2018.12.28 ON AIR

「今年も番組を聴いていただきありがとうございました」

Forever Young/Reggie Young (ACE CDCHD 1500)

Forever Young/Reggie Young (ACE CDCHD 1500)

The Neville Brothers (A&M POCM-1548)

The Neville Brothers (A&M POCM-1548)

Blues After Sunset/Henry Butler (Black Top CD BT-1144)

Blues After Sunset/Henry Butler (Black Top CD BT-1144)

IF ALL I WAS WAS BLACK /Mavis Staples (ANTI 7557-2)

IF ALL I WAS WAS BLACK /Mavis Staples (ANTI 7557-2)


 
ON AIR LIST
1.Coming Home To Leipers Fork/Reggie Young
2.Yellow Moon/The Neville Brothers
3.Butler’s Boogie/Henry Butler
4.Peaceful Dream/Mavis Staples

今年もなんとか無事に健康で音楽をやれて、そしてこの番組を続けられたことに感謝してます。やはり元気でちゃんと仕事ができるだけでほっとします。僕はこの前の10月で68才になったのですが、友達や同年代のミュージシャンが亡くなったり、病気になったりということが多いので気落ちすることが多いです。とにかく、元気でいないと・・・なんて、そんなことを自分が考えるとは若い頃は思いませんでしたね。もう毎晩飲んでね。朝まで飲んで騒いで・・・いまはもう10時くらいに眠たくなる情けない感じです。

今日の最初は日本ではほとんど知られていないギタリストなのですが、アメリカの音楽の歴史の中ではかならず名前が出てくるレジー・ヤングという人がいます。とくにソウル・ミュージックを好きな方は誰かのアルバムでレジー・ヤングの名前を見ていると思います。アレサ・フランクリン、ウィルソン・ピケット、ジェイムズ・カー、O.V.ライト、カントリーのウィリー・ネルソンの”Always On My Mind”、エルヴィス・プレスリーの”Suspicious Minds”,ロックのJ.J.ケイルの”Cocane”のシャープなリズムギターもレジー・ヤングです。いわゆるスタジオ・ミュージシャンですが、今年80才にして初めてのソロ・アルバム”Foever Young”をリリースしました。またゲストをひとりも入れていないところがよくて、7曲しか収録されていないのですがとても素晴らしい7曲です。
1.Coming Home To Leipers Fork/Reggie Young
どんな気持ちでしょうね、80才で初めてのソロ・アルバムって。たぶん、こういう職人のようなギタリストは自分のソロ・アルバムを出すなんてことを考えてもいなかったように思います。「ああ、そう言えばオレ、ソロなんて出してなかったな」くらいでしょうね。年を取って肩の力が抜けたなんてよく言いますが、このアルバムを聴いていると楽に弾いているように聴こえますが、力や気持ちが思いっきりはいっているところもあります。力抜けるだけでは・・・。
ニューオリンズを代表するバンド、「ネヴィル・ブラザーズ」のサックス、チャールズ・ネヴィルが亡くなったという残念な知らせを聴いたのは4月28日。亡くなられたのは26日、79才。ネヴィルは本当に思い出のいっぱいあるバンドで何度も見ました。日本でもニューオリンズでも。
ネヴィル・ブラザーズは名前のとおり兄弟(長男のキーボードのアート、次男のヴォーカルのアーロン、三男のサックスのチャールズ、四男のパーカッションのシリル)で、70年代なかばに結成されたグループだが、それを結成する前60年代の初めから兄弟それぞれが活動していた。ネヴィル・ブラザーズの前に70年代はじめからアートとシリルはたくさんの素晴らしい録音を残したミーターズに参加。スタジオミュージシャンのバンドとして活動しながらも、ミーターズはニューオリンズ・ファンク・バンドとして貴重な録音を残している。そこに76年ヴォーカルのアーロンとサックスのチャールズが参加してネヴィル・ブラザーズとなった。チャールズはサックスとパーカッションを担当し、次の曲のような印象に残るサックスを録音している。聴いてもらうのは89年のアルバムタイトルにもなった曲。
2.Yellow Moon/The Neville Brothers
亡くなったあとに弟のアーロン・ネヴィルが出したコメントで「これからのステージでも、思わずつられてしまう兄さんの飛び切りの笑顔とはずっと一緒だ。私をいつも笑顔にさせてくれる」と言ってますが、本当に笑顔が素敵な人でした。日本のライヴの楽屋でネヴィル・ブラザーズに会ったとき、いちばん話やすかったのはその笑顔のチャールズでした。いちばん話しにくかった、結局声をかけられなかったのはコメントを出したアーロンでした(笑)

