2024.09.06 ON AIR

追悼 ブリッティッシュ・ブルーズの先駆者、ジョン・メイオールvol.1

ON AIR LIST
1.All Your Love/John Mayall & The Blues Breakers
2.Double Crossing Time/John Mayall & The Blues Breakers
3.Parchman Farm/John Mayall & The Blues Breakers
4.Ramblin’ On My Mind/John Mayall & The Blues Breakers (Vo.Eric Clapton)
5.They Call It Stormy Monday/John Mayall & The Blues Breakers

ブリティッシュ・ブルーズの先駆者の一人であり1960年代には「ジョン・メイオール&ザ・ブルースブレイカーズ」を率いて、ブリティッシュ・ブルーズ・シーンに大きな役割を果たしたジョン・メイオールが90歳で亡くなった。私も彼のブルーズを聴き教えられる事もたくさんありました。ありがとうございました。
私がいちばん最初に聴いたジョン・メイオールのアルバムは&ザ・ブルースブレイカーズの1966年リリース「Blues Breakers with Eric Clapton 」でした。これには個人的な思い出があります。リリースの翌年67年、当時17才の高校生だった自分が好きだったガール・フレンドがある日「ビートルズとかストーンズもいいんだけど、これからはこういうブルースが流行るみたいよ」と教えてくれました。彼女は音楽におませな女の子で当時日本のグループサウンズが演奏するディスコに行っていてそこでグループサウンズのバンドがカバー演奏するブルースブレイカーズの曲を知ってこのアルバムをゲットしてきました。当時は正直私はやっぱりビートルズの方が好きでそんなにいいと思わなかったのですが、一曲目のこの曲だけは心に残りました。

1.All Your Love/John Mayall & The Blues Breakers

オリジナルはシカゴのブルーズマン、オーティス・ラッシュ。
今のは歌がジョン・メイオール、ギターはエリック・クラプトン。クラプトンはその前に在籍していたヤードバーズがポップな方向に向かうのに納得できなくて脱退し悩んでいる時にジョン・メイオールと会いブルース・ブレイカーズに参加しました。1965年録音ですからクラプトンは20才。当時のイギリスでやはりこれだけキレのある正確なブルース・ギターを弾ける若者は少なかったでしょう。ギターの音色もすごく魅力的でこのアルバムのクラプトンが私はいちばん好きかもしれません。
ジョン・メイオールは1933年生まれでお父さんがジャズを好きで聴いていたそうです。当時のジャズが好きということは当然ブルーズも流れてくるわけです。そして13才くらいでギター、ウクレレ、ピアノを買ってもらって弾き始めていますから多分お金がある家庭に育ったのだと思います。美術学校を卒業してショーウィンドウの装飾をする仕事をしたりデザイン事務所でアート・ディレクターをしていたこともあるそうです。59年26才くらいからバンドも始めて29才の時にメイオールよりすこし先輩のアレクシス・コーナーと出会い、そこからメイオールはブルーズに向かって一直線に進みます。
ここで一曲メイオールのオリジナル・スローブルーズを。これでもクラプトンがいいギターを弾いてます。タイトルのDouble Crossing Timeは「裏切りの時」という意味。

2.Double Crossing Time/John Mayall & The Blues Breakers

60年代の初めにロンドンでブルーズのすばらしさに気づいていたのがアレクシス・コナーで彼の元にはストーンズのミック・ジャガー、ブライアン・ジョーンズ、キース・リチャーズなどが教えを乞いに集まり、メイオールの元にはクラプトンやピーター・グリーン、ミック・テイラー、のちにクラプトンとクリームを結成するジャック・ブルース、フリートウッド・マックのミック・フリートウッドとジョン・マクヴィーなどが集まりました。ジョン・メイオールとアレクシス・コーナーはブリティッシュ・ブルーズの真の先駆者でした。
次の曲はカントリー・ブルーズマン、ブッカ・ホワイトにも同名異曲がありますが、メイオールのこのバージョンはジャズ・ピアニスト&シンガーのモーズ・アリソンが作ったもの。バックの軽快なビートに乗ってメイオールが気持ちのいいハーモニカをプレイしてます。

