2019.11.29 ON AIR

永井ホトケ隆が選ぶブルーズ・スタンダード曲集  vol.5
テキサス~ウエストコースト

Jonny “Guitar” Watson/Jonny “Guitar” Watson (KING Federal/ OLDAYS ODR6017)

Jonny “Guitar” Watson/Jonny “Guitar” Watson (KING Federal/ OLDAYS ODR6017)

Truckin’ With Albert Collins/Albert Collins(MCA  MCAD-10423)

Truckin’ With Albert Collins/Albert Collins(MCA MCAD-10423)

Atlantic Ultimate ’50 R&B Smashes(east west japan AMCY-2788)

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the original hound dog/Big Mama Thornton (Peacock/ACE  CDCHD 940)

the original hound dog/Big Mama Thornton (Peacock/ACE CDCHD 940)

Ball And Chain/Big Mama Thornton (ARHOOLIE 1039)

Ball And Chain/Big Mama Thornton (ARHOOLIE 1039)

ON AIR LIST
1.Gangster Of Love/Johnny “Guitar” Watson
2.Frosty/Albert Collins
3.Since I Met You Baby/Ivory Joe Hunter
4.Hound Dog/Big Mama Thornton
5.Ball & Chain/Big Mama Thornton

前回このシリーズでテキサス出身のT.Bone Walkerとチャールズ・ブラウンを取り上げたのですが、テキサスのブルーズマンというのは彼らのように一旗上げにウエストコーストの大都会ロスアンジェルスに行く人が多くいました。
テキサス州はアメリカのいちばん南部の真ん中あたりにあって南はメキシコと国境を接してます。東隣はルイジアナ州、北と也はオクラホマ州、西隣はニューメキシコ州、そのニューメキシコから西のアリゾナ州を抜けるとカリフォルニア、ロスへと行くことができます。
40,50年代あたりから大都会ロスに音楽の仕事がたくさんあり、レコード会社もたくさんできたこともあって黒人ミュージシャンたちはテキサスからロスに向かったわけです。今日最初に聴くジョニー・ギター・ワトソンもそうです
ロスに移ったジョニー・ギターが1963年にジョニー・オーティスのプロデュースで録音したのが、いま聴いてもかっこいいこのブルーズ
1.Gangster Of Love/Johnny “Guitar” Watson
「愛のギャング・スター」というタイトルですが、ジョニー・ギターは見た目も裏通りの街のちょっとやさぐれた兄貴と言う感じで、この曲にぴったりでした。彼はこの曲をよくライヴで歌い、録音も何度かしています。
70年代半ばにファンクスタイルによる当時のブルーズ表現をした時もやはりギャングスターぶりは変ってませんでした。彼は終生、この曲のタイトルどおりのギャングスターぶりを見せてくれました。演じていたと言ってよいかも知れません。
ロスのクラブでライヴを観たとき休憩時間に客席にやったきたのでサインをお願いしたら、「どっから来たんだ。日本か」「ブルーズ歌ってんのか。なんか困ったことがあったら連絡してこい」と連絡先まで教えてくれた優しい、やっぱり「愛のギャングスター」でした。
ジョニーギターはテキサス州ヒューストンの生まれですが、若い頃一緒にギターを弾いて遊んでいた悪ガキ友達が、アルバート・コリンズとジョニー・コープランド。
アルバート・コリンズは最初歌が下手という「定評」があり、本人もそれを意識して歌なしのギター・インストで最初勝負してました。愛用のギター、フェンダー・テレキャスターを使ったワイルドでクールなインストがいろいろありますが、僕がスタンダードとして挙げるのは1962年リリースのこの曲
2.Frosty/Albert Collins
1962年ミリオンセラーになったというアルバート・コリンズを代表するインスト曲。日本にも何度か来てくれてそのライヴ・パフォーマンスはいつ見ても楽しいものでした。そして、あのパキパキのテレキャスターの強烈なギターの音色はずっと忘れられないものです。
ジョニー・ギターやコリンズより先輩のピアニスト、アイヴォリー・ジョー・ハンターもテキサスからウエストコーストへ流れたミュージシャンですが、結局はまたテキサスに帰ったみたいです。
1956年の大ヒットでR&Bチャート1位に三週間ランクされ、一度聴いたら忘れられない歌詞とメロディの曲。
「君と出会ってからオレの生活はすっかり変った。みんなが言うよ昔のオレじゃないって。君と出会ってから、オレは幸せ者だよ。君が喜ぶことは何でもするよ」
3.Since I Met You Baby/Ivory Joe Hunter
それでテキサス出身と言えば、偉大な女性ブルーズシンガー、ビッグママ・ソーントン。まあ、ビッグママもロスに移住しましたが、10代から20代にかけてはヒューストンあたりのクラブ歌っていました。そこにピーコック・レコードの社長、ドン・ロビーに声をかけられてレコード・デビュー。1953年に次の曲の大ヒットとなりました。ジョニー・オーティスがプロデュースしたこの曲はいまもブルーズとロックのシンガーたちが歌う名曲のひとつです。
「あんたなんかただの女たらしやん。あっちに行ってくれるか」
4.Hound Dog/Big Mama Thornton
この曲はご存知の方も多いとおもいますが、その三年後に白人のロックンローラー、エルヴィス・プレスリーがカバーしてミリオンセラーにしたのでプレスリーの曲だと思っている人も多いのですが、オリジナルはビッグ・ママ。
そして、同じテキサスの白人ロック・シンガー、ジャニス・ジョップリンがカバーして有名になった曲がつぎのBall & Chain
1968年にビッグママがアーフリー・レコードからリリースしているこの曲をジャニスは同じ68年の「チープ・スリル」というアルバムでカバーしています。当時はふたりともウエストコーストに住んでいたわけですから、ジャニスはひょっとするとビッグ・ママのライヴを観てこの曲を聴いていたかもしれません。
5.Ball & Chain/Big Mama Thornton
圧倒的な歌の力を感じます。ジャニスと聴き比べるとわかるのですが、ジャニスは心の思いの丈をぶちまけるような歌唱でしたが、ビッグママは燃えているけれどどこか愛にあきらめて冷たくなっている気持ちを感じます。女性ブルーズシンガーとしてこういう歌を歌える人がもうほとんどいません。