次も今年の7月に亡くなったニューオリンズのミュージシャンです。盲目のピアニスト、ヘンリー・バトラーです。亡くなってわかったんですが、僕とヘンリー・バトラー、同じ年なんですよ。ちなみにスティービー・ワンダーも同じなんですが、このふたりを思うと自分の才能のなさに愕然としますが・・・。
もうずいぶん前ですが、ニューオリンズに行き始めた頃、それまで彼のことは全然知らなかったのですが、ライヴを観に行ったら目が回ったというか、腰が抜けたというか、とにかくすごいピアノで、ピアノのすぐ前で鍵盤が見える席で聴けたんですが、もうヘンリーの手というか指という見ているうちに目が回って・・ずこいテクニックとフィーリングでした。聴いてもらうのは98年にブラックトップレコードからリリースされた”Blues After Sunset”から、ヘンリーのピアノ・ソロです。
3.Butler’s Boogie/Henry Butler
日本に来た時に高円寺のJIROKICHIでセッションしたんですよ。その翌日にコンサートがあって楽屋に訪ねていったら、ヘンリーは盲目なので見てもわからないだろうと思っていたら、「おい、おまえ昨日セッションで歌ったやつやろ」と僕の声だけでちゃんとわかるんですね。すごく才能のある素晴らしいピアニストでした。

ここ数年、ずっとアルバムを出してくれているメイヴィス・ステイプルズは今年も元気でした。このアルバム「If All I Was Was Black」は去年の11月にリリースされていたのですが、僕が聴いたのは今年ですが・・。
4.Peaceful Dream/Mavis Staples
まるで60年代のステイプル・シンガーズの頃に戻ったような曲と歌でした。
メイヴィスにはまだまだがんばって欲しいです。

自分がこの年になってもアルバムリリースできたり、変らずライヴやツアーをできたり、そしてこの番組を続けていられることに心から感謝しています。お客さんやリスナーのみなさん、たくさんの人たちが関わってくれて僕のやりたい事は成立するものです。
また来週、また来年、この番組を聴いていただけると嬉しいです。今年もありがとうございました。よいお年をお迎えください。Hey,Hey,The Blues Is Alright!
永井ホトケ隆

2018.12.21 ON AIR

ブルーズマンのクリスマス・スペシャル

20181221-1
A CREOLE CHRISTMAS(Epic ZK 47045)

20181221-2
Bluesin’ Them Jingle Bells(Oldays ODR 6177 R-15A0702)

20181221-3
Bummer Road/Sonny Boy Williamson(Chess/ユニバーサル UICY-93316)

20181221-4
Christmas In SoulsVille(Stax/ユニバーサル UCCO-2005)

20181221-5
Christmas Celebration Of Hope/B.B.King (MCA 112 756-2)

ON AIR LIST
1.Jingle Bells/Rockin’ Dopsie & The Zydeco Twisters
2.Christmas Eve Blues/Blind Lemon Jefferson
3.Santa Claus/Sonny Boy Williamson
4.I’ll Be Your Santa Baby/Rufus Thomas
5.Christmas In Heaven/B.B. King

 

当”Blues Power”では毎年他ではまず聴けないクリスマス・ソングの特集をしていますが、今年も他の番組ではON AIRされないブルーズ・テイストいっぱいのクリスマス・ソングをどうぞ。
まず陽気なルイジアナのザディコ・ミュージックのクリスマス・ダンス・ナンバーを。ちなみにザディコというのはサウス・ルイジアナあたりに住んでいるフランス系の黒人(クレオール)たちの音楽で、アコーディオンを使うのとラブボードと呼ばれる「洗濯板」を使うのが特徴で、ファンキーなダンス・ミュージックです。
1.Jingle Bells/Rockin’ Dopsie & The Zydeco Twisters
実に素人っぽい歌と素朴な感じを出すサックスとアコーディオンがたまりません。でも、洗濯板とドラムで作るビートはステディでめちゃかっこいいです。

