2019.04.26 ON AIR

LPレコードで聴くブルーズ名盤

セックスのことを歌った古いブルーズを集めた珍しいコンピ盤

BAWDY BLUES 1935-1940 (MCA/ビクター MCA-3539)

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ON AIR LIST
1.Let Your Linen Hang Low/Rosetta Howard&Charlie McCoy
2.Candy Man/Rosetta Howard With The Harlem Hamfats
3.Shake That Thing/Kokomo Arnold
4.It’s Your Yas Yas Yas / Old Ced Odom With Lil “Diamonds” Hardaway
5.My Daddy Rocks Me / Trixie Smith

「ブルーズで聴く名盤」シリーズをここ数回やっているのですが、今回は名盤というよりも珍しい珍盤というべきかも知れません。
1976年に日本のビクターレコードからリリースされた日本編集のアルバムでタイトルは「ボーディ・ブルース1935-1940」BAWDYとは「みだらな」「いやらしい」という意味です。
監修は亡き中村とうようさん、選曲、解説、訳詞は三井徹さんがされています。三井さんの詳細な解説と訳がないとわからないことも多かったブルーズ・アルバムです。
というのもさっき言ったようにタイトルのボーディ・ブルーズ、いやらしいブルーズ、つまり猥褻なブルーズの曲がずらり14曲収録されています。その中にはスラングとかダブル・ミーニングとか昔の黒人にしかわからない英語があり、それを三井さんが丁寧に訳詞、解説されていてなるほどと思うことが多いアルバムです。
ちなみに日本のサブタイトルが「ブラック・エロチカ歌集」ですから・・
なので今日はエロいブルーズの曲が流れます。放送コードにひかからないようにそして聴いている方がイヤな気分にならないように喋りたいと
では、まず一曲
敵娼と書いて「あいかた」と読むんですが、Let Your Linen Hang Lowですから「オマエの着てる下着(リネン、リンネル)を脱いでくれ」と言う歌です。
デュエットなんですが、男が「下着を脱いでくれ」と女に言うんですが、女の方が「どんなことがあっても下着は脱がないわよ」と返す、すると男が「窓も閉めてドアも閉めて下着を脱いでくれへんか」と言う、すると女が「1ドル50セント以上くれたら脱いでもええわ」すると男が「1ドル50戦とやったら持ってるから窓もドアも閉めて下着を脱いでくれ」というグダグダの歌です。擁するに娼婦とその娼婦を買おうとする男のかけあいですが、1ドル50セントは安くないかとその女に言いたい。
1.Let Your Linen Hang Low/Rosetta Howard&Charlie McCoy

セックスは自然な人間の営みですからブルーズだけでなく、ロックやソウル、ファンクなんかでは露骨にそれが歌詞になっているものも多いです。日本のポピュラー・ミュージックではなぜかセックスに関する歌は若い人のロックでもほとんど出てきませんが、逆にそれの方がおかしいように僕は思います。

次は曲名が「キャンディ・マン」もうそれだけでニャッとするあなたは英語をよく知ってるか、黒人音楽をよく知ってるか。三井さんの解説によるとキャンディというのはチョコレートの棒状のキャンディ・バーを指すそうで、まあ男性のあそこを指しているそうです。まあ、わかります。女性がみんなキャンディマンを好きだと、彼は精力絶倫だという歌詞ですが、キャンディマン!ってみんなでコーラスしていたりファンキーな感じで暗い感じはまったくないです。こういう歌を歌う女性歌手って日本にいないですよね・・ああ、僕がブルーズ・ザ・ブッチャーのゲストに来てくれるうつみようこちゃんなら歌えるか・・。
ロゼッタさんはこういう歌ばかり歌っていたわけではなくて、30年代から40年代のジャズ・ブルーズ・シンガーのひとりです。ビリー・ホリディやエラ・フイッツジェラルドが収録されている女性ジャズ・シンガーのコンピ盤にも入ってるジャズ・シンガーです。
47年が最後のレコーディングで50年代は教会で働いていたそうです。こういうエロい歌を歌っていたことの懺悔の気持ちでしようか。一緒にキャンディマン!歌ってください。
2.Candy Man/Rosetta Howard With The Harlem Hamfats
バックバンドの「ハーレム・ハムファッツ」はハーレムとついてますが、シカゴのバンドでデッカ・レコードのスタジオ・ミュージシャンとして結成されたバンドでいまのロゼッタさんはじめいろんな歌手のバックを30年代なかばから40年代にやった有名なバンドです。

