2019.07.26 ON AIR

隠れた名ハーモニカ・プレイヤー、グッド・ロッキン・チャールズが残した唯一のアルバム

Good Rockin’ Charles/Good Rockin’ Charles (MR.BLUES /P-Vine Records PCD-93489)
img

ON AIR LIST
1.Eyesight To The Blind/Good Rockin’ Charles
2.Confessin’ The Blues/Good Rockin’ Charles
3.Shake Your Boogie/Good Rockin’ Charles
4.Rockin’ At Midnight/Good Rockin’ Charles

久しぶりに聴いたらやっぱり「ええなぁ」と言う事でシカゴ・ブルーズマン、グッド・ロッキン・チャールズの唯一のアルバム「Good Rockin’ Charles」を今日は聴いてください。

グッド・ロッキン・チャールズはハーモニカとヴォーカルなんですが、シカゴ・ブルーズでハーモニカと言えばサニー・ボーイ・ウィリアムスンの1,2とリトル・ウォルター、ビッグ・ウォルター・ホートン、ジュニア・ウエルズ、ジェイムズ・コットンなどシカゴ・ブルーズには錚々たる有名どころがたくさんいるので、Good Rockin’ Charlesと言われても知らない方も多いと思います。
実はチャールズも実力のあったブルーズマンで1950年代半ば頃はシカゴ・ブルーズの名ギタリスト、ジミー・ロジャースのバンドに入り、オーティス・ラッシュやジョニー・ヤング、スモーキー・スマサーズといった人たちとも盛んにやっていました。
この最初の一曲だけ聴いてもハーモニカは相当の実力があることがわかります。歌も南部の匂いをもったシカゴ・ブルーズでいいです。
曲はサニーボーイ・ウィリアムスンの2がオリジナルです。
1.Eyesight To The Blind/Good Rockin’ Charles

ダウンホームな典型的なシカゴ・シャッフルに乗ったいい録音ですが、歌もいいし、特にハーモニカの音色、フレイズ、リズムがすごくいいです。
1976年のリリースですが、76年というとシカゴ・ブルーズの全盛期は過ぎて御大マディ・ウォーターズが所属していたチェス・レコードも事実上の倒産で身売りした時期です。マディは77年にジョニー・ウィンターの「ブルー・スカイ」と契約するのですが、もうひとりの御大ハウリン・ウルフはその76年の1月に亡くなっています。すでにリトル・ウォルターもサニーボーイも亡くなっています。そんな状況の中でこういうしっかりしたシカゴ・ブルーズのアルバムがリリースされていたのは驚きですが、当時シカゴのライヴ・シーンではまだまだ実力を持ったブルーズマンたちがいたという証でもあると思います。
僕らはアルバムを出して自分を発信しているブルーズマンしかキャッチできないですが、実はそういうところまでいかないでも実力のある人はいるということです。
このグッド・ロッキン・チャールズのアルバムに参加しているメンバーは、ギターはウォルター”ビッグギター・レッド”スミス、もうひとりがJ.C.ハーズ、ベースがラファイエット・シューティ・ギルバート、ドラムがオディ・ペインではなくてエディ・ペインと二曲レイ・スコットという人が叩いてます。これといって有名なブルーズマンはいませんが、当時シカゴのブルーズ・シーンでは活躍していたメンバーです。次の曲なんか本当にシカゴのクラブで聴いているような気持ちになります。
2.Confessin’ The Blues/Good Rockin’ Charles

このアルバムはシカゴ・ブルーズ・ファンには一時期幻のアルバムのように言われていたのですが、1997年に日本のP-Vineレコードからリリースされて話題になりました。
なんでこのGood Rockin’ Charlesのアルバムが幻だったかと言えば、まず彼は1960年代は音楽の世界にいなくて他の仕事をしていて、70年代に入ってからまたボツボツ活動を始めたのでもちろんあまり名前が知られていなかった。そして、50年代にも彼の録音が残っていなかったから。なぜ50年代録音が残っていないかというひとつの逸話のひとつを小川豊光さんがこのアルバムのライナーに書かれています。それによると、ジミー・ロジャースの”Walkin’ By Myself”の録音の日にロジャースはハーモニカをチャールズに決めていたのでチャールズの家まで迎えに行ったそうです。ところがなぜかチャールズは家にいなかった。後年彼にそのことを訊ねると「あの時は呑みに行ってて酔っぱらってた。自分ではまだ充分な腕前を持っていないと思ってたんだ」と。仕方なくジミー・ロジャースはかわりにビッグ・ウォルター・ホートンをハーモニカに使った。それであの歴史に残る曲が録音された。この時にチャールズが録音に参加していたら彼の名前はもっと知れ渡ったかも知れないです。
でも、よくわからないのは彼はただの酔っぱらいなのか、それとも自分の腕に自信がなかった繊細な心の持ち主なのか・・よくわかりません。普通だったら絶対レコーディングに行くでしょ。

