永井ホトケ隆が選ぶブルーズ・スタンダード曲集 vol.27
女性ブルーズシンガーたちのスタンダード曲集 vo.3
ON AIR LIST
1.Hound Dog/Big Mama Thornton
2.Ball And Chain/Big Mama Thornton
3.Double Crossin’ Blues/Esther Phillips
4.Roll With Me Henry(The Wallflower)/Etta James
5.Mama He Treats Your Daughter Mean/Ruth Brown
前回、前々回と戦前の女性ブルーズシンガーが歌ったブルーズの名曲を聴きましたが、今日は戦後の女性ブルーズシンガーの名曲です。この戦前、戦後という言い方をブルーズでよく使いますが、第二次世界大戦が終わった1945年を境に戦前戦後と分けています。もちろん戦前から戦後に渡って活躍した人もいるのでそのボーダー・ラインは微妙です。
戦後になるとブルーズのサウンドもエレクトリック化されてバンド形態が増えてくるという特徴もあります。
前回と前々回にON AIRした女性ブルーズ・シンガーの先駆け「クラシック・ブルーズ」と呼ばれたメイミー・スミスやベッシー・スミス以降の女性シンガーたちはブルーズだけ歌うのではなく、ジャズやポピュラーな曲も歌いました。しかし、ジャズ・シンガーと呼ばれるダイナ・ワシントンやビリー・ホリディもブルーズのテイストは強く、ブルーズも彼女たちの重要なレパートリーでした。その後のルース・ブラウンやエスター・フィリップス、エタ・ジェイムズになると今度はR&Bのテイストも入り込んで、ブルーズ、ジャズ、R&Bとレパートリーはとても幅広くなります。だからロックンロールの殿堂入りもしたルース・ブラウンは「ブルーズシンガー、R&Bシンガー、ジャズシンガー、ロックンロール・シンガー・・なんとでも好きなように呼んでちょうだい」と言ってます。
そういう戦後の女性ブルーズシンガーの中でもブルーズの度数が高いのがビッグ・ママ・ソーントンでした。
ビッグ・ママと呼ばれるくらいで大きくて、体重が300ポンドつまり140キロくらいあったそうです。アラバマ州モンゴメリーの出身ですが、最初に音楽を始めたのはテキサス、ヒューストン。彼女を有名にしたのはR&Bのボス、ジョニー・オーティスのバンドをバックにして歌った1953年のこの大ヒットでした。
1.Hound Dog/Big Mama Thornton
ヒットチャート7週1位の大ヒット、その後エルヴィス・プレスリーが白人チャートで更にヒットさせてこの曲は文句なしのブルーズ・スタンダードになりましたが、曲調的にはすでにR&Bテイストが入っています。
Hound Dogより彼女のブルーズ・シンガーとしての力量がわかる曲が次の”Ball And Chain”ですが、これは白人ロック・シンガーのジャニス・ジョップリンのカバーで知っている方も多いと思います。ジャニスはサンフランシスコのクラブでビッグ・ママが歌っているのを聴いてカバーしたいと思ったそうです。
2.Ball And Chain/Big Mama Thornton
体が大きいだけでなく歌声も相当でかくて、あと女性としても自立していてユーモアもあり人間として大きな人だったそうでビッグ・ママというのは本当に彼女にふさわしい綽名でした。
ビッグ・ママを”Hound Dog”の大ヒットでデビューさせたプロデューサー、ジョニー・オーティスがビッグ・ママの前、1950年にデビューさせたのが当時13才だったエスター・フィリップス。当時はまだリトル・エスター・フィリップスという名前でした。ザ・ロビンズというコーラス・グループとエスターを組み合わせてジョニー・オーティスが自分のオーケストラをバックにリリースしたこの曲がR&Bチャート1位になり14才のエスターは子供ながら大人たちとツアーにも出ることに・・・中学1年でしょ、大丈夫か。
3.Double Crossin’ Blues/Esther Phillips
子供なのに大人のミュージシャンに混じってバスでツアーする14才のエスターは、学校の勉強の本を持ってツアーに出たもののバスの中では大人のミュージシャンたちがギャンブルやったり、酒を呑んで騒ぐので勉強はほとんど出来なかったそうです。そして、彼らが使うドラッグもやることになりエスターは終生ドラッグに苦しむことになります。そういうことだけでなく、50年代や60年代にまだ未成年の女性が大人のミュージシャンたちとツアーを回るのはいろいろ大変なことがあったと思います。
エスターは他にもブルーズ・スタンダードに挙げたい曲があるのですが、それはまた次の機会に。
エスターとビッグママをデビューさせたジョニー・オーティスがもうひとりデビューさせた女性シンガーがエタ・ジェイムズ。エスターと同じ14才。
そしてエタ・ジェイムズも1955年のこのデビュー曲でR&Bチャート1位を獲得しました。
4.Roll With Me Henry(The Wallflower)/Etta James
実はいまの曲、リリースの前の年1954年にハンク・バラッドとミッドナイターズがヒットさせた”Work With Me Annie”のアンサーソングとして作られたものなんですが、そもそもその”Work With Me Annie”が下ネタ(Work Withが)の歌でそれをRoll With Me Henryにしたわけですが、Roll Withというのも下ネタなので未成年の女子が歌うのはどうかというので途中でWallfolwerという曲名に変更されています。Wallfolwerというのは「壁の花」でダンスパーティで男の人に誘ってもらえない女性のことですが、曲名だけ変えても歌詞を変えてませんから意味ないんですけどね。日本ではいまでもこういう歌を若い女性シンガーは絶対歌わないでしょうけど、文化の意識の違いをすごく感じます。AKBの娘がRoll With Me Hotokeって歌うようなもんですから。
エスター・フィリップス、エタ・ジェイムズと来たらやっぱり僕の中ではルース・ブラウンです。
悪い男にひっかかった歌ですが、でもその男に夢中になってるんですね。これはいつの時代もあって「その男はやめといた方がええで」と言うてんのにその男にホレてまう女性がおるんですよ。まあ、偉そうなことは言えまへんが・・。1952年R&Bチャート1位
5.Mama He Treats Your Daughter Mean/Ruth Brown
ルース・ブラウンは「アトランティック・レコード」の初期のいちばんの売れっ子で出す曲、出す曲チャートの上位に上がってアトランティックは彼女がいたから会社の基盤をつくれたと言ってます。いまの曲もブルーズにサビの部分がついていたり、全体のサウンドもR&Bのテイストが濃いんですが、この辺りからブラック・ミュージックの主流はR&Bに向かっていきます。それにつれてストレートなブルーズを歌う女性シンガーは減っていくことになります。