2020.12.25 ON AIR

クリスマス・スベシャル

BLUE BLUE CHRISTMAS (P-VINE PCD-1619)

Soul Christmas (Atco /ワーナー P-11437) LP

Soulful Christmas / Aaron Neville’s (A&M 31454-0127-2)

A Christmas Celebration Of Hope / B.B.King (MCA 112 756-2)

ON AIR LIST
1.Merry Christmas Baby/Charles Brown
2.Back Door Santa/Clarence Carter
3.Let It Snow, Let It Snow, Let It Snow/Aaron Neville
4.Christmas In Heaven/B.B. King

今年も一年このブルーズ・パワーを聞いていただきありがとうございます。コロナ感染でこの番組の収録も現在リモート収録となっていますが、やはりスタジオに行って収録したいというのが本音です。
個人的にはライヴ、そしてツアーがほとんどなくなってしまい大きな打撃を受けていますが、それはぼくだけでなく他のミュージシャンのみなさん、コンサート会場、ライヴハウスで働くみなさん、もっと言えばほとんどの職種のみなさんが同じ境遇にいるわけです。
そんな中、今日はクリスマスです。年を重ねると年々クリスマスのようなイベントがどうでもよくなってしまいますが、クリスマスソングは好きです。でも、この番組はブルーズ・パワーなので他のラジオ番組のクリスマスソングとはちょっと違うブルーズのクリスマスソングをまず聞いてください。

1947年チャールズ・ブラウンの大ヒット・クリスマスソングです。
「クリスマスにはお前がダイヤモンドをくれるし、天国にいるような気分さ。ラジオからはご機嫌な音楽が流れ最高の気分。でも、今朝はまだ酒飲んでないからクリスマスツリーのようにしっかり立っているよ」という最後がやっぱりブルーズらしい歌詞になってます。
1.Merry Christmas Baby/Charles Brown
チャールズ・ブラウンはウエストコーストで活躍したピアノ・ブルーズプレイヤーで、いわばブルーズのナット・キング・コールです。ナイトクラブで都会的な少し洒落たジャズ風味のブルーズを歌いすごく人気がありました。

今の曲よりもっとブルーズっぽいというか、子供には聞かせられない曲が次のR&Bのシンガー・ソングライター、クラレンス・カーターの”Back Door Santa”
ブルーズにはBack Door Manという曲があるのですが、Back Doorは裏口つまり裏口から入ってくる男、Back Door Manは旦那さんがいない時に裏口からやってくるつまり間男。つまり人妻と密通、不倫する男のことです。この”Back Door Santa”は間男サンタとなります。「みんなは俺を間男サンタって呼ぶ。夜明け前にはトンズラするんやけどね。旦那がいない間に彼女たちを喜ばせてやるんよ。
本物のサンタは年に1回しか行かないけど俺は呼ばれたらプレゼント持っていつでも行くよ。子どもたちを追っ払うために小銭もポケットに用意している」
こんなクリスマス・ソングですがどうぞ
2.Back Door Santa/Clarence Carter
途中で時々クラレンス・カーターが「ホッホッホ」と笑うのが面白いのですが、こういう不倫、浮気について昨今めちゃ厳しくなっているのであまり言えませんがこの歌の大らかな感じがいいですね。