次はShake That Thingですから「あれを揺らせ」ですが、新しいダンスの踊り方を歌いながら実はセックスのことも匂わせるという黒人音楽によくある手です。
しかもブルーズにはShake That Thingという同じタイトルの曲を歌っているブルーズマンが、ライトニン・ホプキンス、ミシシッピー・ジョン・ハート、ワイノニー・ハリス、メンフィス・スリム、パパ・チャーリー・ジャクソンといっぱいあります。
「年取った奴らが若い連中に教えてる、とにかく揺すればいいんだと」途中でジェリー・ロール・キングという歌詞が出てくるんですが、これまた精力絶倫ということで「チャーリー叔父さんはジェリー・ロール・キングで揺すりすぎて背中にコブができている」
どんなおっさんやねんと言いたいです。いませんかあなたの周りのジェリー・ロールキング
歌詞もも面白いですが、ギターとピアノの演奏もタイトでばっちりです。
3.Shake That Thing/Kokomo Arnold (side2-1)
次の曲は曲名が「It’s Your Yas Yas Yas」というのは、知ってる方もいると思いますがローリング・ストーンズの「ゲット・ヤ・ヤ・ヤズ・アウト」オマエの尻を出せよという意味ですが、そのYaとこの歌のYasは同じでお尻という意味です。英語でお尻はAssですがそれをおおっぴらに言うのは憚れるので、子供がお尻をYasというのでわざと幼児語のYasを使ったそうです。三井さんの解説、役に立ちます。
内容はお尻にまつわる出来事がいくつか歌われるのですが、昔から女性のお尻はいろんなトラブルや快楽の原因になると言う内容ですが、おもしろいのは三番の歌詞に「政治家はいつも選挙の時だけ美味しいことをオレたちに言うけど、選挙が終わったら俺たち納税者はケツを蹴られる。俺たち納税者はバカを見る。それは昔から変らない」本当にその通り!
オールド・セッド・オドムとリル・ダイヤモンズ・ハーダウェイで
4.It’s Your Yas Yas Yas / Old Ced Odom With Lil “Diamonds” Hardaway (side2-5)

このアルバムに入っているこういう性、セックスに関するブルーズを聴いていると本当に日本とアメリカの黒人文化の違いを感じます。日本では僕なんかもちょっと下ねたっぽいこと言うと笑いにならないで、お客さん引いてしまうことが多いんですよね。いわゆる下ネタ、春歌みたいなものをレコーディングするのはタブー扱いになっていて笑わないんですよね。でも、セックスは人間の普通の営みであり、その営みで僕らみんな生まれてきてるわけですから、それを第三者的に見て「なんかセックスっておもろいよな」とはなかなか日本はならないんですね。このアルバムに収録されている曲はなんか自分もやってることなんやけど、セックスとそれにまつわることって滑稽、おもろいよな・・と歌ってるだけなんですけどね。
次はMy Daddy Rocks Me、ダディはおとうちゃんのことやなくて彼氏という意味ですよ。直訳すると私の彼は私を揺するですよ。「私の彼はずっと私を揺すってる時計が一時を打った、3時になっても、6時になってもずっと揺すってる。ああもう10時やん。まだ揺すってるわ」とまあこれも精力絶倫男のことですね。
5.My Daddy Rocks Me / Trixie Smith

ブルーズの歌の中にあるエロティックな言葉は他にもたくさんあるんですが、例えばブギウギという言葉もロックもR&Rという言葉もジャズということばにもセックスという意味が含まれています。
Rock Me Baby Rock Me All Night Long ですから、一晩中ロックしてくれです。
日本でももっとおおらかに笑ってこういう歌を聴ける風潮ができるといいですね。

2019.04.19 ON AIR

黒人音楽と白人音楽が交叉し始めた50年代をテーマにした映画
「アメリカン・グラフィティ」vol.2 LPでどうぞ!

