2022.05.27 ON AIR

やっと見つけたテンプテーションズの来日盤レコード!

In Japan / The Temptations (Tamla Motown/日本ビクター SMOT51)

ON AIR LIST
1.Plastic Man / The Temptations
2.I Can’t Get Next To You / The Temptations
3.Love Woke Me Up This Morning / The Temptations
4.Just My Imagination / The Temptations
5.Papa Was A Rolling Stone/ The Temptations

ここしばらくレコード店に行くと必ず心の中で「テンプテーションズ、イン、ジャパン」と念じながらレコードを探していたが、ツアー先の大阪の中古レコード店でとうとうゲットしました。念じていて見つけたときはちょっとドキっとしました。少し高めの値段でしたがややレアなレコードなので即買い。
なぜこのアルバムを探していたかというと個人的に強く想い出に残っているのが、この73年に来日した時のテンプテーションズ。ソウルのコーラス・グループをライヴで聞いたのがこれが初めて。ソウルでNo.1のグルーブを聞いたわけです。その時の素晴らしいライヴの思い出がずっとあり、日にちと会場は違うのですが、この来日時のライヴアルバムがあるというのでずっと探していたわけです。
テンプテーションズは60年代初めに結成されて64年にリリースした”My Girl”が大ヒットして”Get Ready”,”The Way You Do the Things You Do”,”I Can’t Get Next To You”,”Papa Was A Rolling Stone”など60年代から70年代にかけてヒット曲がたくさんあるグループです。何度もメンバー・チェンジを繰り返しながら今も活動していて今年60周年記念アルバムもリリースしました。
64年にデヴィッド・ラフィンが加入してMy Girlの大ヒットが出た時のメンバーがオーティス・ウィリアムス、メルヴィン・フランクリン、ポール・ウィリアムズ、エディ・ケンドリックスの五人でこれですごい人気グループになりました。当時の映像がYOUTUBEなどで観ることができますが、歌だけでなく振り付け、ダンスも衣装も素晴らしいです。洗練されていて美しいステージ・パフォーマンスが見れます。68年にデヴィッド・ラフィンが脱退してデニス・エドワードが加入、73年にポール・ウィリアムズが自殺で亡くなり、エディ・ケンドリックスが脱退し新たにデイモン・ハリスとリチャード・ストリートが加入します。この来日のメンバーはその頃、オーティス・ウィリアムス、メルヴィン・フランクリン、デイモン・ハリスとリチャード・ストリート、そしてデニス・エドワードでした。
彼らはアルバムやシングルでも素晴らしいのですが、とにかくライヴの素晴らしさはソウル・グループのトップクラスでステージでのコーラスはもちろん、ダンスや振り付け、身のこなし、ステージ衣装も含めそのエンターテナーぶりは有名です。そんな彼らの初来日のステージを73年に観ることができたのはラッキーでした。
まずはそのライヴ・アメバム”n Japan / Temptations “のステージの始まりから三曲目までを続けて、彼らのライヴをちょっと味わってください。
最初からとても力強い歌と抜群のコーラス・ワークを聞くことができます。

