2021.10.29 ON AIR

50年間封印されていた黒人音楽の歴史的な映像が映し出される必見の映画「サマー・オブ・ソウル」その2

ON AIR LIST
1.The Backlash Blues / Nina Simone
2.We Shall Overcome / The Staple Singers
3.How I Got Over / Mahalia Jackson
4.Everyday People / Sly & The Family Stone
5.Why?(The King Of Love Is Dead) / Nina Simone

前回に引き続きこの夏話題になった映画「サマー・オブ・ソウル」とその音楽の話です。
出演ミュージシャンはみんな素晴らしかったのですが、格別インパクトを残したひとりがニーナ・シモンでした。
まず今日は映画の中でも歌われていた「バックラッシュ・ブルーズ」を聞いてみましょう。これはニーナ・シモンがよくステージで歌っていた曲でとは「逆戻りとか反動」と言う意味があります「ミスター・バックラッシュ、あなたは税金を上げて賃金はそのままで、私の息子をベトナム(戦争)に送った。あなたは私に二流の家を与え、二流の教育とか受けさせず、黒人はみんな二流だと思っているんでしょう、ミスター・バックラッシュ(ミスター反動者)」つまり白人の大統領や白人の為政者に対して抗議した歌です。映画の中でもかなり過激なメッセージを観客にアジテーションしていたニーナですが、その変わらない姿勢はしっかりした音楽に支えられているからこそ素晴らしいのだと思います。

1.The Backlash Blues / Nina Simone
聞いてもらったのはニーナの”’Nuff Said!”というライヴ・アルバムに収録されているのですが、実はこのアルバムはキング牧師が暗殺された3日後に録音されたもので、キング牧師に捧げられた”Why”という曲も収録されています。ニーナのアルバムの中でも格別素晴らしい一枚です。
1965年にマルコムXが暗殺され、このコンサートの前年68年4月にキング牧師が暗殺され黒人政治指導者が相次いでなくなりました。貧困や人種差別に対する黒人たちの怒りで暴動も各地で起きました。そして、黒人たちは自らの存在を誇りに自信を持つように自分たちをブラックと呼び”Black Is Beautiful”(黒人は美しいのだ)という言葉も生まれました。

ニーナ・シモンのように白人への反発をはっきり主張はしませんでしたが、ゴスペルのステイプル・シンガーズもキング牧師を支持して60年代初めから公民権運動、反戦運動に参加したリベラルなグループでした。次の曲はそういう運動の際によく歌われたポピュラーな曲で知っている方も多いと思います。
ステイプル・シンガーズのライヴアルバム”Freedom Highway”から「私たちはいつの日か勝利する」
2.We Shall Overcome / The Staple Singers
ステイプル・シンガーズは70年代に入ると”I’ll Take You There”、”Respect Yourself”などメッセージのあるソウルのヒット曲でスターになります。
映画ではこのステイプル・シンガーズのリード・ヴォーカル、メイヴィス・ステイプルズと大先輩のゴスペルシンガー、マヘリア・ジャクソンのデュエットがハイライトの一つになっています。ネタバレになるのであまり言いませんが、そのシーンは黒人音楽史上、非常に貴重な歴史的な時間です。メイヴィスは「マヘリアと一つのマイクで歌えたことは自分の人生の中で最高の時間だった」と言ってます。
マヘリア・ジャクソンはゴスペルの有名な本「ゴスペル・サウンド」で「女王マヘリア」と書かれている最も有名なゴスペルシンガーの1人です。1911年ニューオリンズ生まれの彼女は世界中にゴスペル・ミュージックの素晴らしさを伝えた最初のシンガーで、日本でも60年代にレコードが発売されゴスペルで一番知られているシンガーはマヘリアでした。メイヴィス・ステイプルズが1939年生まれですからメイヴィスにとってはゴスペルの母のような、祖母のような存在でデュエットでメイヴィスが先に歌い出すシーンではさすがに緊張している様子が見えました。

