2024.07.26 ON AIR

ジョニー・ウィンターがプロデュース、マディ・ウォーターズの晩年のアルバムが3枚セットで再発

77年”Hard Again”,78年”I’m Ready”,81年”King Bee

ON AIR LIST
1.Mannish Boy/Muddy Waters
2.I Want to Be Loved/Muddy Waters
3.The Blues Had a Baby and They Named It Rock And Roll /Muddy Waters
4.I Just Can’t Be Satisfied/Muddy Waters
5.Jealous Hearted Man/Muddy Waters

シカゴ・ブルーズのボス、マディ・ウォーターズは長年チェス・レコードに所属し50年代にチェスがブルーズのレーベルとして認知される源となるヒットを発表した。しかし75年の「ウッドストック・アルバム」が最後のチェスレコードでの録音となる。チェスが事実上の倒産となってしまったからだ。1949年にフィルとレナードの兄弟によって運営されて来たブルーズの名門レーベル「チェスレコード」の倒産によって最も古くから在籍し貢献して来たマディが次に行くレーベルが決まらなかった。シカゴ・ブルーズのボスとは言えシカゴ・ブルーズの隆盛はとうに過ぎた70年代。そのマディに手を差し伸べたのは、新興のブルー・スカイ・レコードのプロデューサー役も務めていたブルーズ・ロックのスター、ジョニー・ウィンターだった。
今回このブルー・スカイ・レーベルからリリースされた77年”Hard Again”、78年”I’m Ready”,81年”King Bee”の三枚がセットで7/19にBSMFレコードからリリースされる。マディの晩年を語る上で大切な三枚。今日は最初の1977年リリースの「ハード・アゲイン」から何曲か聴いてみましょう。
まずは私もカバーさせてもらっている1955年リリースのいかにもマディといった感じのブルーズから。

1.Mannish Boy/Muddy Waters

オリジナルのチェス録音とは違う70年代のいい意味での少しロック的ないいサウンドとグルーヴしてます。このブルーズロックなテイストの入れ込み具合が難しいところです。ジョニー・ウィンターはそのさじ加減が上手いです。何よりそのサウンド乗って歌うマディの力強く、溌剌とした歌を聞けばどんな状態かわかると思います。演奏が終わった後のメンバーの笑い声もいいムードを表してます。
アルバムの参加ミュージシャンはまずプロデュースとギターのジョニー・ウィンター、もう一人ギターのボブ・マーゴリン、ハーモニカにジェイムズ・コットン、ピアノがパイントップ・パーキンス、ベースがチャールズ・キャルミーズそしてドラムがウィリー・スミス
実にしっかりしたメンバーでサウンドもしっかりしておりプロデュースのジョニー・ウインターのマディへのリスペクトが感じられるアルバムです。
次の曲もオリジナルは1955年のリリースです。この曲はロックのローリング・ストーンズがデビューのシングル盤で取り上げた曲です。

2.I Want to Be Loved/Muddy Waters

次の曲は”The Blues Had a Baby and They Named It Rock And Roll”と長い曲名なんですが、マディが作った曲です。
「ブルーズは魂のある音楽なんだ。ジェイムズ・ブラウンもレイ・チャールズもオーティス・レディングもそう言ってる。そしてブルーズにはロックンロールという赤ん坊がいるのさ」と歌われています。つまりよく言われることですが、ロックンロールはブルーズをルーツにしてできた音楽であり、ブルーズがなかったらロックンロールは生まれなかったし、現在のロックもなかったということです。
ブルーズには赤ん坊がいるそいつらの名前はロックンロール!