AMERICAN GRAFFITI ・Original Sound Track Recording
(ワーナー・パイオニア P-5642/3)

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ON AIR LIST
1.Ain’t That A Shame/Fats Domino
2.Ya Ya/Lee Dorsey
3.To The Aisle/The Five Satins
4.Green Onion/Booker.T& The MG’s
5.At The Hop/Flash Cadillac And The Continental Kids
6.All Summer Long/The Beach Boys

前回から1973年に公開された映画「アメリカン・グラフィティ」のサウンド・トラックを聴きながら、50年代から60年代の黒人音楽への白人音楽の関わりみたいなことを話しています。
このLPレコードは2枚組計41曲収録されていて、前回聴いたバスター・ブラウンの「ファニー・メェイ」のような黒人ブルーズからデル・シャノンの「悲しき街角」のような白人ポップスまで収録されています。
今日はまずニューオリンズR&Bの大御所、ファッツ・ドミノからです。ジョン・レノンもソロ・アルバムでカバーしていました。1955年ポップ・チャート10位まで上がりましたが、これをカバーした白人シンガー、パット・ブーンのバージョンは1位になりました。当時は黒人がちょっとヒットさせた曲を白人がカバーして大ヒットになるということがよくありました。やはり白人にとってはそれが黒人のカバーであるかどうかより、白人が歌っていればいいわけなのでプロモーションの力も違うので白人の方が売れることになってしまいます。パット・ブーンのバージョンをYouTubeで聴いてみましたが、炭酸の抜けたコーラのようなテイストでした。
では、偉大な黒人ピアニストであり、シンガー&ソングライターのファッツ・ドミノの歌
1.Ain’t That A Shame/Fats Domino

次はもうひとりニューオリンズのシンガー、リー・ドーシーの1961年の曲です。50年代中頃から60年代にかけてニューオリンズのR&Bがかなりヒットして白人の若者たちに浸透していったと思われます。この曲はR&Bチャートで1位、白人のポップチャートでも7位まで上がりました。ファンキーでポップなこの曲もジョン・レノンがカバーしていますが、リー・ドーシーはイギリスでも人気でコンサートにも出かけています。

2.Ya Ya/Lee Dorsey
昔はこの映画にはアメリカの有名なラジオのディスクジョッキー、ウルフマンが出演して映画の中でもDJの役をやっているのですが、実は僕はこのウルフマンにロスで会ったことがあり、彼のラジオ番組にも出演しました。というのは彼が日本でラジカセのCMにデルために来日した時どこかの放送局で日本で英語で歌っているバンドとシンガーをON AIRしながらDJする特別番組をほやったのですが、その時に僕がやっていたウエストロード・ブルーズバンドが選ばれてON AIRされたんですが、その後気に入ってくれたらしくて会いたいとレコード会社に連絡がありました。僕はその頃ロスにいてブラブラしていたんですが、それでロスのカフェで待ち合わせしたらこの映画の本物のウルフマン・ジャックが来て「おおっ!」という感じでした。それで彼のスタジオに連れていかれていまから収録するから出ろって言われてほんのの2,3分ですが出ました。その時ウルフマン・ジャックが「
日本のローリング・ストーンズ」と言って紹介してくれたのですが、「いやいや、それは言い過ぎやろ、おっさん」いう感じで楽しい人でした。
このアルバムでは次の曲でそのウルフマンがラジオを聴いている若者と電話でちょっと話をして曲に入るんですが、 ウルフマンが「こんにちは、君はいくつ」と訊くと男の子が「僕は13歳だよ。あなたはいくつなの?」と言うと、ウルフマンが「僕はたった14歳だよ」と冗談を言うと男の子が「オーボーイ、I Love You Wolfman」と笑って返してます。聴いてください。曲は
3.To The Aisle/Five Satins
いまのは黒人のコーラス・グループ、ファイブ・サテンズでしたが、50年代中頃から黒人のドゥ・ワップのコーラスグループのブームがありました。このアルバムにもいまのファイブ・サテンズ、フラミンゴス、クローバーズ、ハート・ビーツ、スパニエルズとたくさん収録されていて、ドゥ・ワップ・ブームのすごさがわかります。ドゥ・ワップはきれいなハーモニーのコーラス音楽ですし、表面的な激しさ

