2025.03.21 ON AIR

エルモア・ジェイムズのマストな曲が収録されたアルバムがCDリリース 

Elmore James/ヒッツ&レアリティーズ(2CD / BSMF-7745)

ON AIR LIST
1.Dust My Broom/Elmore James
2.The Sky Is Crying/Elmore James
3.Bobby’s Rock/Elmore James
4.Rollin’ & Tumblin’/Elmore James
5.Baby Please Set A Date/Elmore James

2/26にBSMFレコードからエルモア・ジェイムズがニューヨークの「ファィア&エンジョイ」レコードに録音した音源がCD二枚組でリリースされました。59年から63年のエルモアの晩年となる四年間に録音されたブルーズ名曲が収録されていますのでアルバムとして欲しい方は是非この機会にゲットしてください。最近はこういうリイシュー・アルバムもCDであまりリリースされなくなっているのでCDとして欲しい方はぜひ。間違いなくクオリティの高い演奏が聴けます。晩年と言っても亡くなったのが45才という若さですからブルーズマンとしては脂ののった時期です。ずっと心臓が悪かったらしくて死因も心臓発作と言われています。
エルモア・ジェイムズというと看板曲となっているのが1952年に先輩のロバート・ジョンソンの”Dust My Broom”をカバーしたもの。チャート9位まで上がりました。何度かタイトルを変えたりもして録音しているのですが今回のアルバムにも入っています。まずそのブルーム調とも言われるスライドギターによる三連符で始まる”Dust My Broom”を。

1.Dust My Broom/Elmore James

もう今の曲はぼくにとってはいつも通ってる定食屋の鯖塩定食見たいなもんで安定の旨さです。安心するというかいいですよね。

次はこれもエルモア・ジェイムズを代表する曲”The Sky Is Crying”
空が泣いていると歌い始める次の歌。涙がストリートを流れていく。雨と涙を彼女を失った悲しみの例えに使ってもうお前はオレを愛してないんだ。そして涙が私のドアまで流れてきていると最後に歌われる素晴らしい歌詞です。たくさんカバーがあるのですが、アルバート・キングやスティービー・レイボーンのようにスライドギターを弾かないでこの曲をカバーしてる人もいます。
1960年エルモア・ジェイムズがブルーズの歴史に残した名曲。

2.The Sky Is Crying/Elmore James

ブルーズの名曲と呼ぶのに本当にふさわしい曲で歌詞、曲、歌、ギター、バックの演奏どれも素晴らしいです。ほとんどの人がこの曲にギターソロがあるよう思っているのですがギター・ソロはないんです。イントロの4小節と歌と呼応するオブリガードのギターだけなんですが、ギターソロがあるように感じる彼のスライド・ギターの魅力が伝わってきます。そしてそのギターの音色の素晴らしさ。
エルモアというと最初に聞いてもらったスライドギターで三連符のダスト・マイ・ブルーム・スタイルの曲が有名でその手の曲もたくさん作っていたのですが、それ以外の曲にもいい曲がたくさんあります。次のインストルメンタルの曲は“Elmore’s Contribution To Jazz”と並んでファンキーなインスト曲で私のお気に入りです。

3.Bobby’s Rock/Elmore James

エルモアは南部ミシシッピーの出身なのでその音楽のルーツはミシシッピ・デルタ・ブルーズ。ロバート・ジョンソンやチャーリー・パットンといったミシシッピの先達の影響を受けてますが、その素晴らしい歌に関してはゴスペルのテイストがあります。次の曲なんかは曲調はワンコードのプリミティヴなミシシッピ・ブルーズ・スタイルですがエルモアの歌にゴスペル・テイストがあるという熱い曲です。

