも当然好きなのですが、昔からスピリチュアルズやゴスペルといったアメリカの宗教歌も好きで、いままでもよく取り上げています。
今回はそういうゴスペルやスピリチュアルズとライの音楽性がうまく融合したアルバムだと思います。
最後にもう一曲
20年代から30年代に活動したブラインド・ルーズヴェルト・グレイヴスの曲です。ルーズヴェルト・グレイヴスは先ほどのロバート・ウィルキンスと同じようにブルーズもゴスペルも歌った人です。
4.I’ll Be Rested When The Roll Is Called/Ry Cooder

2018.06.22 ON AIR

珍しいブルーズ・シングル盤をコンピレーションした最新盤
Do The Blues 45s! vol.2 ~the Ultimate Blues 45s Collection~
[ THINK RECORDS THCD-537 ]

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ON AIR LIST
1.Pickin’ Heavy/Joe Scott And His Orchestra
2.I Tried/Larry Davis
3.Don’t Change Your Mind/T.B.Fisher
4.Hop Stroll/Jerry McCain And His Harmonica
5.Red Headed Woman/Baby Face
6.Five Spot/Otis Spann

去年、ブルーズの珍しい、レアなシングルだけを集めた「Do The Blues 45s! 」というCDアルバムがリリースされてかなり評判になりました。リリースしたのはレコード店ディスクユニオンのレーベルTHINK RECORDSです。
今日はその第二弾がリリースされたので聴いてみます。
僕も時々ブルーズのシングル盤を買いますが、ブルーズのシングル盤の世界というのがまた深い世界でハマるとちょっと抜け出せなくなり、中にはかなり高価なシングルもあるので気をつけないとあかんのですが・・・。
でも、シングル盤の音の良さというのがあり、まず同じ曲、同じテイクでもLPに比べるとシングルは音圧が高いので迫力という点ではシングルです。それと50年代、60年代は黒人音楽はシングルの時代でLPというのはシングルを何枚か出して売れた時に、シングルをまとめてLPにしていたわけです。だから当時の黒人の人たちがブルーズをどういう感じで聴いていたのか知るにはやはりシングルです。
それで今日聴いてもらう「Do The Blues 45s! vol.2」をコンピレーションしたのは、vol.1もそうでしたがレコード店ディスク・ユニオンでブルーズとソウルの担当をしている秋元さんと言う方です。

ではまず一曲、インストルメンタルの曲が何曲か収録されているのですが、最初に聴いて「ああ、これかっこいい」と思った曲です。
誰が弾いているのかわからないですが、ギターがすごくいいです。そして、バンド全体のグイグイくるグルーヴ感もたまりません。
1.Pickin’ Heavy/Joe Scott And His Orchestra
ジョー・スコットさんはホビー・ブランドやジュニア・パーカーのアルバムでアレンジャーをやっていた人で、ブランドもパーカーも彼がいなかったらあんなに素晴らしい録音にはなっていなかったかもと言えるほど、大きな役割をしたひとです。ボビー・ブランドには歌い方もアドバイスしたそうです。それでジョー・スコットさんは自分のオーケストラを持っていて、それで録音もやりナイトクラブの仕事もするという当時のテキサスの黒人ショービジネスのフィクサーみたいな人です。

次は僕も歌っている”Texas Flood”のオリジナル・シンガー、ラリー・ディヴィスです。1958年のデューク・レコードに録音したシングルです。それでこの曲のアグレッシヴなギターがすごくかっこよくてラリー・ディヴィス本人かと思ったら、ディヴィスは歌だけでギターは後にシカゴでメロウ・ブルーズ・ジニアスと呼ばれたフェントン・ロビンソンだそうです。僕はシカゴ時代のフェントンよりこの録音の方が断然好きです。ギター・スタイルが変っていったんですね・・・おもろいです。
2.I Tried/Larry Davis
歌もギターもバンドのグルーヴもめちゃいいです。これそのままシングル盤で聴いたら相当気持ち上がりますよ。

