2017.08.25 ON AIR

淡々とブルーズ・ハーモニカと生きて来た
チャーリー・マッセルホワイトのデビュー・アルバム

Charlie Musselwhite/Stand Back!Here Comes Charley Musselwhite’s South Side Band(Vanguard VMD79232)

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ON AIR LIST
1.Chicken Shack/Charley Musselwhite
2.Help Me/Charley Musselwhite
3.My Baby/Charley Musselwhite
4.39th And Indiana/Charley Musselwhite
5.Strange Land/Charley Musselwhite
予備6.Early In The Morning/Charley Musselwhite

 

 

 

チャーリー・マッセルホワイトはアメリカのブルーズ・シーンで1960年代から活躍している白人のハーモニカ・プレイヤーで、この前公開された映画「Take Me To The River」にも登場して気取らない人柄で、いい感じのブルーズを演奏していました。また、シンディ・ローパーの「メンフィス・ブルーズ」というアルバムでかなりフューチャーされシンディと来日公演もしました。映画のブルーズ・ブラザーズ2000にも出演してましたし、トム・ウェイツのレコーディングによく参加しています。まあ、ちょっとブルーズ好きな方なら名前は知ってる人も多いと思います。
そのチャーリー・マッセルホワイトのデビュー・アルバムStand Back!Here Comes Charley Musselwhite’s South Side Band。リリースは1967年。当時は同じシカゴの、やはり同じ白人のブルーズ・ハーモニカ・プレイヤーのポール・バターフィールドの方がデビューが少し早くて65。バターフィールド・バンドには人気のギタリスト、マイク・ブルームフィールドが参加していたことや、ボブ・ディランのバックをポール・バターフィールド・ブルーズバンドがやったこともあって、当時はチャーリー・マッセルホワイトはちょっと注目度が低かった。でも、アルバムはバターフィールドに負けないとてもいいアルバムです。まずは一曲、インストルメンタル曲で
1.Chicken Shack/Charley Musselwhite
いいですね。たまらんですね、この軽快なシャッフル・ビート!
このアルバムはドラムがシカゴブルーズ・ドラムの名人フレッド・ビロウ、ベースがジェイムズ・コットンの録音はじめブルーズのセッションに多く参加しているボブ・アンダーソンと、リズム隊がまず素晴らしい。ギターのハーヴィ・マンデルは知っている人も多いと思いますが、有名なところではローリング・ストーンズのアルバム「ブラック&ブルー」に参加。あとはイギリスのジョン・メイオール・ブルーズブレイカーズ、そしてウエストコーストのキャンドヒートとブルーズ系のバンドを渡り歩いてますが、ソロアルバムもたくさんある素晴らしいギタリストです。
このレコーディング・セッションは白人と黒人が混じった白黒混合のセッションで、60年代でもブルーズの世界では人種の壁はあまりなかったことがここでもわかります
次は演奏を含めチャーリーが大きな影響を受けただろうサニーボーイ・ウィリアムスン2の曲をカバーしています。
2.Help Me/Charley Musselwhite
チャーリーは1944年生まれですから、現在73才。ミシシッピ生まれですが3才の時にメンフィスへ引っ越して、そのメンフィスでブルーズの洗礼を受けるのですがプロとしてハーモニカを演奏するという気持ちはなくて他の仕事をしてました。でも、メンフィスの景気が悪くなったので18才の時に仕事を求めてシカゴへ行ったそうです。だからシカゴへブルーズを演奏するために行ったのではなくて普通に職を求めて行ってるんですね。そのシカゴでたまたまマディ・ウォーターズのライヴに飛び入りしたのがきっかけでだんだんライヴをやるようになったらしいです。
それでうまいこと行くようになって67年22才の時に今日聴いているアルバム”Stand Back”を録音することになったわけです。そのシカゴ時代にリトル・ウォルターやシェイキー・ホートン、サニーボーイと名だたるブルーズマンを生で聴き、教えてももらってるわけです。彼がクラブでたったひとりの白人ということもよくあったそうですが、60年代にすごいですよね。たぶん修羅場はたくさんくぐっていると思います。でも、そういう黒人ブルーズマンに可愛がられたり、友達になったりできたのは彼の人柄がいいからでしょう。
次はフレッド・ビロウの見事なドラムをベースにファンキーなブルーズが繰り広げられてます。
3.My Baby/Charley Musselwhite
かっこいい曲でしたね。
アルバムを出したことでいろんなところから仕事の依頼くるようになって、カルフォルニアから一ヶ月の仕事の依頼が来て、行ってみたら仕事もたくさんあって居心地がよかったのでそのままカルフォルニアに住み着いてしまったというお気軽なマッセルホワイ。初めてハーモニカだけで生活できるようになったらしいです。
次はエルモア・ジェイムズの”It Hurts Me Too”のインストルメンタル・バージョンみたいな曲ですが、マッセルホワイトの情感にあふれたハーモニカ・プレイがたっぷり聴けます。バックのハーヴィ・マンデルのギターも素晴らしいです。
4.39th And Indiana/Charley Musselwhite
インタビューを読んでいると、マッセルホワイトは子供の頃一人っ子でお父さんもいなくてお母さんとふたりで生活していたみたいです。その寂しさをやわらげてくれたのがブルーズを聴くことだったそうです。いまの曲のハーモニカにある情感はそういうところに由来してるのかも知れません。
黒人の音楽ブルーズの中に白人が入っていくのもそれはそれで大変だった60年代という時代ですが、チャーリーはあまりそういうことは苦にしていなかったみたいです。
一時期は酒浸りの生活でアルコール中毒になったりもしたそうですが、いまはお酒もやめて元気でいろんなブルーズフェスにも参加し、いろんなミュージシャンのレコーディングにも呼ばれています。ひょっとすると彼にとっていまがいちばんいい時かも知れません。もう一度来日して欲しいです。
彼は2012年にシンディ・ローパーのツアーで来日した時にブルーズ&ソウルレコード誌のインタビューでこう言ってます。「ブルースは落ち込んだ時には癒しとなり、嬉しいときには友達になるいつもブルースは私達みんなのためにそこにあるのさ」いい言葉ですね。