2026.07.10 ON AIR

追悼:クラレンス・カーター vol.1

90才で亡くなってしまったスケールの大きなサザンソウル・シンガー、クラレンス・カーター

This Is Clarence Carter/Clarence Carter
The Dynamic Clarence Carter/Clarence Carter

ON AIR LIST
1.Slip Away/Clarence Carter
2.Funky Fever/Clarence Carter
3,I Can’t See Myself/Clarence Carter
4.The Road Of Love/Clarence Carter
5.I’d Rather Go Blind/Clarence Carter

豪速球の歌だが大味にならず、よく通る声だがソリッドにはならず柔らかさがある大好きな歌声のクラレンス・カーターが5/13に亡くなってしまった。90才だったそうです。前回のドン・ブライアントの訃報に引き続きまた素晴らしいサザン・ソウルシンガーが天国へ行ってしまいました。
クラレンス・カーターと言っても知らない方が多いと思うので少し経歴を紹介。
1936年南部アラバマのモンゴメリーという街で生まれています。生まれながら盲目というハンディを持っていましたがアラバマ州立大学で音楽学位を習得しています。1960年中頃にカルヴィン・スコットとデュオを結成します。このカルヴィン・スコットも盲目のシンガーで2人はクラレンス&カルヴィンという名前でしたが、レコードデビューと同時に”The C&C Boys”という名前に変えて活動を始めたが、カルヴィンが大きな交通事故に遭いデュオか解消されます。その後クラレンス・カーターはソロ・アーティストとしてマッスルショールズのフェイム・レコードと契約します。
シングルを集めた初めてのアルバムが出たのが1968年。タイトルが”This Is Clarence Carter” このアルバムから何曲かチャート入りしましたが、R&Bチャート2位、ポップ・チャートでも6位まで上がったヒットを聴いてみよう。のっけからこれは不倫の歌ですね。Slip Awayですから「抜け出す」でたぶん結婚している彼女に抜け出せないか。こんなこと頼むのは間違っているけど旦那に気付かれずに抜け出して会えないだろうか。君に会いたいんだ」

1.Slip Away/Clarence Carter

思うように会えない気持ちを歌った切ないいい曲ですが不倫の歌ですからね。やっぱりアメリカ人は不倫の歌が好きなんですね。典型的なサザンソウルって言う感じで好きなタイプの曲ですが、この録音をしたマッスルショールズのフェイム・レコードのスタジオ・ミュージシャンの素晴らしさがわかる曲を次に聞いて見ますか。もちろんクラレンスの歌はパワフルさとスピード感を併せ持った素晴らしいものです。ドラムがロジャー・ホーキンス、ベースがデビッド・フッド、ギターがジミー・ジョンソン、そしてプロデュースとエンジニアがリック・ホール

2.Funky Fever/Clarence Carter

もう一丸となった演奏がすごい勢いで走ってくるみたいで素晴らしいです。
次の歌は別れの歌。タイトルが”I Can’t See Myself”ですから自分自身が見えないですか。私の人生から去っていく君。いい場所を見つけて誰かのいい奥さんになってほしいと思っている(まあ女性からしたら大きなお世話ですが、まあ最後にいい男ぶりたいんでしょう)そう言うときながら君のことを思うと涙が止まらないと。楽しい時間を過ごしたねっと。でも、ちょっとした喧嘩をすると君はどこかへ逃げて行ったね。どこかってそれはもう新しい男がおったんとちゃうか。君のことを思うと涙が止まらないと・・知らんがな。もっと付き合ってる時に大事にしてたらよかったんとちゃうか。こんな説明で申し訳ないですが、すごくええ曲ですよ。

3.I Can’t See Myself/Clarence Carter

今まで聞いたアルバム”This Is Clarence Carter”が1968年でヒット・シングルもあったことから翌年69年にすぐセカンド・アルバム”The Dynamic Clarence Carter”がリリース。これも素晴らしいアルバムなんですが、自作のブルーズ曲”The Road Of Love”が耳に残りました。途中のスライド・ギターソロは当時フェイム・スタジオのスタジオ・ミュージシャンもしていたデュアン・オールマン。とても印象に残るギターを弾いています。
”The Road Of Love”ですから「愛の道」ですが、愛の道を1人では歩かない。もし君が一緒に行ってくれないのなら誰か他の女を探すしかないだろうと言う歌詞なんですが、ブルーズには「お前が一緒に行ってくれないのなら他の女を探す」と言う歌詞がよくでてくるのですが、すぐに他の女を連れて行くと言うのもなんだかなぁ・・と言う気もしますが、いい曲ですよ。

4.The Road Of Love/Clarence Carter

「君が他の男と去って行くのを見るくらいなら目が見えなくなった方がマシだ」という強烈な失恋、恨み節ソングでオリジナル・シンガーは女性のエタ・ジェイムズですが、エタとは違って一つ抑えたような表現が素晴らしいです。

5.I’d Rather Go Blind/Clarence Carter

このアルバム以降70年代半ばまでほぼ毎年アルバムをリリースしてクラレンス・カーターは活躍します。それはまた来週。

 

2026.07.03 ON AIR

追悼:ドン・ブライアントVo.2

誠実なソウル・シンガー&ソングライターが最後に残した歌

Don’t Give Up On Love/Don Bryant (Fat Possum FP1607-2)
You Make Me Feel/Don Bryant (Fat Possum FP1747-2)
The Best Of Ann Peebles The Hi Records Years(Hi-7243-8-52659-2-1)