次はニューオリンズの、というよりアメリカ音楽界の宝の歌声、アーロン・ネヴィル。アーロンは1993年に「アーロン・ネヴィルズ・ソウルフル・クリスマス」というアルバムをリリースしています。
その中からスタンダードなクリスマス・ソングです。
3.Let It Snow, Let It Snow, Let It Snow/Aaron Neville
ブルーズ、ソウル系の黒人ミュージシャン達のクリスマス・アルバムというのはたくさんあるんですよ。テンプテーションズやグラディス・ナイト、ミラクルズ、アル・グリーンはアルバムもリリースしていますし、ブルーズマンのクリスマス・シングルは本当にたくさんあって、フレディ・キング、アルバート・キング、ライトニン・ホプキンズやサニーボーイ・ウイリアムスンのクリスマス・ブルーズもあります。
欧米の人たちにとってクリスマスはやはり一年でいちばん大切な日ですから、日本人みたいにチャラい感じではなくて精神的なものだと思います。
最後はB.B.キングの2001年のクリスマス・アルバム” A Christmas Celebration Of Hope”からChristmas In Heaven
「12月は変わらずこの町は同じようだ。町の広場の木のライトまだ灯り、赤や白や緑がいたるところで輝いている、そしてここに君がいてくれたらと願う。通りは雪が舞い落ちて建物は全て白く覆れる。天国のクリスマスってどんなものなだろうと思う」
天国にいるB.Bに聞いて見たいですね「天国のクリスマスってどんなものですか」って。
4.Christmas In Heaven/B.B. King
「私にとってクリスマス・アルバムを録音することは長い間の夢だった」とアルバムにB.B.キングの言葉が残されています。
何でしょうね、クリスマス・ソングには楽しく、賑やかな曲もあるのにこういう切ない曲もあり、寂しい気分にもなります。
僕も経験してますが寂しいクリスマスの日もありました。特に若いころ、クリスマス・ケーキどころかお金がなくてボロアパートに一人いてインスタント・ラーメン食べながら、テレビのクリスマス番組をぼーっと見てました。悲しかったのかも知れませんが、ラーメン食べて寝たらもうクリスマスは終わっていて、次の日はまた朝早くからアルバイトに行ってました。とにかく生きるためのお金が一番大切でクリスマスに寂しいとか悲しいとか思ってる余裕もなく、減っている腹を満たすために家賃を払うために生きているような感じでした。世の中にはクリスマスの夜に恋人と高いホテルに泊まって高いディナーを食べる人もいますが、キリスト様は御自分の誕生日にそんなことを願ってはいないと思います。願っているのはすべての人にささやかな幸せがあることだと思います。メリー・クリスマス!良いお年を!

2020.12.18 ON AIR

「78才とはとても思えないパワフルでソウルフルなドン・ブライアントの新譜」

You Make Me Feel/Don Bryant (Fat Possum Records CDSOL-5483)

ON AIR LIST
1.Your Love Is To Blame/Don Bryant
2.99 Pound/Don Bryant
3.A Woman’s Touch/Don Bryant
4.I Die A Little Each Day/Don Bryant
5.Walk All Over God’s Heaven/Don Bryant

4年前に74才でニューアルバム”Don’t Give Up On Love”を発表したドン・ブライアントが78才になった今年またニューアルバムをリリース!
高齢になるとまず声が出るのかという心配があるが、1曲目の最初の歌声を聞いて「バリバリやん」と78才の力強い歌唱にまず安堵。
安定した歌声で78才とは思えない。そして彼の実直な歌い方に「ああ、サザン・ソウル」と胸が熱くなる。
シャウトからファルセットまで喉がまったく衰えていないどころか歌の表現がまた深くなったように思える。
1曲目は新曲の”Your Love Is To Blame”。いまも曲を作る意欲が彼にはあり、それを最初に持ってくる誇りと気力に頭が下がる。
1.Your Love Is To Blame/Don Bryant
ドンは今更説明することもなく、60年代からメンフィス・ソウルの優れたソングライターとしても高く評価されている。ジョン・レノンが”One Of The Best Soul Records Of All Time”と言った名曲”I Can’t Stand The Rain”は奥さんのアン・ピープルズとの共作で、他にも”A Love Vibration”、”99 Pounds”など奥さんのアン・ピープルズに書いた曲があり、今回のアルバムではその”99 Pounds”が歌われている。
2.99 Pound/Don Bryant
今の曲は奥さんアン・ピープルズの1972年のアルバム”Straight From The Heart”に入っている。
70年代メンフィス・ソウルのトップ女性シンガーとして奥さんが売れた頃は、シンガーとしての活動は少し控えて裏方として彼女をサポートしていた。奥さんのアン・ピーブルズは素晴らしい歌手でチャーミングな女性で人気もすごくあり、70年代メンフィス・ソウルのクイーンだった。いまは病で彼女はリタイアしてしまい、もうステージを見ることもできないし、アルバムもリリースされない。でも、ドンはいい時も悪い時もずっと彼女に寄り添って生きてきた。そして、こうして長いアンとの人生の中で生まれて来る愛の歌をいまも僕たちに届けてくれている。