1.Plastic Man / The Temptations

2.I Can’t Get Next To You / The Temptations

3.Love Woke Me Up This Morning / The Temptations

途中で「ありがと」と日本語で言ってましたが来日ライヴアルバムならではです。最初のプラスティック・マンはモータウン・レコードのプロデューサーで作曲家でもあり、この時代のテンプスの曲を一手に引き受けていたノーマン・ホイット・フィールドの曲で1973年のリリース。この来日コンサートの時は彼らのピカピカの新曲だったわけです。二曲目のI Can’t Get Next To Youは69年のヒット曲、アル・グリーンもカバーしている名曲ですがテンプスのこのライヴのテンポはかなり早いです。そして三曲目のバラード”Love Woke Me Up This Morning”と連奏するところはソウル・ショーのもう定番の流れです。
このライヴ盤を聴いて改めて思ったのはバック・ミュージシャンがかなり上手い。皆さんもソウルやブルーズのコンサートで感じたことがあると思いますが、バックバンドが良くなくてコンサートのクオリティが低くなっていること。
でも、このライヴは約半世紀前にぼくがすごく感動した理由の一つがわかりました。それはテンプスだけでなくバック・ミュージシャンも素晴らしかったからです。
調べましたら、テンプテーションズのステージというのは振り付け、ダンスの完璧さも含めて成り立っているので一つのツアーライヴの曲目曲順はきっちり決まっているようです。いわゆるショーとしてきちんと組み立てられていいるわけです。今のような連奏もたくさんあり、バックのメンバーも固定して練習しないとうまくできないわけです。録音にも参加しているメンバーがこのツアーにも参加したていたり、他のミュージシャンの録音にも参加している名うてのスタジオ・ミュージシャンだったり、全員とにかく上手い。
ライナー・ノーツを書かれている福田一郎さんがラスベガスで見た時とほぼ同じショー構成だったと記されてます。
全曲聞くことができないのでステージ最後の二曲をつ続けて聴いてください。
最初の曲はグラディス・ナイト&ザ・ピッブスでもヒットしましたし、ローリング・ストーンズもカバーしたJust My Imaginationで1971年チャート1位になっています。そして二曲目のステージ最後の曲は前年の1972年の全米1位、グラミーに輝いた”Papa Was A Rolling Stone”
MCからステージ最後の盛り上がりを感じます

4.Just My Imagination / The Temptations

5.Papa Was A Rolling Stone/ The Temptations

実はこのテンプテーションズのコンサートを聴きに行った時、あまりに素晴らしかったのでぼくは仲間と一生で一回きりの楽屋口で「出待ち」をしました。雪が舞い散っている寒い夜だったんですが、若かったのとライヴで興奮していたので寒さは感じなかったんでしょう。かなり長い間待ちました。
そしてメンバーが出てくると雪の中にいた僕たちにびっくりして、ぼくはオーティス・ウィリアムスに「寒かっただろう?大丈夫?」とハグされました。メンバー全員すごく優しくて紳士的でした。
その時ぼくらは「今夜のコンサートはすごく良かったです」とひとこと伝えたかっただけなんです。それを言うための出待ちでした。いい音楽を聞かせてもらった時の純粋な気持ちだったと今も思います。

デビューからのメンバーはオーティス・ウィリアムスだけになったが現在もテンプテーションズは活動しており、今年になって結成60周年を記念した”60 Temptations”をリリースしました。
そのアルバムもいつかON AIRしたいと思います。

2022.05.20 ON AIR

DO THE BLUES 45s! vol.3/The Ultimate Blues 45s Collection (THINK!Records THCD 593)

ON AIR LIST
1.Oops/Bill Dogged And His Combo
2.Chicken Shake/Clarence “Gatemouth” Brown
3.I Got My Eyes On You (Watching Everything You Do)/ Smokey Smothers
4.Hotel Blues/Eddie Boyd
5.Sunny Side Of Love / Raful Neal

去年の12月にリリースされた全くマニアックなでもすごく面白いブルーズのアルバムで”DO THE BLUES 45s! vol.3”というのを今日は紹介します。
Vol.3ということで前のVol.1も2も僕はゲットしているのですが、今回もなかなか聞けないいわゆる7インチシングルレコードでリリースされたものが収録されています。このアルバムをディストリビュートしているのがぼくもよく通っているディスク・ユニオンというレコード店で、このレコード店の以前あった新宿店のソウル・ブルーズ館に秋元さんという方がいてぼくもよくお世話になりました。この秋元さんが自分で持っているシングルレコードをコンピレーションしたのがこの”DO THE BLUES 45s! ”のシリーズでこれで三枚目になります。
収録されているのは僕もほとんど知らない曲ばかりです。今回はインストルメンタルが多いのですが、まず一曲目。
いろんなブルーズマンがカバーしている1956年に大ヒットした”Honky Tonk”というインストの曲がありまして、オリジナルはビル・ドゲットというオルガン・プレイヤーなのですが、このドゲットさんのアルバムがめちゃたくさん出てまして中古店に行くと必ずあります。あまりたくさんありすぎてみんな何がいいのか分からなくてみんな買わないという・・またオルガンというのがミソでアメリカではオルガンはポピュラーな楽器なのですが日本ではあまり馴染みがないんですね。曲名がOops(ウープス)「おっとっと!」「おっと」「やってしもたわ」という意味。