4.Rollin’ & Tumblin’/Elmore James

最初に聞いてもらったエルモアの代表曲”Dust My Broom”のイントロのギターを「ダスト・マイ・ブルーム」という曲名から「ブルーム調」とか「プルーム・スタイル」と呼びます。スライド・ギターでチャチャチャ・チャチャチャ・・・・と三連符を繰り返し弾くスタイルのことですが、これがヒットしたのでエルモアは同じようなイントロを使った曲をたくさん作りました。しかもキーはほとんどオープンDです。なので初めてエルモアのアルバムを聴いた人は「なんや、これ全部おんなじ曲やん」と言う人もいますが、違います。しばらく聴いていると曲によってそのイントロの違いがわかってきます。実際、私も初めてエルモアのアルバムを聴いたときは「詐欺みたいなレコードやな、スロー以外はほとんどおんなじやん」と言ってました。しかし、いま聴くとこのイントロを弾いたエルモア・ジェイムズは偉大だと思います。もう一曲ブルーム調の曲を最後に。

5.Baby Please Set A Date/Elmore James

そういえばビートルズの”For You Blue”という曲でジョージ・ハリソンが「エルモア・ジェイムズはこの曲を知らんやろけど」みたいなことを言ってるのが録音に入ってましたが、ビートルズも知っていたエルモアですよ。やはりこのブルーム調というのは世界的な不滅のフレーズ。弾いてみるとわかるんですが、なんとも言えないギターのオープンチューニングの開放感がありやみつきになります。
59年から63年のエルモアの録音を集めたElmore James/ヒッツ&レアリティーズが2/26にBSMFレコードからリリースされましたのでその中から5曲聴いてもらいました。持っていない方はゲット!

 

2025.03.14 ON AIR

メイヴィス・ステイプルズ大特集vol.7

来日するメイヴィス・ステイプルズの偉大な父、ポップス・ステイプルズ

ON AIR LIST
1.Father Father/Pops Staples
2.Jesus Is Going To Make Up (My Dying Bed)
3.People Get Ready/Pops Staples
4.Waiting For My Child/Pops Staples
5.Will The Circle Be Unbroken/The Staple Singers

来日するメイヴィス・ステイプルズの特集をずっとやってきたのですが、最後にメイヴィスの音楽を語る上で外せない彼女のお父さんローバック・ポップス・ステイプルズを聞こうと思います。メイヴィスが歌い始めたきっかけはお父さんと子供たちで作ったファミリー・ゴスペル・グループ「ステイプル・シンガーズ」だったのですが、1950年代の初めからお父さんが亡くなった2000年までグループは続きました。歌だけでなく精神的な大きな影響もお父さんから受けていてメイヴィスの口からはいつも「お父さん」という言葉が出てきます。

お父さんのローバックは1914年南部ミシシッピの生まれで当時のほとんどの黒人の子供たちと同じようにろくに学校にも通えず畑仕事を手伝わされていました。人種の差別と貧困は生まれた時からいつも彼につきまとっていました。少年の頃は当時の南部のスター・ブルーズマンだったチャーリー・パットンやサン・ハウスに憧れていましたが、同時にその頃ゴスペル・グループにも参加していました。B.B.キングなどもそうですが教会ではゴスペル・グループで歌い、お金を稼いだり女性にモテたいためにブルーズを酒場で歌うというのはよくあったことです。彼のギターがブルースっぽく感じるのはその頃に身につけたものでしょう。
ポップスは1935年21歳の時にシカゴに出てやはりゴスペル・グループに参加していましたが、1948年34歳のときに自分の息子や娘とファミリー・ゴスペル・グループ「ステイプル・シンガーズ」を結成します。最初は奥さんも参加していたそうですが録音としては残っていません。初レコーディングは1953年でポップス・ステイプルズは39歳、娘のメイヴィスは14歳でした。そこからずっとポップスが亡くなる2000年までステイプル・シンガーズは続きました。
それで今日はお父さんポップス・ステイプルズの1994年リリースの彼のソロとしては三枚目のアルバム”Farther Farther”を聞いてみます。
最初はそのタイトル曲”Farther Farther”。彼も娘たちのお父さんなのであだ名が「ポップス」(お父ちゃん)ですがこの曲名のFarther「お父さん」はイエスキリストのことでしょう。