次の曲はドンが書いた新曲です
「何も育たない庭のように、家庭ではない家のように私は感じる。メロディのない歌のように、いつもひとりでいる男のように感じる。私に必要なものそれは女性のふれあいだ」僕はこの歌を聞いた時にひとりでいる中高年の男を思い描いた。死別したのか離婚したのか、理由はわからないが年老いてひとり暮らす男には燃えるような恋ではなくそっと手に触れてくれるような柔らかい愛が必要なのだ。静かにでも心のこもったふれあいが・・。
3.A Woman’s Touch/Don Bryant

1978年にO.V.ライトの来日公演がO.V.の体調不良ため中止になり、そのピンチヒッターとして来日したのがオーティス・クレイだった。O.Vへの期待が大きかったためにファンの間ではオーティス・クレイってどうなん?という感じで来日公園を迎えた。しかし、それは素晴らしいオーティスのソウル・ショーだった。自分が好きな、自分が信じた音楽にやはり間違いはないんだと確信させてくれたライヴだった。そのライヴでオーティスが歌った次の曲を作ったのがドン・ブライアントだ。
「列車が駅を出て行ってからぼくの人生は坂を下っていくようなものだ。流す涙に慰めもない。生きる気力を君はうばいさってしまった。君がいなくなってから僕は少しずつ死んでいくようなものだ。帰ってきてくれないか、ベイビー」 
4.I Die A Little Each Day/Don Bryant
本当にいい曲を作ります。
ドンはソウル・シンガーとしては大きなスターになった人ではなかったのですが、この晩年になってからの彼の頑張りは素晴らしいです。やっぱりいい曲を書く人でいい歌を歌う人です。
そして、今回のこのアルバムを後ろで支えているドラムのハワード・グライムス、オルガンのチャールズ・ホッジズ、キーボードのアーチー・ターナー・・とかってのメンフィス・サウンドの要たちが元気でいまも演奏していることが何より嬉しい。コロナが収まったらもう一度彼らと一緒に来日して欲しい、ドン・ブライアント。
もう一曲。
5.Walk All Over God’s Heaven/Don Bryant
78歳、現役。

2020.12.11ON AIR

ブルーズの偉人、ジョン・リー・フッカーの初期三枚組CDリリース!vol.1

Documenting The Sensation Recordings 1948-1952/John Lee Hooker (ACE JLHBOX019)

ON AIR LIST
1.Boogie Chillen/John Lee Hooker
2.Hoogie Boogie/John Lee Hooker
3.Crawlin’ King Snake/John Lee Hooker
4.Huckle Up Baby/John Lee Hooker
5.I’m In The Mood/John Lee Hooker