次の曲はサニーボーイ1の1946年録音がオリジナルの曲です。
3.Shake Your Boogie/Good Rockin’ Charles
いま思ったんですが、声がちょっと若い頃のジェイムズ・コットンに似ていますね。
さっきのジミー・ロジャースのレコーディングすっぽかし事件以外にもレコーディングに来なかったことがあったようですが、どういう性格なのか人間性なのかよくわからないです。60年代に入って音楽活動をやめてしまうというのもどういうことだったのか。でも、たった一枚ですが、こうしてアルバムが残ったことはよかったと思います。

では、彼のハーモニカ・プレイヤーとしての素晴らしさがわかるインストルメンタルを一曲。
4.Rockin’ At Midnight/Good Rockin’ Charles
これだけハーモニカが吹けたらやりようによってはもうすこしメジャーなところへ行けたのではと思うのですが、アルバムはこれ一枚。映像もあまり残ってませんが、YouTubeにイギリスのアレクシス・コナーが司会するテレビ番組(1979年)にエイシズをバックにしたチャールズが演奏している映像があるのですが、それを見るとひょっとすると気の弱い人かなと思えます。あまり顔を上げないというかカメラ目線なんか一回もないんですが、演奏はすごくいいです。
本名、グッド・ロッキン・チャールズはヘンリー・リー・ベスター。1933年アラバマのタスカルーサの生まれで、ラジオから流れてくるブルーズを聴いて育ち49年16才の時にシカゴへ移っている。年齢的にはオーティス・ラッシュやバディ・ガイ、ジュニア・ウエルズとほぼ同世代。だから、バディ・ガイやオーティス・ラッシュくらい知られていてもいいはずだったブルーズマンです。
80年代もあまりパッとした活躍がないまま1989年に亡くなっています。
もし、見つけたらこのアルバム”Good Rockin’ Charles/Good Rockin’ Charles”ゲットしてください。

2019.07.19 ON AIR

シカゴ・ブルーズの名門レーベル「チェスレコード」の兄弟レーベル「チェッカー」の蔵出しブルーズ vol.2

Blues From The Checker Vaults (ONE DAY MUSIC DAY2CD245) 
img01

ON AIR LIST
1.Pretty Thing/Bo Diddley
2.Country Boogie/Elmore James
3.Me and My Chauffeur/Memphis Minnie
4.Fouty Cup Of Coffee/Danny Overbea
5.Dorothy Mae/Joe Hill Louis

前回に引き続きチェッカー・レコード音源を集めたコンピレーション・アルバム”Blues From The Checker Vaults”を聞きます。
チェスレコードがマディ・ウォーターズやハウリン・ウルフで儲かり、契約するミュージシャンも増えて新たに作ったレーベルがチェッカーです。チェスからチェッカーってちょっと洒落てていいですよね。
チェスはブルーズのレーベルとして有名ですが、チェスは他にも「アーゴ」というジャズ系レーベルも設立しています。今日聴いてもらうチェッカーというレーベルはブルースマンもいますが、当時の新しい動きのR&B系のミュージシャンも多く在籍していたし、ドゥ・ワップのコーラスグループやゴスペルグループもいました。
今日最初に聴いてもらうボ・ディドリーは一般的にロックンロールのカテゴリーに入れられているのですが、僕にとっては唯一無比のグルーヴィーなR&Bです。
当時としては斬新なサウンドとグルーヴで一度聞いたら忘れられないひとりです
僕らは弁当箱と呼んでますが、四角いボディのギターを持っているのも彼のトレードマークですが、そのギターにボヨヨーンというエフクトのトレモロをかけるのが彼のサウンドの特徴。
聞いてもらうのはPretty Thing 可愛いものと言うタイトルですが、何か日本語では言いたくないほどチャラい歌です
のっけにYou Pretty Thingですから「君、かわゆいよね~」ですよ。そして立て続けにLet me buy you a wedding ringですから「結婚指輪を買わせてくれへんか」です。かわゆいと言ってからすぐに結婚指輪です。その後もずっとぐどき文句が続いて、やさしくキスさせてくれよとかオレの人生をすべて君に捧げるとか言うとります。
1.Pretty Thing/Bo Diddley
チャック・ベリーと並んで50年代ロックンロールのブームを作ったボ・ディドリー、YouTubeでライヴ映像が見れますが、めっちゃカッコいいです。とくにリズムギターの女性がロングのタイトスカートで踊りながらギター弾く様がセクシーでいいです。