ON AIR LIST
1.A Nickel And A Nail/Don Bryant
2.How Do I Get There?/Don Bryant
3.I Die A Little Each Day/Don Bryant
4.Woman’s Touch/Don Bryant
5..A Love Vibration/Ann Peebles

昨年12月に83歳で天国に行ってしまった名ソウル・シンガーであり、素晴らしいソング・ライターでもあったドン・ブライアントの追悼の2回目。
前回話したように60年代半ばからシンガーとしてデビューしたもののドンはヒットに恵まれず、70年代に入るとシンガーを辞めて所属の「ハイ・レコード」のソングライターそしてスタッフとして活動していました。その頃彼はアン・ピーブルズという美しく、個性的なシンガーと出会います。2人は結婚してドンはソングライターとして前回ON AIRしたアンの”I Can’t Stand The Rain”などヒットを作りました。すっかり裏方に回りもう歌っていないのかと思っていたのですが、79年に日本のちょっとしたサザン・ソウル・ブルームの最中に2人とシル・ジョンソンの三人で来日公演を行いました。コンサートは悪くはなかったのですがドン・ブライアントは少ししか歌わなくてそれも僕が好きなバラード系はなかったと思います。
それからまたドンのアルバムやライヴ活動の話は伝わってこなくなり、奥さんのアンのマネージメントをやっているとか聞きました。
しばらくするとアンが病気になり彼女もライヴはあまりしなくなり2人のことを心配していたのですが、2016年にドンが突如来日公演をして見事なサザン・ソウルを聞かせてくれました。74歳でした。そして翌2017年にはドン・ブライアントのニューアルバムが”Don’t Give Up On Love”が発表されました。その一曲目が同じメンフィスの名シンガー、O.V.ライトが歌ったこの曲でした。

1.A Nickel And A Nail/Don Bryant

素晴らしい。やはり筋金入りのサザン・ソウル・シンガーです。全く衰えていないどころかとてもパワフルで素晴らしいアルバムを作ってくれました。
75歳とは思えない
教会ではずっと歌っていたらしいですが、どうも奥さんのアン・ピーブルズが歌うことやアルバムを出すことを勧めたらしいです。
その中に収録されている次の曲は教会で歌い続けていた彼らしいオリジナル曲
「どうやったらそこに行くことができるんだ?」という曲名ですが、そのThereは多分天国のことだと思います。「死ぬことのない場所、歩けない人が歩けるようになるという、そして目の見えない人が見えるようになるという、口の聞けない人が喋れるようになるという、耳の不自由な人が聞こえるようになるというその場所、悲しみのない喜びと平和と愛があるというその場所に行くにはどうしたらいいんだ」

2.How Do I Get There?/Don Bryant

そしてこのアルバムがリリースされた四年後2020年に”You Make Me Feel”というアルバムをドンはリリースします。それが最後のアルバムとなったのですが、そのアルバムにオーティス・クレイが歌っていたこの曲が入ってました。これもドンが作った曲だったんです。
「列車が駅を出て行ってから私の人生は下がって行くばかり。君は私の生きる気持ちを奪ってしまった。俺は毎日少しずつ死んでいく」

3.I Die A Little Each Day/Don Bryant

この”You Make Me Feel”というアルバムも前の”Don’t Give Up On Love”も録音ミュージシャンにドラムのハワード・グライムス、キーボードのアーチー・ターナー、そしてオルガンにチャールズ・ホッジズという昔のハイレコードのメンバーが参加しています。そういう昔のメンバーがいることもドンの歌の支えになったと思います。もう一曲このアルバムから。「花も草もない庭のように感じる。家だけど家庭ではない。メロディのない歌のようでいつも1人でいる男のようだ。オレに何が必要なものは女性とのふれあいだ」

4.Woman’s Touch/Don Bryant

最後に70年代初めにドンとアン2人で書いた曲でぼくが大好きな曲を聴きます。曲名が”A Love Vibration”ですから「愛の振動」「愛の波動」ですか。
「涙を流す必要はない。泣くにはもう遅すぎたのよ。愛の波動はもう通り過ぎてしまった。あの気持ち、幸せな気持ちにしてくれたのは覚えている。もしまたあの気持ちが湧いてきたらもう2度とは逃さない。愛の波動を見逃してしまったから」いい曲です。

5.A Love Vibration/Ann Peebles

60年代にデビューしたサザン・ソウル・シンガーはたくさんいます。ヒット曲があり、白人のイベントにも出演し有名になり、でも若くして飛行機事故で亡くなったオーティス・レディングだけでなく、エディ・フロイド、O.V.ライト、スベンサー・ウィギンス、ジェイムズ・カー・・・本当にたくさんいます。ドン・ブライアントもその1人でした。売れるか売れないかというのは紙一重のタイミングでそのシンガーの実力とは関係ないです。だから自分で探してみてください。自分のタイプのサザン・ソウル・シンガーがきっといると思います。今日はぼくの大好きなドン・ブライアントそして彼の奥さんのアン・ピーブルズを聴きました。
83歳まで頑張ったドン・ブライアントの冥福を祈ります。病気を持っている奥さんのアン・ピーブルズは大丈夫かなと心配です。