コロナ感染が広がって趣味のレコード店巡りも自粛して、新しいアルバムをゲットするのはもっぱらネットになっている。ネットで検索していると後から「あんた、こんなアルバム好きやろ」みたいなお勧めがたくさん来るのには辟易するが・・。
今日On Airするジョン・リー・フッカーの初期の音源を集めた”Documenting The Sensation Recordings 1948-1952″というCD3枚組もネットで購入した。
実はこの3枚組に収録されている音源はすでにほとんど持っているが、未発表テイクも収録されているとのこと。この「未発表」に私のようなブルーズ馬鹿は弱くてそのテイクを聞きたいがためについつい買ってしまう。
しかし、こうしてまとまった形で丁寧なライナーも付いてリリースされると初期のジョン・リーのことがよく理解できてそれはそれでいい。
まずは1948年ジョン・リー・フッカーのデビューシングルであり、1948年R&Bチャート1位に輝いたこの曲から
1.Boogie Chillen/John Lee Hooker
ジョン・リー・フッカー、31才。デビュー曲で一位だからかなりラッキー男だ。実際、後期のアルバムに”Mr.Lucky”というのがあるのだが、48年のデビューから亡くなる2001年近くまで常に現役を続けシーンから消えたのかと思うとまた何かのきっかけで登場したり、タフでラッキーな人だと思うしそこが彼を好きな理由の一つでもあります。
この頃、ジョン・リーはドラム、ベース、キーボードを入れた編成でライヴをやっていたのをA&Rのバーニー・ベニスマンというおっさんはあえてジョン・リーの弾き語りで録音した。これが成功の大きな要素だった。ジョン・リーのギターと歌のグルーヴ感を生かすために足下にベニヤ板を置いてジョン・リーの足音をリズム楽器のように録音するという技あり一本。これが有名なジョン・リーの「フット・ストンプ・ブギ」の誕生だった。
いまの曲はワン・コード、コードがひとつしかなく、それで延々とブギをする・・彼の声の良さとフット・ストンブの音。グルーヴする踊れるワン・コードのブギというのがまず彼の売りになった。もう一曲このタイプの曲を聴いてみよう。
2.Hoogie Boogie/John Lee Hooker
語りが少し入っているが、基本インストの曲でジョン・リーのリズムのグルーヴ感がいかに素晴らしいかというのがよくわかる曲。ブルーズはダンス・ミュージックの一つだからダンスできる、踊れるグルーヴ、踊れるリズムの良さというのが重要だ。ジョン・リーは今のような弾き語りで抜群のリズム感があったことがわかる。
ライヴでは延々とこのブギを続けて、客を呪術的なリズムのループの中に取り込んで行ったのだと思う。ジョン・リーは40年代終わりのデトロイトのブルーズのグルーヴメイカーだった。

「オレは這い回る王様蛇さ、オレの穴は誰にも使わせないぜ。くたばる日までオレは這い回るのさ。お前の窓を這い登り、ドアに這い上り、床を這い回る、くたばる日までな。オレは王様蛇」蛇をセクシャルな象徴として題材にしているジョン・リーを代表する曲。
3.Crawlin’ King Snake/John Lee Hooker
ジョン・リー・フッカーについてざっと説明。
ジョン・リーは1917年ミシシッピーのクラークスディルあたりの生まれ。このクラークスディルという地名はたびたびブルーズの話に出てくるが、いわゆるミシシッピー・デルタと言われる綿花の栽培で栄えた地域。
ジョン・リーの義理のお父さんは地元のブルーズマンで最初にギターを買ってくれて教えてくれたのもその義父。かたや実のお父さんは教会の牧師さんで母親も敬虔なクリスチャン。当然ジョン・リーも教会で歌っていた。つまり、子供の頃から教会の音楽と世俗のブルーズ、両方に彼は慣れ親しんでいたわけだが、次第にジョン・リーはブルーズをやりたくなってしまい、14才の時に家出します。日本だと中学二年です。家出してメンフィスへ行ったが連れ戻されます。そして二度目の家出でシンシナティに行き、そこから43年にデトロイトにたどり着きます。デトロイトはのちに「モータウンレコード」で有名になるがモーター・シティと言われ、ご存知のように自動車メーカーがたくさんあった大都会。1940年代当時は最先端の街のひとつ。当然夜のクラブなどもたくさんあり音楽が栄えた街でした。そこで彼は昼の仕事をしながら夜クラブに飛び入りしたり、ハウスパーティで歌ったりしていた。ハウス・パーティでジョン・リーの歌を聞いて「こいつ、ええなぁ」と思ったのがレコード屋を経営しているエルマー・バービーという男。このエルマーが「こいつ、なかなかええで」と同業者のパン・アメリカン・レコード・カンパニーのA&Rのバーニー・ベニスマンにデモテープを聞かせた。彼はまずジョン・リーの声に惹かれたというのがわかる声の良さを確かにジョン・リーは持っている。「こんな声聞いたことがない」と言ったベニスマンのレコードレーベル名が「センセーション」なので今回のアルバムタイトル”Documenting The Sensation Recordings “になっています。このバーニー・ベニスマンがジョン・リー・フッカーを世に出した人です。
この時はジョン・リーにとりあえず2000ドル(20万くらい)を渡してレコーディンク゜となりました。当時のブルーズマンにすればかなりの金額だと思います。ベニスマンの期待の度合いがわかる。