次はエルモア・ジェイムズなんですが、エルモアとなればスライド・ギターと思われがちですが、エルモアはスライドギターでなくて普通に弾いてもギター上手いんですよ。スライドギターだとアーシー、土着的なスタイルになるのですが、普通に押弦で弾くと意外とモダンなギターを弾くところがおもろいです。
ライヴの映像が残ってないので実際ステージでどのくらいの割合でスライドギターを弾いていたのかわからないのですが、写真を見るとスライド・バーをはめてないものも多くて普通に弾いてことも多かったのではと思うのですが、その辺りの情報というか記録はないのかなと思います。エルモア・ジェイムズのインストルメンタルの曲です。
2.Country Boogie/Elmore James
サックスもピアノもいいですが、やっぱりエルモアはインパクトの強いスライド・ギターですかね・・。

メンフィス・ミニーがチェッカーで録音を残しているとは気づかなかったです。彼女は1920年代から活躍している、ベッシー・スミスと並ぶ偉大な女性ブルーズシンガーです。1929年が初録音です。1960年に病気で倒れるまで、Columbia, Vocalion, Bluebird, OKeh, Regal, Checker, and JOBといろんなレコード会社に録音した人気者で歌だけでなくギターがまた上手い。
タイトルが「Me and My Chauffeur」というのですが、Chauffeur(ショーファー)とはお抱え運転手のことで「わたしのお抱え運転手にならへん。ダウンタウンへドライヴに連れてってほしいのよ。彼はとっても運転が上手くて、私は断りきれへんわ。でも、いろんな女に手を出す男はいらんよ。そうなったら私のお抱え運転手をピストルで打つからね」
まあ、ブルーズによくある乗り物ネタ、車に乗るイコール夜の営みとのことで運転が上手い男は断れないわということです。
3.Me and My Chauffeur/Memphis Minnie
私のお抱え運転手にならへんかというくらいで、メンフィス・ミニーは3回運転手。旦那さんを変えてます。若い頃はなかなかべっぴんさんでギターも上手いし、歌もうまいで、モテたでしょうね。

次はダニー・オーバービーってあまり知られてないブルーズマンです。
50年代にシカゴで活躍したギタリスト&シンガーのブルーズマン。
1940年代中頃から活動し始めて50年代初めにシカゴのクラブ常連ブルーズマンになったんですが、人気者になった理由のひとつは背中や歯でギターを弾くパフォーマンスをやってたかららしいです。T.ボーン・ウォーカーの真似ですが・・。
52年にチェスレコードと契約して今日のテーマになってるチェッカー・レーベルから”Train, Train, Train” という曲をリリースすると、なんとR&Bチャートの7位まで上がるヒットに。そしていまから聴いてもらう”Forty Cups of Coffee”が二枚目のシングルとしてリリース。
ダニー・オバービーさんの知られている曲はこの二曲だけで、その後同じチェス系列の「アーゴ」というレーベルに移って、50年代後半はこれもブラック・ミュージックでは有名な「フェデラル・レコード」に移籍して録音しましたがヒットは出なかった。70年代までシカゴのクラブで活動してましたが、76年に音楽界からリタイアして94年に68才で亡くなりました。