次は初めて知った名前でT.B.Fisherですが、テキサスのブルーズマンらしいです。編集した秋元さんもよくわからないらしいです。
曲の感じはスリム・ハーポの”Rain In My Heart”のようなルイジアナ哀愁バラードで、ハーモニカも柔らかい音で歌もゆったりしていてなかなかのダウンホーム・ブルーズバラードです
3.Don’t Change Your Mind/T.B.Fisher
T.B.Fisher・・知らんけどいいですね。知らんけどね。とにかく収録されている曲がみんな短い。どの曲も三分以内ですぐ終わります。それがまた昔のシングルならではでもうちょっと聴きたいなというところで終わってしまう。こういうシングル、1枚とか2枚とかで終わったブルーズマンに興味持ち始めてシングル買い始めると・・だんだんオークションみたいな世界に入り込んで迷宮のブルーズシングル盤の世界になり、やがて暗黒の宇宙SP盤の世界になっていきます。楽しいと思いますが気をつけてください。もう底なし沼ですから。

次は僕が大好きな南部の、サザン・ハープのジェリー・マッケーンです。最初に出てくるハーモニカの音からしてめちゃいいです。最初のメロディというかリフはバスター・ブラウンの大ヒットFunny Maeで、途中のストップ・タイムのところではフレディ・キングの”Hideaway”からいただいたみたいな感じですが、全体のゆったりしたグルーヴ感とハーモニカの音色がたまりません。
4.Hop Stroll/Jerry McCain And His Harmonica

先日このアルバムを最初買った時にざぁ~と聴いていたんですが、次の歌が出てきた時に「あれ?サニーボーイ・ウィリアムスンか」と思ったんですが、よく聴くとサニーボーイほど恐ろしさはないんですが・・。見たらベイビー・フェイスでした。黒人音楽でベイビー・フェイスと言たら80年代からプロデューサーであり自身もシンガーのいまも活躍する人気者ですが、ブルーズの世界でベイビー・フェイスといえば50年代シカゴ・ブルーズのドラマー、ベイビー・フェイス・リロイのことです。この曲のハーモニカもギターも上手いんで誰かと思ったらなんとギターはジミー・ロジャースとマディ・ウォーターズ、ハーモニカはリトル・ウォルターという黄金のシカゴブルーズのメンバーで驚きです。どうやら所属していたチェスレコードには内緒の金稼ぎで裏の仕事で録音したらしいです。ありがちな話ですが・・・。ギターが繰り出すゴリゴリしたリズムの感じと表情豊かなハーモニカの伸びる音、まさにシカゴブルーズ全盛時のサウンドとグルーヴで最高です
5.Red Headed Woman/Baby Face

ワイルドなギターから始まる次もインスト曲なんですが、シカゴ・ブルーズピアノのオーティス・スパン名義の曲です。それでギターがふたり入っているのですが、ひとりがシカゴ・ブルーズのギタリストとして名のあるジョディ・ウィリアムスともうひとりはなんとB.B.キングだそうで、たぶんソロを弾いているのもB.B.だと思うのですが、オーティス・スパンのシングルでB.B.キングがギターだけ弾いてるなんて曲があることに驚きです。
そして短いですがスパンのアグレッシヴなプレイも聞き物です。
6.Five Spot/Otis Spann
このアルバム「Do The Blues 45s! vol.2 ~the Ultimate Blues 45s Collection~」は、本当に個性的な曲ばかりで選曲された秋元さんのセンスの良さに感激しました。

このアルバムの選曲、最高です。パーティとか宴会のBGMに使ってもらうと盛り上がると思います。ブルーズのシングル盤の世界は奥深いのですが、もしどこかで見つけたら一枚買ってみてください。僕はフレディ・キングのハイダウェイのシングル持ってるんですが、LPの3倍くらい音がいいです。CDとかLPで聴いていたのとはまた違う生々しい音に出会えます。