3.The Blues Had a Baby and They Named It Rock And Roll /Muddy Waters

次はリリースして一晩で3000枚売れたというマディの最初のヒット”I Can’t Be Satisfied” の再録音。
永遠不滅のブルーズの名曲の一つでもあります。そしてトラックの運転手をしていたマディが本格的にブルーズマンになれた一曲です。
歌詞は「いろんなことがうまく行かなくてずっと苦労して困って来た。でももう我慢できない。オレは満足できない」
アコースティックなサウンドになってます。スライドギターはジョニー・ウインターだと思います。

4.I Can’t Be Satisfied/Muddy Waters

70年代にマディが全盛だった50年代のチェスレコードのようなサウンドを求めるのはナンセンス。マディが新しいサウンドの中でなんとか自分の歌を表現しょうと力いっぱいやっている感じがする。そして70年代にこうして自分のブルーズを録音する機会を与えてくれたジョニー・ウインターと参加ミュージシャンたちにマディは感謝していたのではないでしょうか。
今日は7/19にBSMFレコードからリリースされるマディ・ウォーターズの3枚セットから77年”Hard Again”を聞きました。持っていない方はこの機会に是非。

 

2024.07.19 ON AIR

スウィート&ビターなスワンプ・ポップの魅力 その2

ON AIR LIST
1.Sweet Dreams/Tommy McLain
2.Pardon Mr Gordon/Rod Bernard
3.This Should Go On Forever/Rod Bernard
4.Rainin’ In My Heart/Slim Harpo
5.Small Town Talk/Bobby Charles

前回のスワンプ・ポップの特集で最初にON AIRしたのはトミー・マクレインが43年ぶりに一昨年リリースした”I Ran Down Every Dream”( 夢から醒めて)でした。そのトミー・マクレインが若き日の1966年にヒットさせたのが”Sweet Dreams”という曲でした。この曲はスワンプ・ポップを語るときによく出てくる曲です。
そのスワンプ・ポップという言葉は発祥のルイジアナ南部で生まれた言葉ではなく、70年代になってからイギリスの音楽ライターによって名付けられた言葉だそうです。多分地元では普通にR&BとかR&Rという風に呼ばれていたと思います。どこに特徴があるかといえば、ニューオリンズの黒人R&Bにフランスからの白人移民たちによって持ち込まれたケイジャン・ミュージックのテイストとこれまたフランス系黒人のクレオールたちによって持ち込まれたザディコと呼ばれる音楽のテイストが入っているところです。ケイジャンもザディコもダンス・ミュージックでそれと当時全米で吹き荒れていたR&RやR&Bがミックスされたものですが、もうひとつ「ティア・ドロッパー」と呼ばれる三連符のメランコリーなバラード(僕らは若い頃ロッカバラードとか呼んでました)もスワンプポップの特徴です。その「ティア・ドロッパー」の代表的な一曲がこのトミー・マクレインの往年のヒットです。

1.Sweet Dreams/Tommy McLain

「フラれてしまった君のことを忘れて新しい人生をなぜ自分は始められないのだろう。愛されていないことを知っているのに・・。一晩中君のことを憎むべきなのに僕は君の甘い夢を見ている」未練たっぷりの失恋ソングです。ティア・ドロップ(涙を流す)する悲しい歌ということで「ティア・ドロッパー」

スワンプポップと呼ばれている音楽には白人も黒人も両方のミュージシャンがいて、そこにフランス系のケイジャンやザディコといった音楽そしてさらにメキシコやカントリー&ウエスタンのテイストも混じっていてまさに人種の坩堝ルイジアナの音楽という感じですが、その中でかなり売れた白人シンガーにロッド・バーナードがいます。彼のシングルを集めたアルバムのタイトルが「スワンプ・ロックンローラー」ですからこれはちょっと聞いておかないと・・ですね。そのアルバムの一曲目に入っている曲です

2.Pardon Mr Gordon/Rod Bernard

軽めのR&Rの曲調に音色もフレイズもイナたいギターがなんともいい感じでが、やはりファンキーさのあるルイジアナ・テイストです。
ロッド・バーナードはもう一曲ヒットを持っていましてそれも定番のティア・ドロッパーの曲
Thisというのは彼女への愛を指しているのでしょう。「永遠にこの愛は続くべきで決して終わらない。君を愛することが悪いことなら僕は永遠に罪を背負っていくだろう。君を抱きしめてキスすることが間違っているのなら僕の魂は決して自由にはならない」こんな言葉は絶対に私は言えない熱烈なラブソングです。

