2023.12.29 ON AIR

朝ドラで話題の音楽「ブギ・ウギ」ってなんだろうvol.3

ON AIR LIST
1.It’s All Right Baby/Big Joe Turner & Pete Johnson
2.Boogie Woogie Country Girl/Big Joe Turner
3.Choo-Choo Ch’ Boogie/Louis Jordan
4.Ain’t That Just Like a Woman (They’ll Do It Every Time)/Louis Jordan
5.Guitar Boogie/Les Paul And His Trio

今年最後の放送です。
NHKTVの朝ドラ「ブギウギ」をやっているのでブギウギの特集を連続でやっているのですが、ドラマも佳境に入ってきましたね。
今回はブギウギ特集の3回目。
先々週聴いてもらったピート・ジョンソン、アルバート・アモンズ、ミード・ルクス・ルイスの3人のピアニストが有名プロデューサー、ジョン・ハモンド主催のコンサート「フロム・スピリチュアルズ・トゥ・スイング」でブギ・ピアノを披露したことで白人層にもブギが人気となり一大ブギ・ブームになりました。
その「フロム・スピリチュアルズ・トゥ・スイング」にピート・ジョンソンと出演したシンガー、ジョー・ターナーもブギウギのブームの中で有名になっていったシンガーです。元々はジャズ・クラブのバーテンダーをやっていて「歌うバーテンダー」なんて呼ばれていたらしいです。
ではまず、その1938年の「フロム・スピリチュアルズ・トゥ・スイング」のライヴ録音からピート・ジョンソンとジョー・ターナーがデュオでやっているブギの曲です。体がデカかったのでビッグ・ジョー・ターナーと呼ばれていました。1938年の録音で録音状態はあまり良くないですが聞いてください。

1.It’s All Right Baby/Big Joe Turner & Pete Johnson

ビッグ・ジョー・ターナーはジャズ・シンガーでもありR&Bシンガーでもあり、R&Rシンガーとも呼ばれ、かなり長く歌手として成功した人ですが、彼が歌っている感じは全くいつの時代も変わっていません。つまり、ブギというリズムが少し形を変えていつの時代にもあったからだと思います。いまの曲から20年近く経った1955年、ロックロールが人気の頃にも彼はブギウギと名のついた曲を歌ってヒットを出しています。

2.Boogie Woogie Country Girl/Big Joe Turner

ブギウギが少しずつ形を変えて50年代にR&Bやロックンロールになっていくのですが、その前40年代に現れたのがルイ・ジョーダンです。
ルイ・ジョーダンによって「ジャンプ・ブルーズ」と呼ばれる、後のR&RやR&Bの原型なる音楽が作られていくことになります。ルイ・ジョーダンはもともと「チック・ウエブ・オーケストラ」というジャズ・オーケストラでサックスを吹いていたのですが、大人数のオーケストラではなく7.8人編成の自分のコンボを作りコミカルな歌詞の曲でたくさんヒットを出しました。40年代の大スターでB.B.キングもチャック・ベリーも憧れ、B.B.は晩年ルイのトリビュート・アルバムもリリースしてます。そしてチャック・ベリーのノベルティな歌詞は実はこのルイ・ジョーダンの影響でもあります。
では、ルイ・ジョーダンのブギと名のつく最も有名なヒット曲、1946年に18週間R&Bチャートの1位に輝いた不朽の名作。

3.Choo-Choo Ch’ Boogie/Louis Jordan

先週、先々週聞いてきたピアノ・ブギのビートとサウンドの骨格にホーンとポップなメロディと歌詞を付け加えて、これはヒットするよなぁという気がします。しかし、忘れてはいけないのはブギのビートを作っているバンドの演奏のクオリティの高さです。まさにブギ・グルーヴとう感じです。
先ほどチャック・ベリーも影響を受けたと言いましたが、次の曲、特にイントロは絶対にチャックはコピーしたでしょう。チャック・ベリーの代名詞となったR&Rのイントロは実はルイ・ジョーダンのこの曲だったんですね。イントロよく聞いてください。