1.Father Father/Pops Staples

このアルバムにはメイヴィスはじめ娘たちやいろんなミュージシャンが参加していますが、おそらくこの人、ライ・クーダーもポップスの影響を強く受けた一人だと思います。次の曲は古いゴスペル・ソングでライ・クーダーがプロデュースとギターを担当しています。「私が死ぬ時には神様が私の死のベッドを整えてくれるだろう。だから私が死ぬ時には悲しんで泣いて欲しくない」ずっと神様と一緒にいるから死ぬのは怖くない。だから死んでも泣かないでという歌だと思います。

2.Jesus Is Going To Make Up (My Dying Bed)/Pops Staples

ライ・クーダーの重いスライド・ギターが曲のムードを作っています。そして淡々とした静かなポップスの歌声が説得力を持って流れてきました。実にいい曲です。
次はポップスと同じように後世に残るメッセージ・ソングをたくさん作ったカーティス・メイフィールドの名曲です。

3.People Get Ready/Pops Staples

もうポップスの歌声があまりに良すぎて・・・。そんなに気張らなくてもそんなに音域がなくてもソウルフルに歌は歌えるという見本のような歌いっぷりです。マネのできないポップスならではの歌。トレモロのかかった揺らぐギターの音色も彼独特のものでそれとメイヴィスはじめ子供たちの歌声がミックスされたものがステイプル・シンガーズの特徴でした。
そしてゴスペルからソウルへ、いわゆる宗教の歌から世俗のソウル・ミュージックに舵を切った時もステイプル・シンガーズにはいつも品がありました。そして誇りと信念もその音楽の後ろにいつも感じられました。それは父ポップスがグループの礎を築いた時から今も活躍する娘メイヴィスの歌にしっかり残っています。
次は親が子供が帰ってくるのを待っているという歌です。「ひとりの女性に会ったら彼女がこんなことを言った。もしあなたがどこかで私の子供に会ったら帰ってくるのを私が待っていると伝えて欲しい。もし、帰ってこれないのなら手紙を書いて欲しい。どこかで手当てをしてくれる人もいなく病気になっているんじゃないか、助ける人もなく拘置所に入れられてるのではないか・・私は心配している。そして子供が帰ってくるのをずっと待っている」この曲はメイヴィスも歌っていますが、お父さんの心温まる歌もすごくいいです。

4.Waiting For My Child/Pops Staples

最後にやっぱりステイプル・シンガーズでこのメイヴィス・ステイプルズ来日大特集の最後を締めたいと思います。

5.Will The Circle Be Unbroken/The Staple Singers

今回はメイヴィスのお父さんローバックのソロ・アルバムを聴きました。彼の意志を受け継いだメイヴィス・ステイプルズにはまだまだ歌い続けてもらいたいです。

2025.03.07 ON AIR

★祝来日!メイヴィス・ステイプルズ大特集「メイヴィスと黒人音楽の歴史」vol.6

現在も精力的に活動を続けるメイヴィス・ステイプルズの近年のソロ・アルバムの聴く

ON AIR LIST
1.Have A Little Faith/Mavis Staples
2.Down In Mississippi/Mavis Staples
3.We’ll Never Turn Back/Mavis Staples
4.Will The Circle Be Unbroken [Live]/Mavis Staples
5.We Shall Not Be Moved [Live]/Mavis Staples

もうすぐ、3/11,12,13ビルボード東京で開催されるメイヴィス・ステイプルズのライヴにちなんで彼女の特集をやって来ましたが、今日は最後6回目です。
1999年にステイプル・シンガーズは「ロックの殿堂」入りをして久し振りにファミリーが揃って歌うその姿を今もTou Tubeで見ることができます。しかし、2002年にお父さんのローバックが亡くなってしまいます。そこでステイプル・シンガーズとしての活動は終わりました。50年代ゴスペル・ルーツから始まりフォーク、メッセージ・ソングなども歌いながら70年代には一流のソウル・グループとしてヒットも出して認められ、今も多くのミュージシャンにリスペクトされる存在です。

