2023.06.30 ON AIR

追悼:クリス・ストラックウィッツ / ブルーズのとても大切なレコード・レーベル「アーフーリー」アーフーリー・レコード vol.1

Lightnin’ Hopkins / TEXAS BLUESMAN (ARHOOLIE RECORDS)
Mance Lipscomb/Texas Songster (ARHOOLIE RECORDS)
The Campbell Brothers / PASS ME NOT (ARHOOLIE RECORDS)

ON AIR LIST
1.Watch My Fingers/Lightnin’ Hopkins
2.Bud Russell Blues/Lightnin’ Hopkins
3.Sugar Babe/Mance Lipscomb
4.Motherless Children/Mance Lipscomb
5.Morning Train/The Campbell Brothers

アーフーリー・レコード(Arhoolie Records)の創始者であるクリス・ストラックウィッツ氏(Chris Strachwitz)が5月5日、鬱血性心不全の合併症により91歳で逝去されました。
アーフーリー・レコードと言ってもアレサ・フランクリンがいたアトランティック・レコードやスプリームスやテンプテーションズがいたモータウン・レコード、またオーティス・レディングがいたスタックス・レコードまたマディやウルフがいたチェス・レコードほど名前が知られたレコード会社ではありません。でも、ブルーズを好きな人なら必ず一枚はこのレコード会社のアルバムを持っていると思います。そしてブルーズそしてアメリカの民族音楽を録音して残したクリスさんの功績はとても大きいのです。それで今日はそのクリスさんと彼のアーフーリー・レコードの話。
僕が最初に買ったアーフーリー・レコードのアルバムは何だったか思い出して見たのですが、70年代最初に買ったライトニン・ホプキンスの”The Texas Bluesman”ではなかったかと思います。食料品店の前で帽子にサングラスのライトニンがくわえタバコをして笑っている姿を撮ったスナップのようなジャケット写真がやけにカッコよくて・・それもあって買ったように思います。これはアーフーリーからのライトニンの三枚目になるレコードでライトニンの地元テキサス、ヒューストンで弾き語りで録音されたものです。
まずはそのアルバムから1曲。ライトニン・ホプキンスのギターの素晴らしさというか凄まじさがわかる喋りを混えた一人ギター・イニストの曲です。とてつもなくリズムがいいライトニンのギター・プレイを堪能してください。タイトルは「俺の指を見ろ」

1.Watch My Fingers/Lightnin’ Hopkins

素晴らしくグルーヴするギター・プレイで見事というしかないです。
もう一曲ライトニンで黒人たちに言いがかりつけては黒人たちを刑務所に送っていたテキサスの白人のひどい役人バッド・ラッセルのことを歌った”Bud Russell Blues”

2.Bud Russell Blues/Lightnin’ Hopkins

これだとまたライトニン・ホプキンスの話で終わってしまうのですが、今日はアーフーリー・レコードの話です。アーフーリーを設立したクリス・ストラックウイッツさんはこのライトニンに夢中になってライトニンを録音するためにアーフーリーというレコード会社を作ったそうです。僕もライトニン・フリークですからレコード会社を作りたくなった気持ちはすごくよくわかります。ライトニンはそれほどの魅力のあるブルーズマンです。
会社が設立されたのは1960年。クリスさんは1931年にポーランドで生まれてますが育ったのはドイツ。1947年にアメリカに移住してそこから彼はジャズ、ブルーズ、ゴスペルはじめヒルビリー、カントリー、そしてメキシコの音楽などあらゆるアメリカの民族音楽を聴きはじめます。彼はそういうアメリカの民族音楽が好きだったのと同時にこういう音楽を録音して記録として残していきたいという気持ちがありました。会社設立の1960年に最初に録音したのはじつは大好きなライトニン・ホプキンスではなく同じテキサスのブルーズマンというよりソングスター(ブルーズだけでなくフォークやゴスペル、スピリチュアルズなども歌うシンガーのこと)のマンス・リプスカムでした。マンスもなかなか魅力的なミュージシャンで私もしばらくハマったことがあります。
ミシシッピ・ジョン・ハートを思い出させる暖かい歌声で曲のタイトルが「シュガーベイブ」なので楽しい歌かと思いきやもうお前に疲れてしまったよ、終わりだよという歌。

