2018.04.27 0N AIR

Rick Hall
追悼 リック・ホール(魔法のマッスル・ショールズ・サウンドを作った男)第2週

The Fame Studios Story 1961-1973 (KENT BOX12 P-Vine Records)

 

ON AIR LIST
1.Sweet Soul Music/Arthur Conley
2.Tell Mama/Etta James
3.Everytime/Linda Carr
4.Do Right Woman,Do Right Man/Otis Clay
5.I Never Loved A Man (The Way I Love You)/Aretha Franklin

 
前回に引き続き1月2日に亡くなったアメリカの偉大なプロデューサーであり、レコーディング・エンジニアでもあったリック・ホールの残した音源を聴きます。
彼が設立したフェイムスタジオからヒットが出るようになった60年代中頃、僕はロックに興味をもった頃でイギリスのビートルズやストーンズをラジオで追いかけていました。まだまだソウルとやブルーズにはたどり着いてません。その頃ビートルズなどのヒットと一緒にラジオから時々流れてくるのが北部のモータウンレコードと南部のスタックスレコードのソウル・ミュージックでした。もちろんその頃はソウルもスタックスもサザン・ソウルも、そしてリック・ホールもフェイム・スタジオも何も知らなかったのですが、次の曲はラジオのヒット・チャート番組で耳にして、すごくいいなと印象に残りました。これもフェイム・スタジオ録音です。まさに60年代半ばソウル・ミュージックが勢いに乗って登っていく時の象徴的な一曲です。
1.Sweet Soul Music/Arthur Conley

60年代中頃になると次々とソウル・シンガーがフェイムスタジオにやってきて録音して名曲を残していくことになります。
次のエタ・ジェイムズは50年代にデビューしてすでに全国的に名前を知られていましたが、この曲が録音された頃は少しヒットが出ていない時でした。でも、このフェイム・スタジオで彼女は一生歌い続ける2曲を録音しました。ひとつはクラレンス・カーターがオリジナルの”I’d Rather Go Blind”、そしてもう一曲がこの曲。僕がこの録音の10年後ロスでエタ・ジェイムズのライヴを見た時の最初の登場曲がこれでした。
2.Tell Mama/Etta James
曲もバックの演奏も非のうちどころのないもので、エタの歌も最高です。
息子に「オマエは愛してくれるええ女をゲットしたと思てるやろけど、あの子はアカンで。あの子はいけずや、しらっとしてなほかの男に行ってしまうそんな女や。やめときあんな子。おかんに話してみ。うまいことしてあげるから。おかんに話してみ」
関西弁で訳すとこうなります。

次の曲は聴いてすぐに僕は「これ、モータウンやん」と思いました。曲を書いたのはいまも活躍するレジェンドのダン・ペンとスプーナー・オーダムです。ふたりは南部にいながらもモータウン・ソウルのファンでモータウンの曲をよく聴いていたそうです。それでモータウン風の曲を書こうと思いたったらしです。
リック・ホールは無名のリンダ・カーの歌声が曲に合うと思い思いっきりモータウン風にしています。1974年、キュートな歌声のリンダ・カー。
3.Everytime/Linda Carr
リンダ・カーさんのアーティスト写真がこの3枚組のアルバムのブックレットにあるんですが、すごくグラマーでキュートです。でも、いまのEverytimeはいい曲なんですがヒットしなかったんですよ。ヒットしなかったけどいい曲というのはフェイムにはたくさんあります。
次のオーティス・クレイが歌った曲も素晴らしさに聴く度に心を揺さぶられ、いまとなってはソウルの名曲ですが、オーティス版は売れなかった。
「君が本当の心を見せて僕を愛してくれたら誰の誘惑にものらないで、僕も君を本当に好きになる。でも、ええ加減な付き合いをされたら他の誘惑に負けてしまうかもしれん。もし、オレにいい男でいて欲しいなら君もいい女でないとアカンよね」
4.Do Right Woman,Do Right Man/Otis Clay
いまの曲はもともとアレサ・フランクリンのI NEVER LOVED A MAN THE WAY I LOVE YOUのシングルB面収録されたのが最初で、やっぱりダン・ペンが曲を書いてます。
さて、そのアレサです。
1967年の1月にアレサはアトランティック・レコードのプロデューサー、ジェリー・ウェクスラーに連れられてアラバマ・マッスルショールズにやってきた。
アレサ・フランクリンはゴスペル歌っていた幼少の頃から天才歌手と言われていたけど、ポピュラーの世界に入った最初のコロンビア・レコードでは大きなヒットには恵まれなかった。そのアレサを前々からプロデュースしたいと思っていたアトランティックレコードのジェリー・ウェクスラーがアレサと契約しました。アレサのもつゴスペル・テイストが発揮できる、アレサにいちばん合ったスタジオはフェイムしかない思ったからでした。
アレサは旦那のテッド・ホワイト(テッドはアレサのマネージャーという位置)とスタジオにくるなりまずフェィムのスタジオ・ミュージシャンが全員白人なことに驚いたといいます。あまり白人ばかりというのも黒人のアレサにどうかと気を遣ったウェクスラーは、事前にホーンセクションだけは黒人にするようにリック・ホールに言っておいたのに、リック・ホールが用意したホーンも全員白人だったのです。これに機嫌を悪くしたのが旦那のテッドで、リック・ホールとテッドのいがみ合いが始まります。
それでも、まず一曲録音することになり、いまから聴いてもらう曲を録音しました。この演奏を録り終えた時、メンバー全員がアレサの歌に感動し素晴らしい録音が出来たと確証し、拍手が起こったそうです。アレサとジェリー・ウェクスラーもすごいものができたと思い、確かにこの曲は100万枚を突破する大ヒットとなり、アレサの生涯の代表曲になりました。
こんなに男の人を愛したことはないという、嘘ばかりで信用できない男を愛してしまった女性が、それでももう終わりだと言わないでと歌うところが切ないです。
5.I Never Loved A Man (The Way I Love You)/Aretha Franklin
でも、この曲を録音し終えたあとにテッド・ホワイトとリック・ホールが本当に喧嘩をしてしまい、テッドはアレサを連れてニューヨークへ帰ってしまいました。2014年に公開された映画『黄金のメロディ マッスル・ショールズ』をご覧になった方はこのあたりのこともご存知だと思いますが、いまDVDも出てますので是非見てください。いい映画です。
60年代後期にはりック・ホールのフェイム・スタジオで録音をしたいとローリング・ストーンズやポール・サイモン、スティーヴ・ウィンウッドなどジャンルを越えてやってくるようになり、アラパマの小さな街マッスルショールズのフェイムスタジオとリック・ホールは世界の音楽関係者に知れ渡ることになりました