3.Parchman Farm/John Mayall & The Blues Breakers

ジョン・メイオールは歌、ギター、キーボード、ハーモニカと一応ブルーズに関する楽器をいろいろプレイする人ですが、失礼ですがどれも突出しめちゃすごいと感じるものありません。でも、嫌だなと思うプレイもありません。ただ彼はブルース・ロックの黎明期のイギリスでどんな風にブルーズを演奏したらいいかということはよく理解していて、だから「ジョン・メイオール学校」と呼ばれたように彼の元にはブルーズをこれからプレイしたいクラプトンやピーター・グリーンなど若く才能のあるミュージシャンが集まったのだと思います。
次はこのアルバムでエリック・クラプトンが歌っている曲です。ロバート・ジョンソンの代表的な曲でたぶんこれがクラプトンのヴォーカルの初録音だと思います。

4.Ramblin’ On My Mind/John Mayall & The Blues Breakers (Vo.Eric Clapton)

クラプトン20才のヴォーカルでした。
ヤードバーズから人気のあったクラプトンが加入したことでブレイカーズの人気は上がり、このアルバムもイギリスのチャートで6位まで上がりました。しかし、リリースの数日後にはクラプトンはブレイカーズを辞めてジンジャー・ベイカーとクリームの結成に向かいました。結局、クラプトンは一年もブレイカーズにいなかったのですが、ジョン・メイオールと出会ったことでブルーズへの知識を深め、ブルーズで得た多くのものを使ってその後のクリームに向かいました。
面白いのはクラプトンも来週聴くピーター・グリーンも短い期間でブルース・ブレイカーズを辞めてしまうのですが、ジョン・メイオールはあまり引き止めもしなかったようで、「げんきで、またな」みたいな感じだったらしいです。
では最後にクラプトンのギターが火を吹いているギターソロが聞けるスロー・ブルーズを聞きましょう。ギターソロの途中から入ってきます。

5.They Call It Stormy Monday/John Mayall & The Blues Breakers

最後に亡きジョン・メイオールへ追悼のコメントをエリック・クラプトンが出しているのでその1部ですが読みます。
「私が本当に考えなければいけないことを彼から全て学んだ。誰かに気に入られようと気に入られまいとただ自分が演奏したい音楽を演奏すればいいんだと彼は教えてくれた」
ジョン・メイオールの冥福を祈ります。
来週もう一回ジョン・メイオールの追悼特集をします。来週はエリック・クラプトンの後にブルーズ・ブレイカーズに入ったピーター・グリーンの素晴らしいブルーズギターが聞けます。

2024.08.30 ON AIR

ロックの老舗バンド「リトル・フィート」がニューリリースしたブルーズカバー・アルバム”Sam’s Place”

ON AIR LIST
1.You’ll Be Mine/Little Feat
2.Long Distance Call (Featuring Bonnie Raitt)/Little Feat
3.Mellow Easy/Little Feat
4.Why People Like That/Little Feat
5.Last Night/Little Feat

若い音楽ファンの方たちはリトル・フィートと言ってもピンと来ない人がほとんどだと思いますが、70年代に生まれた素晴らしいロックバンドでした。
最初はフランク・ザッパの「ザ・マザーズ・オブ・インヴェンション」に参加していたギターの名手、ロウエル・ジョージが同じマザーズにいたベーシストのロイ・エストラーダとともに69年に結成したのですが、その二人がすでに亡くなり一度解散もしているのでぼくは今はあまり興味がありませんでした。もちろん70年代にリリースされた「ディキシー・チキン」や「ウェイティング・フォー・コロンバス」などのアルバムは大好きで今でも時折聴きますが、オリジナル・メンバーがほとんどいなくなった現在のリトル・フィートの新譜と言われても・・・と思っていたらこれがブルーズ・アルバムということでやっぱり気になってゲットしました。
アルバム・タイトルは「サムズ・プレイス」今回のアルバムでヴォーカルを担当したパーカッションのサム・クレイトンの名前からサムズ・プレイスと名付けたのかと思っていたら、録音したのがメンフィスのサム・フィリップスのスタジオだったのでその名前からという2つの意味があるそうです。サム・クレイトンは現在78歳でリトル・フィートには1972年から参加しています。過去にもリトル・フィートのアルバムでヴォーカルをとったことはあるのですが、アルバムまるまる一枚で歌ったのは今回が初めてだそうです。
最初に聞いてもらうのはシカゴ・ブルーズのハウリン・ウルフの1962年の名盤「ハウリン・ウルフ」に収録されている曲でソング・ライティングはウィリー・ディクソン
「君は可愛くてべっぴんさんや。俺のものになってくれたらなぁ・・って思うよ。俺が君の彼氏になって君は俺のものや。俺の彼女や。俺が死ぬ日まで一緒にいて欲しい」