それでこの曲なんですが、「ロックン・ロールの初期の曲」と言われているのですが、僕にはR&Bにしか聴こえないんですが・・。曲名がForty Cups of Coffeeですから40杯の珈琲です。最初にPace the floorという歌詞から始まるんですが、たぶんリビングルームでイライラして行ったり来たり、とまったり、じっと何かを見つめたりしながら珈琲を呑んで頭を掻いたりしてるわけです。嫁さんか彼女が家に帰って来ないのでイライラしながら40杯の珈琲を呑んだという歌です。結局A Quarter to fiveですから朝の5時15分前に帰ってきてこの男怒るのかなと思ったら、ハグしてキスしたいくらい嬉しいわけです。最後に40杯珈琲飲んだけどオマエが帰ってきてくれてオレは嬉しいよ~で終わってるんですが、オレやったら別れてますよ。お人好しの男のブルーズです
4.Fouty Cup Of Coffee/Danny Overbea
チェッカーというレーベルは60年代のR&B,ソウルものもたくさんレコーディングしていましたが、このコンピレーション・アルバムでは一応ブルーズにしぼっている感じですね。
シカゴに会社があったからと言ってシカゴのミュージシャンだけを録音していたわけではなく、いろんな街にいいミュージャンがあると出かけていって録音したり、次のジョー・ヒル・ルイスなんかはメンフィスの「サンレコード」が録音したものを買ってチェッカーがリリースしています。
確かにさっきのシカゴ録音のダニー・オーバービーさんなんかと比べてみると、やはりメンフィスのワイルドな感じがはっきりあります。
私の大好物のワンマンバンドで有名なジョー・ヒル・ルイスさんですが、この曲ではひとりではなくてバンドでやっています。ギターの音の太い感じとワイルドなグルーヴがたまりません。
5.Dorothy Mae/Joe Hill Louis

2019.07.12 ON AIR

シカゴ・ブルーズの名門レーベル「チェスレコード」の兄弟レーベル「チェッカー」の蔵出しブルーズ vol.1

Blues From The Checker Vaults (ONE DAY MUSIC  DAY2CD245) 
img01

ON AIR LIST
1.All My Love In Vain/Sonny Boy Williamson II
2.Come On Baby/Rocky Fuller
3.Trouble Trouble/Lowell Fulson
4.Rocker/Little Walter
5.Crazy For My Baby/Willie Dixon

今日聴くのはここ数年レコード店でよくみかけるONE DAYレコードというイギリスのレーベル、レコード会社のコンピレーションです。
タイトルが”Blues From The Checker Vaults”というのですが、チェッカーと言うのは有名なチェスレコードの子会社というか兄弟レーベルでブルーズからリズム&ブルーズのたくさんミュージシャンが所属してました。このVaultというのはワインなんかのお酒の地下貯蔵庫という意味とか、貴重品の保管室という意味がありますが、Blues From The Checker Vaultsというのは「チェッカーレコードの貴重な倉庫からのブルーズ」という意味でしょう。
面白いのはサニーボーイ、エルモア・ジェイムズ、リトル・ウォルター、ロウエル・フルソン、J.Bルノアといった有名ブルーズマンが収録されているのに彼らのヒットしたものではなく、あまり有名ではない曲が選ばれているところです。
まずはサニーボーイ・ウィリアムスン
南部ですごい人気のあった彼をシカゴのチェスレコードがレコーディングに迎えたときは、ギターにロバート・Jr.ロックウッド、マディ・ウォーターズ、ピアノにオーティス・スパン、ドラムにフレッド・ビロウという錚々たるメンバーで出迎えました。この曲は1959年チェスがリリースした”Down And Out Blues”に収録されています。
ステディなミディアム・テンポのシャッフルビートが堪りません。まさにシカゴ・ビートです。
1.All My Love In Vain/Sonny Boy Williamson II
サニーボーイは南部にいた頃のブルーズも素晴らしくて、このチェスレコードで録音したものにひけをとらない素晴らしさなんですが、Sonny Boy Williamsonという名前を広く知らしめたのはやはりこのチェス・チェッカー録音。