2019.11.22 ON AIR

永井ホトケ隆が選ぶブルーズスタンダード曲集 vol.4
テキサス~ウエストコースト

モダン・ブルース・ギターの父/T.Bone Walker (Capital/東芝EMI TOCP-6380)

モダン・ブルース・ギターの父/T.Bone Walker (Capital/東芝EMI TOCP-6380)

Hard Times & Cool Blues/Charles Brown (Sequel NEX CD 133)

Hard Times & Cool Blues/Charles Brown (Sequel NEX CD 133)

ON AIR LIST
1.Call It Stormy Monday But Tuesday Is Just As Bad/T.Bone Walker
2.T-Bone Shuffle/T.Bone Walker
3.Mean Old World/T.Bone Walker
3.Driftin’ Blues/Charles Brown
4.Merry Christmas Baby/ Charles Brown

このブルーズスタンダード曲集のシリーズで僕がモダン・シカゴブルーズとかモダン・メンフィスブルーズとか言っているそのモダン・ブルーズの元祖であり、ギターに関しては「モダンブルーズギターの父」と呼ばれるのがT.ボーン・ウォーカーです。彼はテキサスの出身ですがロスアンゼルスに移ってからブルーズのヒットをたくさん出して、多くのモダン・ブルーズマンの先駆けとなった人です。40年代、ミシシッピーとかアラバマ、アーカンソーあたりの南部の黒人たちはメンフィスからシカゴへと北上していったのですが、テキサスあたりの黒人たちは西のウエストコースト、ロスアンゼルスに仕事を求めて移住しました。
だからウエストコーストのブルーズにはテキサスの匂いがある曲が多くあります。

T.ボーン・ウォーカーと言えばまず「Stormy Monday Blues」でしょう。ブルーズをよく知っている人の中には、この曲のカバーも多くあり「もう聞き飽きた」なんて言う人もいるのですが、僕は聞き飽きたなんてことはない。
この曲がたくさんのカバーを生み、いまも歌い継がれているのは実にこの曲がうまくできていて、人間の生活や心根をうまく表しているからです。
「月曜から金曜までつらい仕事に働きに行く男は金曜に給料をもらって、土曜にはその金を持って遊びに行き、日曜には教会へ行ってお祈りをする。神さま、オレの心はボロボロですよ。せめて彼女をオレのところに戻してくださいよ」毎日毎日つらい仕事をして、週末に羽目を外して遊びに行く、でも何か満ち足りない。好きな彼女はどこかへ行ってしまい。楽しいことなんてない。日曜には教会に行ってお祈りするけど満たされない。せめて彼女だけでも自分のところに戻ってくれないだろうかという気持ちなんだと思います。でも、そういう生活を送っている人はいまも昔もたくさんいるわけで、だから歌い継がれているんだと思います。
曲はすごくストレートですが、T.ボーンのギターはもちろんバックのトランペットやサックス、ピアノ、ウッドベースの響きが都会の夜の孤独みたいなものをうまく表現しているように思います。
1.Call It Stormy Monday But Tuesday Is Just As Bad/T.Bone Walker
たった3分3秒のこのブルーズが人生の断面をうまく語っていると思います。それからこの曲のコード進行ですが、7小節目、8小節目に2度マイナー、3度マイナーと展開するコード進行がよく使われるのですが、聴いてもらったようにT.ボーンのオリジナルではそれは使われてません。2度マイナー、3度マイナーと行くのはボビー・ブランドがこの曲をカバーするした時にそのコード進行を使い、それをロックのオールマン・ブラザーズ・バンドがまたカバーして広まったのです。曲名も本当はこんなに長いんです。