ステイプル・シンガーズが出来なくなってからメイヴィスのソロ活動は盛んになりました。今日はそのいつも変わらない高いクオリティの歌を聴かせてくれるメイヴィスの近年のソロアルバムからピックアップして聞いてみようと思います。
ソロ活動に入り最初に発表した本格的なアルバムが2004年のアリゲーターからリリースされた”Have A Little Faith”でした。
まずはそのタイトル曲です。
「大変な時代だから互いに助け合い、信じ合おう。世界中に安全な場所などない。破壊と痛みがある。友よ、少しだけでも信じ合おう」ステイプル・シンガーズ時代も思い出させる温かいメッセージ・ソング。

1.Have A Little Faith/Mavis Staples

メイヴィスはこのアルバムHave A Little Faithでそれからの進む道を見つけたような気がします。
続いて三年後の2007年には”We’ll Never Turn Back”がアンティ・レコードからリリースされます。このアルバムはライ・クーダーがプロデュースしたもので政治・社会的な要素の濃いメッセージ・アルバムになつてます。そういえばライ・クーダーはお父さんローバックのソロもプロデュースしていました。
メイヴィスは60年代のステイプル・シンガーズ時代からミュージシャンでありながら公民権運動家でもあり、社会的なメッセージソングもたくさん歌ってきているのでやはりこのあたりが彼女の場所なのかなという感じがしました。
このアルバムから最初に聞いてもらうのはブルーズマンのJ.B.レノアが作り歌った曲で僕もブルーズ・ザ・ブッチャーでレコーディングさせてもらってます。
「故郷のミシシッピは好きなところもあるけどもうあそこには帰りたくない」という人種差別のきつい故郷ミシシッピへの複雑な気持ちを歌ったもの。

2.Down In Mississippi/Mavis Staples

このアルバム”We’ll Never Turn Back”はメイヴィスの両親に捧げられていてアルバム・ジャケットの最初には公民権運動の主導者だった偉大なキング牧師とメイヴィスのお父さんのローバック・ステイプルズが2ショットで映った写真が使われています。それでもわかるようにずっと持ち続けている平等と自由への願いそして差別と貧困の撤廃の気持ちをメイヴィスはこのアルバムに込めています。
ではアルバムタイトル曲です。「私たちは馬鹿にされ軽蔑されてきた。でも私たちは決して引き返さない。みんなが解放されるまで。私たちは平等のために亡くなった人たちのために泣いた。でも私たちは決して引き返さない。みんなが解放されるまで」
力強いメッセージ・ソングです。

3.We’ll Never Turn Back/Mavis Staples

50年代から始まり60年代に大きな高まりを見せた黒人の公民権運動のことを皆さんに知ってもらえると、60年代からの人種差別や貧しさや格差の不平等は今も変わっていないことがわかると思います。それはもうアメリカだけの問題ではなくグローバルになった世界中の問題ですが、まずは自分の中に差別の意識が本当にないのか・・みたいなことから考えるといいのかもしれません。”We’ll Never Turn Back”は本当にいいアルバムです。
では、メイヴィス・ステイプルズが来日するので彼女のライヴの感じを知るために2008年のライヴアルバムLive: Hope at the Hideoutから聞いてみます。彼女のホームタウンであるシカゴの「ハイドアウト・イン」という店で録音されたライヴです。サウンドの感じからするとそんなに大きな会場ではないと思います。懐かしいステイプル・シンガーズがレコードデビューした時代のゴスペルを歌っていますのでまずそれを。
イントロのトレモロのかかったギターの音が亡くなったお父さんのポップス・ステイプルズのギターの音を思い出させます。

4.Will The Circle Be Unbroken [Live]/Mavis Staples

今のも初期のステイプル時代の歌ですが次の曲も何度か録音されている定番曲です。
まあいろんなことがあり、いろんな曲も歌って時代を乗り越えてきたメイヴィスはやはり誠実に歌に向き合って現在の社会の状況に警鐘を鳴らしています。
体に染み込んだゴスペルを歌う時のメイヴィスは最高です。

5.We Shall Not Be Moved [Live]/Mavis Staples

今日で来日するメイヴィス・ステイプルズの特集は終わりです。ぼくは自分のツアーがあるのでメイヴィスのライヴに行けないのですが、ライヴに行かれる皆さんはアメリカの国宝のようなメイヴィスの歌を楽しんでください。それで来週はメイヴィスのお父さんローバック・ポップス・ステイプルズの特集をやって全て終わります。