ではその女王マヘリア・ジャクソンでよく知られた歌です
「どうやって私は乗り越えたのか。神様に守られて神様の力で私は乗り越え、生きてきた。私たちの為に命を差し出し、私たちをいつも導いてくれる神様に感謝します」
3.How I Got Over / Mahalia Jackson 
映画の中心になっているコンサート「ハーレム・カルチュラル・フェスティバル」にはブルーズ、ジャズ、ソウル、ゴスペル、ラテンと様々なアフリカン・アメリカンのミュージシャンが登場しますが、出演した中で当時若い黒人たちに最も人気があったのが「スライ&ファミリー・ストーン」でした。実際彼らがステージに現れると聴衆が前の方へ押し寄せます。
そこでスライはそれまでなかった新しいファンク・ミュージックを披露します。しかし彼らのステージを見ていると、彼らのグルーヴの源はやはりゴスペルの、教会のグルーヴだということがわかります。
4.Everyday People / Sly & The Family Stone

とにかく素晴らしい映画です。DVDもリリースされるかも知れませんが、できれば映画館で観てください。今日は最後にニーナ・シモンをもう一曲聞きます。アルバム”’Nuff Said!”に収録されている曲で、歌う前に「このコンサートは全てマーチン・ルーサー・キングに捧げます」とニーナが話してるように亡くなったキング牧師に捧げた美しい曲です。
「かってこの地球に愛と平和を仲間に話し続ける男がいた。彼はこの地球に平穏な日がくることを夢見つづけた。そして世界中にそのメッセージを広めた。なぜ愛の王様は死んでしまったのか」
5.Why?(The King Of Love Is Dead) / Nina Simone

「サマー・オブ・ソウル」は音楽映画なんですが、その後ろに60年代終わりのアメリカの世相、キング牧師の暗殺そして暴動、ベトナム戦争と徴兵されていく若い人たち、そしてアフリカン・アメリカンへの人種差別、そして彼らの貧困・・・そうした問題が浮き出てきます。そして、私たちも自分に差別の気持ちはないのか、平和と平等の気持ちはあるのか自分自身に問いかけないといけないと思います。いろんなことを考えさせてくれる映画でした。

2021.10.22 ON AIR

50年間封印されていた黒人音楽の歴史的な映像が映し出される必見の映画「サマー・オブ・ソウル」その1

ON AIR LIST
1.Why I Sing The Blues / B.B.King
2.Uptight (Everything’s Alright )/ Stevie Wonder
3.My Girl / The Temptations
4.I Heard It Through The Grapevine / Gladys Knight & The Pips

このドキュメント映画を観ることができて、大げさではなく心から「生きていてよかった」と思った。そして改めて自分が選んだ音楽、つまりこの番組の主体であるブルーズをはじめとするブラック・ミージック、黒人音楽に間違いはなかったと確信できた映画でした。
今回と次回と二回に分けて映画「サマー・オブ・ソウル」の話をしながら映画で歌われ、演奏された曲を聴きたいと思います。映画のいわゆるサウンドトラックのアルバムがリリースされていないので私が持っているそれぞれのミュージシャンの曲をON AIRします。
映画は1969年にニューヨークの黒人街ハーレムの公園で6日間に渡り行われた野外フェスティバル「ハーレム・カルチュラル・フェスティバル」のドキュメント映像を中心に、60年代終わりに黒人音楽は何を表現していたのか、そして黒人たちの生活や文化はどのように動いていたのかを描いたものです。中心になっているのは50年前の映像ですが、そこに描かれているのは今も変わらないアフリカン・アメリカンたちの貧しく厳しい生活や白人に抑圧されている人種問題、そしてそういう苦境から逃れようとするドラッグ悪用の問題だ。本当にアメリカの根本にある問題は何も変わっていないことがわかる映画でもあります。フェスティバルは無料で行われ会場は大人から子供までびっしりと満員です。真面目そうな人たちもいれば、音楽好きの若い人たち、ちょっと不良ぽい男たち・・いろんな人たちがいます。

この映画「サマー・オブ・ソウル」でブルーズマンで登場するのはブルーズの王様、B.B.キング。
1969年というのは彼にとって重要な年で映画の中でも歌われている”Why I Sing The Blues”が収録されたアルバム”Live And Well”がリリースされた年で、レコードのA面はいつもスリルあふれるライヴだがB面はスタジオ録音でブルーズにファンクのテイストを入れた新しい試みがなされていた。そしてその次のアルバム”Completely Well”で古いロイ・ホーキンスの”The Thrill Is Gone”を新しいファンクテイストで歌ったところこれがグラミーに輝いた。その3年後、来日したB.B.キングの大阪公演の前座を私はウエストロード・ブルーズバンドでやらせてもらった。つまりブルーズにファンクテイストを入れて新しい試みをしなければグラミーもなかっただろうし、その後の世界のB.B.キングもなかっただろうし、私が前座をやってB.B.と会うこともなかった。では映画の中でも歌われていた「なぜ、私はブルーズを歌うのか」
1.Why I Sing The Blues / B.B.King
ベースのジェリー・ジェモットはじめニューヨークの当時トップのスタジオ・ミュージシャンで録音されたB.B.の新しい時代のサウンドだった。