それでT.ボーンにはたくさんスタンダードとして挙げたい曲がありますが、次はこのシャッフル・ビートの曲。このグルーヴ感はブルーズにおけるシャッフルというリズムの基本と言ってよいと思います。
T.ボーンがモダン・ブルーズギターの父と呼ばれるのは、いまでは普通になっているブルーズを演奏する時のエレキギターのソロを流れるように、しかも素晴らしくリズムがよく印象に残るように弾いた最初の人だったからです。
B.B.キングもジョニー・ギターやゲイトマウスも40年代から50年代のギタリストは絶対にどこかでこの人のギターを一度はコピーしたはずです。だから、いまブルーズギターを弾いているあなたもT.ボーンなくしてはそのギターは弾けなかったということです。だからエレキでブルーズギターを弾く人はT.ボーンまでさかのぼって聴いてコピーしてもらいたいですね。

「さぁ、髪を下ろして楽しもうよ。君が楽しくなければ何も楽しくないよ」
2.T-Bone Shuffle/T.Bone Walker
イントロからギターのテーマから絶妙なタイミングで入ってくるサックスの音色がまたたまらん感じです。そして、クールでドライな歌声の素晴らしさ、そのあとのジャズ風味のギターソロ。そして全編をグルーヴするドラムとベースとピアノのリズム。完璧と言ってよいほどのブルーズ・スタンダードです。
そして、もう一曲、僕はどうしてもこのT.ボーンの曲をこのスタンダード曲集に入れたい。
1942年、彼の最初のヒット”Mean Old World” ロスのメジャー・レコード会社「キャピトル」と契約したT.ボーンの栄光の歴史はここから始まるのですが、歌詞は人生のすべてを歌ったかのような心に残るものです
「ひとりで生きていくにはつらい世の中。愛する女を手に入れたと思ったら、彼女は他の男を愛してる。悩みから逃れるために酒を飲んで、泣きたくないから笑ってるんだよ。自分の心の中を知られたくないからね。でも、いつの日か土の下6フィートの墓の中にオレはいるんだよな。奴隷みたいな扱いをされてこの街をうろついてなんかいないよ」とどこか人生を達観したような深い曲です。
3.Mean Old World/T.Bone Walker

ブルーズという音楽はただ愛しているとかフラれたとかというだけの歌ではなく、こういうように人間の内面を歌った曲もたくさんあります。次のチャールズ・ブラウンの”Driftin’ Blues”もそういう曲のひとつでたくさんのカバーが作られ、歌い継がれてきたブルーズです。
チャールズ・ブラウンはT.ボーンと同じように40年代からウエストコーストでスター・ブルーズマンとして活躍したピアニスト・シンガーだ。
T.ボーンの歌とギターにはエッジがあり、ソリッドだったりするが、チャールズ・ブラウンの歌とピアノはソフトでまろやかな独特の味わい。
「オレは海に出た船のように漂っている」と歌いだすこの曲もやはりMean Old World のように田舎から出てきて都会で暮らす人たちの孤独を描いている。
チャールズ・ブラウンもテキサスの出身で、彼は21才の時にロスに移り住んでいます。元々はナット・キング・コールのような洗練されたスムーズな歌とピアノのジャズを目指してザ・ブレイザーズというピアノトリオで活動していました。1945年にチャート2位まで上がり、23週間チャートインしていた”Driftin’ Blues”の大ヒット。以後、都会的なジャズ・テイストのあるブルーズを歌うブルーズマンとして活躍しました。
では、数多くのカバーを生んだブルーズの名曲です。「海に浮かぶ船のようにオレは漂っている」と不安な都会の生活を歌ったブルーズ
4.Driftin’ Blues/Charles Brown
チャールズ・ブラウンにはまだまだいい曲がありますが、ブルーズのクリスマスソングとしてたぶん一番有名な”Merry Christmas Baby”もブルーズスタンダードに入れておきましょう。
名人ジョニー・ムーアのギターも素晴らしい。
5.Merry Christmas Baby/Charles Brown
チャールズ・ブラウンはサム・クックやレイ・チャールズにも影響を与えていて、レイ・チャールズの初期はチャールズ・ブラウンそっくりさんみたいな曲もあります。