3.This Should Go On Forever/Rod Bernard

今の曲を聴くとルイジアナのブルーズをよく知っている方ならあの黒人ブルーズマンを思い出しませんか。そうスリム・ハーポです。スリム・ハーポのこの曲も同じ時代に同じルイジアナ南部から生まれた心を締めつけられる「ティア・ドロッパー」のバラードです。彼もスワンプポップのひとりとして入っています。
1961年にR&Bチャートの17位、白人のポップ・チャートでも34位まで上がった曲です。
「オレたちが別れてから心に雨が降っている。オレが悪かった。帰って来てくれ。気が狂いそうだ。無駄に泣かせないでもう一度オレの愛を試してみてくれ」とヨリを戻したいこれも男の熱烈ラブソングです。

4.Rainin’ In My Heart/Slim Harpo

さりげない歌い方と声がいいですね。途中の語りの声はちょっと反則です。あの声だけでね、ぐっと来ますよ。女性は・・来ますよ。ブルーズ・ファンの人たちはスリム・ハーポはエクセロというレコード会社のスターでルイジアナのブルーズマンとして認識されているのですが、スワンプ・ポップを掘り出すとスリム・ハーポのRainin’ In My Heartもスワンプ・ポップの曲として出て来ます。ルイジアナ周辺の人たちは黒人も白人も関係なくみんながいわゆるティア・ドロッパーの曲を楽しんでいたんでしょうね。
前回ON AIRしたやはりスワンプ・ポップのひとり、白人のボビー・チャールズはファツ・ドミノに曲を提供したり、ザ・バンドの映画「ラスト・ワルツ」に出演したり、白人ブルーズマン、ポール・バターフィールドのグループ「ベター・デイズ」に曲を提供したり・・と白人黒人関係なく愛されたミュージシャンでしたが、今回スワンプ・ポップのアルバムを何枚か買って聴いているうちにそのボビー・チャールズの音楽的な背景が見えた気がしました。
大好きな彼のこの曲もそういうルイジアナのスワンプのルーツがあって作られたんだと感じます。
「それは小さな町の他愛ない噂に過ぎない。そんなこと信じないで俺のことを信じてほしい。俺たちは信じあって一緒に住んでうまくやっていこうと思っている二人だ。傷つけ合うようなことなんかしなくてもいい」

5.Small Town Talk/Bobby Charles

2回に渡ってON AIRしましたスワンプポップいかがでしたでしょうか。ブルーズ、ロックンロール、R&B<、ケイジャン、ザディコ、カントリー&ウエスタンといろんな音楽がガンボのようにミックスされたルイジアナ南部の音楽です。ぜひ自分で探して楽しんでください。

 

2024.07.12 ON AIR

スウィート&ビターなスワンプ・ポップの魅力

ON AIR LIST
1.I Ran Down Every Dream/Tommy Mclain
2.Mathilda/Cookie & The Cupcakes
3.Later Alligator (See You Later, Alligator)/Bobby Charles
4.Sea of Love/Phil Phillips & The Twilights
5.I’m a Fool To Care/Joe Barry

私にとって新しい音楽というのは巷で流行っている新しい音楽ではなく、私が新しく出会った音楽のことです。たとえそれが100年前の音楽であろうが初めて出会った私にとっては新しい音楽。その出会いにいつも胸がときめくのですが、最近はスワンプ・ポップというジャンルに入り込みましてアルバムを買ったりしてます。きっかけは去年ネットでたまたまジャケットが気になって聞いてみた曲。クレジットには40数年ぶりにアルバムをリリースしたトミー・マクレインと書いてあり、年令が82才の爺さんでした。しかし最初に聞こえてきたその歌声がなぜかとても胸の中に入ってきてサウンドも曲も詞もよかった。それがこの曲。
邦題が「夢から醒めて」