1.You’ll Be Mine/Little Feat

リトル・フィートのライヴは一度も聞いたことがないのですが、You Tubeに上がっているロウエル・ジョージが生きていた頃の映像を見ますともうすごいグルーヴ感のあるバンドで、ザ・バンドやオールマン・ブラザーズにあった南部のテイストもあったりして僕は好きです。
今回のリトル・フィートのブルース・カバー・アルバムには今のハウリン・ウルフの曲の他にもマディ・ウォーターズ、リトル・ウォルターなどシカゴ・ブルーズマンたちの曲が選ばれています。ヴォーカルのサムが今回のブルーズ・カバーアルバムを前々から作りたかったらしいです。
次はマディ・ウォーターズの代表的なブルーズで私もカバーしています。ゲストのスライドギターは私の愛するボニー・レイットです。

2.Long Distance Call (Featuring Bonnie Raitt)/Little Feat

ボニーはもう歌もスライド・ギターも風格が感じられる域に達してますね。いまいちばんライヴを観たいのはボニーです。

次の曲ではリトル・フィートらしくもありちょっとロス・ロボスを思い出したり。オリジナルはシカゴ・ブルーズのリトル・ウォルター チェス・チェッカーレコードから1954年のシングル・リリースです。ラテンのリズムが入ったファンキーな曲です。

3.Mellow Down Easy/Little Feat

このアルバムはシカゴ・ブルーズのカバーなんですがシカゴ・ブルーズのサウンドとグルーヴではなくリトル・フィートのサウンドとグルーヴなんですね。70年代の最初から始まったバンドでオリジナルのメンバーもほとんどいないのにどこかリトル・フィート・サウンドだと思えるのはなんでしょうかね。つまらないブルーズロックのバンドのようなギター弾きまくりの暑苦しさがないのですが、バンド独特の濃いブルーズの匂いがあります。でもこのバンドがこんなにストレートにブルーズを取り上げるとも思っていなかったです。意外でしたね。アメリカの腕のいいロックバンドはみんな必ずちゃんとブルーズを演奏できるんですよね。ブルーズをプレイすることは若い頃から日常ですからね。しかもそこそこマニアックに。
次の曲はマディ・ウォーターズのアルバム「ウッドストック・アルバム」に収録されてます。ぼくのブルーズ・ザ・ブッチャーでも去年リリースしたアルバム”Feel Like Goin’ Home”に収録した曲です。
作詞作曲はボビー・チャールズ

4.Why People Like That/Little Feat

もう1曲聴いてみましょう。オリジナルはさっきのリトル・ウォルターのカバー”Mellow Down Easy”のシングル盤の片面に収録されている曲です。
この曲の歌詞がよくわからないんですが、最初は「昨日の夜、オレは親友を失った。君はオレを最悪の気持ちにさせて行ってしまった」で始まるんですが、二番になると「いま朝早くに俺の愛がオマエに降り注いでいる。俺たちはどうすればいのか教えてほしいんや」3番の歌詞になると「明日まで待つつもりや。みんなは日々物事は変わっていくと言う。愛してるよ、ベイビー。めちゃ恥ずかしいこと(残念?)やってわかるやろ」
そもそも親友が死んだというのと2番から出てくる自分の彼女とどうつながっているのか・・、亡くなった友達とこの彼女が付き合っていたのか・・とか内容がイマイチはっきりつかめないブルーズですが、いい曲です。