3.Sugar Babe/Mance Lipscomb

このマンス・リプスカムの最初のアルバムのタイトルが”Texas Sharecropper and Songster”。シェア・クロッパーというのは小作人で、実際彼はこの録音をした時もテキサスで農園の小作人として働きながら近所の人たちに演奏を聴かせていた。つまりプロのミュージシャンではなかったのです。でも、この人の持つ素朴な歌や曲はとても暖かく魅力的で、しかもギターの技は完全にプロ級です。素晴らしい。
次の曲は1927年に盲目のエヴァンジェリスト、ブラインド・ウィリー・ジョンソンが歌った「母のない子供たちは辛い目に会う」
母を亡くし、盲目の子供として辛い思いをしたウィリー・ジョンソンそのままの気持ちを歌った歌。リプスカムのレパートリーにはこういう宗教歌もあります。

4.Motherless Children/Mance Lipscomb

今日の話の主役であるアーフーリーレコードのクリス・ストラックウイッツさんはこういう自然で素朴な、田舎の匂いがするダウンホームな音楽が好きだったんですね。こういう音楽を探し求めた人でした。
アメリカの民族音楽というと次のようなストレートなゴスペル・ミュージックもアーフーリーはリリースしています。
1997年に録音されたゴスペル・グループ「キャンペル・ブラザーズ」

5.Morning Train/The Campbell Brothers

2023.06.23 ON AIR

ブルーズ・ザ・ブッチャーの新譜”FEEL LIKE GOING HOME” 6/28リリース!

blues.the-butcher-590213 / New Album”FEEL LIKE GOING HOME”(P-Vine Records)

ON AIR LIST
1.I Feel Like Going Home/blues.the-butcher-590213
2.Baby Please Don’t Go/blues.the-butcher-590213
3.Can’t Hold Out Much Longer/blues.the-butcher-590213
4.Tell Me Mama/blues.the-butcher-590213

私のバンド「ブルーズ・ザ・ブッチャー」の新譜”FEEL LIKE GOING HOME” がリリースされることになりました。当初6/21のリリースだったので放送中は6/21と言ってますが、6/28に延期されましたのでここに訂正させていただきます。申し訳ありません。

結成16年目を迎えるブルーズ・ザ・ブッチャーとしては10作目のアルバムです。今まで自分がやってきたバンドの中でいちばん長くやっているバンドになりました。そしてアルバムもいちばんたくさん出しているバンドになりました。
今回は自分が50年前にブルーズを歌うきっかけの一つとなったブルーズマン、マディ・ウォーターズのカバーをやりました。そしてハーモニカのコテツ君はマディのバンドの重要なメンバーの一人だったリトル・ウォルターのカバーを録音しています。

アルバム・タイトル「Feel Like Going Home」は一曲目の”I Feel Like Going Home”からですが、実は今回どうしても録音したかった曲がこの曲です。
マディ・ウォーターズを知ってその初めの頃に買ったイギリスのコレクターズ・レーベル「シンジケート・チャプター」のLP二枚組のアルバム””Muddy Waters/Back In The Early Days”に収録されてた曲です。1971年頃だったか・・・。確か5000円くらいしたと思います。当時住んでいた下宿の家賃が5000円でしたから当時の私にしては本当に高い買い物でした。でも、そのくらい欲しかったんですね。それで毎日毎日そのアルバムを聴くのですが、一枚目のA面の1曲目が”I Feel Like Going Home”で毎日聴くうちになぜかすごく好きになっていきました。
この曲をマディは故郷ミシシッピにいた頃に”Country Blues”というタイトルで録音しています。それは1942,3年頃の話で、まだレコーディングをしたことのない農夫マディのところへアラン・ロマックスという男が訪ねてきました。ロマックスは民族音楽研究家でアメリカ議会図書館(アメリカの書物だけでなく写真、音源などアメリカ文化最大のアーカイヴスでもある)の依頼で南部に黒人民族音楽であるブルーズの録音収集にやってきたのでした。それから約五年後、シカゴのアリストクラット・レコード(チェス・レコードの前身)で曲名を”のI Feel Like Going Home”と変えて録音されました。ほぼ同じ曲なのですが、聴き比べてみるとマディの歌もギターも格段に上手くなっていて端々に自信のようなものが感じられます。この曲が”I Can’t Be Satisfied”とカップリングのシングルで1948年にリリースされ一晩で3000枚を売りマディにとって初めてのヒットとなりました。その時まだ音楽だけでは食べていけずトラックで配達の仕事をしていたマディの胸にはいろんな想いが溢れたと思います。
そのマディにとって記念すべき曲は僕にとって最初にマディを好きになった記念すべき曲でもありました。その曲を今回録音できたことは私にとって感慨深いものがあります。
また、ライヴの場でこのアルバムに収録した曲そしてマディ・ウォーターズについていろいろとお話したいと思います。
是非、アルバムをゲットして楽しんでください。

