今も多くの女性シンガーに尊敬され歌い継がれるダイナ・ワシントンの歌
Juke Box Pearls/A Rockin Good Way/Dinah Washington(Bear Family BCD 17520)
ON AIR LIST
1.I Don’t Hurt Anymore/Dinah Washington
2.What A Difference A Day Makes/Dinah Washington
3.Such A Night//Dinah Washington
4.Cry Me A River/Dinah Washington
5.A Bad Case Of The Blues/Dinah Washington
今日は久しぶりに女性シンガー、ダイナ・ワシントンのコンピレーションアルバム”A Rockin Good Way”を聞きます。
1940年代から50年代にかけて活躍したダイナ・ワシントンは「ブルーズの女王」と呼ばれることもあるが、ほとんどの人はブルーズ・シンガーというよりジャズ・シンガーのイメージを持っていると思う。
1943年デビューしてすぐにヒットした”Evil Gal Blues”を聞いても、南部のブルーズのような泥臭さはなくジャズ・テイストのサウンドをバックにした当時の都会の匂いをさせるブルーズだ。
つまり30年代に一世風靡した先達の女性ブルーズシンガー、ベッシー・スミスのながれを汲むテイストだった。
思えばダイナは南部アラバマで生まれたものの3歳でシカゴに移りそこで育っているので都会育ちの女性だ。幼い頃から教会でピアノを弾き歌っていたが、当時よく開催されていたアマチュアコンテストで優勝。そこからナイトクラブでピアニスト&シンガーとして音楽の仕事をするようになり、その才能を見出されてレコーディングとなる。
若き日のアレサ・フランクリンもルース・ブラウンもダイナの影響を受けているが、特にエスター・フィリップスに至ってはもう完全にダイナ・フリークだった。それほど後輩に理想とされたダイナの歌だが、とにかく歌声が大きい。それは今のように音響機材が充実していないのでバックのバンドの音に負けないしかも騒がしいクラブで客に届く歌を歌うのが第一の条件だった。歌声が大きいだけでなく歌の最後まで丁寧に心を入れ込み、個性的なビブラートがあったり、時には自由にアドリブを効かして歌うテクニックがあったり・・とスケールの大きな歌手だった。
そのスケールの大きさがわかる曲。元々は白人のカントリー&ウエスタンの歌手ハンク・スノウが歌った曲をブルーズテイストを入れ込んで完全に自分の歌として歌っているダイナ・ワシントン。
1.I Don’t Hurt Anymore/Dinah Washington
この曲のドラムはじめバックのレコーディングバンドの演奏も素晴らしいのですが、メンバーの名前が記載されていなくてわからないのが残念。
ダイナ・ワシントンの最も有名な曲が次の”What A Difference A Day Makes”ですが、1959年のこの曲で彼女は一般の白人層にポップス歌手として認知されたのだが、私は初めてこの曲を聴いた時バックのストリングスやコーラスが曲に余計な装飾をしてしまいダイナの歌の素晴らしさを邪魔している感じがした。
と言うのも私が最初に感動したダイナはそれより5年ほど前にジャズの最前線で活動していたクリフォード・ブラウンやマックス・ローチといったジャズマンとコンボと録音した”Dinah Jam”というアルバムだった。そこにあったリアルで、フリーでスリリングなダイナの歌声がこの”What A Difference A Day Makes”では綺麗な箱に収まったような歌に聞こえた。しかし、時を経て聴いてみるとやはりこの歌の中にはゴスペルをルーツに持ち、消すに消せないブルーズのテイストを持ったダイナがいることに気づいた。揺るがない芯の太い歌声や独特のビブラートそして歌声の最後にまで自分の心を込めて「あなたと出会ってから全てが素晴らしく変わってしまった」と歌うダイナをどうぞ。
2.What A Difference A Day Makes/Dinah Washington
この曲のヒットでポピュラーな歌手として認知されたダイナは60年に同じマーキュリーレコードにいたR&Bシンガーのブルック・ベントンという男性シンガーとデュエット曲をリリースします。ブルック・ベントンの方も当時売れていたスター・シンガーで二人のアルバムはどちらかというとR&Bに近いアルバムでした。
50年代から60年代の黒人女性シンガーは時代の音楽の流れがブルーズやジャズからR&Bそしてソウルに移っていくこともあって、そういう歌も歌わなければならなかったのでしょう。
次はダイナが歌ったリズム&ブルーズの曲でエルヴィス・プレスリーもカバーしていますが、同じ曲名のドクター・ジョンの曲もありますが、これはリズム&ブルーズのクライド・マクファター&ザ・ドリフターズが1953年にリリースしたものです。
「彼といい感じのキスをした素晴らしい夜だった。なんていう夜だ。夜が明けて彼はもういないけどあの素晴らしい夜とキスを忘れない。ああなんいう素晴らしい夜だったんだろう」
3.Such A Night//Dinah Washington
次の曲は個人的にすごく好きな曲でジャズ・スタンダードとして有名な曲です。
「あなたは私のことを想って寂しくて一晩中泣き明かしたというけど、私はあなたのことが好きで川の水のように涙を流してたくさん泣いてきた。あなたに気が狂うほど夢中になったけどその間あなたは涙ひとつ流さなかった。いま愛してるって言うのならそれを私に証明して涙を川のように流して見せて(Cry Me A River)」
愛してきた男から愛を得られなかった女性が今更なんだ、泣いて見せろという、ある意味怖い歌。
ダイナのブルーズ・フィーリングにあふれた素晴らしい歌です。
4.Cry Me A River/Dinah Washington
余談ですが歌謡曲に「黄昏のビギン」という曲があるのですが、それと今の曲が似ていると言った人がいますが、なんとなく似てますかね。僕は黄昏のビギンも好きです。
最後はやはり「ブルーズの女王」なのでブルーズを。
彼女はかなり難しい性格の女性だったらしく結婚も7回しています。何度も結婚した彼女の言い分は「フラれそうになったらフラれる前にフって別れるのよ」というものですが、女性が男性に頼って生きていた時代に稼ぎもあり名声もあった自立した女性の言葉です。
「ひどい男に惚れてしまって消えない心の痛みを持ってしまい悪いブルーズに取り憑かれたのよ」
5.A Bad Case Of The Blues/Dinah Washington
たくさんのダイエットの薬と酒を一緒に飲んでしまい39歳の若さで亡くなったダイナ。
今も多くの女性シンガーに愛されて、彼女の歌は歌い継がれている。