5.Last Night/Little Feat

今回のこのリトル・フィートのブルーズ・カバーアルバムは一曲のオリジナルを除いてはマディやウルフやリトル・ウォルターのブルーズのカバー集です。
録音もいいし、演奏はもちろん、選曲もいいブルーズ・アルバムです。安っぽいブルーズロックのアルバムとは一線を画しているいいアルバムだと思います。そして70年代にリトル・フィートが残した素晴らしいアルバムをまでたどり着いて聞いてもらえると嬉しいです。

2024.08.23 ON AIR

ブルーズ史上貴重な音源「CHICAGO BOOGIE!シカゴ・ブルースの誕生 1947」

ON AIR LIST
1.I Just Keep Loving Her (Take 1)/OTHUM BROWN & LITTLE WALTER
2.Ora Nelle Blues (Take 1)/OTHUM BROWN & LITTLE WALTER
3.Little Store Blues (Take 1)/Little Walter & Jimmy Rogers
4.Money Taking Woman (Take 1)/Johnny Young, Johnny Williams
5.Worried Man Blues/Johnny Williams, Johnny Young

今日はブルーズ、とりわけシカゴ・ブルーズのとても重要なコンピレーション・アルバムを紹介します。P-Vine レコードからCDでリリースされたのが1998年でかなり前ですが・・。
タイトルの「シカゴ・ブルースの誕生 1947年」はまさにシカゴ・ブルーズの全盛の50年代に突入する前夜でシカゴには有能なブルーズマンがたくさん集まってきていました。ここで聴けるのはブルーズマンたちの故郷である南部の香りがまだ残っている頃の演奏です。
まず最初はアルバムの一曲目に収録されているハーモニカのリトル・ウォルターがギターのオーサム・ブラウンとデュオでやってるテイクを。歌はリトル・ウォルターです。

1.I Just Keep Loving Her (Take 1)/OTHUM BROWN & LITTLE WALTER

二人ともすごくパワフルで力が有り余っている感じですが考えてみればリトル・ウォルターはまだ17歳です。彼はのちにチェス・レコードで売れてスター・ブルーズマンになるのですがギターのオッサム・ブラウンは確かこのアルバムで聴ける音源しかない謎のブルーズマンです。才能があっても世に出る人と出れなかった人、あるいは音楽以外の道を選んだ人と様々な人たちがシカゴで蠢いていたんでしょうね。今度はギターのオッサムが歌っています。

2.Ora Nelle Blues (Take 1)/OTHUM BROWN & LITTLE WALTER

この歌、有名なブルーズ曲のThat’s Alrightの原型のようですね。オッサムの歌もいいですね。すごく好きなタイプのブルーズマンですが、このオッサム・ブラウンのように実力のありながらも消えていった人もたくさんいたのでしょう。
この時代、シカゴのウエストサイドという地域にあるマックスウェル・ストリートという通りにブルーズマンたちは集まってストリートで演奏していました。投げ銭ライヴですね。レコードデビュー前、売れる前はそのマックスウェルストリートで演奏して稼いでいるブルーズマンがたくさんいました。マックスウェル・ストリートにはいろんな出店があり衣料品から雑貨、食料品などあらゆるものが売られていてこの40年代から50年代はすごく活気があったそうです。
次は今のリトル・ウォルターと並んでやがてシカゴ・ブルーズの重要ブルーズマンとなるジミー・ロジャースとウォルターの二人のテイクです。二人とも後にマディ・ウォーターズのバンドでまたソロで歴史に残る録音をたくさん残したブルースマンですが、有名になる前にすでにこんな素晴らしい演奏をしていました。歌っているのはギターのジミー・ロジャース、ハーモニカがリトル・ウォルター

3.Little Store Blues (Take 1)/Little Walter & Jimmy Rogers

今日のこの音源はそのマックスウェル・ストリートにあった楽器とレコード、ラジオを売る店をやっていたエイブラムス兄弟が録音したもので、どのくらいセールスに力を入れたかわかりませんがまあインディーズもマイナー・インディーズのレーベルで「オラ・ネール」という名前でシングルを出していました。
次はライナーで永田清君が「マックスウェルストリートの顔役」と書いてますがジョニー・ヤングです。ジョニー・ヤングはマンドリンを弾きながら歌う人ですが、ブルーズにマンドリンはかなり珍しいです。
曲名が”Money Taking Woman”「彼女はいつも俺の金を全部持っていってしまう。一銭も俺に戻してはくれない。もう別れるよ。バイバイ」