2023.06.16 ON AIR

リクエストに応えてライ・クーダー!

Chicken Skin Music/Ry Cooder

ON AIR LIST
1.Smack Dab in the Middle/Ry Cooder
2.He’ll Have To Go/Ry Cooder
3.Chloe/Ry Cooder
4.Yellow Roses/Ry Cooder

リスナーの久保 光男さんという方からリクエストのメールをいただきました。
読ませていただきます。「金曜の夜はBLUES POWER、俺の生き返る時間…と勝手にTwitterで番宣をしている者です」はい、ツイートしていただきいつもありがとうございます。
「以前タジ・マハールとライ・クーダーのアルバムを特集して頂きそして今回タジのニューアルバムの特集もありと来て、私の勝手なお願いですがニューアルバムが出ているわけではないのですが、ここ数年個人的にハマっているライ・クーダーでホトケさんが好きなアルバムの特集をして頂けらばと思いメールしました」とメールをいただきました。久保さん、ありがとうございます。
ライ・クーダーは好きなアルバムがいくつかあります。
1971年の”Into The Purple Valley”(紫の峡谷)、74年の”Paradise and Lunch”、77年の “Show Time” ,97年のBUENA VISTA SOCIAL CLUB(ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ)」84年にヴィム・ベンダース監督の「Paris, Texas」での映画音楽も好きです。あの映画ではブラインド・ウィリー・ジョンソンの曲をベースにした全編に流れるライのスライドギターは絶品です。86年公開の「Crossroads」でもライは見事な映画音楽を作っていました。と、まあライの好きな音源はたくさんあるのですが、挙げるとしたらいちばん最初に聞いた76年リリースの”Chicken Skin Music”ですかね。実は最初にアルバムを買って聞いたライはこのChicken Skin Musicでした。「紫の峡谷」とかParadise and Lunch」はこのアルバムが気に入って後から聞いたアルバムです。なので今日は自分のアナログLPをデジタルにおとして来ましたのでノイズがかなりあるかも知れませんが”Chicken Skin Music”をON AIRします。
まずはライがライヴでもよく演奏していたこの曲。レコードではB面の1曲目です。

1.Smack Dab in the Middle/Ry Cooder

“Rock&Roll Satisfy My Soul”と歌われるところのコーラスがいつもたまらなく好きです。コーラスはテリー・エヴァンスとボビー・キングとハーマン・ジョンソンなんですが後年テリー・エヴァンスとボビー・キングの二人がデュオ・アルバム出したのも買いました。やはり底辺にゴスペルを感じさせる歌はさすがです。
ライはとにかく人を使うのがうまい。そういうと変な意味に取られそうですが、それぞれのミュージシャンの個性、特性をよくわかっていて自分のアルバムにどういう感じでその人を使うのかというのが本当に上手い。つまりいろんな音楽への理解度が高い人なんですね。だから多分企業の上司になっても部下を使うのが上手いと思います。次の曲のフラコ・ヒメネスも本当に彼の良さをよくわかっています。僕はこのアルバムでアコーディオン・プレヤーのフラコ・ヒメネスを知りました。
ボレロのリズムに乗ったヒメネスのアコーディオンは美しすぎる演奏です