1.Oops/Bill Dogged And His Combo

めちゃ早いテンポで、ファンキーな曲でしたが、ドラムはだれなんでしようか?めちゃステディなビートでドラムかっこいいです。
次の曲もドラムがステディでカッコいいゲイトマウス・ブラウンの曲です。ゲイトマウス・ブラウンと聞いて「おっ、アグレシッヴなかっこいいギターが聞けるかな」と思いきや、ゲイトマウスはハーモニカを吹いてます。でも、このハーモニカがテクニックがあるわけではないのですがかっこいいんですよ。

2.Chicken Shake/Clarence “Gatemouth” Brown

次の曲はブッカーT&MG’sの「グリーン・オニオン」のパクリみたいなんですが、ヘヴィなベースの音とジャリジャリしたギターの音がずっと同じパターンをやり続けるカッコ良さで押し切ったような曲で僕はこういう演奏が好きです。ギターのスモーキー・スマザーズのシングルですが、ギターがどうのこうのというより全体の演奏のカッコよさだと思います。

3.I Got My Eyes On You (Watching Everything You Do)/ Smokey Smothers

こういうブルーズのインスト曲というのはパーティ会場でダンス・タイムによく流れたんだと思いますが、今もこういう曲をクラブの音響システムででかい音で聞くとちょっと別世界に行けます。
このアルバムにはもちろん歌ものも入っているので一曲聞いてみましょう。
曲名がなんかめっちゃ安い感じで「ホテル・ブルーズ」です。「ホテル」という不倫を歌った歌謡曲を思い出しますが・・。
バックのギターは名人ロバート・Jr.ロックウッドが弾いていて解説を書いている秋元さんはロックウッドのギターがいいと書いてますが、エディ・ボイドの歌に何も触れてません。でも、僕はこのエルモア・ジェイムズを彷彿とさせるような歌がめちゃいいと思います。ちなみにエディ・ボイドはブルーズの名作”Five Long Years”を作って歌った人です。

4.Hotel Blues/Eddie Boyd

シングル・レコードの音というのはLPよりも音圧が高くて臨場感がすごくあります。その音の違いがLPに収録されたものとは全く違うこともあります。僕もいろいろ持ってますが、ハマるとちょっとやみつきなり中にはかなり高額でレアなものもあるのであまり手を出さないようにしてます。

最後はレイフル・ニールというハーモニカ・プレイヤーの曲。息子がケニー・ニールというブルーズマンで知っている方もいると思います。レイフル・ニールさんは国際ハーモニカ・フェスティバルで来日してますが、ぼくは残念ながら見ていません。聞いてもらう曲はユルさを感じさせるルイジアナ・テイストが入った曲。解説で秋元さんも書かれてますが、アイボリー・ジョー・ハンターが大ヒットさせた”Sice I Met You Baby”のパターンを使った曲。歌もダウンホームでいいなぁと思います。

5.Sunny Side Of Love / Raful Neal

レコードのシングル盤の音圧とか音の迫力がCDになって、こうしてネットを通して聞いてもらって果たしてどのくらいその迫力が伝わっているか不安ですが・・・。でも、なんかファンキーないい曲が多くて元気出ます。朝に体にエンジンがかからない時に聞くと調子が出るかもしれません。
ということで今日はディスクユニオンの社員である秋元さんが自分が集めたシングルレコードをコンピレーションしたブルーズ・アルバム”DO THE BLUES 45s! vol.3”を聞きました。楽しいアルバムです。

2022.05.13 ON AIR

祝!ジョン・バティースト・グラミー5部門獲得!