4.Money Taking Woman (Take 1)/Johnny Young, Johnny Williams

今度はジョニー・ヤングの相棒、ギターのジョニー・ウィリアムスが歌います。Worried Man Bluesですからそのまま訳すと「心配な男のブルーズ」
「俺はブルーや、憂鬱や。好きな女に「あんたなんかいらんわ」と言われた。朝の三時やもう泣けてくるわ。あいつは行ってしもた、わけわからんまま・・・」
わけもわからんままって歌ってますけど。理由はあるんですよ。他の女に手を出したとか稼いだ金を全部じぶんで使ってしまうとか。その自分に都合の悪いことは歌わないんです。ただオレはひどい目に遇った・・としか歌わないんですよ(笑)

5.Worried Man Blues/Johnny Williams, Johnny Young

ずっと聞いていた感じるのはみんなリズムがいいことです。それぞれ芸風、歌い方は違いますがみんなとてもステディなビートを持ってます。それはマックスウェル・ストリートに集まってくる人たちをまず踊らせなければいけなかったからです。それができると投げ銭をしてもらえる。基本的に踊れない音楽はブルーズではダメなんですね。
今日はシカゴブルーズが黄金期を迎える前、まだ故郷南部の匂いをいっぱい持ったブルーズマンたちが一旗上げにシカゴに来た頃、1947年の録音を集めた「CHICAGO BOOGIE!シカゴ・ブルースの誕生 1947」を聞きました。たまに中古盤で見かけることがあるので欲しい方は根気よく探してみてください。そして発売元のP-Vineレコードさん、このアルバム再発できませんか?

 

2024.08.16 ON AIR

ゲイトマウス・ブラウン若き日のコンプリート盤2枚組をゲット!その2

Boogie Uproar/Clarence Gatemouth Brown (JASMINE 3079) 
The Complete Aladdin/Peacock Singles Disc.2

ON AIR LIST
1.Baby Take it Easy/Clarence Gatemouth Brown
2.Dirty Work at the Crossroads/Clarence Gatemouth Brown
3.Okie Dokie Stomp/Clarence Gatemouth Brown
4.Rock My Blues Away /Clarence Gatemouth Brown
5.Midnight Hour /Clarence Gatemouth Brown

先週に引き続き中古盤でゲットしたゲイトマウス・ブラウンの二枚組CD「ブギ・アップロア」を聴きます。今週はDisc2。ヒューストン・ジャンプ・ブルーズのボス、ゲイトマウス・ブラウンの1947年から61年までの若き日、全盛期のブルーズです。
このアルバムBoogie Uproar/Clarence Gatemouth Brown (The Complete Aladdin/Peacock Singles)は2017年にリリースされていたものを最近すごく安く中古盤で手に入れたものです。ゲイトマウスの音源はかなりたくさん持っているのですが、デビューしてから初期全盛期が全曲入っているので、これはと思いゲットしました。
1949年勢いに乗ったゲイトマウス・ブラウンがピーコック・レコードから放った初期の痛快なブルーズ。

1.Baby Take it Easy/Clarence Gatemouth Brown

同じテキサスの先輩であるT.ボーン・ウォーカーがウエストコーストに移住して洗練されたブルーズで全国的に売れたのに比べると、テキサスに留まったゲイトマウスは地元のドライでワイルドな匂いを保ったままだったところが魅力的です。

次はミディアム・テンポのブルーズでゲイトマウスのワイルドなギターがこれでもかと炸裂しています。歌もテンションが上がっていてこんな演奏をライヴ聞かされたらやられてしまいます。彼女が自分ではなく自分の親友を愛していたことを知っていたというブルーズですが、そりゃまあ歌のテンションも上がるやろというブルーズ。1952年リリース

2.Dirty Work at the Crossroads/Clarence Gatemouth Brown

次はゲイトマウスの名前を世界に知らしめたギター・インストの名曲。
ヒューストン・ジャンプと呼ばれたゲイトマウスのブルーズのダイナミズムやギターのスピード感、グルーヴを存分に表現した曲。
70年代ニューヨークのスタジオ・ミュージシャンたちのグループだった「スタッフ」のギタリスト、コーネル・デュプリーも自身のソロ・アルバム「ブリージン」で取り上げていた曲です。デュプリーも同じテキサス出身です。