2019.11.15 ON AIR

永井ホトケ隆が選ぶブルーズ・スタンダード曲集 vol.3

Singin' The Blues/B.B.King (Crown / P-Vine PCD-4364)

Singin’ The Blues/B.B.King (Crown / P-Vine PCD-4364)

Greatest Hits Vol.One / Bobby Bland (Duke.Peacock/MCA MCAD-11783)

Greatest Hits Vol.One / Bobby Bland (Duke.Peacock/MCA MCAD-11783)

Sing The Blues/Howling Wolf (Crown / P-Vine PCD-23760)

Sing The Blues/Howling Wolf (Crown / P-Vine PCD-23760)

Driving Wheel / Little Junior Parker (DUKE/MCA MCD-32643)

Driving Wheel / Little Junior Parker (DUKE/MCA MCD-32643)

King Biscuit Time / Sonny Boy Williamson (ARHOOLIE / P-Vine PCD-93701)

King Biscuit Time / Sonny Boy Williamson (ARHOOLIE / P-Vine PCD-93701)

ON AIR LIST
1.Three O’Clock Blues/B.B.King
2.Farther Up The Road/Bobby “Blue” Bland
3.Next Time You See Me/Little Junior Parker
4.Moaning At Midnight/Howlin’ Wolf
5.Eyesight To The Blind/Sonny Boy Williamson

 

ブルーズ・スタンダード曲集の三回目。前回、前々回はシカゴ・ブルーズのスタンダード曲を特集しましたが、今日は少し南に下ってメンフィスのブルーズスタンダードを挙げてみます。
多くの黒人ブルーズマンは南部のミシシッピーやアラバマ、ルイジアナ、アーカンソーあたりの田舎で生まれ育ち、一旗挙げようとメンフィスやシカゴやセントルイス、ニューヨークのような都会に向かっていったのですが、メンフィスという街はテネシー州ですが州の最南端にあり州境を越えるとすぐミシシッピー州に入り、西の州境を越えるとアーカンソー州に入ります。
ミシシッピー川が近くを流れて、50年代には綿花や材木が南から集まって売買される大きな都市となったメンフィス。都市が出来るということは自然と繁華街や夜の街が作られて、クラブやラウンジが生まれ南部のミュージシャンたちが稼ぎに集まってくるわけです。そこでメンフィス・ブルーズと呼ばれるものが作られていったのです。メンフィスと言えば50年代にB.B.キング、ボビー・ブランド、ジュニア・パーカーはじめいわゆるモダン・ブルーズの素晴らしいブルーズマンたちがいて、現在も歌い継がれているスタンダードがたくさん残された街です。
あまりにも有名曲が多過ぎて最初に何をON AIRするか迷うところですが、まずはB.B.キングの初ヒット、1951年にチャート1位になったこの曲
「夜中の3時になっているのに目を閉じて眠ることができない。彼女がどこにいったのかわからない。もう終わりだ。でもベイビーオレの罪を許してくれ」