2018.06.15 ON AIR

76才の現在もキュートでエレガントなR&Bシンガー,バーバラ・リン
Here Is Barbara Lynn/Barbara Lynn(Atlantic/Warner Music WPCR-27530)
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ON AIR LIST
1.You’ll Lose a Good Thing/Barbara Lynn
2.Only You Know How To Love Me/Barbara Lynn
3.I’ll Suffer/Barbara Lynn
4.Maybe We Can Slip Away/Barbara Lynn
5.This Is The Thanks I Get/Barbara Lynn

5月26日から順次全国公開されている”I AM THE BLUES”という映画をみなさんご覧になられましたか。
ミシシッピーのデルタ、ノースヒル・カントリーそしてルイジアナ・バイユーといったあたりの現在のブルーズの状況を捉えた映画で、ボビー・ラッシュ、ヘンリー・グレイ、レイジー・レスターなど南部出身のブルーズマンがたくさん出演しています。
B.B.キングやボビー・ブランドたちが亡き後、衰退している南部のブルーズ状況の中にありながら自分の音楽としてブルーズが必要な人たちとブルーズマンの現状とらえたドキュメントで是非観ていただきたい作品です。
今日はその映画の中で僕が格別に好感を持った、というより彼女が出演しているので観てみたいと思ったくらいですが、女性R&Bシンガー、バーバラ・リンを今日は聴いてみようと思います。
1968年アトランティック・レコードがリリースしたアルバム「Here Is Barbara Lynn/Barbara Lynn」
現在バーバラ・リンは76才。映画で観るとめちゃ元気です。姿勢もしっかりしているし、頭もしっかりしている感じです。
ではまず彼女と言えばこの曲
「もし、私を失ったら、あなたはいいものを失うことになるのよ」
1962年R&Bチャート1位、ポップチャートも8位まであがった大ヒット。オリジナルレコーディングは彼女が20才の頃。このテイクは26才。でも、10代のような可憐さがまだ残っている歌声です。
1.You’ll Lose a Good Thing/Barbara Lynn
映画”I AM THE BLUES”の撮影のためのパーティに呼ばれたバーバラ・リンは昔の友達や知合いを前に向かって「女性だったらこの歌の意味がわかるわよね」と言っていまの歌を歌い始めます。

彼女はギターを弾くのですが、そのサウスポーで弾くギターの腕前も衰えていない感じでした。めちゃ上手いというわけではないんですが、ときおりコードを絡めてソロを弾いたりする感じはちょっとジミ・ヘンドリックスみたいでにんまりしてしまいます。とにかくギターのリズムがすごくいいです。

バーバラ・リンは子供の頃、ピアノを弾いていたのですが、エルヴィス・プレスリーを観てギターを弾いて歌うのがかっこいいと思いギターを弾くようになったそうです。高校生の時にバンドを結成して活動するようになるのですが、その頃の好きなミュージシャンがブルーズのギター・スリムとジミー・リードで、女性歌手はというと黒人歌手ではなく白人のブレンダ・リーとコニー・フランシスなんですね。この辺りが彼女が他の黒人女性シンガーとちょっとテイストの違いになっているのかも知れません。
白人歌手を好きだったというのがちょっと意外でしたが、普通だったらアレサ・フランクリンとかルース・ブラウンとかダイナ・ワシントンという黒人女性シンガーの名前が出るところですけどね。
次の歌なんかにバーバラのそういうポップテイストがあります。
「ほかの人を好きになったこともあったけど永遠のものじゃなかった。でも、私はもう変えたくないの。あなたの愛にとらわれているから。あなただけが私の愛し方を知ってるの」
2.Only You Know How To Love Me/Barbara Lynn
甘酸っぱい10代の歌で同時代のモータウンレコードの影響も感じますが、そこはやっぱりサザンですからバックの音作りもシンプルでストレートです。
一曲目の大ヒットした「You’ll Lose a Good Thing」もバーバラ本人が作詞作曲したものですが、彼女はソングライターとしても才能のある人でいい曲つくるんですよ。次の曲も彼女の自作です。
サザン・テイストのあるR&Bバラードです。悪い男にでもひっかかっているのでしょうか。いつか私の日が来るでしょう。そしてあなたは孤独な男になるでしょう。それまでは私が苦しむのよ。それまで私は我慢するの。
3.I’ll Suffer/Barbara Lynn
彼女の歌にはどこか品があるんですよね。いまのような熱いソウル・バラードを歌ってもむき出しの感情ではないうっすらと哀愁でコーティングされているような感じです。