次はブッカーT.&MG’sの「グリーン・オニオン」
キーボードのブッカーTはじめ、ギターのステーヴ・クロッパー、ベースのドナルド・ダックダン、ドラムのアル・ジャクソンからなるMG’sはメンフィス・スタックス・レコードのスタジオ・ミュージシャンのグループでオーティス・レディングはじめ多くのスタックスの録音そしてライヴもこなしていた。ブルーズ進行のどうってことないと言えばどうってことないインストルメンタルの曲が62年にチャート3位まで上がった。このアルバムでは唯一のインスト曲。
4.Green Onion/Booker.T&MG’s
アメリカの青春映画のひとつとして有名なこの映画は、4人の白人の若者のある一夜の出来事を映画にしたもので恋愛あり、喧嘩あり、悩みありの青春もの。監督のジョージ・ルーカスの出世作であり内容は彼が過ごした50年代の青春を描いていると言われてます。
こんな楽しい曲も入ってます。69年のウッドストック・フェスティバルの映画を観た方なら知っているこの曲はシャ・ナ・ナというオールド・ロックンロールのコーラス・グループが歌ってました。オリジナルは1958年のダニー&ザ・ジュニアズでこのアルバムで歌っているフラッシュ・キャデラック&コンティネンタル・キッズもカバーなんですが、楽しいロックンロールです。
5.At The Hop/Flash Cadillac And The Continental Kids

このアルバムの最後は僕もリアル・タイムで10代の頃ずっと好きだったビーチ・ボーイズです。
映画はベトナム戦争の泥沼にアメリカが入る直前の頃、50年代から続いた平和で豊かな最後の楽しい時代だったを描いているが、映画最後のエンドロールで映画の主人公だった4人のそれからどうなったかが文字で出てくる。そして、その中のひとりテリーがベトナムで亡くなったという文字がでる。その時にビーチボーイズのこの曲が流れる。
楽しく過ごした夏が終わっていくという曲です。
6.All Summer Long/The Beach Boys

アメリカン・グラフィティ観た方も観てない方もDVDで観てください。いつの時代も変らない青春の感じが描かれてますが、自分の高校時代の青春をきっと想い出すと思います。
そして、人種差別や権利の差別がまだたくさんあった時代で社会的政治的にはまだまだひどす時代ですが、黒人と白人が音楽の上では互いに歩み寄っていく時代です

2019.04.12 ON AIR

黒人音楽と白人音楽が交叉し始めた50年代をテーマにした映画
「アメリカン・グラフィティ」をLPレコードでどうぞ!

AMERICAN GRAFFITI ・Original Sound Track Recording
(ワーナー・パイオニア P-5642/3)

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ON AIR LIST
1.Rock Around The Clock/Bill Haley And The Comets
2.Funny Mae/Buster Brown
3.That’ll Be The Day/ Buddy Holly
4.Johnny B.Goode / Chuck Berry
5.Smoke Gets In Your Eyes/The Platters

皆さんは「アメリカン・グラフィティ」という映画をご存知でしょうか。
1973年に公開された映画です。1962年の夏のある一晩の出来事を描いた青春映画で監督はジョージ・ルーカス、プロデューサーのひとりがフランシス・コッポラ、主演が名優リチャード・ドレファス。
実は僕はこの映画が公開された73年当時観ていたけど、監督がジョージ・ルーカスだったとは知らなかった。「スター・ウォーズ」が公開されたときにジョージ・ルーカスの経歴を見て初めてこの「アメリカン・グラフィティ」が彼の出世作だったと知った。
映画の中でふんだんに50年代から60年代のR&R、R&B、コーラスグループの曲が流れるのと、時代設定が60年代はじめでそのファッションとか車とか食べ物とかすごく憧れながら見ました。