リック・ホールという人は言わば、ビートルズのプロデューサー、エンジニアであったジョージ・マーティンのような人で音楽をつくる、録音する作業の中でほとんどメンバーと同じ役割をする人で、それが故にシンガーやバック・ミュージシャン、レコード会社の人間と軋轢が生まれた人でした。そういう話はいろんなところに出てくるのですが、でも、考えてみればアラバマ州のマッスルショールズの田舎街で若い頃から失敗も繰り返して自分の信じる音楽、サウンドをつくるなんていうのは余程信念がないとできないです。リック・ホールを頑固者、偏窟な人、怒る人という話もたくさんあるのですが、そのくらいでなければ、個性的な音楽なんてできないと思います。
来週はもう少しリック・ホールの話をしたいと思います。
そして、まだまだある彼の残した素晴らしい音源を聴きます。

2018.04.20 ON AIR

Rick Hall
追悼 リック・ホール(魔法のマッスル・ショールズ・サウンドを作った男)第1週

The Fame Studios Story 1961-1973 (KENT BOX12  P-Vine Records)

The Fame Studios Story 1961-1973 (KENT BOX12 P-Vine Records)

RICK HALL

RICK HALL

ON AIR LIST
1.When A Man Loves A Woman/Percy Sledge
2.You Better Move On/Arthur Alexander
3.Let Them Talk/Dan Penn
4.Steal Away/Jimmy Hughes
5.I’m Your Puppet/James &Bobby Purify

 
マッスル・ショールズ・サウンドの生みの親と呼ばれるリック・ホールが、今年初め1/2に85才で亡くなりました。ご冥福を祈りたいと思います。
でも、リック・ホールと言われても知らない方も多いと思います。
リック・ホールは60年代からずっとR&B,ソウル、ファンク、ロック・・とポピュラー・ミュージック界に大きな功績を残したプロデューサーでありレコーディング・エンジニアです。彼が作ったサウンドを「マッスル・ショールズ・サウンド」と呼ぶのですが、マッスル・ショールズとはアラバマの小さな街の名前で、リック・ホールはその街に”FAME”という録音スタジオを作り質の高い音楽をたくさん作りました。FAMEというスタジオ名はリックが隣町のフローレンスという街の出身で、そこで最初に音楽出版社を作った時に”Florence Alabama Music Enterprises”という名付けました。その名前の頭文字を取ってFAMEとなったのです。
南部アラバマのそんな小さな街のスタジオがなんで世界的に有名になって、「黄金のメロディ~マッスルショールズ」という映画まで作られたのか・・・その最初のきっかけがこの曲の大ヒットだったと言われてます。
「男が女に惚れたら女のことしか考えられなくなる、そしてどんな大切なものでも女にあげてしまうんだ」
1.When A Man Loves A Woman/Percy Sledge