4.Ain’t That Just Like a Woman (They’ll Do It Every Time)/Louis Jordan

こういうブギのリズムをチャック・ベリーは次第に8ビートに変化させていってR&Rの誕生となるのですが、30年代のブルーズのブギが40年代にルイのジャンプ・ブルースとなり50年代にはチャック・ベリーのR&Rとなるという黒人音楽の変遷は本当に面白いです。
そして、ジャンプ・ブルーズはR&Rともう一つリズム&ブルーズという音楽のルーツにもなっています。
ピアノのブギの時代から次第に楽器の主役に乗り出してくるのがギターで1947年にはその曲名も「ギター・ブギ」という曲がリリースされています。ギタリストとはかのレス・ポール。優れたギタープレイヤーでありギターそのものの発展、制作にとてつもなく大きな貢献をしたレス・ポールのインスト曲です。

5.Guitar Boogie/Les Paul And His Trio

この40年代中後期にはブギという言葉は完全にアメリカの音楽の中でダンス・ミュージックの一種を表す言葉として認知されています。
たぶん、星の数ほどブギと名のつく曲が作られていると思いますが、来週新年第一回はいよいよ日本のブギの女王、笠置しづ子さんの特集です。
今年も番組を聞いてただきありがとうございました。日本で唯一のブルーズ専門番組としてまだまだ頑張ります。
新年も「ブギで踊れ!」永井ホトケ隆でした。

2023.12.22 ON AIR

恒例クリスマスソング特集

ON AIR LIST
1.Christmas In Heaven/B.B.King
2.I Saw Mommy Kissing Santa Claus/The Jackson5
3.Merry Christmas Baby/Charles Brown
4.The Christmas Song/Stevie Wonder
5.Happy Xmas (War Is Over)/John Lennon

今日はクリスマス・ソングを聴きながら今年一年をちょっと振り返ってみようと思います。
今年は年が明けて1月29日に1970年代から50年来の盟友だったシーナ&ロケッツの鮎川誠、マコちゃんが亡くなりました。74歳でした。去年の年の暮れからなんとなく体調が悪いのかなと思い、年明けにメールを送ったのですが「ちょっと体調が悪いけど大丈夫。心配してくれてありがとう」とメールが返ってきて安心してたのですが・・・残念です。
今日、最初の曲は鮎川誠に捧げたいと思います。「天国のクリスマス」

1.Christmas In Heaven/B.B.King

「天国のクリスマス」・・マコちゃんはシーナと天国で仲良くクリスマスを過ごしていると思います。大好きなチョコレートケーキはあるのかな。先日11/23は新宿ロフトでシーナの誕生日とロケッツの結成記念日のイベントにゲストに呼んでもらって楽しい時間を過ごしました。ありがとうございました。マコちゃん、娘さんたちはじめみんなしっかりやってますよ。
7月には私の母が101歳で亡くなりました。母の私への口癖は「あんた、ご飯食べれてるのか」でした。かなり年を取ってからもそれを言ってました。ご飯が食べれるのか、生活できるのかわからない音楽を職業にしてしまった私のことをずっと心配していたと思います。母の人生を振り返ると結婚して親父と中国へ渡り、戦争に負けて中国から追われるように日本に帰ってきて、そのあと親父が病気になったりと・・それなりに波乱万丈な一生だったように思います。
うちの母はかなり前に亡くなった父と決して夫婦仲がよくなくて、二人が仲良くしている姿は一度も見たことがなかったように思います。まあ昔の男と女というのもありますが・・だから子供の頃、アメリカの映画やテレビドラマで両親が仲良くしているシーンを見るといいなぁと思いました。私がこのクリスマスソングを好きなのはそういうことがあるのかもしれません。

2.I Saw Mommy Kissing Santa Claus/The Jackson5

8月にはありがたいことに初めての自分の弾き語りソロ・アルバム”Kick Off The Blues”がリリースされてツアーもしました。アルバムはこの番組の15周年を記念して作られたのですが、おかげさまでアルバムは完売してもうありません。まあ、アナログレコードでしか出さないというこだわりがあったのでたくさんプレスすることができなかったんですけどね。持ってる方はいずれ貴重なレア盤になると思うので大切にしてください。
ブルーズの番組としてはやはりこのクリスマス・ソングは外せないかな。ブルーズの中ではいちばん有名なクリスマス・ソング。ウエストコーストのピアニスト&シンガー、チャールズ・ブラウンの1947年の大ヒット・ブルーズ