ブルーズ・フリークとしては黒人のブルーズが録音され始めた大昔、1920年代とか30年代にクリスマスに関係したブルーズはないのか・・と探すとこれが意外とあるんですね。世間では全然知られてないですよ。クリスマスっていう感じもないですよ。「これフツーのブルーズやん」と言われると思いますが、ハイ!フツーのブルーズのクリスマスの歌です。
1928年(昭和3年)のテキサスの偉大なブルーズマン、ブラインド・レモン・ジェファーソンのブルーズです。
「厳しい冬になりそうやで、見てみめちゃ雪降って来てる、ベイビーオレがうめいてる声が聴こえるか・・
クリスマスの前の日にオレがうめいてる声が聴こえるか・・・」
2.Christmas Eve Blues/Blind Lemon Jefferson

僕が子供の頃のクリスマス関係の本とか歌とか映画とかはほとんどアメリカの白人によって作られたものだったのですが、若いときにブルーズを知ってから昔の黒人たちはクリスマスをどう過ごしていたのだろうかと思うことがありました。やっぱり同じようにクリスマスは大きなイベントであり、お互いにプレゼントをし合ったりしていたんですね。
確か前にON AIRしたかと思いますが、Back Door Santaという「裏口サンタ」という間男のブルーズもあってよその奥さんと密通するブルーズですが・・。子供に聞かせられませんが・・。オマエのサンタになるよとか、サンタになりたいとか・・とにかくサンタになって女性を口説こうとするブルーズ多いです。
次のはサニーボーイ・ウィリアムスンの「サンタクロース」というブルーズなんですが
「自分の彼女が昨日あんたのためにクリスマスのプレゼント買ってドレッサーの引き出しに入れといたからねというから、ドレッサー開けて探していたら警察が来て、君なにしんのや・・と言われて彼女が書いてくれた手紙見せて、どろぼうやないですよと言わなあかんというドサクサなブルーズです」
3.Santa Claus/Sonny Boy Williamson

次はメンフィス・ソウルのファンキー親父、ルーファス・トーマスのクリスマス・ファンクです。今年は娘さんのカーラ・トーマスが来日がありました。僕も東京で観ましたが妹さんのシンガーのヴァニースさんもよくていいライヴでした。その時もお父さんのヒット、Walkin’ The Dogなんかも歌ってましたが、そのルーファス・トーマスのヒットした”Funky Chicken”とかファンキーシリーズというのがあって、それ同じ感じの曲なんですがね。「サンタクロースが来たよ。来たよ」って始まる曲で「オレがオマエのサンタになるよ、他の奴ではあかん。オレがオマエのサンタになりたい」
やっぱり彼女のサンタになりたいんですよ。サンタになって何かプレゼントして自分に振り向いてもらいたいと・・・ほとんどこのパターンです。
4.I’ll Be Your Santa Baby/Rufus Thomas
いまのはスタックス・レコードのミュージシャンのクリスマスの歌をコンピレーションした”Christmas In SoulsVille”というアルバムにはいっていて、オーティス・レディングとかジョニー・テイラーとかステイプル・シンガーズとかスタックスレコードの有名どころが収録されています。
僕はクリスマスのお祝いなんてケーキ買ってくるぐらいですが、クリスマス・ソングを聴きながらケーキを食べるくらいのつつましい夜でいいのでは・・。
最後はB.B.キングです。
B.B.は2001年に”Christmas Celebration Of Hope”というクリスマス・アルバムを出しています。B.B.は長年クリスマス・アルバムを出したかったその念願がかなったアルバムで、さっき話したBack Door Santa、有名なチャールズ・ブラウンのMerry Christmas Babyとか歌ってます。
もうなくなって三年が過ぎましたが、やはりB.B.のようにブルーズ界を見守るような器の大きな素晴らしいもうブルーズマンはいません。本当に大きな柱だったことが時が過ぎれば過ぎるほどよくわかります。
いまから聞いてもらうクリスマス・ソングでもB.B.キングの歌の素晴らしさがよくわかります。