次はロッキー・フラーという名前のブルーズマンなんですが、このコンピレーションの中でもひときわダウンホーム感がたまらん感じで印象に残ります。実はこのロッキー・フラーさんはルイジアナ・レッドというブルーズマンの若き日の芸名でなんですが、プレイボーイ・フラーとかギター・レッドとかいろんな芸名を使って最終的にルイジアナ・レッドになりました。そのルイジアナも別にルイジアナの出身でもルイジアナで活躍していたわけでもないんですね。ええ加減と言えばめちゃええ加減ですがおもろいです。本人に「なんで?」と理由を聞きたいところです。
2.Come On Baby/Rocky Fuller

次はB.B.キングが尊敬したロウエル・フルソン。フルソンは40年代半ばからレコーディングしていて初期の頃の録音はかなりいなたいです。モダン・ブルーズ・スタイルでやりながらもそのイナタさが残っていて、それが彼の大きな魅力になってます。
次の曲もホーン・セクションも入ってモダン・ブルーズ仕立てなんですが、フルソンの武骨な歌とギターがどこかいなたい男っぽさを感じさせてくれます。
とにかく歌がいいです。
3.Trouble Trouble/Lowell Fulson
フルソンは今日のこのチェッカー・レーベルでは1954年から約10年間在籍して”Reconsider Baby”というチャート3位まであがるヒットも出しました。
このチェッカーのあとケントレコードに移籍して”Tramp””Black Night””Too Many Drivers”とブルーズの名曲を残しました。

次はチェッカーと言えば、まずリトル・ウォルター。1952年にリリースしたインストルメンタル曲”Juke”がチャートの1位になって”Off The Wall”とか”Tell Me Mama”とか”My Babe”とかちょっと新しいリズム&ブルーズ的なテイストもありつつヒットを出していくのですが、当時まだ20代前半。キャデラックに女の子たくさん乗せてシカゴの街を走り回ってたそうです。親分マディ・ウォーターズの言う事だけは聞いたそうですが、あとはもう傍若無人。喧嘩も絶えない奴やったそうです。
1954年 ギター、デイヴ・マイヤーズとロバートJr.ロックウッド、ベースはウィリー・ディクソン、ドラムにフレッド・ビロウ、そしてハーモニカ、リトル・ウォルターという50年代シカゴ・ブルーズ鉄壁のメンバーで録音されたまさにロックしてロールするインストナンバー。
4.Rocker/Little Walter
うーん、やはりこれだけハーモニカで豊かな表現をできるブルーズハーモニカ・プレイヤーはいないですね。そしてリズムの素晴らしさ。
当時、50年代のシカゴのチェスレコードの全盛というのは、やはりベーシストでソングライターであったウィリー・ディクソンのプロデューサーとしての功績なくしては語れません。とにかく時間に遅れてくる奴、二日酔いでくる奴、酒がないと演奏できない奴、やたらギャラのことばかり言うやつ、とにかく一筋ならではいかないブルーズマンたちを集めてレコーディングですから。そこにちょっとした新しいエッセンスを落とした録音を残しました。その縁の下の力持ちウィリー・ディクソンの歌を聞いてみましようか。
5.Crazy For My Baby/Willie Dixon

2019.07.05 0N AIR

いまも輝く60年代サザンソウルシンガー、ボビー・パウエルの名唱

In Time/Bobby Powell (P-Vine PLP-712)
img01

ON AIR LIST
1.In Time/Bobby Powell
2.C.C.Rider/Bobby Powell
3.It’s Getting Late In The Evening/Bobby Powell
4.Cry To Me/Bobby Powell
5.Into My Own Things/Bobby Powell

ボビー・パウエルを最初に聴いたのはサザン・ソウルが好きな友達に作ってもらったカセットテープでした。1970年代中頃だったか。
そのカセットはあまり有名ではないサザンソウル・シンガーたちの珍しいシングル盤を録音したもので、その中でもボビー・パウエルの歌がすぐに気に入りました。
それで彼のレコードを探したけれど、当時彼のアルバムに出会うことはなかったのだけど、1980年に日本のP-Vineレコードがジュエルというレーベルのリリースを始め、そこで初めてボビー・パウエルのアルバム、今日聴いてもらう”In Time”と出会った。
では、まず僕がそのカセットで心を揺さぶられたボビー・パウエルの名唱、名曲です。