2025.02.28 ON AIR

★祝来日!メイヴィス・ステイプルズ大特集「メイヴィスと黒人音楽の歴史」vol.5

プリンスが聴かせてくれたメイヴィスの隠されていた魅力

ON AIR LIST
1.Interesting/Mavis Staples
2.I Guess I’m Crazy/Mavis Staples
3.Melody Cool/Mavis Staples
4.Time Waits For No One/Mavis Staples

80年代に入るとブルーズではブルース・ブラザーズの映画が大きな話題となりましたが、黒人音楽全体的にはシンセサイザーやドラム・マシンを多用したサウンドが定着しRun DMC、パブリック・エネミーなどヒップ・ホップ・サウンドが台頭し、プリンス、マイケル・ジャクソンがトップを走りアシュフォード&シンプソンなどの活躍もありました。明らかに黒人音楽の主流が変わって行く頃、アレサのアルバムにゲストとして歌った2年後1989年にメイヴィス・ステイプルズの少し意外なアルバムがリリースされました。
”Time Waits For No One”と題されたメイヴィスの4枚目となる久しぶりのソロ・アルバムでしたがこれがプリンスのペイズリー・パーク・レーベルからのリリースで6曲がプリンスの作った曲でプロデュースもプリンス。私はプリンスとメイヴィスが最初結びつかなくて戸惑いました。しかし実はプリンスが昔からステイプル・シンガーズのファンだったそうで、しばらくレコーディングのないメイヴィスに助けの手を差し出したのではないでしょうか。ソロとしては約10年ぶりのアルバム”Time Waits For No One”からその一曲目

1.Interesting/Mavis Staples

聴いてもらってわかるようにプリンスが作る当時の最新のサウンドに何の違和感もなく、実に充実した歌を歌っているメイヴィスにこの時戸惑うよりも感動しました。プリンスがうまく自分の懐にメイヴィスを入れつつ、誰も見つけられなかった新しいメイヴィスの魅力をプリンスが引き出した感じです。つまりメイヴィスにある女性としての品のある色香や情感といったものを引き出した感じがします。ある意味このアルバムのメイヴィスはとてもセクシーです。でも下品ではないんですよ。いちばん好きなのが新しいメイヴィス・ステイプルズを聞かせてくれた次の曲です。
「君を見なくても君が見える 君の声が聞こえる 君がしゃべらなくても 君のことを感じる 君に触れなくても。君が側にいなくても僕は君と一緒にいる。気が狂いそうなほど」狂おしいラブ・ソングです。

2.I Guess I’m Crazy/Mavis Staples

もうたまらないくらい好きな歌でぼくもライヴで歌っていたことがあります。
このアルバム”Time Waits For No One”はすごく気に入ったアルバムで今でもよく聞くのですが、音楽業界にも一般にもそんなに高い評価は得られませんでした。やはりメイヴィスにはシンセや打ち込みドラムのリズムではない方がいいという評価だったのかもしれませんが・・。それでこれで終わるかと思ったのですが前作から四年経った1993年再びプリンスがプロデュースに立ったアルバムが『The Voice』

3.Melody Cool/Mavis Staples

めちゃかっこいい曲やと思うのですが・・喜んでいるのは私だけでしょうか。これもメイヴィスの圧倒的な歌を聴けるアルバムなのですが大きな評価はなかったです。メイヴィスにとって画期的な二枚のアルバムであり、メイヴィス・ステイプルズという歌手の時代に対応する可能性がまだまだあることを知らしめたこの二枚のアルバム。彼女を語る上で大切な二枚です。