1.Three O’Clock Blues/B.B.King
まだB.B.キングのスクウィーズ・ギターが完成される前でT.ボーン・ウォーカーのフレイズなども出てくるギターソロですが、でも歌にもギターにもすごく熱量があって素晴らしいブルーズです。
このアルバム”Singing The Blues”には他にもEvery Day I Have The Blues,Sweet Little Angel,Woke Up This Morning,You Upset Me Babyなどなどいまも歌われているスタンダード曲がたくさんあり、それをON AIRしているとこのアルバムだけで終わってしまうので、また順番にスタンダード曲集で流して行くとして、次はB.B.とメンフィス・モダンブルーズの双璧、ボビー・ブルー・ブランド。
ボビー・ブルー・ブランドはボビー・ブランドとブルー抜きで呼ばれることもありますが、売れ始めた頃はボビー・ブルー・ブランド
彼もたくさんブルーズ・スタンダードを残してくれましたが、まずはエリック・クラプトンもカバーでも有名な1957年の初ヒットのこの曲
「ここから先オマエはオレにしているように誰かに傷つけられるだろうよ。古い言葉に自分で蒔いた種は自分で刈り取らなければならないってあるだろう」
2.Farther Up The Road/Bobby “Blue” Bland
「いまオマエは笑ってるけどいつか泣く日がくるんだよ」とまあフラれた女への悔し紛れの言葉とも思えるのですが・・・でも「蒔いた種は自分で刈り取らなければならない」って本当にその通り。こういう言葉もブルーズの歌詞で覚えました。”You got to reap just what you sow, that old saying is true”
ブルーズは英語の勉強にもなります。
いまの歌の最後の「オマエがヨリを戻したいとオレに頼んでも、オレには新しい女がいるだろうよ」You’re gonna ask me to take you back baby, but I’ll have somebody newというくだりの英語の表現とか僕はたまらんですね。
さて、メンフィス・モダンブルーズの偉大なもうひとりジュニア・パーカー。
ジュニア・パーカーもデビューの時はリトル・ジュニア・パーカーという芸名でした。そういえばこの曲にも”You got to reap just what you sow”の歌詞が出てくるですよ。黒人ブルーズマンは好きなんでしょうか。
この歌も次に会う時のオレは昔のオレじゃないよというような歌ですが、ふられるときになんかそう言いたいんですね、男は。まず女の人は戻って来ないです。僕の経験では・・・。
3.Next Time You See Me/Little Junior Parker
1956年リリース。ジュニア・パーカーとさっきのボビー・ブランドは「デューク・レコード」というレコード会社と契約していたのですが、このデュークレコードの音作りというのが聴いてもらったようにホーン・セクションを入れて、アレンジもしっかりされていて、バックのミュージシャンも腕のいいミュージシャンを揃えてしっかりした作りになっています。だから例えば、ジョン・リー・フッカーやライトニン・ホプキンスのような思いつくままに弾き語るブルーズを好きな人が聴くと、ちょっとスクウェアなカチッとし過ぎのブルーズに聴こえるかも知れません。でも、50年代の都会メンフィスのクラブでは少しお金を持った黒人たちがきれいなドレスやスーツにで着飾ってクラブに来てこういうゴージャスなブルーズ・サウンドで夜を明かすのが、都会の黒人のステイタスやったんですね。
でも、50年代にメンフィスはそういう少しオシャレなブルーズが流行ってましたが、川を渡るとすぐにあるアーカンソー州のウエストメンフィスでは、また違うワイルドでラフなブルーズを人気のこの男がいました。

4.Moaning At Midnight/Howlin’ Wolf
さっきのジュニア・パーカーやボビー・ブランドより少し前の51年の録音ですが、比べると土着性のあるアーシーなブルーズで、こういうビートを「サザンビート、南部のビート」というんですがハウリン・ウルフの歌ももう南部の匂いがプンプンするワイルドさ。こういう曲はできる限り音量を上げて聴いてください。もうパンクなんて問題やないです。そして耳から消えないウルフのうーんという唸り声。南部の荒野に放り出されたような気分になります。
こういうウルフのワイルドでラフでタフなブルーズはこの後シカゴのチェスレコードに移籍しても変らないで、彼は全国区のそしてイギリスにもファンをもつ人気のブルーズマンとなりました。
でも、この曲はそんなにヒットしなかったし、カバーしている人もあまりいませんが、ブルーズのスタンダードとして、そしてウルフ代表する曲として入れておきたいですね。
ウルフが活躍したウエストメンフィスから更にミシシッピー川沿いに南へ行ったところにある街がヘレナ。
そのアーカンソー州ヘレナで40年代から南部一帯に知れ渡っていたブルーズマンがハーモニカも抜群の腕だったサニーボーイ・ウィリアムスン。彼はヘレナのKFFAというラジオ局で「キングビスケットタイム」という番組を持っていた。その人気番組でバンド編成による最新の彼のブルーズが南部一帯にON AIRされていた。サニーボーイは間違いなく当時のサザン・ブルーズのボスでした。そんなヘレナ時代の録音から彼のスタンダードとして今回選んだのは、B.B.キングも名盤「ジャングル」でカバーしたこの曲

5.Eyesight To The Blind/Sonny Boy Williamson
これはトランペットというレーベルで1951年にリリースされたサニーボーイのデビューシングルだ。少し前シカゴ・ブルーズの時にON AIRしたサニーボーイとは別人物で、本名はライス・ミラー。
サニーボーイもハウリン・ウルフもこのあとシカゴのチェスレコードで録音をしてヨーロッパでも人気を博し、また素晴らしいブルーズを残していくのですが、その話はまたあとで。

2019.11.08 ON AIR

カントリー&ウエスタン・ミュージックの聖地ナッシュヴィルにもブルーズはあるんやで・・の巻

Let Me Tell You About The Blues Nashville(FANTASTIC VOYAGE FVTD078)