3.Okie Dokie Stomp/Clarence Gatemouth Brown

完全にギターが歌っているブルーズ・ギター・インスト曲の名曲です。

ここまできて50年代これだけ素晴らしいブルーズを残したゲイトマウスがB.B.キングほど世界的なブルーズマンになれなかった理由を考えてみました。彼がレコードをリリースしたピーコックというレーベルは彼の音楽に惚れ込んだドン・ロビーというアメリカ南部の黒人音楽シーンのボスというかフィクサーというかギャングというか・・そのドンがレコード制作の権利を持っていました。だから曲を作ってないのに作詞作曲のクレジットに自分の名前を登録して印税を取ったり、またクラブ経営もしていて、クラブ、ツアーなどのライヴ活動についてゲイトマウスを掌握していました。いろんなミュージシャンの話ではあまり評判のいい男ではないのですが、ゲイトマウスは最初に自分を売り出してくれた恩を感じていたのかドンのことを悪くは言ってません。しかしドンにゲイトマウスを世界的なミュージシャンにしようとする展望はなく、たぶん自分の目の届くテキサスや南部あたりで活動してくれてレコードが売れればいいかぐらいの気持ちだったと思います。つまりもっとプロデュースできる人に出会っていればゲイトマウスはもっと売れたと思います。

4.Rock My Blues Away /Clarence Gatemouth Brown

1965年から67年にナッシュビルのTV番組『THE!!!! BEAT』のバックバンドのバンドマスターとして出演していました。この時の映像はYouTubeで見ることができます。
しかし、その後音楽シーンの波に乗れず60年代後半には一度音楽ビジネスから離れニューメキシコでなぜか保安官代理として務めていたらしいです。まあ、これだけギターが弾けて個性のあるブルーズマンでも仕事がなくなるというアメリカの音楽ビジネスの厳しさも感じますが、プロデューサーやマネージャーとのいい出会いがなかったのかとも思います。
最後にもう一曲

5.Midnight Hour /Clarence Gatemouth Brown

1970年代以降はヨーロッパのレーベルからブルーズだけでなくケイジャンやカントリー&ウエスタンの曲も含めたアルバムをリリースして78年には来日もしてくれました。「オレはブルーズだけでなくアメリカン・ミュージックをやってるんだ」とカントリーやケイジャンも手がけてましたが、個人的にはブルーズを演奏しているゲイトマウスがいちばんよかったです。70年代80年代にもいいアルバムがあります。1981年のアルバム『オールライト・アゲイン』がグラミー賞を受賞。2005年のハリケーンカトリーナで自宅を失くす被害に遭い、その直後81歳でなくなりました。

2024.08.09 ON AIR

ゲイトマウス・ブラウン若き日のコンプリート盤2枚組!
その1

Boogie Uproar/Clarence Gatemouth Brown (JASMINE 3079) 
The Complete Aladdin/Peacock Singles Disc.1

ON AIR LIST
1.Gatemouth Boogie/Clarence Gatemouth Brown
2.Didn’t Reach My Goal/Clarence Gatemouth Brown
3.She Walks Right In /Clarence Gatemouth Brown
4.Boogie Rambler /Clarence Gatemouth Brown
5.Sad Hour /Clarence Gatemouth Brown

今回紹介するのは”Boogie Uproar”(ブギで大騒ぎ・大騒ぎブギ)とタイトルされたクラレンス・ゲイトマウス・ブラウンのデビュー、アラジン・レコードからピーコック・レコード在籍時までのシングルを集めたコンピレーションCD盤。
リリースされたのはかなり前でいま手に入りにくいアルバムですが、先ごろ中古盤でゲットしました。
この時代のゲイトマウスのアルバムは持っているのですが、テキサスジャンプ・ブルーズのスターとして花開いた全盛期の音源がCD二枚組で45曲全て(コンプリート)聞けますから、迷わずゲットしました。
まずDISC1の1曲目、1947年のデビュー録音でこれはロスのアラジンレーベルからリリースされました
マックスウェル・ディヴィスのオーケストラをバックに録音した音源。