4.Time Waits For No One

プリンスのプロデュース1989年アルバム『Times Waits For No One』と1993年アルバム『The Voice』をぜひ聞いてください。
プリンスが亡くなった後2020年のトリビュート・コンサートでメイヴィスがプリンスのヒット曲”Purple Rain”を歌っている動画がYou Tubeにでています。それもとてもソウルフルな歌です。
80年代から徐々にステイプル・シンガーズとしての録音は減っていきました。時代がユーロビートなどからディスコ・ミュージックへそしてサウンド的にもテクノっぽい打ち込み、シンセ・サウンドに移っていったのもステイプルズにはフイットしませんでした。メイヴィスはなんとかソロでのライヴ活動やプリンスとのコラボやアレサのライヴアルバムへの客演などをしていました。
1999年にステイプル・シンガーズが「ロックの殿堂」入りをして久振りにみんなが揃ったその姿を今もTou Tubeで見ることができます。しかし、翌年2000年にお父さんのローバックが亡くなってしまいます。そこでステイプル・シンガーズとしての活動は終わりました。そしてメイヴィスの本格的なソロ活動が始まります。

初期のメンバーだったお兄さんのパーヴィス・ステイプルズも2021年に、お姉さんのクレオサ・ステイプルズが2013年に、イヴォンヌは2018年に亡くなっておりメイヴィスはひとりぼっちになってしまいました。しかし、彼女はずっと歌い続けています。
次回は近年のメイヴィスのソロ活動を聞いてみようと思います。

 

2025.02.21 ON AIR

★祝来日!メイヴィス・ステイプルズ大特集「メイヴィスと黒人音楽の歴史」Vol.4

カーティス・メイフィールドとのコラボ、そしてアレサとの熱烈ゴスペルライヴ

Let’s Do It Again
Aretha Franklin Gospel Live
Mavis and Aretha

ON AIR LIST
1.Let’s Do It Again/The Staple Singers
2.Tonight I Feel Like Dancing/Mavis Staples
3.Oh Happy Day/Aretha Franklin & Mavis Staples
4.We Need Power/Aretha Franklin & Mavis Staples

来日するメイヴィス・ステイプルズの大特集4回目
1975年に所属していたスタックス・レコードが倒産してステイプル・シンガーズはカーティス・メイフィールドが立ち上げたカートム・レコードに移籍します。
その75年にぼくは初めてステイプル・シンガーズのライヴをロスアンゼルスで観ました。それはテレビの公開録音でした。その年にシドニー・ポワチエが監督主演し、ビル・コスビーなどが出演した映画”Let’s Do It Again”(邦題は「シドニー・ポワチエの一発大逆転」)のテーマソングだった”Let’s Do It Again”をステイプル・シンガーズが歌って大ヒットしていました。チャート一位になりラジオでもヘヴィ・ローテーションで流れていてそれでテレビ番組でも取り上げられ公開録音になったのだと思います。
ライヴは最も油がのっている時期のステイプルズですから最高でした。
このヒット曲を作ったのはカーティス・メイフィールド。
僕が75年にロスで買ったノイズ混じりのシングル盤から聞いてください。

1.Let’s Do It Again/The Staple Singers

映画も観に行きました。黒人街の映画館でしたがコメディ映画なので観客がめちゃ盛り上がって最後にこの曲が流れるとみんなが口ずさんで映画館から出て行きました。この曲はビルボードのポップチャート、ソウルチャート両方で1位となる大ヒットとなりました。
しかし、これ以降は78年のザ・バンドの解散コンサート「ラスト・ワルツ」に出演して”The Weight”を歌ったという話題以外にステイプル・シンガーズの情報は少なくなり、レコード会社もワーナーはじめいくつかの会社で録音はあったものの80年代はあまり脚光を浴びることはありませんでした。もちろんライヴ・ツアーは行っていたのですが黒人音楽のシーンはプリンスやマイケル・ジャクソンが先頭を切る時代に変わって行きました。
そこで再びメイヴィスのソロ・アルバムの話が持ち上がってきたのだと思いますが、77年にソロ”A Piece Of The Action”がリリースされました。カーティス・メイフィールドがプロデュースした映画のサントラであまり評判にもなりませんでした。そして次のソロが79年の”Oh What a Feeling”。このアルバムはアトランティック・レコードに移籍してアレサ・フランクリンを世に出した名プロデューサー、ジェリー・ウェクスラーの元で作られました。これも微妙なアルバムです。
80年代のディスコ・ミュージックやコンピューターサウンドも取り入れたことは悪くないのですが、中途半端でメイヴィスにフイットしませんでした。
1曲聴いてみましょう。

