永井ホトケ隆が選ぶブルーズ・スタンダード集 vol.11/モダン・シカゴブルーズ-1
モダン・シカゴ・ブルーズの四天王、バディ・ガイ、ジュニア・ウエルズ、マジック・サム、オーティス・ラッシュが残したブルーズ・スタンダード
ON AIR LIST
1.First Time I Met The Blues/Buddy Guy
2.I Can’t Quit You Baby/Otis Rush
3.All Of Your Love/Magic Sam
4.Messin’ With The Kid/Junior Wells
5.All Your Love(I Miss Loving)/Otis Rush
先週は戦後エレクトリック・ブルーズのスタンダード・ブルーズ二回目ということでしたが、結局全部ハーモニカのリトル・ウォルターのヒット曲で終わってしまいました。今日はそのリトル・ウォルターの次の世代のシカゴ・ブルーズマンたちのスタンダード曲を紹介します。
最初にバディ・ガイなんですが、このブルーズ・スタンダードに選べるバディの代表曲ってなんやろ・・・と考えたときに、これ!というのがないんですよね。ブルーズギタリストとしてその演奏の実力は個性的で素晴らしいものがあるんですが、彼自身のオリジナルヒット曲というのがないのです。このブルーズ・スタンダード集という企画は後世にも残っていくいい曲を紹介するものなんですが、曲単位となるとバディのたくさんの音源からそれを見つけるのが難しいです。
それで僕が初めて聴いたバディの曲、それは僕をブルーズの世界に誘ってくれた曲でもあるのですが・・・オリジナルはブルーズピアニストのリトル・ブラザー・モンゴメリー。バディを聴いてしばらくしてリトル・ブラザーのバージョンを聴いたのですが、僕にとってはバディのインパクトの方が強かったのでモダン・シカゴ・ブルーズのスタンダードにこの曲を入れたいと思います。この曲をバディは何度か録音していますが、僕は1965年のヨーロッパでの「アメリカン・フォーク・ブルース・フェスティバル」のバージョンが好きです
1.First Time I Met The Blues/Buddy Guy
「初めてブルーズに出会ったとき・・」と始まるこの曲はブルーズを擬人化していて、ブルーズが追いかけてくる。ブルーズ、オレを殺さないでくれと取り憑かれるブルーズから逃れようとする歌ですが、とても緊張感があるこの頃のバディは歌もギターも素晴らしいです。そして、バックのストレートでムダな音がないサウンド作りは僕がバンドでブルーズ始めた時のひとつのお手本になりました。
1950年代初期のマディ・ウォーターズやサニーボーイ・ウィリアムスン、ハウリン・ウルフたちが最初のシカゴ・エレクトリック・ブルーズの世代で、その後がリトル・ウォルター、デイヴ・マイヤーズ、ルーサー・タッカーといった人たちで、その後にバディ・ガイ、オーティス・ラッシュたちの時代になります。彼らは先達のシカゴ・ブルーズの影響も受けつつもB.B.キングのモダン・ブルーズの影響が更に強かったことが演奏に表れてます。
ホーン・セクションを含めたダイナミックス溢れるバックに乗って繰り広げられるB.B.の縦横無尽なギターソロとゴスペル・ルーツのパワフルな歌が、バディたちの世代を夢中にしたのは当然のように思います。
次のオーティス・ラッシュもB.B.の影響下にありますが、彼はレフティ(左利き)だったのでギターに関してはアルバート・キングの影響もありました。実際アルバートの曲のカバーもいくつかやってます。しかし、ブルーズ・スタンダードに選ぶとなれば、ラッシュはやはりこの曲。1956年コブラ・レコードのリリース。ウィリー・ディクソンの作ったこのデビュー曲がR&Bチャートの6位。
2.I Can’t Quit You Baby/Otis Rush
幸せな家庭をひとりの愛する女のために壊してしまった男が、それでもその女と別れられないと歌う泥沼のブルーズ。苦悩する男の心情をヘヴィに歌えるシンガーは、当時のシカゴではラッシュだけだったかも知れません。
20代前半に彼がコブラ・レコードに残したブルーズはそのギターの切れ、歌の重量感、全体から溢れるエモーションなど明らかに新しいシカゴ・モダン・ブルーズの幕開けでした。
ラッシュと同世代のマジック・サムには新しい時代のファンキーさがありました。”That’s All I Need”のようなブルーズとソウルがミックスされた新しいブルーズン・ソウルの流れも敏感にキャッチしていたサムの早い死は本当に残念でした。
どこかロックするグルーヴ感もあり日本の若いロック・ファンの中にもサムが好きだという人は多いです。
有名ブルーズを自分のものとしてカバーする力もあり、ジュニア・パーカーの”Feelin’ Good”、ロスコー・ゴードンの”Just Want A Little Bit”もボビー・ブルー・ブランドの”I Don’t Want No Woman”も僕が最初に聴いたのはマジック・サムのカバーでした。
そして、僕が最初に好きになった彼の曲は、トレモロのエフェクターがかかったギター・パターンが印象に残るこの曲でした。
3.All Of Your Love/Magic Sam
この曲だけでなく、この曲が収録されている1968年リリースのアルバム”West Side Soul”が名盤なのでこれも是非アルバムごと聴いてください。
聴いてもらってわかるように50年代後半から60年代になると俄然ギターがブルーズの主役楽器になっていきます。その前まで主役もやっていたピアノやハーモニカが少し後ろに下がります。
ハーモニカ・プレイヤーであるジュニア・ウエルズはブルーズのハーモニカ・プレイヤーとしてあまり評価されていない気がしますが、僕はストリートの匂いがする彼の歌とハーモニカが当時のリアルなブルーズだったと感じます。この匂いは出そうとして出せるものではないです。
「子供の遊びのようなことはしないんだよ。大人なんだからほっといてくれよ」という歌です。1960年録音。シカゴのブルーズ・シーンで次第にのし上がってきたジュニアの勢いが感じられる曲です。
4.Messin’ With The Kid/Junior Wells
いなたいラテンビートを使ったこの曲はジュニアの終生の持ち歌でした。
5.All Your Love(I Miss Loving)/Otis Rush
このブルーズ・スタンダードのシリーズを始めたのは、プルーズというのは基本的にコード3つで自由に歌ったり、ソロを弾ける音楽なのですが、その前に当たり前なんですがひとつひとつ曲なんです。それぞれのメロディがありリズムがあり、それをバックで演奏している人たちのグルーヴがあり、その上に歌やギターやハーモニカ、ピアノなんかがあるわけです。もちろんその前に曲があるわけです。そのいい曲をいい演奏をして残っているブルーズを曲として紹介したいわけです。
1960年代に入ると黒人音楽の流れはブルーズからR&Bそしてソウル・ミュージックへと移っていく時代でした。その時代に自分たちの新しいブルーズを残そうと数少ないレコーディングの中でそれをつかみ取っていった彼らの意気込みを感じる、今に残るシカゴ・モダンブルーズのスタンダード曲でした。