さて、映画「サマー・オブ・ソウル」にはブルーズ、ジャズ、ソウル、ラテン、ゴスペルといろんなミュージシャンが登場するのだが、多分一番若いのはスティーヴィ・ワンダーだろう。この1969年当時まだ19才。実は僕はスティーヴィと同じ年。70年代に入ると素晴らしいオリジナル曲で大ヒット連発するスティービーだが、この69年あたりはまだレイ・チャールズのフォロワー的な扱いをされジャズやスタンダード・ボビュラー曲を歌わされていた。
今日は映画の三年前、1966年リリースのR&Bチャート一位、ポップチャート3位のこの曲
「僕は貧しい家に生まれ、持っている服も時代遅れの一枚だしお金もない。でも彼女はあなたの気持ちが本物だからいいの大丈夫と言ってくれる」
2.Uptight (Everything’s Alright )/ Stevie Wonder

この映画の中心になっている「ハーレム・カルチュラル・フェスティバル」というコンサートは6日間行われたのですが、一日「モータウン・スペシャル」と言われたモータウンレコードのミュージシャンばかり出る日があります。今のスティービーもモータウンですが当時モータウンが黒人のソウル・レーベルとして飛ぶ鳥を落とす勢いだったことがわかります。モータウンのコーラスグループとして随一の人気を誇ったテンプテーションズ。そのテンプスから独立してソロ・シンガーになったばかりデヴィッド・ラフィンがコンサートに出てきます。やはりオーラがあるというか、ステージの立ち姿がすらっとしていてカッコいいです。歌ってる曲はテンプテーションズ時代の大ヒットのこれ。
3.My Girl / The Temptations
いつ聴いてもいい、素晴らしいい曲。映画ではデヴィッド・ラフィンの素晴らしい歌のフェイクが聞けます。

そして、モータウンからもうひと組、グラディス・ナイト&ザ・ピップス。
彼らは67年の大ヒット曲”I Heard It Through The Grapevine”(邦題:悲しい噂)を歌います。みんな溌剌としていてグラディスはミニ・スカートですごく可愛いです。映画に出てくるメイヴィス・ステイプルズも同じようにミニ・スカートでしたが、この映画は当時の黒人のファッションやヘア・スタイルなども見れて楽しいです。この悲しい噂という歌は「彼が昔付き合っていた彼女とヨリを戻すという悲しい噂を聴いた。でも私の方があなたのことを愛してる。でも、その悲しい噂を聞いてもう気が狂いそうになっている」という内容です。
4.I Heard It Through The Grapevine / Gladys Knight & The Pips
この曲は翌68年に同じモータウンレコードのマーヴィン・ゲイの録音でもヒットしましたが、ぼくはグラディス・ナイト&ザ・ピップスの方が好きです。

来週も映画「サマー・オブ・ソウル」に関連した曲を聞きながら、映画の話をしたいと思います。

2021.10.15 ONAIR

追悼チャーリー・ワッツ vol.2

the best of the Rolling Stones /Jump Back(Virgin VJCP-25155)

ON AIR LIST
1.Honky Tonk Women / The Rolling Stones
2.Brown Sugar / The Rolling Stones
3.Harlem Shuffle / The Rolling Stones
4.Start Me Up / The Rolling Stones
5.Jumpin’ Jack Flash / The Rolling Stones

ローリング・ストーンズのドラマーだったチャーリー・ワッツが亡くなった衝撃に世界中のファンはもちろん、多くのミュージシャンも心を痛めネットには彼を追悼するメッセージがあふれています。彼と関わった人たちの多くは彼の紳士的で優しい人柄を語っています。ストーンズの方向性や展開について語るのはいつもミックとキースで「サイレント・ストーン」と呼ばれたチャーリーから多くを語られることはなかったのですが、クールなプロフェッショナルとしてそしてロックのドラムの典型の一つを作ったドラマーとして彼は永遠に音楽の歴史に残っていくでしょう。