1.I Ran Down Every Dream/Tommy Mclain

苦い声の中にどこかスイートな甘みがある歳月を感じる歌声。本当に彼が住んでいるルイジアナまで聴きに行きたいと思いました。
去年の3月にこの曲を番組でON AIRしましたがもう一度歌詞の意味を。
「遠い昔を思い出すとフラフラと生きて、恋をしたり恋に破れたりしていた。そして音楽には関わり続けてきた。若かった頃はどんなやつの意見も変える情熱があった 。それからたくさん見た夢は消え去り、私が書いた歌詞のように忘れてしまった。でもそれが私の人生。真新しい調べとともに目覚める時まだ生きている自分に気づく。いろんな夢を駆け抜けた。いいことも、悪いことも、そしていくつかの話は決して喋らないけどね。」
そしてこのアルバム全体に素晴らしい曲がいくつもあり、去年トミー・マクレインを調べました。するとスワンプ・ポップと言われるジャンルの中でかって「スウィート・ドリームズ」という曲がヒットした有名な白人シンガーだとわかりました。40年前私はブルーズに夢中でしたからスワンプ・ポップと言われてもスルーしてたんでしょう。するとそのスワンプポップというジャンルに私の好きなグループが入っていることがわかりました。
それがこのグループCookie & The Cupcakes
マチルダという女性んフラれた歌です。「あなたへの愛は変わらない何があってもずっとね。俺はずっとあなたを思って泣き続けた。ベイビー、帰ってきてくれ」1959年のヒットです。

2.Mathilda/Cookie & The Cupcakes

私はこのクッキー&ザ・カップケイクスの”Got You On My Mind”をカバーしているくらい好きなグループなのですが、このグループがスワンプポップだとは知らなくてルイジアナのR&Bグループだと思ってました。スワンプポップで検索するとこのマチルダという曲もその代表的な曲だそうです。
じゃスワンプポップってなんやねんということになりますが、スワンプポップ(Swamp pop)はアメリカのルイジアナ州の南部からテキサスの東南部にかけての地域のボビュラーミュージック。1950年代から1960年代にかけて、ボビー・チャールズトミー・マクレイン、ロッド・バーナード、ジョー・バリーなどのスターが誕生し、ルイジアナを始め、テキサス州東部でも盛り上がったそうです。でもスワンプポップ(スワンプは湿地帯)という言い方は70年代に入ってからイギリスの音楽ライターがつけたものだそうです。だから多分地元ルイジアナではただR&RかR&Bだったと思います。
私が昔からずっと好きなボビー・チャールズもそう言えばスワンプ・ポップと言われてたことを思い出しました。
1955年の大ヒット

3.Later Alligator (See You Later, Alligator)/Bobby Charles 2:47でCUT

ボビー・チャールズはファッツ・ドミノなんかにも曲が取り上げられ、70年代にはポール・バターフィールドなどのソングライターとして活躍した人ですが、今のデビュー当時はR&Rスターでした。
次のSea of Loveは1959年にフィル・フィリップスという黒人シンガーがヒットさせた曲でカバーも多いので聞いたことがある人もいると思います。有名なところではレッド・ツェッペリンのヴォーカル、ロバート・プラントがハニー・ドリッパーズというグループを作っていた時に歌ってチャートの三位まで上がりました。映画とかドラマでも時々使われてます。

4.Sea of Love/Phil Phillips & The Twilights

この曲を知らなくてもなんか懐かしい感じがしませんか。スワンプポップの特徴の一つがいまの曲のような三連符のバラードで失恋をテーマにしたメランコリーな曲調です。このメランコリーな感じがぼくは好きなんです。
さっきのクッキー&カップケイクスや今のフィル・フィリップスは黒人でしたが、スワンプポップは白人のシンガーが多く次のこの人もスワンプポップの代表的な白人シンガーです。

5.I’m a Fool To Care/Joe Barry

この曲がジョー・バリーの代表的な曲でかなり売れたシンガーでシングルもたくさん出したのですが、途中からカントリー・ウエスタンのシンガーに転向してます。
また来週、スワンプポップを聞こうと思っているのですがスワンプロックというのもありまして、それも聞いてみようかなと思ってます。