まず映画のタイトル・クリップと一緒に最初に流れるのがビル・ヘイリー&ヒズ・コメッツのこの有名R&R曲
1.Rock Around The Clock/Bill Haley And The Comets
ビル・ヘイリーは55年に映画「暴力教室」すごいタイトルですが、本題はBlack Board Jungle(黒板ジャングル)これもすごいか。その映画にこの曲が使われてヒットするんですが、使われる前は全然売れてない曲でした。ビル・ヘイリーは白人で元々カントリー&ウエスタンを歌ってました。まああまり売れてないシンガーでしたが、キャリアは長くてこの曲がヒットした時もう30歳は過ぎていました。最初写真を見たときなんかカッコ悪いおっさんやなと想いました。それでカントリー&ウエスタン歌っててもヒットが出ないので、R&Bのテイストを入れたらどうやとプロデューサーに言われていまの曲になったのですが、そり頃には黒人のジャッキー・プレストンがアイク・ターナーのバンドでヒットさせた”Rocket 88″とか、ジョー・ターナーの”Shake Rattle Roll”とか黒人のブルーズをR&R風にしてカバーして売れるようになりました。
おおまかに言うと黒人のブルーズ+白人のカントリーでR&Rテイストが作られました。白人のエルヴィス・プレスリーもそうですし、黒人のチャック・ベリーにもカントリー・テイストがあったから売れたのだと思います。

映画「アメリカ・グラフティ」にはいろんな曲が出てくるのですが、もろに黒人のブルーズというと次のバスター・ブラウンのヒット曲だけです。1960年のR&Bチャート1位、ポップチャート38位です。1960年に白人音楽のチャートであるポップチャートで38位というのはすごいです。
イントロに本物のラジオのDJウルフマン・ジャックの声が入ってます
2.Funny Mae/Buster Brown

次の白人のバディ・ホリーもR&Rのパイオニアのひとり。ビートルズがバディ・ホリーをすごく好きなのは有名な話で”Words Of Love”という曲をカバーしていますが、ビートルズの前身バンド「クォーリーメン」の時に初めてのレコーディングでジョンとポールが選んだのが次のバディ・ホリーのこの曲です。1957年リリース、全米5位になった彼のデビュー曲です
3.That’ll Be The Day/ Buddy Holly
ビートはシャッフルで途中のギターソロもモロにブルーズですね。
バディ・ホリーもカントリー&ウエスタンを歌っていたのだけどそこに黒人のブルーズやR&Bのテイストを加えてヒットを出した。そのきっかけとなったのがエルヴィス・プレスリーで、バディはプレスリーのレコード聴き、ステージを見て自分の音楽を変えていった。当時、歌を歌うのは大所帯の楽団だったり、ホーンセクションを加えたものだったけど、バディはお金がなかったのでベース、ドラム、ギター二本というバンドスタイルで活動せざるを得なかった。そういうバンドスタイルでも音楽が出来るとビートルズ、ストーンズたちに影響を与えた。
でも、黒人ブルーズの世界ではギター二本にベース、ドラムというようなバンドスタイルで演奏することはその前から普通にやっていたことで、時にはギター一本にベース、ドラムとかギター二本のドラム、ベースなしとか、ギターとドラムだけとかブルーズマンは平気でやってました。

そしてバディ・ホリーは売れてからソロになり次第にポップシンガーになっていくのですが、そのあたりはプレスリーと同じ道に入った感じです。それで彼がR&Rのパイオニアのひとりだとしたら、絶対的なR&Rのパイオニアはやはり黒人のこの人。そして永遠のR&Rの名作は1958年のこの曲。
4.Johnny B.Goode / Chuck Berry
チャック・ベリーがR&Rの王様である理由はヒット曲の多さと、その後いままで歌い継がれている曲の多さ、そして音楽的には曲作りの上手さ、ノベルティな楽しい歌詞、印象に残るギターのリフ、フレイズ、ギターソロの上手さ、そして、黒人とは思えないいい意味での軽さが白人にも支持されていまに至ってるのでしょう。
そして50年代中頃から終わりにかけて我も我もとR&Rを歌う白人の若者がデビューしてくるのですが、当初は白人の親の多くはR&Rを不良の音楽として子供に聴かせないようにしていたのだけど、黒人音楽に影響を受けたミュージシャンがプレスリー、バディ・ホリー、ビル・ヘイリーとどんどんデビューしていく中でもうそういう黒人と白人という区別の制約も音楽の上ではだんだん崩れていくんですね。プレスリーは「僕がやっている音楽、ダンス、着ているファッション、ヘアスタイル・・全部黒人が前にやっていることだよ」プレスリーは黒人のクラブに忍び込んで黒人音楽を吸収した人ですから、黒人のカッコ良さよく知ってたんですね。
でも日常生活、社会的政治的には変らず根強く黒人への人種差別は60年代へつづくわけです。そして黒人の権利を求める公民権運動が始まっていくわけです。
このサントラ盤にはコーラス・グループもかなり収録されているのですが、3曲も使われているのが黒人コーラスグループのプラターズ。黒人グループとしは破格に売れていた彼ら。うちの親父もレコードもってました。いまから聴く曲はうちの居間でもよく流れてしまた。ジャズ・コーラスグループでしたが、ポップな曲も多くて白人の若者にも聴かれていたのだと思います。日本のタイトルは「煙が目にしみる」
5.Smoke Gets In Your Eyes/The Platters
ほかにも「Only You」, 「The Great Pretender」,「 My Prayer」, 「Twilight Time」, 「You’ll Never, Never Know」, 「Sixteen Tons」そしていまの「Smoke Gets In Your Eyes」などプラターズは50年代なかばから白人、黒人両方にミリオンセラーの連発でした。