今回はチャーリー・ワッツ追悼の2回目です。

69年7月にシングルでリリースされた”Honky Tonk Women”は脱退し亡くなってしまったブライアン・ジョーンズの後にミック・テイラーが参加した最初の曲。カントリー・テイストとアメリカ南部のスワンプロックのテイストが混じったストーンズを代表する曲。メンフィスの安酒場でジンをばか飲みする女と出会い二階の部屋でその女と寝たという話から始まるこの曲はチャート一位を獲得。カウベルからチャーリーの力強いドラムが入りキースのギターがリフを弾くイントロの匂いが最高の曲で、ストーンズの代表曲というだけでなくロックの名曲の一つ。そしてミック・テイラーが加入したことでストーンズがさらに前進した記念碑的な曲でもあります。
1.Honky Tonk Women / The Rolling Stones
時々音の隙間があってそこでグルーヴしているドラムが聞こえてくる瞬間が最高。エンディングまでずっとロックしている。

今の曲も次の曲もまずイントロでキースとチャーリーがグルーヴを作って始まっていて、これがストーンズの一つのパターンになっていました。
キースのコードを絡めたキレキレのイントロのギターが最高で、それを受けるようにチャーリーが入ってきます。つまりロックというのは器用に指が早く動かなくてもこの曲のようにカッコイイリフとグルーヴするビートがあればいいという見本のような曲です。まあ、ロックの王道のような曲です。
2.Brown Sugar / The Rolling Stones

次はドラムの録音状態、つまりドラムの音が素晴らしくいい音で録音されていてぼくの好みです。チャーリーは相変わらず余計なことはせずにずっと太いビートを打ち続けている。
これはカバー曲でオリジナルはR&Bの男性デュオ「ボブ&アール」が1963年にリリース。そんなに売れた曲ではなくてチャートの40位くらいまでしかいかなかったが、69年に再発された時にイギリスでチャートの9位まで上がってます。うまく言えませんがイギリス人好みの曲です。ストーンズの86年リリースのアルバム”Dirty Work”でカバーしましたがほとんどオリジナルと同じです。
3.Harlem Shuffle / The Rolling Stones
独特のムードのあるいい曲です。

初来日公演の一曲目のこの曲のイントロのギターとドラムですごく興奮したのをおぼえています。その来日公演をぼくは三日間見たのですが、その初日客電が消えるとゴーッという地響きのような歓声が客席から起こり、次の瞬間にキースのギターがそれを裂くように始まりドラムがズドン!と入る瞬間があまりにカッコよくて思わず「チャーリー」と三日間叫びました。
4.Start Me Up / The Rolling Stones

インタビューでも饒舌ではなくステージでも全面に出てくることはなく、いつも淡々と後ろでドラムを叩いてバンドサウンドを支えてきたチャーリーの姿に感銘を受けてきた人も多いと思います。スーツとネクタイを愛用して他のメンバーとは違うおしゃれな人でもありました。
5.Jumpin’ Jack Flash / The Rolling Stones
ジャズが好きだったチャーリーが全くサウンドやグルーヴの表現が違うストーンズの音楽を本当はどう思っていたのか・・・とても興味深いところです。

一度ミックが「チャーリーは俺の専属ドラマー」と言った時にチャーリーはミックに「お前が俺の専属シンガーだ」と言ったことがあったそうです。ミックの不遜な図々しい言葉がぼくも嫌いですが、チャーリーはじつに的確なお返しの言葉を言ったと思います。実際、チャーリー以外のドラマーでミックがいい歌を歌ったことなんて一度も聞いたことがない。チャーリー無くしてミック、あなたはないし、ストーンズもない。なぜならチャーリーはストーンズの心臓だからだ。その心臓が止まったことでストーンズは終わったと僕は思ってます。
チャーリー・ワッツの冥福を祈り、たくさん楽しませてくれたことに感謝の言葉を言いたいと思います。
ありがとう、チャーリー・ワッツ

2021.10.08 ON AIR

追悼チャーリー・ワッツvol.1

the rolling stones single collection the london years (Abkco POCD-1938/40)

ON AIR LIST
1.I Want To Be Loved / The Rolling Stones
2.It’s All Over Now / The Rolling Stones
3.Little Red Rooster/ The Rolling Stones
4.Get Off Of My Cloud / The Rolling Stones
5.Satisfaction / The Rolling Stones