3.Merry Christmas Baby/Charles Brown

今年は上田正樹君(キー坊)とのライヴがいくつかあって楽しかったですね。仙台、東京、松坂では木村充揮とキー坊とぼくと3人のコンサートがあり、そのあとキー坊のR&Bバンドととぼくのブルーズ・ザ・ブッチャーの対バンのコンサートもありサウス・トゥ・サウスとウエストロード・ブルーズバンド以来50年ぶりの対バンでした。
久しぶりのブルーズ・ザ・ブッチャーの長いツアーも九月にできました。いつも各地でオープニングをしてくれるバンドがあるのですが、結構長くメンバーもあまり変わらずやっているバンドが多いです。そういうバンドはやはり好きな音楽への情熱がたくさんあって観ていると教えられることも多いです。そしてとにかく各地のライヴハウスと来てくれるお客さんに感謝しかありません。今年もありかとうござました。
次はぼくと同じ年のスティービー、こんなにも音楽の才能が違うかといつも思うスティービーのクリスマスソングです。

4.The Christmas Song/Stevie Wonder

今年も自分の母を始め友達や知り合いが何人か天国へ行ってしまいました。そしてティナ・ターナー、ジェフ・ベックやデイヴィッド・リンドレー、大好きなドラマーのジム・ゴードンなど好きなミュージシャンも亡くなりました。過去の音楽を振り返る機会も多くあり、その度にこの人もこの人も亡くなっていると気づき、僕の同世代の音楽をやってきた人たちが本当にたくさんいなくなっていて残念です。
今年少し嬉しかったのはビートルズの新曲が出たことです。コンピーターの技術などを使い、残されていたジョンの歌声やジョージのギターにポールとリンゴが参加して作り上げた曲「Now and Then」はとても懐かしいような、新しいような不思議な気持ちにさせてくれました。それはまたの機会に聞きます、
では、最後に大好きジョンのこのクリスマスソングを・・。

5.Happy Xmas (War Is Over)/John Lennon

当たり前のことなんですが、クリスマスは大騒ぎのパーティをするイベントでもなく、恋人同士で高いレストランやホテルにいくイベントでもなく、いろんな店がクリスマスバーゲンをする日でもなくイエスキリストの生誕を祝う日なんですよね。まあ、私のようにキリスト教徒でない者は家でこの一年の幸せと健康に感謝して小さなケーキでも食べればいいんやないでしょうか。
世界にはクリスマスどころではない戦争や貧しさに苦しむたくさんの人たち、子供達が今もいることをみなさんも知っていると思います。だからと言って私たちが助けられることは小さなことでしかないのですが、いつもこのクリスマスや正月の季節になるとそういう悲しいことが胸に浮かびます。
Merry Christmas To You All  永井ホトケ隆でした

2023.12.15 ON AIR

朝ドラで話題の音楽「ブギ・ウギ」ってなんだろうvol.2

伝説のブギ・ウギ・ピアノ(ユニバーサル UCCC-3041)

ON AIR LIST
1.Indiana Avenue Stomp/Montana Taylor
2.Boogie Woogie Cocktail/Andy Kirk & His Twelve Clouds Of Joy (Piano:Kenneth kersey)
3.Honky Tonk Train Blues/Meade “Lux” Lewis
4.Boogie Woogie Stomp/Albert Ammons & His Rhythm Kings
5.Death Ray Boogie/Pete Johnson

前回に引き続き「伝説のブギ・ウギ・ピアノ」のアルバムを聴きながら。
ブルーズのダンス・ミュージックとして30年代から大流行したブギ・ウギの話。
現在NHKテレビの朝ドラでやっている笠置シズ子さんをモデルにした「ブギ・ウギ」。日本で流行ったのは1947年ころから50年代にかけてですが、アメリカではそれより30年ほど前からピアノによるブギ・ウギのブームが始まってました。
黒人たちが働く農園や材木の伐採場などを転々と放浪するビアノ・ブルーズマンたちによって広まっていったブギ・ウギはいろんなパターンのブギを作り出しました。今日の最初はアメリカ北西部モンタナ州の生まれなのでモンタナ・テイラーと呼ばれたピアニストが4曲だけ録音を残した内の1曲。
モンタナ生まれですがピアニストとして活躍したのかインディアナ州のインディアナポリスだったのでこういう曲名になったのでしょう。

1.Indiana Avenue Stomp/Montana Taylor

やはり他のブギ・ウギ・ピアニスト同様に左手のリズムはしっかり安定しています。この左手のリズムが基本のビートとなる重要なものです。右手で弾くフレイズに煌びやかな美しさがあります。とても印象に残る曲ですが、「ブギ・ウギ弾いても金にならへんわ」とたった4曲だけ残して姿を消したそうです。とにかく30年代にはすごい数のブギ・ウギ・ピアニストがいたらしです。
このアルバム「伝説のブギ・ウギ・ピアノ」にはピアノ名人ばかり収録されているわけですが、中でも次の曲のピアノのスピード感とグルーヴ感には圧倒されました。録音の名義はアンディ・カーク楽団になってるのですが強力なブギ・ウギ・ピアノを弾いているのはケネス・カーシーというピアニスト。いろんな楽団、グルーブを渡り歩いた凄腕のジャズ・ピアニストです。