「アメリカン・グラフィティ」のようなアメリカの音楽がたくさん流れる映画のサントラレコードを聴いていると、黒人音楽がどんな風に白人に受け入れられていき、白人がどんな風に黒人音楽のテイストを使っていったのか、また今度は黒人の方が白人にも受け入れられ売れるためにどうしていったのかがよくわかります。来週もこのアルバムを聴いてみようと思います。

2019.04.05 ON AIR

LPレコードで聴くブルーズ名盤

70年から80年代にかけて最高のブルーズロック・サウンドを出していたFabulous Thunderbirds
Butt Rockin’ / The Fabulous Thunderbird(CHRYSALIS RECORDS PV-41319)
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ON AIR LIST
1.I Believe I’m In Love/The Fabulous Thunderbirds
2.I Hear You Knockin’/The Fabulous Thunderbirds
3.Cherry Pink and Apple Blossom White/The Fabulous Thunderbirds
4.Tip On In/The Fabulous Thunderbirds
5.Matilda/The Fabulous Thunderbirds

ブルーズにそんなに詳しくない人でもロックを好きな人ならスティーヴィー・レイボーンの名前は知っていると思います。
80年代にジミー・ヘンドリックス・スタイルとブルーズロック・スタイルをミックスしたギタースタイルで登場して、一躍人気の出たスティーヴィー・レイボーン。
その実の兄がジミー・ボーンと言いまして彼は弟とはまた違うギター・スタイルで僕はどちらかというとその兄のジミー・ボーンの方が好きなんですが、そのジミー・ボーンがハーモニカのキム・ウィルソンと1974年に作ったバンドが「ファビュラス・サンダーバーズ」です。
アルバム・デビューは1979年。僕は最初ロスアンゼルスの友達にいいブルーズロックのバンドがいると言われてカセットテープをもらったのがそのデビューアルバムでした。

これが実にいいブルーズロックバンドで、最初歌がいいなと思いました。ほとんどキムが歌っているんですが、白人にありがちな無理な発声もなくもまたか細い感じもなく、すごく自然に歌っていて、演奏よりもまず歌に弾かれました。
今日はその「ファビュラス・サンダーバーズ」の1981年の3枚目のアルバム”Butt Rockin'”をレコードで聴いてみようと思います。
このアルバムは去年僕の後輩のギタリストで上村秀右くんにプレゼントしてもらったもので、あまりにいいので今日ON AIRです。
アルバム・タイトルのButt Rockin’のButtとは・・
まずはアルバムの一曲目
1.I Believe I’m In Love/The Fabulous Thunderbirds

ファビュラスはテキサスのバンドなのでワイルドなテキサス・スタイルととなりのルイジアナのスワンプ、そしてニューオリンズの音楽テイストも入っているところが特色です。

次の曲は以前オリジナルのレイジー・レスターをON AIRしましたが、いわゆるルイジアナのスワンプ・ブルーズの有名曲です。レイドバックとステディなビートが合わさった実にいい味のブルーズなんですが、ファビュラスはその味を損なわないでスワンプ感もしっかりあります。
2.I Hear You Knockin’/The Fabulous Thunderbirds
ちょっとポップな感じもあり最高のダンス・ナンバー、パーティ・ソングです。残念なことにオリジナルのレイジー・レスターは去年の夏に亡くなりましたが、たぶんこの歌はずっと歌い継がれていくと思います。
ファビュラスは最初ルー・アン・バートンという女性シンガーがいたのですが、すぐにやめています。