2024.07.05 ON AIR

追悼:日本にブルーズという音楽を導いた日暮泰文さんの死を悼んで

ON AIR LIST
1.Cummins Prison Farm/Calvin Leavy
2.Rock Me Baby/B.B.King
3.I Feel Like Going Home/Muddy Waters
4.All Your Love(I Miss Loving/Otis Rush
5.Out Of Bad Luck/Magic Sam

ブルーズを好きな人ならアルバムのライナーノーツや音楽雑誌、書籍で日暮泰文という名前を見たことがあると思います。
日暮さんは僕なんかより前に60年代からブルーズという音楽の魅力に気づき同人誌を作り日本にブルーズという音楽を紹介した方です。その日暮さんが5月30日にお亡くなりになりました。この番組で前回、前々回ON AIRしたバスター・ベントンとアール・フッカーをリリースしたボス・カードというレーベルを日暮さんは最近立ち上げたばかりだったのでその訃報に驚きました。
今日は日本のブルーズ・シーンに大きな役割を果たした日暮泰文さんの話をしながら番組を進めます。

現在、自分のバンド「ブルーズ・ザ・ブッチャー」のアルバムをリリースしているレコード会社「P-Vineレコード」を1976年に「P-Vine Special」として立ち上げたのが日暮さんであり、現在僕が”Fool’s Paradise”というエッセイの連載をしている音楽雑誌「ブルーズ&ソウル・レコーズ」の前々身である「ザ・ブルース」という雑誌を創刊したのも日暮さんです。その他、黒人ブルーズマンを日本に招聘してコンサートを行うなど日本に質のいいブルーズの種をいろんな方向から蒔いた人です。私も約半世紀の付き合いでした。そんなに頻繁に会ったり連絡をしたりすることはなかったのですが、たまにメールのやりとりをした程度です。日暮さんの書かれる文章が好きで本を出版されたりすると感想を送ったこともあります。今日は日暮さんが1976年に立ち上げた「P-Vine Special」から「P-Vine Records」の音源で私が好きなものを聴いてみようと思います。
まずやはり忘れられない「P-Vine Special」の第一弾としてリリースされたこのブルーズから聞きましょう。

1.Cummins Prison Farm/Calvin Leavy

刑務所での黒人へのひどい扱いを告発したこのブルーズがP-Vineレコードのリリース第一弾でした。歌もサウンドもギターも衝撃的な曲ですが、こういうブルーズを通して日暮さんは人種差別や貧困、政治社会の問題を私たちに喚起してくれました。
本当にたくさんのアルバムをリリース、たくさんのミュージシャンを教えてくれたのですが、日暮さんは50年代のRPM/KENTレコード時代のB.B.キングが好きだったようでその時代のB.B.のCD17枚ボックスセットをリリースするという大胆なこともされました。
B.B.キング『ザ・コンプリート・RPM/ケント・レコーディング・ボックス 1950~1965 The Life, Times and the Blues of B.B. in All His Glory』というタイトルが付けられたボックスからB.B.のこの曲

2.Rock Me Baby/B.B.King

私は最初に音楽評論家としての日暮さんと会いました。1972年頃だったと思います。その前から日暮さんが同じ評論家の鈴木啓志さんと作っていた「ザ・ブルース」という雑誌を読んでいましたから名前は知っていました。会ったのは私がウエストロード・ブルーズバンドとして京都から初めて東京の西新宿に演奏に来た頃です。客席で腕組みをしながらつまらなそうな顔で演奏を聴いていたのを今でも思い出しますが、あの時どう思っていたのか一度ちゃんと聴いておけばよかったと今思います。
もう一つめちゃ大胆なリリースを日暮さんはしました。マディ・ウォーターズのチェスレコードの音源を11枚のLPにしたボックスセットも彼はP-Vineレコードからリリースしました。11枚のLPセットにヨーロッパのブルーズ・コレクターから”CrazyなことをやるP-Vine”と言われたそうです。そのボックスから私も昨年レコーディングしたこの曲。