WE ARE / Jon Batiste (Verve UCCV-1190)
ソウルフル・ワールド・オリジナル・サウンドトラック
(Walt Disney Records/PIXAR UWCD-1096)
CHRONOLOGY OF A DREAM/Live At The Village Vanguard (Verve Records 0006025982906405)

ON AIR LIST
1.Freedom / Jon Batiste
2.Cry / Jon Batiste
3.I Need You / Jon Batiste
4.It’s Alright /Jon Batiste
5.Higher /Jon Batiste

今年は久しぶりにグラミー賞を誰が獲得するのか熱が入りました。主要四部門の二つは大人気のシルク・ソニックが獲得し、最優秀アメリカーナ・アルバムでも大好きなロス・ロボスが獲得、残念ながら応援していたニューオリンズのマルディグラ・インディアンのビッグ・チーフ、モンク・ブドローは獲得を逃しましたが、この番組でも強く推していた同じニューオリンズ出身のジョン・バティーストが、5部門でグラミーを獲得しました。その5部門はアルバム・オブ・ザ・イヤー『ウィー・アー』、最優秀ミュージック・ビデオ「Freedom」、最優秀アメリカン・ルーツ・パフォーマンス「Cry」、最優秀アメリカン・ルーツ・ソング「Cry」、最優秀サウンドトラック・アルバム作曲賞映画、テレビ、その他映像部門『ソウルフル・ワールド
素晴らしいです。
今回驚いたのは日本の音楽関係者特に音楽ライターの人たちがあまりジョン・バディーストに興味を持っていなかったことです。アメリカでは有名テレビ番組のハウスバンドのバンドマスターだったり、音楽デイレクターもやり、もちろん自分のライヴもアルバム制作もコンスタントにやり、今までもたくさん賞にも輝き、ブラック・ライヴズ・マターの運動が始まった時には自ら先頭に立ってデモ行進したり、いろんな意味でアメリカでは現在最も注目されているミュージシャンです。
今日はグラミー獲得のお祝いとしてそしてもっと彼を知ってもらうためにジョンをON AIRします。
まずは「アルバム・オブ・ザ・イヤー」を獲得した「WE ARE」から、この曲は最優秀ミュージック・ビデオ賞も獲得しました。

1.Freedom / Jon Batiste

グラミーの授賞式のスピーチで彼はこう言ってます。「僕は子どもの頃から音楽が大好きで、神に感謝しながらプレイし続けてきた。エンタテインメントというよりは、僕にとってはスピリチュアルなものなんだ。僕の祖父や甥っ子、父、プロデューサーのライアン・リン、、、たくさんの人たちでこのアルバムは作り上げられた。このカテゴリーにノミネートされた全てのアーティストを僕は愛しているし、誇りに思う。この賞は真のアーティストのためのものだと思う。これを続けていこう、そして僕たちが僕たち自身であることを大切にしよう。」
最後の「僕たちが僕たち自身であることを大切にしよう」というのは人種差別や性差別への反対、そして暴力への反対を打ち出して音楽活動と社会運動をやってきたジョンの強いメッセージだと思います。

2.Cry / Jon Batiste

次はこれもミュージック・ビデオをYouTubeで是非見て欲しいのですが、絵が飾ってある画廊のようなところでジョンが絵を見ていると可愛い女性が入ってきてその彼女をナンパするみたいな他愛のないビデオですが、曲がR&Bさらにはブルーズがルーツにある軽快なダンスナンバーでストレートに楽しめます。ちなみにそのビデオに出てくる女性がとてもキュートです。