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ON AIR LIST
1.Nashville Jumps/Cecil Gant
2.Beer Bottle Boogie/Mr Swing (Rufus Thomas)
3.Don’t Do It/Christine Kittrell
4.Baby Let’s Play House/Artthur Gunter
5.Courtin’ In A Cadillac/Jerry McCain

みなさんはアメリカのナッシュヴィルという街をご存知でしょうか。僕も行ったことがないのですが、メンフィスと同じテネシー州にあってメンフィスが黒人音楽のブルーズやR&Bの街ならナッシュヴィルは白人の音楽、カントリー・ミュージックの聖地と言ってもよいカントリー・ミュージックが盛んな街で「グランド・オール・オプリー」という1925年から始まったカントリー・ミュージックのラジオ番組がいまも続いています。
だからテネシー州には白人の音楽と黒人の音楽の中心となった大きな街がふたつあるわけです。
僕のような黒人音楽好きはやはりメンフィスに気持ちが動きますが、今日聴くアルバムは「いやいや、ナッシュヴィルにもブルーズはあるんやで」ということでアルバムタイトルが「ナッシュヴィルのブルーズについてしゃぺらしてくれや」”Let Me Tell You About The Blues Nashville”というものです。
CD三枚組全75曲でずっしり聞き応えがあります。

そのトップに収録されているのが、ピアニストのセシル・ギャント。”I Wonder”という曲が1944年に大ヒットしてその名を知られるようになった人ですが、ウエストコーストで活躍していましたが、元々ナッシュヴィル生まれのミュージシャンだったんですね。”I Wonder”はスローブルーズですが、セシル・ギャントは甘いバラードからブギからジャイヴ、ジャンプまで幅広くいろんなピアノが弾ける名人です。
今日はこのアルバムのナッシュヴィルということでNashville Jumpsという彼のピアノの素晴らしさがわかる曲から
1.Nashville Jumps/Cecil Gant
リズムを繰り出すピアノの左手の重量感のある安定したグルーヴと、右手のタッチの強さもわかる多彩なオブリガードと見事なソロ。完璧です。このピアノひとつで踊れます。

ブレット・レコードいうレコード会社が1946年にナッシュヴィルに出来てそこからブルーズ、R&Bのミュージシャンの録音が始まりその最初に録音されたのが、いまのセシル・ギャント。最もやはりカントリー・ミュージックが強い土地なのでブレットはカントリーもリリースし、ゴスペルも出していました。
他にも当時のナッシュヴィルにはJ-Bとかテネシーというレーペルがあり、やがてブルーズ・ファンにはおなじみのエクセロというレコード会社が始まります。この3枚組CDの半分からあと。1953年くらいからざぁーっとエクセロで録音されたミュージシャンが出てきます。
テネシーの州都でもあるナッシュヴィルはカンバーランド川の川沿いにあり、古くから交易の要所で産業、商業が栄えた街で当然音楽も栄えたというわけです。

このアルバムには1940年代半ばから50年代半ばまでのナッシュヴィルで録音されたブルーズが収録されているのですが、CDの一枚目はいまのセシル・ギャントのようなピアニストが多いです。
2.Beer Bottle Boogie/Mr Swing (Rufus Thomas)
しっかりオーケストラ・アレンジされたジャズ・ジャンプ・ブルーズでのちに60年代にR&Bでダンス・ミュージックを70年代にファンク・グルーヴでダンス・ミュージックでみんなを踊らせた男、ルーファス・トーマスは40年代からすでにジャンプでみんなを踊らせていたと思うと・・めちゃすごいですね。この当時の芸名がミスター・スウィングですから、偉大ですルーファス・トーマス!