2.He’ll Have To Go/3.Yellow Roses

本当にいいです。メキシコ生まれでテキサスで名前が徐々に知られていったフラコ・ヒメネスのきっかけを作ったのもライ・クーダーだったと思います。
知っている方も多いと思いますが、ライ・クーダーはアメリカのブルーズ、ジャグ、ラグタイム、R&B、ゴスペル、カントリーなど多くの音楽を若い頃から吸収し、そこから世界のいろんな音楽に興味を持ち、ハワイアン、メキシコ、キューバ、沖縄・・とその土地の音楽を自分の音楽に取り入れるのが本当に上手い人です。なんか嫌みがないし、無理な感じもないし、とってつけたような感じもないんですよね。
ではインストの曲です

3.Chloe/Ry Cooder

今の曲と次の「黄色い薔薇」にはハワイの伝説のミュージシャンであるスティール・ギターのギャビィ・パヒヌイとアコースティック・ギターの名手アタ・アイザークスが参加していますが、この二人の音色がこの二曲の色づけを決定していると思います。
こういうハワイアン・サウンドの素晴らしさをライの音楽を通して知った人も多いでしょう。

4.Yellow Roses/Ry Cooder

リクエストをいただいた久保さん、いかがだったでしょうか。ライはもちろんスライド・ギターの名手なのですが、そのスライド・ギターについてもブラインド・ウィリー・ジョンソンへの尊敬を語ったり、世界中にある音楽のオリジナリティに敬意をはらっている人です。
そして、いつも「さぁ、今度は何を作ってくれたかな」と楽しみにできるミュージシャン、それがライ・クーダーです。

2023.06.09 ON AIR

アイヴァン・ネヴィルのニューアルバム”Touch My Soul”を聴く

Ivan Neville / Touch My Soul

ON AIR LIST
1.Greatest Place On Earth/Ivan Neville
2.Dance Music Love/Ivan Neville
3.Hey All Together/Ivan Neville
4.This Must Be The Place/Ivan Neville
5.Beautiful Tears/Ivan Neville

ご存知の方も多いでしようが、アイヴァン・ネヴィルはニューオリンズのソウル・ファンク・バンド「ネヴィル・ブラザーズ」の名ヴォーカリスト、アーロン・ネヴィルの息子。
そしてファンク・バンド「ミーターズ」のキーボード・プレイヤー、アート・ネヴィルは彼の叔父さんに当たります。
しかし、彼が育ってきたニューオリンズの音楽というよりキース・リチャーズのバンド「エクスペンシヴ・ワイノーズ」への参加はじめロック・テイストの濃いミュージシャンという印象を持っている人も多いでしょう。デビュー・アルバムも確かロック的な音だったと思います。ストーンズへのゲスト参加もあったし、ロビー・ロバートソンなどロック・ミュージシャンと交流が多い人ですが、彼の中にはやはりニューオリンズの音楽がしっかりと蓄積されています。というよりあんなに地域性の強い音楽の街で育ってその音楽性がなくなるわけもなのですが・・・。
そして、ここ数年とてもいい感じで彼が吸収した音楽が実を結んできました。
今日聞いてもらうアイヴァンの新譜”Touch My Soul”では彼の様々な音楽性がうまく表現されているように思います。
まずはアルバムの前に先行発売されたニューオリンズ・テイストたっぷりの曲を。
「地球上で最高の場所」と名付けられた曲名はもちろんニューオリンズのこと。ニューオリンズのストリート・パレードを見ている思いがする楽しい曲です。

1.Greatest Place On Earth/Ivan Neville

ドラムにデヴェン・トゥルースクレア、ベースにトニー・ホール、ギターにイアン・ネヴィルとアイヴァンが組んでいるファンク・バンド「ダンプスタファンク」のメンバーが今回のアルバムの中心になっています。
次の曲にはちょっと70年代ソウル・ファンクを思い出しました。曲名は”Dance Music Love”なんですが、「踊って、歌って、愛し合おう。一緒にハーモニーを奏で、与えられてきたものを与えかえそう。一番大切なものは金では買えないよ」としっかりメッセージが入ってただのダンス・ミュージックではありません。