5.Christmas In Heaven/B.B. King

2018.12.14 ON AIR

OTIS RUSH 追悼 vol.3

Mourning In The Morning/Otis Rush (Atlantic 782367-2)

Mourning In The Morning/Otis Rush (Atlantic 782367-2)

Right Place Wrong Time/Otis Rush  (Hightone Records HCD-8007)

Right Place Wrong Time/Otis Rush (Hightone Records HCD-8007)

Ain’t Enough Comin’ In/Otis Rush (Quicksilver/nippon phonogram PHCR-1248)

Ain’t Enough Comin’ In/Otis Rush (Quicksilver/nippon phonogram PHCR-1248)

ON AIR LIST
1.Gamblers Blues/Otis Rush
2.Tore Up/Otis Rush
3.Rainy Night In Georgia/Otis Rush
4.Don’t Burn Down The Bridge/Otis Rush

 

去る9月20日に亡くなった。偉大なブルーズマン、オーティス・ラッシュの追悼の三回目です。
前回聴いてもらった50年代中後期にはチャートへのヒットも出してコブラレコードに18曲を録音しましたが、その後60年代シカゴのブルーズの名門レーベルチェスレコードと契約したが出したのはシングルが数枚。その後のデュークレコードではシングルが一枚のみ。つまり、いちばん勢いのあった時にふたつのレコード会社が契約したもののラッシュに力を入れなかった。これは精神的にかなり辛かっただろうと思います。そのあとヴァンガードレコードなどにも録音しているがトータルなソロ・アルバムはないまま60年代が終わろうとしていた。しかし69年に、コテリオン・レコードからアルバム”Mourning In The Morning”が発表された。60年代にリリースされたアルバムはこれ一枚。
ファンが期待したこのアルバムは、ラッシュ本人はがんばっているが曲やアレンジ、サウンドがあまりよくない。言えばオーバー・プロデュース。残念なアルバムになった。
しかし、その中でこのスローブルーズ1曲だけは素晴らしく良かった。

1.Gamblers Blues/Otis Rush
”Mourning In The Morning”のプロデュースはラッシュを尊敬していたであろうロック・ギタリストのマイク・ブルームフィールドとニック・グレヴナイツ。バックはアレサ・フランクリンやウィルソン・ピケットなどの録音に参加していたドラムのロジャー・ホーキンスほか当時のマッスルショールズの腕利きのスタジオミュージシャンたち。しかし、素晴らしいミュージシャンを揃えてもいい録音になるとは限らないという典型のようなアルバムで、久々のアルバムだったのにラッシュにとっては自分を代表するアルバムにはならなかった。
そして、とうとう70年代に入り日本でブルーズが流行り始めて黒人ブルーズマンによるブルーズのコンサートが始まり、3回目のブルーズフェスでラッシュは来日した。
1975年の夏。当時日本のブルーズ・ブームはすごい勢いで中でも、コブラレコードのラッシュに感動した彼の人気はすごくて僕が見た東京の日比谷野音は超満員、大阪でも入れない人たちがたくさんいた。しかし、ラッシュの演奏は良くなかった。バックのジミー・ドーキンスのバンドがダメとかいろいろ言い訳はありましたが、彼があの時全力を出して演奏したようには見えなかった。うまくいかないので途中で勝負を捨てたような演奏だった。
それ以降彼が来日した時もそうでしたが、時々彼はなぜかひとり内にこもったような演奏になりお客のことも一緒にやっているミュージシャンのこともお構いなしということがよくあった。
ステージがいろんな理由で上手くいかないことはよくあることですが、これがB.B.キングならどうだろうと思ったこともあった。B.B.は最後まで勝負を捨てないでがんばると思った。ラッシュにはそれがない感じでした。僕は1,2曲素晴らしい演奏をするラッシュを見たことはあったが、コンサートが最高だったことは一度もなかった。残念ながら。
何度目かの来日の時は自分のヒット”All Your Love”を歌わないでインストでやったことがあり、その時は僕は頭に来て途中で客席を出ました。あとから関係者に聞けばかなり酒を飲んでいたということだった。それは言い訳にはならない。大好きなだけにしっかりしてくれ!という気持ちでした。
そして、来日の75年の翌年”Right Place Wrong Time”というアルバムが突然リリースされました。実はその五年前1971年に大手キャピタルレコードが録音したものですが、発売されずに76年になってインディーズのハイトーンレコードからリリースされた。その5年も確かにラッシュにとってつらいものだったと思います。