ローリング・ストーンズのドラマー、チャーリー・ワッツが亡くなったことを知ったのは8/25の朝早くだった。
チャーリー・ワッツの英文の訃報がリツイートされていくつも出てきた。「ウソだろ?」と思ったが次回のストーンズのツアーを辞退して病気の治療に専念するというニュースが一週間ほど前に出ていたので気になって検索を続けてみたらやはりそれは本当だった。僕がロックを聴き始めた頃、好きな二つのバンドはビートルズとストーンズだった。だから最初にビートの洗礼を受けたのはリンゴ・スターとチャーリー・ワッツのドラムということになる。
それで今回はストーンズのアルバムに残されたぼくが好きなチャーリーのドラムの曲を聴いてもらおうと思う。
ストーンズは何かと言うとミックやキースの話になるが、僕はローリング・ストーンズは結局チャーリー・ワッツだと思っている。ストーンズの要であり、心臓であり、チャーリーのドラムのドライヴ感無くしてキースとミックがどんな曲をやっても意味がないとさえ思う。実際ミックもキースもチャーリー以外のドラマーと仕事をしているが、結局ストーンズ以上の成果はないように思う。それは多分半世紀以上チャーリーのグルーヴで音楽をやってきたから、彼らの体にはチャーリーのグルーヴが染み付いているんだと思う。

僕がストーンズと出会ったのは1964年か65年頃。中学2,3年。毎月の少ない小遣いを貯めてストーンズの1st.アルバムを買ったのは65年、15歳の時だ。実はLPレコードを買ったのはビートルズが最初でストーンズは自分にとって2枚目のLPだった。その前にストーンズのシングル盤(Come On/I Want To Be Loved)を買っていて、Side:AのCome OnよりSide:BのI Want To Be Lovedが気に入ってB面ばかり聞いていた。そして、その4年後くらいにその曲のオリジナルであるマディ・ウォーターズの原曲を聞くことになるのだが、ストーンズを聞いた頃はそれがブルーズの曲であることもマディのカバーであることも知らなかった。そもそもブルーズなんて何のことやら何も知らなかった。ただただストーンズこの曲がかっこいいと思って聞いていた。
1.I Want To Be Loved / The Rolling Stones
ダンサブルな曲にしたかったのだろう、ストーンズはマディのオリジナルよりテンポを速くしている。チャーリーのドラムの音がすごく耳に残る曲で、ミック・ジャガーの歌が少し浮ついている感じだがチャーリーのドラムがうまく抑えている感じがする

次はストーンズがイギリスのチャートで初めて一位になった曲。ソウルのボビー・ウーマックのカバーだ。ほとんど原曲通りのカバー。ここでもチャーリーのドライヴするドラムが気持ちいい。
2.It’s All Over Now / The Rolling Stones
まだ若いキースのギター・ソロが気持ちが先走っているというか、どこかあたふたした感じがするが、チャーリーのドラムが揺るがないビートを打ち続けるのでビートは安定している。
知っている方も多いと思いますが、ローリング・ストーンズは黒人ブルーズの素晴らしさをイギリスで広めたい、たくさんの人に知ってもらいたいという意図があって結成されたバンド。ブルーズを真摯に研究していた感じがする。多分初期の音楽的リーダーであったブライアン・ジョーンズの意図だと思う。次の曲のオリジナルはマディと同じチェスレコードの看板、ハウリン・ウルフがオリジナル。
ブライアン・ジョーンズのスライドギターの美しくクールな音とチャーリーのハイハットとスネアのリム・ショットだけのステディなビートが素晴らしい曲。60年代中頃にイギリスでブルーズを志向するバンドがいくつもあったが、やはりストーンズはバンド・サウンドの作り方がまず頭抜けてうまい。全員が余計なことをしないでビートのグルーヴを作ることにまず専念している。
3.Little Red Rooster/ The Rolling Stones

初期のストーンズの曲でドラムが印象に残る曲といえば次のオリジナル曲。これも僕はシングル盤で買い本当によく聴いた。チャーリーが同じパターンをずっと続けそれをやることでドライヴ感を出しています。
4.Get Off Of My Cloud / The Rolling Stones
初期のオリジナル曲では一番好きだったかも。