このアルバムを最初ざっと聴いている時に「ああ、この人の声が好き」と思ったのが次の女性シンガー、クリスティ-ン・キットレル
僕も初めて聴く女性シンガーで調べたら、ナッシュヴィルのローカル・シンガーで地元のレーベル「テネシー」に録音もしていて、人気があったのかニューオリンズあたりまでツアーに行ったり、1951年にはブルーズシンガーの大スター、ビッグ・ジョー・ターナーのバンドのツアーにも参加していたらしい。
3.Don’t Do It/Christine Kittrell
なんとも言えないキュートな歌声だと僕は思うのですが、いかがでしょう。アメリカの落ち着いたクラブでウィスキー飲みながらこういう女性シンガー聴きたいですね。
途中のサックス・ソロの音色もよかったです。しっかりアレンジされているけど窮屈な感じがしない、いいアレンジってそういうものだと思います。
今日聴いているようなコンピレーション・アルバムを聴く楽しさというのは、自分が知らなかったいまのクリスティーンのようなシンガーに出会えるということで、たった一曲でもそういう曲に出会えるというのは大切なことだと思います。なぜなら、そこからまた違う音楽に自分の音楽のフィールドが広がっていくわけですから。
次のブルーズマンは知ってます。アーサー・ガンター、なんか名前がゴツゴツしてますが、演奏は軽快でナッシュヴィルのせいかちょっとカントリー・ミュージックテイストもあります。これはエルヴィス・プレスリーがカバーして有名なった曲なんですが、プレスリーもそのカントリー・テイストを感じて選んだのかも知れません。
4.Baby Let’s Play House/Artthur Gunter
1954年のこのアーサー・ガンターあたりからそれまでとはちょっと色合いの違うイナタイブルーズが出てくるのですが、ナッシュヴィルと言えばブルーズ、R&Bで有名なエクセロというレコード会社がこの頃からリリースを始めます。正確に言うとエクセロが設立されたのは1953年。テネシーだけでなく、アラバマやルイジアナのブルーズもリリースするようになり、50年代の終わりにはエクセロの看板ブルーズマン、ライトニン・スリムとかレイジー・レスター、スリム・ハーポが活躍しました。
最後にアラバマのブルーズマン、私個人的に大好きなブルーズマン、ジェリー・マッケインを。南部のワイルドなサザン・ビートに乗った彼の歌うブルーズが風を切っているみたいで男らしく清々しい。
5.Courtin’ In A Cadillac/Jerry McCain

今日聴いたこの3枚組のLet Me Tell You About The Blues Nashvilleはまだレコード店とかネットにあると思うので興味のある方は是非。ホームページにジャケット写真とデータも出してますので見てください。
ナッシュヴィルはギブソンというギターメイカーがある街でもあり、他のギターメイカーもあるし、音楽の街なので一度行ってみたいと思っています。
今日は40年代半ばから50年代後半のナッシュヴィルのブルーズをコンピレーションしたアルバムLet Me Tell You About The Blues Nashvilleを聴きました。

2019.11.01 ON AIR

永井ホトケ隆が選ぶブルーズ・スタンダード曲集 vol.2
戦前シカゴ・ブルーズ

The King Of Chicago Blues Piano / Big Maceo (ARHOOLIE CD-7009)

The King Of Chicago Blues Piano / Big Maceo (ARHOOLIE CD-7009)

Farher Of Blues Harmonica / Sonny Boy Williamson (Golden Stars GSS-5431)

Farher Of Blues Harmonica / Sonny Boy Williamson (Golden Stars GSS-5431)

Warm Witty & Wise / Big Bill Broonzy (SME Record SRCS9461)

Warm Witty & Wise / Big Bill Broonzy (SME Record SRCS9461)

ON AIR LIST
1.Worried Life Blues/Big Maceo
2.Chicago Breakdown/Big Maceo
3.Good Morning Little School Girl/Sonny Boy Williamson
4.Early In The Morning/Sonny Boy Williamson
5.Key To The Highway/Jazz Gilum

前回から始めた「ブルーズ・スタンダード曲集」の二回目です。
僕も含めてですが、長い歳月ブルーズを聴いているとブルーズの有名なスタンダード曲はわかっていると思ってることがあります。
でも、自分も年を重ねるうちにひとつの曲の気づかなかった側面を知ったり、なぜその曲が長く多くの人に親しまれているのかがわかったり、その曲が生まれた経緯を理解したり・・ということがあります。
今日もON AIRする曲を知っている人もいると思いますが、いま一度この番組を通して聴いてみてください。
そして、初めて聴く人はもし気に入ったならそのブルーズマンのアルバムをゲットして聴いていただきたいです。
まあ、基本的に音楽に分類分けなんかどうでもいいのですが、自分の好きなブルーズを探すときの目安としてその分類をちょっと知っておくと便利です。
ブルーズという音楽の中でロックにも大きな影響を与えた戦後のエレクトリック・シカゴ・ブルーズから前回始めましたが、今回は「戦前」のシカゴ・ブルーズからスタンダードな曲を紹介します。
まずはブルーズのスタンダード曲に選ばれるのにふさわしいブルーズの名曲です。
彼女にフラれてしまい傷ついた男が「でも、いつの日かこれ以上苦しむことのない日が来るだろう」と歌っているのですが、そのいつの日かというのは死を意味していると思います。生きていく中で、失恋や別離や失敗をしてもいつの日かあの世に行くのだから、その日にはもう苦しみはなくなるんだという考え方に聴いていた多くの黒人たちは共感したのだと思います。
1.Worried Life Blues/Big Maceo
1942年録音。歌詞、曲としても素晴らしいですが、メイシオのピアノ・スタイルはのちのシカゴ・ブルーズのピアニスト、オーティス・スパンたちに引き継がれていきました。
ギターのタンパ・レッドのスライド・ギターも素晴らしいです。名曲であり名演です。