3.I Feel Like Going Home/Muddy Waters

私がブルーズに入り込んだ時は手に入りにくかったコブラ・レーベルのオーティス・ラッシュやマジック・サムをP-Vineからリリースしてもらった時は嬉しかった。すでにコブラのアルバムを持っていたけどこれで日本のたくさんの人にオーティス・ラッシュの素晴らしいデビュー・レコードを聴いてもらえると嬉しかったです。それをやったのも日暮さんでした。
そのコブラ・レコード時代のオーティス・ラッシュ

4.All Your Love(I Miss Loving/Otis Rush

日暮さんが残された功績は出版社を立ち上げ雑誌、書籍の出版、レコード、CD、DVDのリリースなどを扱うレコード会社の設立、黒人ブルーズマンの来日招聘とブルーズという音楽を中心に多岐に渡っていました。日暮さんを尊敬したのは音楽に対する批評、評論をするだけではなく自分が「これがいい」「これが本物なんだ」というものをレコードはじめとする音源や映像を自分で発売する、多くの人たちに聞かせる、見せるということをリスクを背負ってやったところです。
音楽評論家と自称する人は少なくなり、今は音楽ライターと言います。音楽ライターという立場で雑誌に自分の音楽への思いや意見や書くだけならだれでもできると思います。そこにはリスクを背負わない気楽さがないでしょうか。だから書かれているものに重みがない。雑誌を作る、レコードレーベルを立ち上げる、外タレを日本に招聘するとうことには大きなリスクが伴う。それを全て背負ってやってきた日暮さんの文には重みとロマンがありました。彼がいなかったら私たちはブルーズという音楽の醍醐味を知らずに終わったかもしれません。これも日暮さんの大好きな一曲だったと記憶しています。

5.Out Of Bad Luck/Magic Sam

今日聞いたP-Vineレコード20周年記念ボックスの中に書かれた日暮さんの謝辞の中にこんな言葉がありました。最初のリリースとなった”Cummins Prison Farm”契約書をアメリカのレコード会社とメンフィスで交わした時の自分のことを「後戻りできないブラック・ミュージックの殉教者と悟る」と書かれています。
最後までブラック・ミュージックの殉教者として奮闘された日暮さんの人生は素晴らしいものだったと思います。でも、まだまだやりたかったことがたくさんあったと思います。残念です。
日暮泰文さんのご冥福をお祈りします

2024.06.28 ON AIR

ブルーズ・ギター名人、アール・フッカーの名演が10インチレコードでリリース

Calling All Blues/Earl Hooker (Boss Card BS10-01)

ON AIR LIST
1.Blues In D Natural/Earl Hooker
2.Universal Rock/ Earl Hooker
3.Blue Guitar/Earl Hooker
4.The Leading Brand/Earl Hooker
5.Calling All Blues Earl Hooker

先週は新しいレーベル”Boss Card”から10インチレコードでリリースされたシカゴ・ブルーズマン、バスター・ベントンの”Spider In My Stew”を聞きましたが、今週はそのBoss Cardレーベルからの第2弾ギター名人アール・フッカーのアナログ10インチ盤”Calling All Blues”を聞きます。
まずは簡単なアール・フッカーのバイオから。1929年ミシシッピ州クラークディルに生まれですが1才でシカゴに来ているので完全にシカゴ育ちです。歌はほとんど歌わない人でしたが歌っているような素晴らしいギターインスト曲を発表し、マディ・ウォーターズはじめ多数の録音に参加するスタジオ・ミュージシャンでもありました。特に普通のレギュラー・チューニングで弾くスライド・ギターはもう神業と言ってよく、ウエイン・ベネット、アルバート・コリンズ、バディ・ガイ、オーティス・ラッシュなど同業ギタリストに尊敬されていました。
ではまず彼を代表するインストルメンタルの曲で70年代初めにイギリスのレッド・ライトニンというインディーズ・レーベルから出ていたアルバムのタイトルがこの曲の曲名でした。今日はそのオリジナル、チーフというレーベルから1960年に出されたシングルのアナログ10インチ盤での復刻です。
華麗でなめらかでもアグレッシヴなスライドギターの妙技を堪能してください。