2.Boogie Woogie Cocktail/Andy Kirk & His Twelve Clouds Of Joy (Piano:Kenneth kersey)

リズムの感覚はすでにロックンロールです。
今のは1942年の録音なのですが、実はブギ・ウギが白人にも人気となったきっかけが1938年にジョン・ハモンドがプロデュースしNYのカーネギー・ホールで開催された「フロム・スピリチュアル・トゥ・スウィング」というコンサートでした。このコンサートでブギ・ウギ・トリオとも呼ばれる3人、ピート・ジョンソン、ミード・ルクス・ルイス、アルバート・アモンズがブギ・ウギ・ピアノを披露し熱狂的にウケたことからブームは白人の世界にも広がりました。
ひとり、ひとり聞いてみましょう。最初はミード・ルクス・ルイス
ピアノの左手のタイトなリズム・キープと右手から次々と繰り出されるフレイズの多彩さに唖然としてしまいます。タイトルにあるように汽車が走っているイメージの曲。

3.Honky Tonk Train Blues/Meade “Lux” Lewis

ミード・ルクス・ルイスは20年代にシカゴでタクシーの運転手をしながら夜パーティなどでピアノを弾いていて一部の人にしか知られていなかったそうです。今の曲は1935年2度目の録音で最初は1927年に録音されています。その最初の録音をたまたま聞いたプロデューサーのジョン・ハモンドがコンサートに呼び、そこから評判を得て人気のピアニストとして活躍しました。
次のブギ・ウギ・トリオの二人目はアルバート・アモンズ
シカゴ生まれのアモンズは6人くらいで編成されたバンドを持っていてピアノのソロだけで活動していたミード・ルクス・ルイスなどのピアニストとは違っていました。ジャズ寄りの洗練されたサウンドですが、バンドサウンドだけにリズムにもパワーがあります。

4.Boogie Woogie Stomp/Albert Ammons & His Rhythm Kings

バンド・アンサンブルの中でダイナミックにうまくブギ・ピアノを生かしているアルバート・アモンズでした。
次のピート・ジョンソンもジャズ畑のピアニストですが、強力なスピード感とグルーヴのあるこのブギは名演と言うしかない素晴らしさ。自然とみんなが踊るダンス・ミュージックとしてのブギ・ウギ・ピアノの極めつけの一曲。

5.Death Ray Boogie/Pete Johnson

いまの曲のスピードすごいです。左手でリズム引きながらですから・・・。
先週から聞いてもらっているピアニストは全員リズムがめっちゃいいです。これが肝。スイングしなけりゃ意味がないという曲がありますが、まさに「リズムが良くなければ意味がない」です。
1938年くらいから白人のジャズ・ファンにも浸透したブギ・ウギが約10年くらい経って作曲家の服部良一さんや歌手の笠置シズ子さんに日本風に使われて日本のブギ・ウギ・フームとなりました。来週は一回だけクリスマス特集になりますが、また再来週からブギの特集を続けます。先週と今週使ったアルバム「伝説のブギ・ウギ・ピアノ(ユニバーサル UCCC-3041)」はネットで中古で出ていたりレコード店でも見かけますので探してみてください。「トゥリー・トゥ・ワン・ゼロ!ブギで踊れ!」永井ホトケ隆でした。

2023.12.08 ON AIR

朝ドラで話題の音楽「ブギ・ウギ」ってなんだろうvol.1

伝説のブギ・ウギ・ピアノ(ユニバーサル UCCC-3041)

ON AIR LIST
1.Pinetop’s Boogie Woogie/Pinetop Smith
2.Cow Cow Blues/Cow Cow Davenport
3.Head Rag Hop/Romeo Nelson
4.Texas Stomp/Dot Rice
5.Overhand/Mary Lou Williams

