アフリカン・アメリカンのミュージシャンが歌ったボブ・ディランの曲をコンピレーションした興味深いアルバム
How Many Roads Black America Sings Bob Dylan (ACE CDCHD 1278)
ON AIR LIST
1.Blowin’ In The Wind / O.V.Wright
2.Like A Rolling Stone / Major Harris
3.I Shall Be Released / Freddie Scott
4.Lay Lady Lay / The Isley Brothers
5.Just Like A Woman/Nina Simone
この”How Many Roads Black America Sings Bob Dylan”と言うアルバムは黒人ミュージシャンが取り上げたボブ・ディランの曲を集めたコンピレーション・アルバムです。ソウル、ジャズ、ブルーズ、ゴスペルとあらゆるジャンルの黒人ミュージシャンにディランの曲が支持され、白人のシンガー・ソングライターの中では飛び抜けてたくさんの曲がカバーされ録音されています。
ディランの曲が多くの黒人ミュージシャンに支持された理由は、60年代にディランが黒人公民権運動や人種差別撤廃運動またベトナム戦争反対運動に参加しメッセージソングを作って歌っていたことにあります。また黒人プルーズはじめ黒人音楽に理解が深かったディランの音楽性も黒人たちはわかっていたと思います。最初の曲はこの前O.V.ライトの特集の時にON AIRしましたが、このアルバムの最初に入っていて僕もこのO.V.のバージョンが好きなので再度ON AIRします。サム・クック、スティービー・ワンダーなど黒人シンガーのカバーがいくつかある「風に吹かれて」
1.Blowin’ In The Wind / O.V.Wright
ディランのオリジナルは1963年のリリース、今のO.V.は68年のリリース。「男は男と呼んでもらうためにどれだけ多くの道を歩けばいいのか。砂の中で眠るために白い鳩はどれだけ多くの海を渡られなければならないのか。その答えは吹いている風の中にある」と人間が生きていく厳しさを歌った曲です。
ソウル・シンガーのメジャー・ハリスは音楽一家に生まれたのでこどもの頃から音楽活動していたようです。60年代の終わりに「デルフォニックス」と言うコーラス・グループのメンバーとして知られるようになり”La La(Means I Love You)”が大ヒットしました。ソロになってからも”Love Won’t Let Me Wait”などいくつもヒットを出しましたが、1969年にシングルだけでオケーレコードからリリースされたのがディランのカバー曲”Like A Rolling Stone “
ディランのオリジナルは1965年にリリースされたアルバム「追憶のハイウェイ61」(Highway 61 Revisitedに収録) 歌の内容は知っている方も多いと思いますが、ダイヤを身につけて、高い酒を飲んで贅沢な生活をしてホームレスを馬鹿にしていたような女が落ちぶれていく歌です。どんな気持ちだ転がる石のように落ちていく気分は?誰にも見向きされなくなったのはどんな気持ちだと皮肉を込めて虚飾に満ちた生活を批判した歌です
2.Like A Rolling Stone / Major Harris
この曲はジミ・ヘンドリックスが素晴らしいロックにアレンジしたヴァージョンもありますが、メジャー・ハリスのソウルフルな歌もいいです。
次のI Shall Be Releasedは刑務所に入れられた囚人が解放を願う歌という人もいれば、自己精神の解放の歌だという人もいる。また宗教的な歌だとする人もいます。ディランの歌詞はいろんな風に捉えられていてそれがまた魅力でもあります。今すぐに僕は解放される、自由になるという最後の歌詞が印象に残ります。歌ってるのはソウル・シンガーのフレディ・スコット。1963年にキャロル・キングが作った”Hey Girl”を歌ってヒットして有名になり、1970年にこのI Shall Be Releasedのタイトル・アルバムをリリースしています。
3.I Shall Be Released / Freddie Scott
次の原曲はディランが1969年にリリースしたアルバム “Nashville Skyline” に収録されています。
これは好きな彼女に一緒に寝ようと誘っている歌です。パーティかなんかやってるんですかね、二階に行ってオレの大きなベッドで寝ようよ、君を抱きたいと歌ってます。
歌っているのはソウル・ファンク・グループ、アイズレー・ブラザーズ。50年代初期に結成されたグループでビートルズがカバーした”Twist And Shout”などヒットがたくさんあるグループです。
4.Lay Lady Lay / The Isley Brothers
最後はニーナ・シモンです。僕はニーナのこの”Just Like A Woman”が収録されているアルバム”Here Comes The Sun”をリリースされた直後1971年に京都のジャズ喫茶で聞きました。アルバムのタイトル曲がビートルズだったこともあったし、その”Here Comes The Sun”もすごく良くて、今から聞いてもらうディランのカバー”Just Like A Woman”もすごく胸に残る歌でした。高校生くらいからニーナ・シモンはジャズ喫茶で聞いていたのですが、この曲で僕はニーナ・シモンのファンになり彼女のアルバムのコレクションをはじめました。
この歌も複雑な内容ですが愛した女性との別れの歌です。女性はかなりフリーキーな女性でドラッグにもハマっている感じですが、もうこの女と別れなければと歌ってます。サビのJust Like A Womanの最後でどうしようもない女なんですが、But She Breaks Just A Little Girl(でも彼女は小さな少女のように壊れてしまう)というところが切ないです。
5.Just Like A Woman/Nina Simone
このHow Many Roads Black America Sings Bob Dylanはいいアルバムです。他にもステイプル・シンガーズ、ボビー・ウーマック、ソロモン・バーク、エスター・フィリップスなどが収録されています。
ボブ・ディランというシンガー・ソングライターが音楽界に与えた影響の大きさを改めて知った思いです。