次はストーンズの永遠の定番。この曲はみんな聴きすぎてドラムにあまり注意して聞いてないと思うけれど、今日はドラムを中心に聞いてください。ストーンズのライヴだと音がラウドでチャーリーのやったいることがはっきりわからないけど、この65年のオリジナル録音を聞くとチャーリーはただひたすら一つのパターンを叩いているだけで、それがどんどんドライヴしている感じです。
「No No No!」のとこでドラムだけになりますが、そこでいかにビートが生きているか、そしていかにスネアを強くヒットしているかわかります。
5.Satisfaction / The Rolling Stones
ずっと続く「タット!タット!タット!タット!」というこのチャーリーのドラム無くしてこの曲はない。
チャーリーはインタビューでドラム・ソロをやったりするのは好きじゃないと言ってますが、ソロをやらなくても印象に残るドラマーです。

チャーリーは子供の頃、一番最初に手にした楽器はバンジョーだったそうです。それからドラムに興味を持ち始めデューク・エリントンやチャーリー・パーカーが好きでジャズをやってました。その内にブライアン・ジョーンズもメンバーだったこともあるアレクシス・コーナー「ブルース・インコーポテッド」というバンドに入り、そこからブライアンが自分のブルーズ・バンドを作りたいということでストーンズに参加。
チャーリーはストーンズが休みの期間に「チャーリー・ワッツ・クインテット」という名前で好きなジャズのバンドをやっていてYouTubeで楽しそうな様子を見ることができます。
やっていることは違うんですが、チャーリーの場合、基本にあるドラムで一つのグルーヴを貫く姿勢はストーンズもジャズも同じです。

次回は今もロックの歴史に残るストーンズの名曲からチャーリーのドラムの魅力を聞いてみようと思います。

2021.10.01 ON AIR

The Rough Guide To “The Best Of Country Blues You’ve Never Heard” vol.2 (Rice WNR-24051)

ON AIR LIST
1.Skin Man Blues / Hi Henry Brown
2.When You’re Down and Out / Tommie Bradley
3.Mississippi Water / Kid Prince Moore
4.You Ought to Move Out of Town / Jed Davenport & His Beale Street Jug Band
5.No Good Woman Blues / Jesse ‘Babyface’ Thomas

1920年代、30年代の写真も残っていない人たちのブルーズやジャグ、ゴスペルを聞いている時、アフリカン・アメリカンの彼らはどんな暮らしをしてどんな人生を送ったのだろうと思うことがある。
たった1曲や数曲だけの録音を残しただけの人もいるし、生年月日がはっきりしない人もかなりいる。録音されなかった人たちもたくさんいたのだろう。他の仕事をしながら仕事が終わったあとや、週末の楽しみに楽器を弾いて歌っていた人も多い。一つの所に留まらずずっと放浪しながら音楽を続けた人もいる。彼らの最期はどんなんだったのだろう。アフリカン・アメリカンに生まれたことがすでに苦労の始まりと言ってもいい時代に生きた彼らはどう想って一生を終えたのだろう。
歌いそして演奏している時だけはその苦しく、悲しい心が少しは和らいだだろうと思いたい。

このアルバムは自分が知らないブルーズマンが多く収録されている。
まずは一曲目、“ハイ”・ヘンリー・ブラウンとも呼ばれたヘンリー・ブラウン・・と言ってもほとんど情報がないのだが、生まれはブルーズの発祥のひとつであるミシシッピー・デルタのボリヴァーというところ。残された録音は1932年ニューヨークでの6曲のみでヴォカリオン・レコードからリリースされた。この録音でも一緒に演奏しているチャーリー・ジョーダンというギタリストとコンビを組んで活動していたようだ。タイトなリズムをバックに歌われる重く、少しラフな歌声が魅力的だ。セントルイスを中心に活動していて亡くなったのもセントルイス。享年48歳という彼の人生はどんなものだっただろう。
曲名が「スキンマン・ブルーズ」直訳すると「皮男のブルーズ」歌詞の内容が「スキンマンが大声出しながら俺のドアの前を通り過ぎる。彼はどこへ行っても”スキン!皮!」と叫んでる」
でも、このタイトルの「スキンマン」の意味が調べてもわからなくて、P-Vine レコードのブロデューサーの安藤さんが調べて教えてくれた。豚、ポークの皮を行商で売りに来る男のことだそうだ。豚の皮とか内臓は白人は食べないで捨ててしまうので、黒人がそれをうまく料理して食べていたことを知ってたが、皮だけ売りに来るおっさんがいるとは・・。昔の日本でも「トーフ、トーフ」って豆腐を自転車で売りにきてが、それに似たようなことか。この歌の最後にオチがあって「スキンマンたちはあんたの奥さんに皮を売って、奥さんを連れててしまう」という歌詞があるので、間男でもあるわけです。やっぱりそこかという感じだ。
1.Skin Man Blues / Hi Henry Brown
安藤さん情報でアメリカには「フライド・ポーク・スキン」という袋入りフライドポテトみたいな皮を油で揚げたスナックというのがあったので、ニューオリンズの盟友、山岸潤史にたべたことあるかとメールしたら「食べた事あるけどオレの口には合わん」と返信がきた。
次の曲は有名な”Nobody Knows You When You’re Down And Out”
クラシック・ブルーズの女帝、ベッシー・スミスで有名だがこのアルバムで歌っているのはギターのトミー・ブラッドレイ。この人も初めて聴く。一緒に演奏しているヴァイオリンのジェイムズ・コール。この人も知らない。この2人はデュオで活動して名の知れたミュージシャンだったようでいろんなミュージシャンとも共演、録音を残している。ジェイムズ・コールは「ジェイムズ・コール・ウォッシュボード・フォー」というグループもやっていてトミー・ブラッドレイもそのメンバーの1人だったようだ。
「お金があるときにはみんな寄ってくるが、落ちぶれた時にはみんな知らんぷりする」
この教訓はいつの時代も同じ。私はみんなが寄ってくるほどお金を持ったことがないので実感はないですが・・。
ベッシー・スミスは曲名が”Nobody Knows You When You’re Down And Out”ですが、ここでは”When You’re Down And Out”になっています
2.When You’re Down and Out / Tommie Bradley