皆さんはいまNHKテレビで放送されている朝ドラ「ブギ・ウギ」をご覧になっていますか。
日本のブギの女王と呼ばれた歌手笠置シズコさんをドラマのモデルにしていることもあって僕は興味深く見ています。しかもブギ・ウギという音楽はブルーズから生まれたものなので・・。だからこの機会に「本当のブギウギ」を知ってもらいたいと今回からしばらくブギの特集を続けたいと思います。
それでまずブギウギの入門アルバムとして1997年に日本のユニバーサル・ミュージックからリリースされた「伝説のブギ・ウギ・ピアノ」を紹介したいと思います。メーカーでは廃盤になっていますが、ネットでは中古盤が出ているので是非ゲットしてください。
このアルバムは1928年から46年までの録音をコンピレーションしたもので、いろんなブギ・ウギの曲が収録されていて選曲と監修をされた故中村とうようさん。とうようさんの解説もとても役立ってます。
まずはブギ・ウギという曲名がついた史上初めて録音された曲。ブルーズ・ピアニストのパイントップ・スミスが1928年に録音したこの曲から

1.Pinetop’s Boogie Woogie/Pinetop Smith

ブギ・ウギとはピアノから始まった音楽で1小節に8つのビートがある音楽で”8 To The Bar”とも呼ばれます。ピアノの左手でそのビートが打ち出されるます。これはのちにジャンプ・ブルーズというダンサブルな音楽を生み、それが50年代にチャック・ベリーやリトル・リチャードの登場でR&Rのビートの基礎となったリズムです。録音でブギ・ウギというタイトルが付けられた最初がいまの「Pinetop’s Boogie Woogie」ですが、それ以前、20世紀の初め頃からこういう音楽は黒人ダンスミュージックとして存在していました。
次のカウカウ・ダヴェンポートの曲は今の曲より少し前に録音されてブギウギと付いてないですがブギの曲です。
1928年の録音

2.Cow Cow Blues/Cow Cow Davenport
 
ピアノの左手の力強いビートと右手から繰り出されるいろんなフレイズが本当に見事。
いろんな本やネットにブギ・ウギが華開いたのは1920年代のシカゴと書かれてますが、実際は1900年くらいにはニューオリンズやミシシッピやテキサスの酒場のピアノで弾かれていたことがわかっています。特にテキサスでは材木伐採や石油を掘って採取する仕事に多くの黒人が労働者として集まっており、彼らの宿舎の近くにある安酒場のピアノで流れ者のピアニストが弾いたダンス・ミュージックのひとつがブギ・ウギの発祥とも言われています。
この「伝説のブギ・ウギ・ピアノ」のアルバムには全部で26曲が収録されてて、どれも素晴らしい演奏ですが、録音されたブギ・ウギ・ピアニストの中には変わった人もいて、次のロミオ・ネルスンは4曲しか録音が残っていないのですが、どうもギャンブラーだったらしくてピアノを弾いてもギャンブルやるほど金にならないというのでピアノにはあまり気持ちがいかなかったようです。
こんなに個性的でアグレッシヴなブギウギ・ピアノを弾くのにギャンブラーにならずもう少し録音を残してくれれば・・と思います。

3.Head Rag Hop/Romeo Nelson

初めてアメリカへ行った75年に私がすごいなぁと思ったのはクラブやバー、ラウンジ、酒を飲むところにピアノが置いてあることでした。中にはオルガンがある店もかなりありアメリカの黒人音楽とピアノやキーボードの関係の濃さを感じました。多分昔の酒場なんかのピアノは調律も狂っていたりしたのでしょうが、そんなの関係ないとばかりブギでみんな踊ったのでしょう。
次のドット・ライスは女性のブギウギ・ピアニストですがこのアルバムでしか彼女の名前を知りません。20年代、30年代には女性ブギウギ・ピアニストもかなりいたようです。聞いてもらうとわかるように女性とは思えない豪快なピアノで、ピアノの音がすごく大きく鳴っているのがわかります。鍵盤を叩く手の強さも相当なものだったのでしょう。

4.Texas Stomp/Dot Rice

もうひとり女性ピアニスト。メアリー・ルー・ウィリアムズはブルーズ畑の人ではなく、ジャズ畑で有名な人です。作曲、アレンジでも有名で偉大なデューク・エリントンやベニー・グッドマンとも仕事をして100を超える録音を残しています。聞いてもらう曲ももろにブギウギの曲ではなくラグタイム・ビアノやオールドジャズのテイストが感じられます。