ファビュラスは結成以来、地元テキサスのオースティンにあるブルーズクラブ「アントンズ」でハウスバンドを長らくやってました。そこで自分たちのレギュラー・ステージをやりつつ、ツアーで「アントンズ」回って来るいろんなミュージシャンのバックも務めていました。だから、バンドは相当鍛えられてタフで上手いバンドになったのだと思います。
次のインスト曲なんかもブルーズではないけれど、ステージでショーアップするために演奏していた曲ではないかと思います。
3.Cherry Pink and Apple Blossom White/The Fabulous Thunderbirds
いまの曲は日本では「チェリー・ピンク・チャチャ」とか「セレソ・ローサ」というタイトルで知られているようですが、元々フランスの曲なのですがヒットしたのはラテンのペレス・プラード楽団の1955年のインスト・バージョンがヒットして有名曲になりました。元々は歌詞があるそうです。
僕も小さい頃にそのペレス・プラード風のアレンジで日本のラテンバンドがやっていたのをなんとなく覚えています。あとは中学校の昼休みにBGMとしてこういう音楽が流れてました。

次もさっきのI Hear You Knockin’のレイジー・レスターと同じレコード会社「エクセロ」所属のブルーズマン、スリム・ハーポの1967年の曲です。
ファビュラスの特徴のひとつですけど、ルイジアナのスワンプ・ミュージックの影響が強いです。他の白人のブルーズバンドと違うところですね。ストーンズとか他のバンドもよくスリム・ハーポの曲を取り上げていますが、ファビュラスほどサウンドとグルーヴがスワンプ・テイストにはなってないです。
語り入りのインストルメンタル曲
4.Tip On In/The Fabulous Thunderbirds

白人のブルーズ系バンドとかミュージシャンはたくさんいるのですが、白人と黒人の違い、また黒人と日本人との違いは歌です。ギターやハーモニカやドラム、ベースといった楽器に関してはブルーズの演奏上、同じようなレベルにあるいは独自の演奏というのはあるのですが歌に関しては自分のことも含めて難しいです。それで僕はやたらと黒人っぽくしょうとか、黒人みたいな声にしょうとかはしません。声は生まれもったものですからどうしようもないです。黒人とは身体の骨格も違うし日常生活も食生活もすべて違いますから。ただツアーを繰り返して長く歌っていると歌うときの自分の声が出来上がっていくんですね。それができあがるように練習とライヴを繰り返すしかないと思っています。たまにブルーズ歌ってもそれは無理です。このファビュラスもすとてつもない回数のライヴをこなしたと思うのですが、ヴォーカルのキム・ウィルソンの歌が自然にブルーズを歌っていてすごくいいです。わざとらしさもないし、がなったり、喉を締めるような感じもなくてナチュラルです。
次の曲でもキムの歌がいいです。曲は僕が大好きなルイジアナ、スワンプR&Bバンドの「クッキー&カップケイクス」の曲です。もうルイジアナという感じです。
5.Matilda/The Fabulous Thunderbirds

ファビュラスはめちゃくちゃ売れたバンドではないのですが、やはりたくさんのライヴで鍛えられたバンドでタイトで骨太、でも大味ではない素晴らしいバンドです。
1986年に「Tuff Enuff」という曲がヒットして日本にも来たのですが、残念ながら僕は見逃しました。
1990年にジミー・ボーンが脱退して、ファビュラスはほとんどハーモニカと歌のキム・ウィルソンのバンドになった感じですが、いまも活動を続けています。いまもいいバンドですが、僕はジミー・ボーンのギターが好きなのでちょっと残念です。ジミー・ボーンはブルーズギターの役割と歌のバックアップの仕方をよく知っていて、派手さは弟ほどないんですが素晴らしいギタリストです。