次に聞いてもらう「ミシシッピ・ウォーター」はブラインド・ブレイクの”Georgia Bound”とかロバート・ジョンソンの”From Four Untill Late”と似たメロディ、コード進行の歌ですが、ブラインド・ブレイクは当時すごく売れていたので、このタイプの曲は恐らくたくさん作られていたはずだ。
ギター弾いて歌ってるのはキッド・プリンス・ムーア。暖かく、柔らかいいい声をしていてほのぼのする。
「ミシシッピの水はチェリーのワインのようだ。あの娘に会いにミシシッピに帰ろう」と歌っている。1936年録音
3.Mississippi Water / Kid Prince Moore
キッド・プリンス・ムーアは20曲近く録音が残っているようですが、ゴスペルも歌っている。20年代30年代はブルーズもゴスペルもジャズもカントリーもなんでも歌っていた人が多くいる。

次はジャグ・バンドです。ジェド・ダベンポート&ヒズ・ビール・ストリート・ジャグバンド。
ビール・ストリートとついてますからメンフィスのグループですが、以前この番組でON AIRした「ジャグ・バンドのすべて」というP-Vineレコードのコンピ・アルバムに収録されていた。メンフィスには有名なメンフィス・ジャグバンドがありジャグ・ミュージックに関わっていたミュージシャンがたくさんいて、グループもあればデュオやトリオとジャグがいかに人気があったかがわかります。これは1930年の録音。
4.You Ought to Move Out of Town / Jed Davenport & His Beale Street Jug Band
ジャグは楽しい。
次のジェシ・トーマス、別名ジェシ・ベイビーフェイス・トーマスはこのアルバムの中ではかなり有名なブルーズマン。
ルイジアナ出身だが活動していたのはテキサス。1911年に生まれて95年に亡くなってますから享年84歳。聞いてもらうのは1929年の彼の初録音の中の一曲。彼は当時18歳だ。
「自分が女性に優しく尽くして、気を使ったりして何が好きかなんて訊いたりするけど彼女たちは気にもしていない。女性を愛して、彼女たちの言う通りしてあげるけど他の男ところへ行ってしまう」と歌詞。要するに女性に尽くすのにどうして心変わりするのか・・と言う内容ですが、最後に「今はもういい男を見つけれなくてお前にはだれもいない」
5.No Good Woman Blues / Jesse ‘Babyface’ Thomas

イギリスの「ワールド・ミュージック・ネットワーク」という会社がリリースしたこのアルバムは全26曲収録されていて、その選曲のセンスもいい。日本盤は解説が入っていて発売はライスレコード、そしてオフィス・サンビーニャからリリースされています。タイトルはThe Rough Guide To “The Best Country Blues You’ve Never Heard”(vol.2) CDの帯には「知らぜらるカントリー・ブルース」というサブタイトルが付いている。まさに知らぜらる曲の数々だった。