♪R&B、ソウルの名曲を洪水のように作り出したモータウンというレコード会社のストーリー「The Making Of Motown」♪

 

話題の映画”The Making Of Motown”を公開に先立って送っていただいたDVDで見させていただいた。
モータウンといえば誰もが聞いたことのある音楽を作り出してきたレコード会社だ。マーヴィン・ゲイの”What’s Goin’ On”、スティービー・ワンダーの”You’re The Sunshine Of My Life”,ジャクソン5の”ABC”などは誰もが一度は耳にしたことのあるポピュラーなソウル・ミュージックだ。会社が創立直後の60年代からミラクルズ、マーヴェレッツ、テンプテーションズ、フォートップス、スプリームスなどによるヒット曲の連発で、モータウン・レコードの本社は”Hitsville USA”とよばれた。僕が中高生の60年代ビートルズやストーンズらブリティッシュ・ロックをラジオで追いかけている時代に、ポップチャートを上がってトップ10に入る黒人音楽は大抵モータウンの曲だった。だからレコードを持っていなくても覚えている曲がたくさんあり、70年代に入って自分がブルーズから黒人音楽に突入した後モータウンのレコードを買い漁ることになった。
映画の内容は創業者のベリー・ゴーディと右腕だったミラクルズのスモーキー・ロビンソンがモータウンの過去を回想する形で始まる。あまり内容を言うとネタバレになるので控えるが、売れることを第一の目標にしたゴーディの制作から販売までの緻密な戦略がすばらしく、また豊富な音楽知識から生まれる彼の素晴らしい閃きにも感嘆する。また右腕スモーキーの作曲から歌唱だけでない稀有な音楽的才能にも改めて驚いた。そして彼らを取り巻く作詞作曲のチーム、ディレクター、エンジニアから秘書に至るまでの結束力の強さ。そこにミュージシャンだけでなくどんどん優秀な人材が集まってくる流れは、音楽だけでなく様々な事業にも通じるものだ。
もちろん映画の中で流れるモータウンの曲にワクワクするし、ミュージシャンのインタビューで初めて知ることもたくさんあり、珍しいフィルムも挿入されている。
そして、現在アメリカで人種問題の大きな動きになっている”Black Lives Matter”のムーヴメントに通じるアメリカ社会の問題の内実が当時から何も変わっていないことを知ることにもなる。おっと!ネタバレ注意!
黒人によって作られたモータウンというレコード会社の音楽は、白人層にも受け入れ易く作られている。それ故、白人にも真似して作れそうにも思えるのだが絶対にモータウンにしか作れないものだった。それは「モータウン・サウンド」と呼ばれた曲、歌唱、演奏、録音、アレンジその全てがモータウンというレコード会社でしか、そこにいた優秀な人たちでしか作れなかった固有のものだからだ。
流れてくる音楽に体を揺らしながら、一緒に歌いながらこの素晴らしい映画を観ていただきたい。
東京では今日9/18(金)から公開だそうです。

78才とはとても思えないパワフルでソウルフルなドン・ブライアントの新譜

コロナ感染が始まってからできる限り自粛生活をしているが、髪をどうしても切りたくて外出した。都心に出たついでに半年ぶりにレコード屋巡りをした。新宿も渋谷もタワーレコードのブルーズコーナーは増々小さくなって瀕死の状態になりつつある。ブルーズ・コーナーだけでなく洋楽全体を若い人たちがあまり聞かなくなっていると言う現状。時代によって音楽の流れは変るからそれも致し方ないか・・とも思うが、音楽は文化でもあるからブルーズのようなルーツ・ミュージックはいつもある程度の豊かな品揃えが必要ではないかと思う。それにしてもK-Popでワン・フロアというのが自分には理解しがたい。
閑散とした洋楽フロアでブルーズ~ソウル~ジャズ~ロックと見て帰ろうとした時に「あっ、オレ、取り置きのレコードを買いに来たのんだ」と気づいた。自粛で家にいる時にいろいろポチってネットで買うくせがついていて、時々何をポチったのか忘れてしまう。
それで取り置きを頼んだのがこのドン・ブライアントの新譜。

You Make Me Feel/Don Bryant (Fat Possum Records CDSOL-5483)

1曲目が始まり最初の歌声を聞いて「Ok!大丈夫、バリバリやん」と78才の力強い歌唱にまず安堵。歌の体幹が実にしっかり安定している。そして、彼の実直な歌い方にまず「ああ、サザン・ソウル」と胸が熱くなる。シャウトからファルセットまで喉がまったく衰えていないどころか歌の表現がまた深くなったように思える。
1曲目は新曲の”Your Love Is To Blame”。いまも曲を作る意欲が彼にはあり、それを最初に持ってくる誇りと気力に頭が下がる。ドンは今更説明することもなく、60年代からメンフィス・ソウルの優れたソングライターとして高く評価されている。奥さんのアン・ピープルズに書いたヒット曲、”I Can’t Stand The Rain”はソウル・ミュージック史に残る名曲だ。その奥さんに書いた”99 Pounds”が2曲目に歌われている。他にも70年代にオーティス・クレイに書いた”I Die A Little Each Day”、60年代自らが歌い今回少しアレンジを変えて歌った”Don’t Turn Your Back On Me” など自作の名曲への熱のある歌もいい。
そして、新作で良かったのはバラード”A Woman’s Touch”だ。「何も育たない庭のように、家庭ではない家のように私は感じる。メロディのない歌のように、いつもひとりでいる男のように感じる。私に必要なものそれは女性のふれあいだ」僕はこの歌を聞いた時にひとりでいる中高年の男を思い描いた。死別したのか離婚したのか、理由はわからないが年老いてひとり暮らす男には燃えるような恋ではなくそっと手に触れてくれるような柔らかい愛が必要なのだ。静かにでも心のこもったふれあいが・・。
奥さんのアン・ピーブルズは素晴らしい歌手でチャーミングな女性で人気もすごくあった。70年代メンフィス・ソウルのクイーンだった。いまは病で彼女はリタイアしてしまい、もうステージを見ることもできないし、アルバムもリリースされない。アンが人気ソウル・シンガーとして活躍していた時は裏方のように彼女のうしろでサポートしていた。もちろん彼女のために曲も書いていた。
ドンはソウル・シンガーとしては大きな華を咲かせた人ではなかったが、いい時も悪い時もずっと彼女に寄り添って生きてきた。そして、こうして長いアンとの人生の中で生まれて来る愛の歌をいまも僕たちに届けてくれている。
そして、今回のこのアルバムを後ろで支えているドラムのハワード・グライムス、オルガンのチャールズ・ホッジズ、キーボードのアーチー・ターナー・・とかってのメンフィス・サウンドの要たちが元気でいまも演奏していることが何より嬉しい。コロナが収まったらもう一度彼らと一緒に来日して欲しい、ドン・ブライアント。
78歳、現役。孫の世話などしてる場合やない。