2.Tore Up/Otis Rush

次に聴いてもらうのは黒人のブルック・ベントンが70年にヒットさせましたが、オリジナルは去年の10月に亡くなった白人のカントリーロック・シンガーのトニー・ジョー・ホワイトです。
「スーツケースを持って夜を過ごす温かい場所を探している。めっちゃ雨が降っている中、大丈夫やと言う君の声が聴こえる気がする。ジョージアの雨の夜、世界中が雨のような気がする」
スーツケースとギターを持って放浪しているミュージシャンを歌った曲です。
3.Rainy Night In Georgia/Otis Rush
いい曲です。
いま聞いている”Right Place Wrong Time”以降のラッシュはコンスタントにアルバムを出してます。
94年の”Ain’t Enough Comin’ In”もいいアルバムです。2006年リリースのサンフランシスコでのライヴ盤”Live And In Concert From San Francisco”もよかったです。

では、94年”Ain’t Enough Comin’ In”から彼が好きだったアルバート・キングの曲のカバーです。
その橋(ブリッジ)を焼き落としてはいけない/Don’t Burn Down The Bridgeというタイトルですが、家のドアに全部鍵をかけて、その鍵を投げ捨てて家を出ていこうとする彼女に「その橋(ブリッジ)を焼き落としてはいけない」と言うんですが、ふたりのつながりをすべて失くしてしまってもいいのか。
4.Don’t Burn Down The Bridge/Otis Rush

オーティス・ラッシュの追悼を三回に渡ってON AIRしてきました。いろんな不運なことやミュージシャンとして恵まれない状況の時代もありましたが、まだまだやれる力を持ったブルーズマンでした。1998年には「Any Place I’m Going」をリリースしてグラミーも受賞しました。2004年に脳梗塞で倒れてから結局復帰できないまま彼は亡くなってしまいました。
本当に残念です。
オーティス・ラッシュは他にもアルバムがあり、ライヴ・アルバムも何枚かあります。
僕はシカゴのラッシュのお宅にもおじゃましていろいろ話をさせてもらいました。ありがとうございました。

2018.12.07 ON AIR

Otis Rush 追悼 vol.2 「コブラレコード時代のラッシュ」

Otis Rush/I Can’t Quit You Baby(The Cobra Sessions 1956-58) (P-Vine PCD-24038)

Otis Rush/I Can’t Quit You Baby(The Cobra Sessions 1956-58) (P-Vine PCD-24038)

Otis Rush/This One’s Good ‘Un(Blue Horizon 7-63222)

Otis Rush/This One’s Good ‘Un(Blue Horizon 7-63222)

 

ON AIR LIST
1.Double Trouble/Otis Rush
2.It Takes Time/Otis Rush
3.All Your Love(I Miss Loving)/Otis Rush
4.If You Are Mine/Otis Rush
5.My Love Will Never Die/Otis Rush

去る9月20に亡くなった偉大なブルーズマン、オーティス・ラッシュ追悼の二回目です。
前回、コブラレコード時代のラッシュのアルバムがなかなか手に入らなかった話をしましたが、今回はそのアルバム、コブラのラッシュです。
オーティス・ラッシュが50年代半ばにシカゴのコブラ・レコードに録音した曲を集めた赤い縁取りがしてある、通称「コブラのラッシュ」のレコード盤を初めて手にした時は感無量でした。アルバムタイトルは「This One’s A Good ‘Un」。1969年、リリースしたのはイギリスのレコード会社ブルーホライズン
このアルバムに収録されているオーティス・ラッシュの音源は現在日本のP-Vineレコードのコンピでリリースされている。間違いなくブルーズの歴史に残るものだ。