3.I Need You / Jon Batiste

ジョンはいま35才です。ニューオリンズの音楽一族に生まれ11才の頃からお父さんと一族がメンバーの「バティースト・ブラザーズ」に参加してドラムをやっていたそうです。そのあと母親に勧められてピアノを始め、多分その頃から才能が開花していったんだと思いますが、クラシックを勉強してジュリアード音楽院に入ります。デビューがジャズ畑からだったことから日本ではなかなか名前がポピュラーにならなかったのだと思います。ジャズやクラシックだけでなく子供の頃から聞いていたニューオリンズのR&B、ブルーズ、ジャズのようなルーツ・ミュージックも取り込みヒップホップやラップといった今の音楽にいろんな要素を融合させるセンスと技を持ちました。

4.It’s Alright /Jon Batiste

サウンド的にはジョンなりのオリジナリティを打ち出していますが、曲そのものはほぼ原曲通りで歌がソウルフルでいいですね。オリジナルのカーティス・メイフィールドへのリスペクトが感じられます。
ジョン・バティーストの音楽を聴いていつも思うのは過去の音楽への尊敬と過去の曲のいいテイストをいろんなところに散りばめるセンスとテクニックの素晴らしさです。テクニックがなければできないことをたくさんやっているのですが、そのテクニックの使い方がいやらしくないところがいいです。あと彼はクラシックやジャズも学んでいるんですが、やや難しいことも誰もがわかるように表現する包容力を感じます。
彼のジャズ・サイドを最後に聞いてください。2018年11月にニューヨークの老舗ジャズクラブ「ヴィレッジ・ヴァンガード」でライヴ録音されたアルバム「クラノロジー・オブ・ドリーム」から

5.Higher /Jon Batiste

是非来日もして欲しいですし、日本のリスナーの人たちにもっと広く彼の音楽が知れ渡ることを期待しています。
おめでとうジョン・バティースト!Congratulations on five Grammy awards,Mr.Jon Batiste!

2022.05.06 ON AIR

相次いで亡くなったブラック・ミュージックの三人の偉大なドラマー Vol.3

ソウル・ミュージックに忘れられないグルーヴを残したドラマー、ハワード・グライムス

ON AIR LIST
1.Let’s Stay Together / Al Green
2.Take Me To The River / Al Green
3.I Can’t Stand The Rain / Ann Peebles
4.God Bless Our Love / Al Green

今年になって立て続けにブラック・ミュージックにとって大切な、そして偉大なドラマーが三人亡くなりました。サム・レイ、フィリップ・ポール、そしてハワード・グライムスと。今回からその三人の参加した音を聞きながら彼らが残した功績を話したいと思います。今日は3回目でハワード・グライムス。

ブラック・ミュージックに大きな貢献を残したサム・レイそしてフィリップ・ポールが亡くなり時代の推移を感じてたが、ここにきてまた一人偉大なドラマー、ハヲード・グライムスの訃報が届いた。2月12日、80才でした。
ハワード・グライムスと言っても知らない方も多いと思うので簡単に説明すると、10代後半から故郷メンフィスのレコード会社「スタックス」のレコーディング・メンバーとして参加していました。そのスタックス・レコードにはオーティス・レディングやサム・アンド・デイヴの名曲の録音をした偉大なドラマー、アル・ジャクソンがいました。そのアル・ジャクソンがオーティスやサム・アンド・デイヴの仕事で忙しくなり有名プロデューサー、ウィリー・ミッチェルのバンドを辞めることになりその後釜に指名されたのがハワード・グライムスでした。そして、ウィリー・ミッチェルが立ち上げた「ハイ・レコード」のレコーディンクメンバーに参加することになりました。
彼の名前ハワード・グライムスを知らなくても彼が参加したアル・グリーンのこの名曲を聴いたことがある方はたくさんいるのではないでしょうか。