2.Dance Music Love/Ivan Neville

途中のギター・ソロはエリック・クラプトンンのバンドでも活躍している私も好きなレフティのギタリスト、ドイル・ブラムホールです。

このアルバムの一曲目の”Hey,All Together”には「こどもの頃は憎しみも知らず、楽しいことだけが待っていた。状況は良くなっていくものだと信じてた。でも、時が経つにつれて”みんなで一緒に”と言うのを忘れてしまった。さあ、みんな一緒に」というメッセージが込められています
お父さんのアーロン、ボニー・レイット、マイケル・マクドナルドなどがコーラスで参加しています。そして地元の友人でもあるトロボーン・ショーティがトロンボーンで参加。

3.Hey All Together/Ivan Neville

しかし、アーロン・ネヴィルの息子なのでまだ若いと思っていたらアイヴァンももう64歳!おっさんというよりもう孫でもいるおじいさんでもおかしくない年。それはまあ僕も年を取ったということですが。次の曲は83年のトーキング・ヘッズの曲のカバーだそうです。僕はトーキング・ヘッズをMTVでよく見ていたぐらいであまり知らないのですが、なんかこれもニューオリンズ・テイストがありホーンセクションが気持ちいい曲。そういうテイストにアレンジしたんですね、原曲知らんけど、多分。

4.This Must Be The Place/Ivan Neville

ニューオリンズはレジェンドのアレン・トゥーサンやドクター・ジョン、アール・キングなどが次々とこの世を去りどうなっていくのだろうと思いますが、今日のアィヴァン・ネヴィルやグラミーをたくさん獲得したジョン・バティースト、そしてこのアルバムにも参加しているトロボーン・ショーティなどが新しい音楽の中にしっかりと伝統の音楽っを継承しているように思います。
このアイヴァン・ネヴィルのニューアルバム”Touch My Soul”はナチュラルにそしてファンキーに表現されたいいアルバムだと思います。
最後はアイヴァンのピアノ・ソロで「美しい涙」

5.Beautiful Tears/Ivan Neville

2023.06.02 ON AIR

ブルーズ温故知新
「悪魔の養子(The Devil’s Son-In-Law)」と自称したブルーズマン、ピィーティー・ウィートストロー

The Devil’s Son-In-Law / Peetie Wheatstraw(P-Vine Records)

ON AIR LIST
1.Don’t Feel Welcome Blues/Peetie Wheatstraw
2.The Last Dime/Peetie Wheatstraw
3.When I Get My Bonus (Things Will Be Coming My Way)/Peetie Wheatstraw
4.Peetie Wheatstraw Stomp/Peetie Wheatstraw
5.Bring Me Flowers While I’m Living/Peetie Wheatstraw

ウィリアム・バンチという本名なのになぜ芸名がピィーティー・ウィートストローとなったのかはわかりませんが、ピィーティーはピートだと思いますがウィートストローって「麦わら」ですから。「麦わらのピート」ですか・・・。しかも自称「悪魔の養子(The Devil’s Son-In-Law)」と名乗っていたそうです。でも、ジャケットの写真を見るとにっこり笑っていて悪魔っぽい感じはしないのですが・・目立つのは鼻がめちゃでかいことぐらいです。そしてジャケット写真ではギターを持っているのですが、演奏してたのはほとんどピアノです。これもなんでかな?です。このへんで僕はこいつちょっとふざけた、おもろい奴やなぁ・・・と思っていたのですが、アルバムを聴き始めたら途中で「これ全曲テンポがほぼミディアムで曲のキーがほぼ全曲一緒やないか・・」と気づきました。まあブルーズではそんな驚くことでもないのですが、でも同じようなテンポ、同じようなキーで1930年から10年間くらいの間に160曲もレコーディングしてます。つまり人気者だったわけです。ピアノはすごくうまい訳ではないのですが左手で刻まれるビートはステディでいいリズムです。このリズムがいいということは当時ピアノやギターだけの演奏ですから踊るためにはリズムがよくないとね。