もう1曲ピッグ・メイシオで忘れられない曲でこのインストルメンタル曲もブルーズの名曲名演のひとつに入れてもいいと思います。左手でステディにグルーヴするブギ・ウギのリズムを強烈に打ち出しながら、右手で縦横無尽に繰り広げられるソロ。ブギウギ・ピアノの楽しさ満載の一曲。
1945年録音、チック・サンダースというドラマーとデュオです。
2.Chicago Breakdown/Big Maceo
パーティやクラブのダンスナンバーとして欠かせなかったブルーズのブギウギ曲。こういう曲でピアニストたちは技、テクニックの競い合いをしてたわけです。

次は後続のブルーズ・ハーモニカ・プレイヤーに大きな影響を与えたサニーボーイ・ウィリアムスン。いつも言ってますが、有名なサニーボーイ・ウィリアムスンはブルーズにふたりいます。しかもふたりともハーモニカ・プレイヤー。ふたりとも素晴らしいブルーズマン。ややこしいです。ひとりはこれから聴いてもらうジョン・リーウィリアムスン、もうひとりはライス・ミラー。先にシカゴにいて先に有名になったのがジョン・リー・ウィリアムスンの方なのでサニーボーイ1と呼ばれ、ライス・ミラーがサニーボーイ2と呼ばれています。どちらもブルーズにとっては重要なミュージシャンです。今日はそのサニーボーイ1のブルーズ・スタンダード・ナンバー。
「おはよう可愛い女子学生。僕と一緒に帰らへんか。パパとママには学校の友達やって言うたらええやん」と始まるんですが、これ・・おっさんが女子学生を誘ってる歌詞でいまやったらかなりヤバいんちゃいますか。続けて「彼女になってくれた、ダイヤの指輪買うたるで」ってこれ援交の歌ですね。1937年のアメリカではOKやった・・というかその後もマディ・ウォーターズ、ジュニア・ウエルズ、ライトニン・ホプキンス、ロックのヤードバーズ、ジョニー・ウィンター・・とかなりのカバーがあるんですが・・内容的にOKなんでしょうか。それとも、おっさんが可愛い女の子を可愛いなぁ、なんでも買ってやるよ・・・くらいの軽い歌なんでしようか。45年聴いていてもいまだに真意がはっきり分からない歌です。
3.Good Morning Little School Girl/Sonny Boy Williamson
アンプを通していない生のハーモニカの音の素朴な美しさがあっていいですね。ギターもアコースティックでひとりがジョー・ウィリアムス、もうひとりがロバート・リー・マッコイです。

次の曲は僕にとっては想い出深い曲で、最初に聴いたのはジュニア・ウエルズがアルバム”Hoodoo Man Blues”でカバーしたものでした。この曲が好きでいつか録音したいと思って録音できたのが、ウエストロード・ブルーズバンドの「ライヴ・イン・ニューヨーク」のアルバムでした。最初に出てくるインパクトのあるピアノはさっき聴いたビッグ・メイシオ。ギターが名手タンパ・レッド。チャールズ・サンダースのドラム。そしてハーモニカと歌のサニーボーイ・ウィリアムスン
4.Early In The Morning/Sonny Boy Williamson

いま聴いたサニーボーイ・ウィリアムスンとコンビも組んでいたのがビッグ・ビル・ブルーンジー。ビッグ・ビルはいろんなスタイルのギターを弾ける名人で自分のレコーディング以外にもレコーディング・ミュージシャンとしても活躍して、ミシシッピーからシカゴに来た多くのブルーズマンの中でも成功した人でした。そして、その後南部から出てきた後輩のマディ・ウォーターズなどの面倒もよく見た人格者でもありました。
とにかくたくさんの録音を残した人ですが、次のジャズ・ジラムの超有名8小節ブルーズもギターがビッグ・ビルです。彼のギターがこの曲の色合いというか、装飾をうまく作っていてすごく印象に残ります。
この曲もエリック・クラプトンはじめ多くのカバーがある誰もが認めるスタンダード曲だと思います。
5.Key To The Highway/Jazz Gilum

前回から始めた僕が選ぶブルーズ・スタンダード曲集ですが、まだまだたくさんのスタンダード曲があるので続けてではなくて何回にも分けてON AIRします。