1984年に彼女は日本に来て日本のミュージシャンとツアーを回ったんですが、その人柄の良さはいろんなところで耳にしました。
20才でチャート1位になるような大ヒットを飛ばすと天狗になるシンガーもいますけど、小さい頃からの育てられ方がよかったのか人柄の良さが歌に出てるような気がします。

次の曲は「私達はこっそりそこを抜け出して、ふたりっきりの恋人の時間を過ごすの」と60年代に流行ったガールズ・コーラスグループにこういう曲あったような・・。
4.Maybe We Can Slip Away/Barbara Lynn

ちょっと映画”I AM THE BLUES”に話を戻すと、そんなに有名なブルーズマンは出てこないんですが、去年ですかグラミーを取ったボビー・ラッシュがいちばん有名でしょうか。そのボビー・ラッシュが「B.B.キングもレイ・チャールズももういない。オレたちが最後のブルーズだ」と言うのですが、確かにB.B.のようにブルーズのアイコンになるような人がいません。でも、ブルーズがなくなるわけではないんですよ。
この映画に出てくるミュージシャンももうおっさん通り越しておじいちゃんになっている人が多いんですよ。しかも、ほとんど頑固じじいです。その頑固さが微笑ましくもあります。それに比べると女性のバーバラ・リンは柔らかいというか穏やかで、そして何よりエレガントです。
76才になってもこのアルバムが録音された26才の頃と変らないエレガントさが素敵でした。
最後にもう一曲。これも彼女の自作の曲です。
愛する男と幸せな家庭を作ろうとあくせく働いてきたのに、男が他に女を作った。
5.This Is The Thanks I Get/Barbara Lynn

バーバラ・リンは76才になったいまも現役で歌っているのでもう一度来日して欲しいです。キュートで、エレガントででも自分の音楽の芯はしっかりもっているすばらしいシンガーです。
映画「”I AM THE BLUES」で確認してください。

2018.06.08 ON AIR

映画「私はあなたのニグロではない」とブルーズ

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ON AIR LIST
1.Damn Right, I’ve Got The Blues/Buddy Guy
2.Baby,Please Don’t Go/Big Joe Williams
3.Stormy Wheather/Lena Horne
4.Big Road Blues/Tommy Johnson

先日「私はあなたのニグロではない」という映画を観ました。監督はハイチ出身のラウル・ペック。
このタイトルのニグロという言葉はアメリカ黒人に対する差別用語ですが、この痛烈なタイトルが示すように、この映画はいまだに続くアメリカの人種差別とそこから生まれる社会的な格差を告発したものです。
映画の内容についてはやはり映画を観てもらうのがいちばんなのでここで詳しくは言いません。
映画は偉大な黒人作家のジェイムズ・ボールドウィンが残した原稿を元に遠い過去から続く黒人への人種差別と白人至上主義がいまだにアメリカでまかり通っている現状を、残された膨大な映像や画像そして文献を元に描かれています。
この番組でとりあげているブルーズという黒人音楽が生まれた背景には、多くの方がご存知のように奴隷としてアフリカから強制的にアメリカに連れて来られたその発端からして信じられない虐待と差別があります。自分は幾度となくその虐待と差別について考えてきました。ブルーズという音楽はそういう悲惨な状況なくして生まれなかった音楽です。逆いうとブルーズは本当は生まれない方がよかった音楽と言えます。でも、そういう状況で生まれたブルーズという音楽が世界中の人たちに受け入れられ、今日まで歌い継がれてきたのはブルーズの中に「真実」があるからです。
この映画は奴隷としてアフリカから連れて来られたアメリカの黒人(アフリカン・アメリカン)が白人に従順にしていなければリンチされたり、暴力をふるわれたりした遠い昔から60年代に起こった公民権運動や人種差別撤廃の動きの流れを描きながらも、実はいまも何も変わらない人種差別の構図が自由と平等の国と謳うアメリカで行われているということを訴えています。
人種のことだけでなく差別主義そのものをとても考えさせられると同時に、ソウルやファンク、ゴスペル、ジャズそしてブルーズといった黒人音楽の深い奥底を知ることができる映画です。