1.In Time/Bobby Powell
サザン・ソウルの匂いがプンプンする名曲でバックのリズムとサウンドもすべてが南部の素晴らしいテイストに彩られています。P-Vineからアルバムがリリースされた80年頃、日本ではちょっとしたサザン・ソウル・ブームでサザンソウル・フリークスの間では「ボビー・パウエルいいよね。日本に来ないかな」と話題に昇りました。当時オーティス・クレイやO.V.ライト、アン・ピーブルズとかサザン・ソウルのシンガーたちが相次いで来日していたので期待しましたが、彼の来日はなかったです。

ボビー・パウエルは盲目のシンガーでピアノも弾きます。同じように盲目でピアニストのレイ・チャールズの影響をやはり受けているようで、次の曲なんかにそのテイストが少し感じられます。
昔からあるブルーズで最初の録音は1920年代半ばの女性シンガー、マ・レイニーですが、57年にR&Bシンガーのチャック・ウィリスがカバーしてR&Bチャートのトップになりました。とにかくたくさんのカバーがあります。C.C.Riderの表記もSee See Riderというのもあります。そこからEasyRiderにもなっています。
See See RiderやEasy Riderは尻軽女、尻軽男という意味や浮気者という意味があって、この歌は「尻軽女よ、自分のやったことを見てみなよ。オレを惚れさせといてなんやオマエには男がおるんやんか。なんやねん」という歌です。
ボビー・パウエルのこの曲はR&Bチャートの12位まで上がりました。レイ・チャールズやボビー・ブランドなどが歌いそうなゴスペル・テイストのブルーズになってます。
2.C.C.Rider/Bobby Powell
ボビー・パウエルの1965年録音の”C.C.Rider”
チャック・ウィルス、レイ・チャールズ、ジャズブルーズのジミー・ウィザースプーン、ロックンロールのジェリー・リー・ルイス、ロックではグレイトフル・デッド、ブルーズではレッド・ベリー、ビッグビル・ブルーンジー、ライトニン・ホプキンス、ミシシッピー・ジョン・ハート、そして僕の大好きなエスター・フィリップスとまだまだいるんですが、これだけカバーされている曲も珍しいです。このブルーズに共感する人が多いということですね。

次はいかにも60年代のソウルという曲で途中のサックス・ソロなんかも60年代ソウルのムードたっぷりです。ウィルソン・ピケットやソロモン・バークが歌いそうな曲です。
3.It’s Getting Late In The Evening/Bobby Powell

このジュエルからリリースされているボビー・パウエルのアルバムは元々もっと小さな「ウィット}というレコード・レーベルからリリースされていました。
アメリカには一攫千金をねらった本当に小さなレコード会社がたくさんあります。当然売れなくてシングル、2,3枚出して終わりというレーベルもあります。この「ウィット」というレーベルは60年代中頃に出来たのですが、このボビー・パウエルのヒットおかげで結構シングルをリリースしています。ちなみにレーベル名の「ウィット」とはプロデューサーのライオネル・ウィットフィールドからつけた名前だそうです。

ボビー・パウエルはルイジアナのバトン・ルージュの生まれでやはり最初は教会のゴスペル・シンガーとして歌を始めています。
60年代に入ってR&Bの世界でデビューするのですが、その頃は南部のサザンソウルもすごく活気があった時代でオーティス・レディングはじめ、サム&デイヴやウィルソン・ピケット、O.V.ライトと素晴らしい歌手がたくさんいた頃です。彼もそういったシンガーにひけを取らない素晴らしいシンガーだということが次の一曲でもわかります。
もう教会にいるような気分させられるゴスペル・テイストのソウル・ナンバーで盛り上がったときのパウエルのシャウトがダイナミックです。
4.Cry To Me/Bobby Powell

ボビー・パウエルは70年代半ばくらいまではチャートに上がるようなヒットも出していたのですが、1980年頃からゴスペルの世界に戻ってしまいショービジネスの世界からはすっかり足を洗ったようです。
まだ生きていると思いますが、歌えるなら一度ライヴを聞きたいシンガーのひとりです。
最後は70年代初期の録音なのでファンク・テイストも入った重量感のあるダンスナンバーです。
5.Into My Own Things/Bobby Powell
2012年にはP-VineレコードがCDでこのアルバム”In Time”をリリースしているのでまだ中古屋さんにあるかも知れません。探してみてください。いいアルバムです。