1.Let’s Stay Together / Al Green

アル・グリーンが「いい時もよくない時も幸せな時も悲しい時も一緒にいようよ」と歌ったこの珠玉のラブソングは歌詞、メロディ、リズム、アレンジ、歌、そして録音が全てパーフェクトです。ドラムはほぼずっと同じパターンを叩いているだけですが、そのステディなビートがアルの歌と同じようにイントロが後半に向かって熱を帯びていくのがわかります。ドラムは目立ったことを何もしていないのですが素晴らしいビートをだし続けています。私も歌手の端くれですが、このドラムは歌いやすいというか気持ちが入るドラムです。

次の曲もハワード・グライムスのドラムの素晴らしさを感じられる曲です。彼のドラムの始まりから素晴らしいのですが、全編を通して今日はずっとドラムを聴いてみてください。アクセントを入れるだけでほぼフィル(おかず)はありません。ステディであり推進力のあるビートとその音が本当に気持ちいいです。

2.Take Me To The River / Al Green

1曲目に聴いてもらった”Let’s Stay Together”は1971年にチャート1位に輝いた曲で、今のTake Me To The Riverは歌っているアル・グリーン本人が作り74年にアルバム”Explores Your Mind”に収録されていますがシングル・カットはなく、同じハイ・レコードのシル・ジョンソンがシングルで75年にリリースしてR&Bチャート7位まで上がりました。そのシルのカバー・バージョンもドラムはハワード・グライムスです。もう一つ歌い継がれているソウルの名曲”I Can’t Stand The Rain”にもグライムスは参加しています。歌ったのはメンフィスのソウル・クイーンと呼ばれたアン・ピーブルズ。アンの歌に寄り添うハワード・グライムスの情感溢れるドラムを聞いてください。1973年の録音です

3.I Can’t Stand The Rain / Ann Peebles

「窓を打つ雨の音が彼との甘い思い出を連れてくるようで耐えられない」という今はいない別れた彼への想いを歌った曲です。ゆったりとした重厚なグライムスのミディアムテンポの8ビートがとてもアンの歌にハマっています。
この曲も73年にR&Bチャートの6位まで上がりました。このようにハワード・グライムスはドラマーとしてアン・ピーブルズ、アル・グリーン、O.V.ライト、オーティス・クレイ、シル・ジョンソンなどハイレコード全盛期の多くのミュージシャンの録音に参加しました。そしてヒットに貢献しました。

音楽好きのお母さんの影響で6才からドラムを叩いてきたグライムスは有名なジャズ・ドラマー、ジーン・クルーパなどに影響を受けながら10代でルーファス・トーマスの”Cause I Love You”の録音に参加したのがプロとしての初録音。
そのプロの最初に先輩たちから教えられた”Start on time. Quit on time. Don’t be busy. Don’t overplay “つまり「テンポのタイムを正しく、慌ただしく叩かないでないでおおげさなプレイもしない」という教えられたことを彼は忠実にやってきたのだと思います。余計なことを何もしないことはある意味すごく難しいです。ギターも何もしないでずっと同じリズムだけを正確に切ることの方がソロを弾くことより難しいです。それはある意味、音楽以外の職業でも派手なことではなくずっと同じことを地道にやることの方が難しいと言えるのではないでしょうか。
ハワード・グライムスの話を聞き書きした”Timekeeper My Life In Rythm”という本があるのですが、そのタイトルのタイムキーパー通り次の曲ではリズムのキープに徹していて後半部で三連のフィルが入るだけというストレートさです。

4.God Bless Our Love / Al Green

80年代の初めにハイレコードが売られて録音の仕事がなくなった彼は離婚もありなんとホームレス状態で体を壊し死にそうにもなっていたそうです。でも、神様の「光に向かって歩け」という啓示を受けて彼は復活して「ボ・キーズ」というバンドに参加していました。ここ数年はやはり体調がよくなかったのかその「ボ・キーズ」にも参加していなかったようです。
本当に残念です。O.V.ライトと一緒にハイ・リズム・セクションで来日したときに聞けた彼のドラムはずっとぼくの心に残っています。
Rest In Peace Mr.Howard Grimes
God Bless You