このアルバムのA面の一曲目にレコード針を載せた途端に聴こえて来たマイナー調のこのブルーズが、当時の自分の心に覆い被さり、訴えかけるような歌と泣き叫ぶようなギターの音色にたまらない気持ちになったのを覚えている。
社会の下層に生きる黒人若者の苦しみと苛立ちを感じさせるブルーズ。「愛も仕事も失ってダブル・トラブル(二重の苦しみや)オマエも一生懸命やれば大金もちになれるってみんなはいうけど、オレは着ていく服もないんや」
1.Double Trouble/Otis Rush
1958年の録音。

ラッシュは重いスロー・ブルーズで人気があるけれどアップにも素晴らしい曲がある。のっけのエグ味のある音でギターが切れ込んでくる次の曲は、当時のラッシュのブルーズマンとしての勢いさえ感じさせてくれる。
プロデューサーであるウィリー・ディクソンがベース、ドラムにフレッド・ビロウ、リズムギターにルイス・マイヤーズ、ピアノにリトル・ブラザー・モンゴメリーと、申し分のないシカゴの一流ブルーズマンがバックアップをした充実の一曲です。
2.It Takes Time/Otis Rush

ラッシュはマイナー調の曲が何曲があったことや、彼の歌声がヘヴィな印象を与えることから少し暗いイメージで捉えられている。それが好きではないと言う人もいるけど、日本ですごく人気があるのはその少し暗いイメージとウエットな感覚だと思う。いわゆる黒人のあっけらかんとしたファンキーな明るいイメージではない、内省的なものを感じさせる歌がやっぱりラッシュという感じだ。
次の曲はマイナー調の曲だけどラッシュにしてはファンキーな一曲。
3.All Your Love(I Miss Loving)/Otis Rush

1956年から58年の間にコブラレコードではシングルが8枚、つまり16曲録音された。インディーズとしてはラッシュのシングルは売れていたしまだまだコブラでリリースが続くはずだったが、情けないことに社長のイーライ・トスカーノが大の博打好きで借金を作ってしまい会社は倒産。社長はギャングに殺されてしまった。そこからラッシュの不遇の時代が始まる。
コブラが全盛だった50年代中後期はブルーズからR&Bに黒人音楽の主流が移っていく時代で、プロデュースのウィリー・ディクソンは次のようなR&Bタイプの曲を書いてヒットを狙ったのだと思う。
4.If You Are Mine/Otis Rush

このコブラレコードが60年代を待たずに倒産してしまい、ラッシュはウィリー・ディクソンの紹介でチェスレコードと契約するのだが、チェスはいまいちラッシュをプッシュしなかった。この素晴らしい才能を持った若いブルーズマンに力を入れなかった。それでボビー・ブランド、ジョニー・エースがいるデュークレコードと契約するのだが、ここでもわずか”Home Work”一曲しかリリースされないまま数年が過ぎてしまった。いったいデュークレコードは何を考えていたのかと思うが、そんな不遇の60年代の10年をラッシュはコンピレーション・アルバムに単発でレコーディングするだけでソロアルバムはずっとないまま過ごしてしまう。やっと出たと思った69年コテリオンレコードからリリースした”Mourning In The Mornig”はプロデュースがよくなくて本領は発揮できていない。そして71年にキャピトルに録音した”Right Place,Wrong Time”はその後5年も発売されないというまたまた不遇な時を過ごしてしまう。

こういう風にレコードがリリースされない状態が何年も続いたことはラッシュの精神にダメージを与えたと思う。
来週はその60年代終わりにリリースした”Mourning In The Mornig”から始めたいと思います。
今日聴いたコブラレコード時代のラッシュはどうしても聴いて欲しいブルーズです。赤いアルバムジャケットも出していますので番組のHPを見てください。