この曲はどこかで耳にしたことがあると思います。パーシー・スレッジが歌ったソウルの定番曲、日本タイトルが「男が女を愛する時」”When A Man Loves A Woman”です。
オルガン:スプーナー・オーダム、ドラム:ロジャー・ホーキンス、ベース:アルバート・ロウ、ギター:マーリン・グリーン
1966年の大ヒットですが、FAMEスタジオは1960年に設立されて最初はちょっとしたローカルなヒットが出るくらいでしたが、曲そのものはすごくいい曲を発表してました。
例えば、次の曲もいい曲ですが、最初リック・ホールは黒人のリスナーには白っぽ過ぎるし、白人には黒っぽすぎると思って全く売れないと思ったら、R&Bで10位までチャートを上がったFAMEで最初のちょっとしたヒットとなりました。
メロディもいいんですが、歌詞がまたいいんです。友達が自分の彼女好きになって自分に彼女をあきらめてくれと言うてきた歌詞ですが、自分は彼女愛してるから君があきらめて他へ行った方がいい(You Better Move On)っていう歌です。途中のWell I know you can buy her fancy clothes And diamond rings.(君は彼女に素敵な服やダイアモンドを買えるだろう)But I believe she’s happy with me without those things(でもね、そんなものなくてもあの娘は僕といるだけで幸せなんだよ)という一節が僕は好きです1961年リリース
2.You Better Move On/Arthur Alexander
アーサー・アレキサンダーは黒人なんですが、すごくあっさり歌っていて最初白人やないかと思いました。だから、黒人のリスナーには白っぽ過ぎるし、白人には黒っぽすぎると思って全く売れないやろと言ったリック・ホールの気持ちもわかります。ところが売れたんですよね。
やっぱり曲がいいんですよね。のちにローリング・ストーンズもカバーしています。カバーしたストーンズのアンテナの張り方もすごいです。
このヒットで儲かった金でリック・ホールはFAMEスタジオを建てます。だんだん知れ渡っていくんですが、全国ヒットがなかなか出ません。でも地元のローカルシンガーのシングルをがんばって出し続けました。
その中に見つけたのが、いまやレジェンドになりましたが、シンガー、ソングライターのダン・ペン。まあ、アラパマの田舎街に偶然、リック・ホールと同じような音楽を志向している白人の仲間のひとりダン・ペンと出会うんです。
3.Let Them Talk/Dan Penn
いま歌っていたダン・ペンは白人ですが、逆にこれ黒人やろと思わせるようなソウルフルな歌です。ダン・ペンはシンガー・ソングライターとしていまやレジェンド的な存在ですが、60年代初期は歌手として独り立ちしたかったようですがあまり売れず、でもいい曲を書けるので曲を提供するソングライターとして活躍してました。僕もジェイムズ・カーが歌った「Dark End Of The Street」とかアレサ・フランクリンが歌った「Do Right Woman, Do Right Man」などの曲のクレジットで彼の名前を知ってました。このダン・ペンがリック・ホールの右腕的な役割をするようになっていきます。
それでリック・ホールの名前とFAMEスタジオの名前が広く音楽関係者に知れ渡っていく大きなヒットが次のジミー・ヒューズが歌ったスティール・アウェイでした。
ジミー・ヒューズも地元のローカル歌手でそれまでにシングル出したことがあったんですが、ヒットしなくて・・・それでリック・ホールが「自分で曲を書いたらどうなん」ってアドバイスして作ってきたんが、”Steal Away”という不倫の歌です。これをリック・ホールはリリースするのを躊躇してたんですが、これ「絶対売れるで」と言ったのはダン・ペンでした。そして、シカゴのインデーズ大手のVee Jayレコードがこれを全国配給したことから大ヒットになりました。
4.Steal Away/Jimmy Hughes
大ヒットになったのでリック・ホールは、経済的にかなり潤ったと思いますが、FAMEはそんなに抱えているミュージシャンはいなかったのでレコード会社として大きくなっていくことはなかったんです。
ただジワジワとFAMEのサウンドとグルーヴがいいという評判が業界に広まっていきます。
次もいい曲です。「私はあなたのあやつり人形なんだからうまく操って」という可愛い曲です。
5.I’m Your Puppet/James &Bobby Purify
ボビーとジェイムズは従兄弟同士でフロリダ出身なんですが、フロリダのプロデューサーに連れられてFAMEへレコーディングに来て録音してこのI’m Your Puppetがチャートの6位に入った。
こんな風にだんだんいろんなレコード会社がFAMEで録音するとヒットするという感じで全国から、そしてイギリスからもFAMEに録音にくるという感じになっていきました。
来週もまたリック・ホールとFAMEスタジオの話をします。

2018.04.13 ON AIR

photo by 菅原一剛

photo by 菅原一剛

ゲスト:木村充揮

4/1に番組の10周年を記念して行われたライヴにゲストとして来てもらった旧知の盟友、木村充揮くんが番組ゲストで登場!
2週に渡ってとりとめのないふたりの話をお楽しみください。
木村くんの歌も流れますよ。

2018.04.06 ON AIR

photo by  菅原一剛

photo by 菅原一剛

ゲスト:木村充揮

4/1に番組の10周年を記念して行われたライヴにゲストとして来てもらった旧知の盟友、木村充揮くんが番組ゲストで登場!
2週に渡ってとりとめのないふたりの話をお楽しみください。
木村くんの歌も流れますよ。