映画の中にはいろんな黒人音楽と映像が使われていますが、最初に流れるのがバディ・ガイのこのブルーズでした。
「そうだよ、オレは頭から靴までまるっきりブルーズだよ。頭から靴までブルーズに取り憑かれてる。オレは勝つことはできないよ。なぜって失うものなにも持ってないからさ」1991年リリース、バディ初めてのグラミー。最優秀コンテンポラリー・ブルーズ・アルバム賞を受賞した彼の復活の作品と言われたそのタイトル曲です。
1.Damn Right, I’ve Got The Blues/Buddy Guy
Damn Rightというのは「ああまったくその通りだよ」というような意味だから、ああまったくその通りオレはブルーズに取り憑かれているという意味です。

この映画「私はあなたのニグロではない」は60年代の小説家であり、詩人であり、公民権運動の運動家であり思想家であるジェイムズ・ボールドウィンを中心に60年代当時の公民権運動を牽引したマーティン・ルーサー・キング牧師、そしてやはり運動家で「黒人地位向上委員会」の委員だったメドガー・エヴァース、そして急進的な運動家だったマルコムXこの3人の活動をからめながらストーリーは進みます。そして、この3人の政治運動家は3人とも暗殺されています。僕は高校生の頃にボールドウィンの「もうひとつの国」という本を読んだり、この映画にも出てくる黒人俳優シドニー・ポワチエ主演の映画「招かれざる客」も観ました。マルコムXの考えに強く共感したこともあります。当時のアメリカのベトナム戦争への介入や国内の人種差別撤廃運動も高校の頃、リアルタイムで知っていて当時の若かった自分にそうしたことが精神的な大きな影響を与えた思います。
そこからしばらくしてブルーズという黒人音楽に没入していく自分の中には、白人至上主義への反発や人種差別だけでなくあらゆる差別への反発の気持ちが大きく作用していました。

映画では僕がブルーズを知り始めた頃によく聴いたこのブルーズも流れていました。1935年の録音。たくさんのミュージシャンにいまも歌い継がれているブルーズのスタンダードのひとつです。ひたすら「ベイビー、行かないで」と繰り返され「最後にニューオリンズへ行かないで、オレは愛してるんだよ」歌われるところに彼女を失う切実さが出ています
2.Baby,Please Don’t Go/Big Joe Williams
このビッグ・ジョーを敬愛していたボブ・ディランも映画に登場します。

僕はブルーズにのめり込んでからブルーズを生んだアメリカ黒人の文化や歴史、生活様式、黒人の美学に興味を持ちました。それはブルーズの歌詞を聴くと当然そうなるわけで、つまりブルーズという音楽の背景を知りたくなり、そこには当然人種差別と白人との生活の格差のことがいろんな形で出てきます。どうして人種の差別を白人はするのか、どうして白人は自分たちよりも黒人が下だと白人至上主義になるのか。この映画でも言われてますが生まれてすぐの赤ん坊に、そして3,4才までの子供に白人も黒人も差別の意識なんてありません。ほっとけば白人の子供も黒人の子供も日本人の子供もみんな一緒に遊びます。つまり、差別は意図的に作られているものなんです。それは黒人側が作ったものではなく白人が作ったものです。それを白人側が本当に認識して改めないと差別はなくなりません。ところがいまだに黒人の少年が白人の警官に無防備のまま過剰な暴力を受けて、人間として扱われてないような殺され方をする事件がアメリカにはあります。つまり、60年代に公民権運動で問題にされたことの本質はなにも白人に改められていないということです。有色人種のオバマが大統領になっても根底は変らなかったということです。
次の女性ジャズシンガー、レナ・ホーンの1943年のヒット曲「Stormy Wheather」もこの映画で流れます。レナ・ホーンはお父さんが白人とのハーフだったのでそれほど黒くなく褐色の肌をしていました。そして、美しい顔立ちをしていたので映画やミュージカルにも出演しました。でも、アメリカでは一滴でも黒人の血がある人はみんな黒人とされてしまい、彼女は役者として演じる役も限定されたり、歌を歌うシーンだけ使われたり差別を受けました。そのことに彼女は憤り自分をしっかり保ち、白人の機嫌をうかがったり、迎合したりすることはしませんでした。そして、やはり公民権運動に参加するようになりました。
3.Stormy Wheather/Lena Horne