2.Tonight I Feel Like Dancing/Mavis Staples

「今夜、私は踊りたい気分よ」という歌ですが、個人的にはエスター・フィリップスの”What A Difference A Day Makes”を思い出すようなディスコ・ソウル。しかし、メイヴィスにはハマらなかった。それでもメイヴィスほどの歌手になるとある程度の高いクオリティで歌えてしまうのですが・・・。
メイヴィスのソロ・アルバムの歴史を振り返ってみるとメイヴィスが初めてソロ・アルバムをリリースしたのは1969年。ステイプル・シンガーズが所属したスタックスレコード系列のヴォルトレコードからリリースされた初アルバムが『メイヴィス・ステイプルズ』。その時メイヴィス30才。メイヴィスの歌の実力からするとちょっと遅い感じがしますが、やはり彼女はステイプル・シンガーズを音楽活動の主体に考えていてソロ活動を活発にやる気はなかったのでしょう。その当時二枚ソロ・アルバムをリリースしました。いろんな曲のカバーをメイヴィスに歌わせているのですが、プロデュースがしっかりしてなくてコンセプトが決まっていない感じです。よくあることですが、初期のアレサ・フランクリンなども歌が上手いが故にプロデュースが良くなくても何でもそつなく歌えるのですがこれと言った決め手にかけてしまう・・この二枚のメイヴィスもそんな感じでアルバムとしては印象の薄いものでした。
ところで今アレサの名前を出しましたが、実は1987年にアレサ・フランクリン自身プロデュースしてリリースしたデトロイトの教会でのライヴ・アルバムにメイヴィスがゲスト出演してます。そこに素晴らしい二人のデュオがあります。アレサ・フランクリンのゴスペル・ライヴ・アルバム”One Lord One Faith One Baptism”。アレサが子供のころから歌っている教会でのライヴ。振り返って見るとアレサもメイヴィスも幼い頃からゴスペルを歌って教会で育った経歴を持っています。
そして二人とも子供の頃からゴスペル界で名を馳せ、その後ソウル・シンガーとしてレジェンドとなりました。そのふたりがデュエットという信じられない曲です。
空に舞い上がるようなアレサの歌声と地を這うようなメイヴィスのコントラルトの歌声がすごくよくマッチしていて強力なゴスペル・グルーヴになってます。曲はエドウィン・ホーキンス・シンガーズの大ヒット曲です。6分以上ありますがあまりに素晴らしいので最後まで聞いてください。

3.Oh Happy Day/Aretha Franklin & Mavis Staples

実力のある素晴らしい歌手が二人になるとさらなる相乗効果でこんなすごい音楽になるんですね。アレサもメイヴィスも合わせるところは合わせているのですが、互いにめちゃパワフルで高みに向かって行ってます。アレサには72年にリリーサされた教会でのライヴ・アルバムの有名な”Amazing Grace”がありますが、このアルバムはあのアルバムほどきちんとプロデュースされていませんが、教会の熱気とシンガーとプレイヤーのグルーヴの凄さは引けを取らない出来です。いいアルバムなので是非ゲットして聞いてください。”One Lord One Faith One Baptism”
そしてメイヴィスのゲスト出演でこのアルバムは一層輝きを増しました。
もう一曲。

4.We Need Power/Aretha Franklin & Mavis Staples

80年代ステイプル・シンガーズとしてヒットは出なくなったのですがライヴの活動はやっていました。ビル・ウィザースがディスコ・ソングをやりたくなくて引退してしまった難しい時代でした。80年代はコンピーター・サウンド、ドラムマシン、ヒップホップの台頭と60年代70年代から歌ってきたシンガーにとっては苦難の時代でした。歌の力があっても難しく、メイヴィスへの強力なプロデュースが欲しかった時期です。
そこに現れたのがかのプリンスでした。ではその話はまた来週、Hey,Hey,The Blues Is Alright!