次はデビューの翌年1949年の録音で、基本は同じジョン・リー・スタイルのブギだが、ちょっとしたポップス性も感じさせる曲。1949年というとブルーズからR&Bに移行していく時代。そういうR&Bのポップなテイストを彼は次の曲で出している。まあ、どこがポップやねんと思う人もいるかもだが・・。
4..Huckle Up Baby/John Lee Hooker
ジョン・リーは意外とその時代に流行っている曲とか新しい音楽の流れを知っていて、そういうテイストを自分の曲に入れ込んでいる。そういうところも彼がブルーズマンとして長く活躍できたところだと思う。どちらかというと不器用なブルーズマンでいろんなことができるタイプではなかったのだが、彼はそういう自分をよく知っていたように思う。

5.I’m In The Mood/John Lee Hooker
今日聞いたのは三枚組なのでこのジョン・リー・フッカーまたそのうちON AIRします。これからジョン・リー・フッカーを知りたい方にはお勧めのボックスセットです。
僕は輸入盤を買いましたが、P-Vineレコードからの日本版もあります。

2020.12.04 ON AIR

Black Lives Matterに連動してリリースされた差別、貧困、格差を訴える曲

Freedom And Justice(P-Vine PCD-24982)

ON AIR LIST
1.Wake Up / Willie Rodgers 
2.Cummins Prison Farm / Calvin Leavy
3.Let’s Make A Better World / Earl King
4.No More Ghettos IN America / Stanley Winston

今年のアメリカはコロナ感染の問題だけでなく、人種差別問題の「Black Lives Matter」(以下BLM)の運動に揺れてます。この「黒人の命も大切」という人種差別反対運動は2012年くらいから始まっていたのだけど、今年5月にミネアポリスで黒人のジョージ・フロイドさんが白人警官による過剰な取り調べで首を足で押さえつけられて窒息死するという事件から運動が再燃したことは皆さんもご存知だと思います。その時のフィルムをニュースで見た方もたくさんいると思いますが、フロイド氏が「呼吸ができない」と訴えているにも関わらず、無抵抗な彼に対して白人警官が続けた行為はやはり過剰なものでした。その後、別の街でも黒人が白人警官に拳銃で撃たれる事件が勃発してBLMの運動はますます大きくなっていきました。こういう黒人あるいは有色人種に対する一部の白人の差別意識は今に始まったことではなく、黒人を奴隷としてアフリカから連れて来た時から始まっていることです。全ての白人がそういう差別意識を持っているわけではないのですが、ここ数年のトランプ政権になってからそれがひどくなって来た気がします。
そんな折に最近P~Vineレコードからリリースされた今回のコンピレーションアルバム「Freedom And Justice」「自由と正義」
過去、いろんな黒人ミュージシャンが差別や貧困、格差について歌った曲を集めたものでソウル、ファンク、ブルーズ、ゴスペルと多彩な選曲になっています。
まずはアルバムの一曲目、先日この番組のゴスペル特集でもON AIRしたゴスペルカルテット「ソウル・スターラーズ」の60年代後半メンバーだったウィリー・ロジャースが歌う”Wake Up”
「同胞を愛することを学ぼう、同胞を信じよう、目を覚まそう、手遅れになる前に」というメッセージを強烈なファンク・ビートに乗せた一曲
1.Wake Up / Willie Rodgers 
ストレートなメッセージもさることながら曲としてもかっこいい、60年代からのファンクの流れを感じさせるいい曲です。
いまの曲はウィリー・ロジャースがソウル・スターラーズから独立してソロになった71年最初のシングルのB面としてリリースされた曲ですが、さすがゴスペル出身の強力な歌です。