いまのレナ・ホーンだけでなく、この映画に現れるシドニー・ポワチエやハリー・ベラフォンテといった黒人の俳優や歌手は、白人が主体のアメリカの大きなショービジネスの世界で人種の差別と自分のアイディンティティに悩んでいます。黒人は白人によって怠け者として描かれたり、結局は白人に従うメイドや下男や召使いの役しか与えられなかったり、あるいはおどけ者として使われたり・・・そういう差別をずっと続けている白人の感覚が僕にはわかりませんが、この映画でも言われてたように白人は黒人に恐怖を感じているのかも知れません。身体的、肉体的な妄想のような恐怖とも思えるし、いままで虐待してきたことへの復讐を恐れているのかも知れません。
テレビでみる白人の警官たちが黒人を殴り蹴りする様子は何かを恐れ、何かに取り憑かれているように思えます。
元々先住民であるインディアンが住んでいる土地を白人はヨーロッパからやってきて侵略し、そこにアフリカから無理矢理つれてきた黒人を奴隷にしたわけですから・・何をか言わんやです。
人種の差別だけでなく、男女の差別や貧富の差別などいろんな差別意識は結局自分自身に返ってきます。つまり、僕自身もこういう映画を観たり、本を読んだりすると、いろんな人に対して差別の意識が本当に自分にないのかという自問が生まれます。そういう意味でもこの映画が提起している問題は観た人たちに返ってきます。

最後にこの映画の中でいたたまれないくらい胸を撃たれたのは、1957年に南部のシャーロットという街の15才のドロシーという黒人の少女が黒人として初めて高校に進学する日の光景です。その当時はもちろん高校には白人しかいません。周りをたくさんの白人に囲まれて「黒人がなんで高校に来るのか」とか「帰れ」と言った罵声を浴びせられ、ツバを吐きかけられ彼女が登校するシーンでした。そんな白人たちのひどい仕打ちにも彼女はまっすぐ前を見て毅然と登校するのです。罵声を浴びせ、ツバを吐きかける白人たちがどれほど醜くて、黒人のドロシーがどれほど美しいか・・人間として。涙したシーンでした。

映画で流れた1928年ミシシッピーのブルーズマン、トミー・ジョンソンの名曲。
「このひろい大きな道をオレはひとりで歩いていかなければいけないのか。あまえが一緒に行ってくれないのなら他の女を探さなきゃ」
ミシシッピーの田舎の人気のない広い道をひとりでいく寂しさは自分の人生をひとりで歩んで行くようにも感じます。ブルーズの永遠の名作です。
4.Big Road Blues/Tommy Johnson

映画が終わってから上映していた小さな映画館から出てしばらく渋谷の街を歩いたのですが、華やかなそして、賑やかな街と楽しそうな人たちにいま観た映画との気持ちの狭間に心が揺れました。
この映画「私はあなたのニグロではない」がただアメリカで続いている人種差別の映画ということではなく、僕は自分自身の中に向かって問われている映画だと受け止めました。もし、どこかで観る機会があったら是非ご覧なってください。