希代のサザン・ソウル・シンガー スペンサー・ウィギンス
ON AIR LIST
1.Take Me Just As I Am/Spencer Wiggins
2.Up Tight Good Woman/Spencer Wiggins
3.Soul City In U.S.A/Spencer Wiggins
4.Walkin’ Out On You/Spencer Wiggins
5.I Never Loved A Woman(The Way I Love You)/Spencer Wiggins
今日は先頃来日したサザンソウルの素晴らしいシンガー、スペンサー・ウィギンスの名盤”Soul City In U.S.A”を聞きます。今日はアナログLPです。
70年代の中頃から80年代にかけて、日本ではちょっとしたサザン・ソウルのブームが起りオーティス・クレイやO.V.ライト、アン・ピーブルズ、ドン・ブライアントたちが来日して、それでこういうスペンサー・ウィギンスのような日本であまり知られていなかったサザンソウル・シンガーのアルバムもリリースされました。その時にアメリカのソウル・ミュージックの奥深さというか、クオリティの高さそしてソウルシンガーの層の厚さに驚きました。
サザン・ソウルというとよく知られているオーティス・レディングが大きなアイコンとして存在し、そのあとに彼と同じメンフィスのスタックス・レコードのエディ・フロイド、アーサー・コンレー、サム&デイヴなどが思い浮かびますが、そのスタックスよりマイナーなレーベルが60年代から70年代にかけて南部にはたくさんありました。
そのひとつゴールド・ワックスというレコード会社に所属していたのが、このスペンサー・ウィギンス。
たくさんいるサザンソウルシンガーの中でも歌のキレとコクが抜群なスペンサー・ウィギンスが僕の好みでした。
では、まず一曲。
このA面の1曲目、この曲だけで僕は彼のファンになりました。
「僕のポケットはお金があふれてるわけじゃない、僕が運転している古ぼけた車はポンコツだ。君のような可愛い女性からつき合ってくれと言われてこともない。でも僕の心を受け取ってくれないか。僕は金持ちじゃない。貧しい男だ、でも君のことを心から愛している。いまのあるがままの僕を受け入れてくれないか」
1.Take Me Just As I Am/Spencer Wiggins
途中で語りが入り、そこからまた歌にもどっていくあたりは完全にゴスペルのもっていき方で、最後のフェイクからはたぶんもっと盛り上がっていくので聞きたいところですが、残念ながらフェイドアウトです。とても誠実な男の気持ちが伝わってくる歌です。
次はソロモン・バークやウィルソン・ピケットそしてこの曲を作ったダン・ペン本人も歌っています。これも素晴らしいソウルの名曲です。
「オレはいい女が、本当にいい女が欲しいんだ。可愛い顔をしているとかではなくオレを支えてくれる暖かい二本の腕を持っている。そしてそばにいてくれる素直な、堅実な女が欲しいんだ」
2.Up Tight Good Woman/Spencer Wiggins
いま二曲聞いてもらったような感じが典型的なサザンソウルのバラードで、同時代の北のモータウンが送り出していた夢みるような都会的なソウルではなく、貧しさや南部の生活に根ざしたところから生まれたソウルがサザンソウルです。音作りもモータウンのように派手に装飾を加えたものでなく、どこか素朴さ土臭さを感じさせるものです。僕にとってはそういう南部の歌の生まれ方がブルーズと同じテイストを含んでいて、サザンソウルが好きだったんですね。
サザンソウルというといまのバラードとかミディアムのものが多いのですが、このスペンサー・ウィギンスはアップテンポのスピード感のあるダンス・ナンバーも得意とするところで、次の曲なんかは「ダンス天国」をヒットさせたウィルソン・ピケットも歌うような疾走感のある曲です。
3.Soul City In U.S.A/Spencer Wiggins
素晴らしいです。パワフルに押しながらも切れ味があり、そして抜群のスピード感。なんでこのスペンサー・ウィギンスがもっと売れなかったのか・・と思います。
スペンサー・ウィギンスは1943年メンフィスの生まれです。高校生の時からゴスペルグループを今回一緒に来日した弟のパーシーと組んだり、学校の合唱団で歌ってました。高校を卒業後、地元メンフィスのクラブで歌っているところをレコード会社ゴールドワックスのクイントン・クランチに認められて1964年にゴールドワックスと契約。でも、これだけの歌の力量があるのに鳴かず飛ばずでフェイム、パマとレコード会社を移籍したけどやっぱり火はつかず。
それで76年にスピリチュアル・リバースといって神様からの啓示を受けて精神的に生き返るということで教会の世界へ、ゴスペルの世界へ戻ってしまいます。
それからはもう一切ソウルの世界には出てこなかったんですが、ここ数年再び兄弟のパーシーとソウルを歌っている
実は昔ブルーヘヴンというバンドをやっていた時に、僕がカバーしたのが次のWalkin’ Out On You
1977年頃から80年代のはじめにかけて
「オマエ、いまのやり方を変えてオレにもっとよくしてくれよ。夜も昼も遊び歩いてるんやめた方がええやろ。オレも疲れてしまうわ。オレはできる限りオマエにちゃんとしてるやん。嘘つくのやめてくれや。ちゃんとしてくれよ。オマエがちゃんとしてくれんかったらオレは出ていくで」
4.Walkin’ Out On You/Spencer Wiggins
1976年から彼はゴスペルの世界に戻り、マイアミの教会で執事になり教会のゴスペルグループのディレクターもしている。2002年には”Keys To Kingdom”というゴスペルアルバムをリリース。
「オマエは嘘ばかりやけどでもなぜかオレは許してしまう。
友達はやめときなって言うけれど、オマエを愛することをやめられない。なんでかってこんなに女の人を愛したことはないから。
いつかは変わるかもって期待した私が間違いだった。こんなに私を傷つける人を愛したことはなかった」
ひどい女なんやけど好きすぎて愛することをやめられないという歌。男も女もそういうことありますよね。
5.I Never Loved A Woman(The Way I Love You)/Spencer Wiggins
今回来日公演には20数年前ウエストロード・ブルーズバンドのニューヨーク録音に参加してくれたキーボードのチャールズ・ホッジズが参加していたので、サインの列に並んで会いにいった。以前よりもふっくらとして元気そうでウエストロードのアルバムを見せたら”Oh,Yeah!”と喜んでいた。時間がなくて長く喋れなかったが元気そうでよかった。キーボード・プレイはもう素晴らしすぎだった。
スペンサーは昔のように声が出ないところもあったけど、「ああ、この歌い方!」と往年のスペンサーを彷彿とさせる時も何度かありました。
スペンサーもチャールズもいまは教会を心の拠り所に音楽活動をしているようですが、これからも長く活動を続けて欲しいです。