ブルーズでも表現のスタイルは違うのですが、昔からプロテストのメッセージが出されている曲はありました。
次に聴いてもらうのは。今日のこのアルバム「Freedom And Justice」をリリースしたP-Vine レコードが創立された最初のアルバムとして出されたものです。カルヴィン・リーヴィーの「カミンズ・プリズン・ファーム」そのタイトル曲を聴いてみましょう。
「アーカンソーの向こうのミズリーで生まれた」から始まるこのブルーズは貧しいがゆえに盗みをして刑務所でひどい目に遭う毎日を歌ったもの。刑務所の看守によって行われていた虐待を告発した歌でもありました。何度聞いても衝撃を受けます。途中の突き刺すようなギターソロも印象的です。

2.Cummins Prison Farm / Calvin Leavy

人種差別の問題は単に人種のことだけでなく黒人層の貧困と格差の問題もからんでいます。白人との所得の格差や例えば表沙汰にならない賃金や昇進の格差がずっとなくならないんですね。露骨ではない目に見えない差別は本当にたくさんあるのがアメリカの社会です。
普段から行われているこういう人種の差別や格差の問題が表面化すると必ず暴動が起こります。そういう暴動には銃を持った警官だけでなく、暴動を押さえこむために軍隊まで出動するのがアメリカです。警官が犯人をすぐ銃で撃つというようなことは日本では考えられません。実は僕はロスにいた時に警官に銃を向けられたことがあります。それはハリウッドで起きた強盗事件の犯人の車が僕が乗っていたキャデラックと同じような車だったらしくて、何人もの警官に取り囲まれて車を止めるように指示されてドアから外へ手を挙げて出て、車の屋根に両手を載せて動かないでじっとしていたのですが、ものすごく怖かったです。変な動きをしたらアメリカの警官はすぐに銃を撃つと聞いていたので本当に恐怖でした。
でも、そういう社会、すぐに銃が出てくる社会になっているアメリカという国が本当に大嫌いです。アメリカにある音楽や文化は好きなのに残念です。
銃社会をやめられない民主国家ってあり得ないです。

次の歌は希望のある歌です。「倒れている隣人がいたら助け起こしてあげよう。お互いに助け合って自由の鐘を鳴らそう。みんなで助け合ってより良い世界にしょう」
こういう歌が生まれて来るアメリカは大好きなんですけどね。ニューオリンズの大好きなミュージシャン、アール・キング
3.Let’s Make A Better World / Earl King

最後の曲はほとんど知られていない歌手で、あまりにも情報がないのでこのアルバムをリリースしたP-Vineレコードの担当の方に聞いてみました。
でも、やっぱりどういうミュージシャンなのか実態がよくわからなくて、分かったのは全部でシングルを3枚だしている。それだけです。
もうアメリカにゲットーはいらないという歌で、ゲットーというのは貧しいアフリカン・アメリカンやラテン子系、アジア系のアメリカンが住んでいる地域のことです。スパイク・リーの映画「Do The Right Thing」の舞台になっている街のようなところです。犯罪も起こりやすく、治安も悪いところが多いです。つまり、この歌のゲットーはもういらないというのは貧しさや格差への告発です。

4.No More Ghettos IN America / Stanley Winston
こういうアメリカの人種差別の話をしたり、関連の音楽を聴く時に必ず考えなくてはいけないのは「では自分自身は日常の中で、この日本に住んでいて誰に対しても差別の気持ちはないのか、人種はもちろん性別、体格、容姿、所得などで知らないうちに差別の気持ちが自分の中で起こっていないか」ということだと思います。