1.Gatemouth Boogie/Clarence Gatemouth Brown

ゲイトマウス・ブラウンが世に出るきっかけとなったのは、地元テキサスの音楽界のフィクサー的存在のドン・ロビーが経営してたクラブで出演中のT.ボーン・ウォーカーが病気になり急遽ピンチヒッターとしてステージに出たことでした。そのライヴでゲイトマウスは客にパカ受けして、それを見た経営者ドン・ロビーはこいつは金になると思いゲイトマウスと契約。ロスの”アラジン・レコード”で録音させることになりその初録音が今の”Gatemouth Boogie”
しかし、これがあまり売れなかった。そこで社長ドン・ロビーは自ら”ピーコック”というレーベルを立ち上げます。だからピーコック・レコードはゲイトマウスの為に作られたレーベルだったわけです。それほどドン社長はゲイトマウスに魅力を感じたのでしょう。そこから最初にリリースしたのが1949年の次の曲。

2.Didn’t Reach My Goal/Clarence Gatemouth Brown

ゲイトマウスはインタビューで同じテキサスの先輩、T.ボーン・ウォーカーに影響を受けたことを否定していますが今の曲なんかめちゃくちゃ影響を受けています。本人にしてみれば『俺は独自のギター・スタイル、音楽スタイルで誰のマネも影響も受けていない」と言いたいのでしょう。でも、彼だけではなく40年代に若かったブルーズマンたちはB.B.キングはじめみんなT.ボーンの影響を受けています。何しろT.ボーンは「モダン・ブルーズギターの父」ですから。
でも、ゲイトマウスはそこから更に自分のスタイルをワイルド&ファンキーにして独自のスタイルをこの”ビーコックレコード”時代に確立します。それが「ヒューストン・ジャンプ」と呼ばれるものになります。1950年の次のこの曲あたりでそのスタイルが完成したように感じます。

3.She Walks Right In /Clarence Gatemouth Brown

ゲイトマウスのワイルドな歌とギターそしてうまくアレンジされたバックのホーンセクションやコーラス。ブルーズですがどこかポップなテストもあるいい曲です。
ゲイトマウスが一斉を風靡したヒューストン・ジャンプはテキサスの後続ブルーズマン、アルバート・コリンズやジョニー・ギター・ワトソンに大きな影響を与えます。特に全体に漂うワイルドでファンキーな匂いはテキサス・ブルーズの特色を一層強いものにしました。
そのヒューストン・ジャンプはその前のブラック・ミュージックの大スター、ルイ・ジョーダンが流行させたジャンプ・ブルーズから生まれたわけですが、更に遡ると30年代からのブギウギからジャンプ・ブルーズは生まれています。その流れがよくわかるような次のゲイトマウスの1949年の曲です。

4.Boogie Rambler /Clarence Gatemouth Brown

私がゲイトマウスを初めて聞いたのは70年代の中頃、イギリスのブート・レーベル「レッド・ライトニン」からリリースされていた「サンアントニオ・ボールバスター」というアルバムでした。今回のこの二枚組CDにはそのアルバムの音源は全て収録されていますが、当時は「レッド・ライトニンのゲイトマウス聞いたか?あれはえげつないで」とブルーズ仲間で評判になってました。B.B.キング、アルバート・キング、フレディ・キングとはまた違う鋭角的なアグレッシヴさを持った個性のあるダンサブルなブルーズがゲイトマウスでした。
次のスローブルーズもゲイトマウスらしい一曲。

5.Sad Hour /Clarence Gatemouth Brown

アップ・テンポだけでなくこういうスローでもムードのある演奏ができる懐の深さを感じます。

今日はジャスミン・レコードからリリースされていたゲイトマウス・ブラウンの二枚組CD「ブギ・アップロア」のDisc1を聴きました。このアルバムタイトルのブギ・アップロアのアッブロアは大騒ぎっていう意味なんですが、本当にブギで大騒ぎのファンキーで楽しいアルバムです。次週はこのアルバムのDisc2を聴きます。お楽しみに。