5.Overhand/Mary Lou Williams

今日聞いてもらった音楽が本当のルーツのブギウギです。
こうやって聞いてくるとアメリカではブギはピアニストにとっては弾けなければいけない、弾けなければ仕事にならない必須のジャンルだったのでしょう。ピアノ一つあればそこに人が集まってハウス・パーティでも酒場でもみんなでブギで楽しく踊れる。それは貧しい黒人たちにとって憂さを晴らす最高のダンス・ミュージックだったと思います。また来週もこのアルバム「伝説のブギ・ウギ・ピアノ」から歴史的に貴重な録音を聴いてみようと思います。「ブギで踊れ!」永井ホトケ隆でした。

2023.12.01 ON AIR

ウエストコーストの人気者だったフロイド・ディクソンの遺作

Time Brings About A Change: A Floyd Dixon Celebration

ON AIR LIST
1.Don’t Loose Your Cool/Floyd Dixon
2.Caldonia/Floyd Dixon
3.Sweet Home Chicago/Floyd Dixon feat.Henry Gray(vo)
4.Time Brings ‘Bout A Change/Floyd Dixon

今年の2月にリリースされたのに紹介するのをすっかり忘れていたライヴアルバムをON AIRします。
50年代半ばにウエストコーストで人気者だったピアノ・ブルーズのフロイド・ディクソン。ブルーズ・ブラザーズがカバーした(私もカバーしてますが)”Hey Bartender”のソングライターでありオリジナル・シンガーですが、そのフロイド・ディクソンの音楽的功績をお祝いしたイベント”Time Brings About A Change”が2006年6月に行われました。そのライヴ録音がBSMFレコードからリリースされています。
ゲストにはピアノと歌でヘンリー・グレイ、パイントップ・パーキンス、フレッド・カプラン、ハーモニカのキム・ウィルソン、そのキムのバンド「ファビュラス・サンダーバード」にも在籍していたギターのキッド・ラモス、そのラモスともアルバムを作ったことのあるジョニー・タッカーなどウエストコーストのしっかりしたミュージシャンたちがバックを務めています。
まずコンサートのオープニングを飾るインストルメンタルの曲

1.Don’t Loose Your Cool/Floyd Dixon

とてもいいバンドだと思います。ドラムはリチャード・イネス、ベースはラリー・テイラー、この二人はキム・ウィルソンとブルース・オールスターズというバンドをやってました。素晴らしいリズム・セクションです。

実はこのアルバムが録音されたライヴの二ヶ月後にフロイド・ディクソンは77才でガンで亡くなっています。そういう病のこともあってこのコンサートが企画されたようですが、ライヴではめちゃ元気です。とにかく人望の厚い人柄だったようです。次のディクソンの歌を聞いているととても二ヶ月後に亡くなるとは思えません。彼が好きだったルイ・ジョーダンの大ヒット曲。

2.Caldonia/Floyd Dixon
 
いろんなゲストによるいろんなブルーズが収録されているのですが、ここであまりにもスタンダード過ぎるこの曲を聞いてもらいたいと取り上げたのはこんなに自然にダウンホームに、緩やかに演奏ができているのが素晴らしいと思ったからです。途中のキム・ウィルソンのハーモニカ・ソロもいいです。ピアノと歌のヘンリー・グレイは

3.Sweet Home Chicago/Floyd Dixon feat.Henry Gray(vo)

このダウンホーム感が実はすごく難しいのです。
ヘンリー・グレイも2020年に亡くなってしまいましたが、50年代半ばのハウリン・ウルフのバンドはじめたくさんのシカゴ・ブルーズマンの録音やライヴに参加し晩年は故郷のルイジアナで活動していました。

次の曲は「時の流れは変化をもたらす。何事も同じままではない。一年前にしたことを俺はしたくない。愛した女は同じように愛しているが時が変えてしまう。一年前にここに住んでいた人たちももうここに住んではいない。時の流れは変化をもたらす」となんとなくフロイド・ディクソンの人生を歌っているようにも感じる曲です。

4.Time Brings ‘Bout A Change/Floyd Dixon

このアルバム、フロイド・ディクソンの記念ライヴのアルバムなのに彼のヒット曲の”Hey Bartender”や”Fine Fine Fine”などが演奏されていません。どういう理由かわからないのですが、DVDの方には彼のそういうヒット曲も演奏されているそうです。
今回はウエストコーストのブルーズシンガー&ピアニスト、フロイド・ディクソンの遺作となったライヴアルバム”Time Brings About A Change: A Floyd Dixon Celebration”
追記:あとでDVDを見たらすごくよかった。