1.Blues In D Natural/Earl Hooker

途中のオルガンはジョニー・ウォーカーというオルガン・プレイヤーなのですが、そのオルガンの音色とアール・フッカーのスライドギターの音色が抜群にマッチしているいいサウンドです。そして時にはスライドではなく普通の押し弦でも弾きます。その切り替えが見事というかいつ切り替えたのかわからない妙技でスライドギターをやる時に出がちな雑音もありません。
では次のアップテンポのダンス・ナンバー。グルーヴするバックのリズムがフッカーの見事なギター・ブレイを支えていますが、ベースがジャック・マイヤーズ、ドラムがフレッド・ビロウというシカゴ・モダンの黄金のコンビです。

2.Universal Rock/ Earl Hooker

バックが2ビートのリズムをまったくブレずにグルーヴを作り、そこにまた超リズムのいいフッカーのギターがスピード感を出しながら暴れまくっています。
ちなみにジョン・リー・フッカーとは従兄弟同士ですが、その芸風のあまりの違いに笑います。ジョン・リーはその声の存在感がブルーズ界で1,2を争うくらい素晴らしいものですが、ギターは色々弾けるわけではなく独自のブギとスローの2パターンくらいです。しかしそのリズム特にブギのグルーヴはワン&オンリーで、ブルーズ史に残るものです。しかし、その従兄弟のアール・フッカーはギター名人と呼ばれるこういう芸風です。
次の曲はアール・フッカーがスライド・ギターで影響を受けたロバート・ナイトホーク調のスライド・ギターで、オルガンが作る分厚いサウンドの中から重厚なスライド・ギターが聞こえて来ます。これもアール・フッカーを代表する曲。

3.Blue Guitar/Earl Hooker

実はこのインスト曲に歌詞をつけたマディ・ウォーターズの歌をかぶせたのが有名な”You Shook Me”というレッド・ツェッペリンもカバーした曲です。ちなみにこのアルバムの解説で吾妻光良くんがツェッペリンのジミー・ペイジが6弦ギターと12弦ギターが一つになったダブル・ネックギターを使っていたのはこのアール・フッカーの影響ではないかと書いています。
今日聞いてもらっているのはアナログレコードの10インチという大きさのものでリリースされたのですが、放送の都合上デジタルに変換して放送していますので、興味のある方はぜひアナログ10インチ盤で聞いてください。抜群に音がいい、つまり迫力がCDとは比べものにならないほどです。昔ローリング・ストーンズのキース・リチャーズはCD,MD、カセットテープ、レコードの中でどの音が好きですかと問われて「レコード」といい、その理由を「自分がスタジオで録音した時の音に一番近いのがレコードだから」と答えていました。
ぼくもそう思います。スタジオで演奏したリアルな音に近い、つまりミュージシャンが出したい音を最もそのまま再現しているのがアナログレコードだと思います。
ただし、前も言いましたが音の良し悪しはその人の感覚ですからデジタルの音がいいと感じる人もたくさんいると思います。

4.The Leading Brand/Earl Hooker

ブルーズですがとてもメロディアスなテーマを作り歌えるような覚えやすいメロディというところがこの「ギターを歌わせるギタリスト」アール・フッカーの真骨頂と言えます。

5.Calling All Blues /Earl Hooker

このオルガンの重厚な音をバックにしたディープなサウンドの中から聞こえてくるギターやハーモニカの音で作られる独特のアンサンブルもアール・フッカーのセンスだと思います。
普通のレギュラー・チューニングによるスライドギターの教科書のようなアール・フッカーの妙技を今日は聞いてもらいました。もしこのアルバムに興味を持った方がいたら限定生産なので早めにゲットしてください。