1.Don’t Feel Welcome Blues/Peetie Wheatstraw

「俺って歓迎されてないよね。でも行くところもないんだけど・・。彼女のドアから追い出されて・・でも街中が俺のことウェルカムじゃないムードだな」

ピィーティー・ウィートストローはブルーズの録音が残されている初期のチャーリー・パットンやサン・ハウスとほぼ同年代。彼らと同じように人気者だったのですが、人気があった理由のひとつは彼が作ったブルーズの歌詞にあったのではないかと・・。年下のロバート・ジョンソンはこのピーティーが作った歌詞からいろんな発想をもらっています。つまり「悪魔に魂を売り渡した男」と呼ばれたロバート・ジョンソンの先輩はこの「悪魔の養子」のピィーティー・ウィートストローとなるわけです。しかしピィーティーの歌詞はロバートのように深刻ではなくどこか笑いがあるものです。次の歌は曲名が”The Last Dime”つまり最後の10セント。なんとなくこの女はあかんよな・・と別れを感じて出て行った方がええよな・と思っている時に女に呼ばれて最後の10セントも取られるという笑える歌ですが、アメリカのドラマや映画観てると女性は別れ際に取れるだけ取って行きますからね・・。怖いですね。

2.The Last Dime/Peetie Wheatstraw

悪魔の養子(The Devil’s Son-In-Law)と自称してますが、別に暗くもないし重くもないです。歌は豪快で良く通る太い声ですが、歌い方は大味ではないです。つまり雑ではないです。そしてこの曲でもピアノのリズムがしっかりしていてます。
イントロのピアノのフレイズもどの曲もほぼ同じで笑えます。というかブルーズ・ギターやってる人、僕もそうですがギター・ソロ弾いてる時に「なんか同じフレイズばっか弾いてるな」と落ち込む人いると思いますが、大丈夫!ピィーティー・ウィートストローのイントロは同じフレイズで始まる曲いっぱあります。ソロの内容もテクニックあるなぁということはありません。だから大丈夫。ただ「リズムは良くないとダメです」よ。次もさっきの曲とイントロ一緒です。

3.When I Get My Bonus (Things Will Be Coming My Way)/Peetie Wheatstraw

ちょっと曲の感じが変わりましたが、有名な”Sitting’ On The Top Of The World”と同じ音楽形式です。

全曲ほぼテンポが同じと言いましたが、早い曲もないわけではないんですよ。次の曲は自分の名前をつけたダンス・ナンバーでリズムがストンプです。

4.Peetie Wheatstraw Stomp/Peetie Wheatstraw

ちょっとラグタイム調の楽しい感じのリズムでこれも悪魔の養子からほど遠い感じがしますが・・。

このアルバムの最後に入っている曲がライナーノーツで小出斉くんも書いているようにピィーティー自らの死を予感させるような歌詞です。
曲名が”Bring Me Flowers While I’m Living”ですが、「死んでから花を持ってこないで生きてるうちに花を持ってきてくれ。ベッドサイドにアイスポックスを持ってきて痛む頭を冷やしてくれ」そして最後に「天国に行けないのなら地獄で花なんかいらないから」と歌ってます。いいですね!

5.Bring Me Flowers While I’m Living/Peetie Wheatstraw

余談ですが1973年に「Petey Wheatstraw Devil’s Son In Law」というそのままの名前を使った映画が公開されています。ドタバタ・コメディ黒人映画らしいです。ちょっと見たい気がします。もちろん今日のピーティーから発想を得た映画だと思います。
このアルバムは日本のP-Vineレコードから2011年にリリースされ小出斉くんがコンピレーションしたものです。とてもいいアルバムで聞けば聞くほど味のあるアルバムで、最初は似たような曲ばかりだなと思っていたのですが、歌詞を聴きながら(歌詞カード入ってます)聞いているとひとりの男の生涯が見えてくるような聞くべきアルバムです。