2025.06.13 ON AIR

ホトケのレコード中古盤放浪記 
その10

やっぱり好きなミュージシャンのベスト盤はLPで欲しい

The Best Of Sam & Dave(Atlantic SD8218)

ON AIR LIST
1.Hold On I’m Coming/Sam And Dave
2.Soul Man/Sam And Dave
3.When Something’s Wrong With My Baby/Sam And Dave
4.Soothe Me/Sam And Dave
5.I Thank You//Sam And Dave

60年代に活躍し現在もなお多くの人たちに親しまれている曲をたくさん残したR&Bデュオ「サム&デイヴ」のサム・ムーアが今年1月10日に89才で亡くなりました。「サム&デイヴ」の名前を知らなくても60年代の大ヒット「ソウル・マン」や「ホールド・オン」をどこかで聞いて知ってる人は多いと思います。以前も話しましたが、僕が初めてライヴで聞いた黒人の歌声はこの「サム&デイヴ」でした。1969年の初来日の時です。残念ながら仲が良くないと噂されていたサムとデイヴは70年に解散してしまいます。その後、何度か再結成もあったのですがいつもワン・ショットで長くは続きませんでした。二人はそれぞれソロで活動し続けサムは何度も来日しています。
サムが亡くなった1月に中古レコード店で”The Best Of Sam & Dave”という彼らのベスト・アルバムに遭遇。彼らのアルバムはLPとCDでほとんど持っているし確かベスト盤CDもあったはずだと思いながらも手がこのLPを掴んでました。やっぱりレコード、今まで何度もレコード店で見かけたこのジャケットのベスト盤をレコードで欲しいとフツフツと思いレジへ。「亡くなったサムへの供養だ」とも思いながら。
まずは定番の二曲を聞きましょうか。

1.Hold On I’m Coming/Sam And Dave

2.Soul Man/Sam And Dave

やはり鉄板の二曲なんですが、改めて聴くと曲もよくできてるし歌詞もいいですし、バックの演奏もアレンジも全て素晴らしいです。
ぼくが初めて買ったサム&デイヴのシングル盤は今の二曲がカップリングされたもので今も持っています。
高い方のパートを歌っているのがサムで低い方がデイヴですが「ダブル・ダイナマイト」の異名もあったくらい強力にパワフルです。今の2曲は両方ともR&Bチャートの1位になっていますが、僕がディスコで歌っていたときもこの2曲はディスコのジューク・ボックスの定番でした。彼らのずば抜けた歌唱力はスロー・バラードでも発揮されていて次の曲が好きな人たちもたくさんいると思います。
「何か困ったことがあったら俺は君を助けるよ。君と同じ気持ちなんだ。何と言われようが俺の彼女だから」
日本語のタイトルが「ぼくのベイビーに何か?」

3.When Something’s Wrong With My Baby/Sam And Dave

とにかくゴスペル出身の熱唱型のふたりですからめちゃ盛り上がります。当時のヨーロッパでのライヴ映像がYou Tubeにアップされているのですが強烈なテンションです。是非観てください。
彼らはマイアミの出身で1961年にデュオで活動を始め広く知られるきっかけとなったのは1965年にメンフィスのスタックスレコードで録音されたものが契約したアトランティク・レコードからリリースされるようになったからです。とにかくシングルは10枚連続トップ20入り、アルバムは3枚連続でトップ10入りです。さっきの曲「ソウルマン」もそうですがソウルという言葉、ソウル・ミュージックという言葉を広く世界に認知させた二人です。サム・クックのカバーの”Soothe Me”も素晴らしいです。

4.Soothe Me/Sam And Dave

今日聴いてもらっているベスト盤”The Best Of Sam & Dave”は1969年のリリースですが、翌70年には解散してしまいます。アトランティック・レコードに入って売れてから5年ほどで解散です。でもその5年間がめっちゃ忙しかったと思います。ヒット連発で国内だけでなくヨーロッパにも行ってまだ来日R&Bミュージシャンが少なかった日本にも69年に来たわけでずっと二人でいると仲悪くなるんですかね。笑いの世界の二人組とか3人組が芸が上手いのに仲が悪いという話がありますが、サムとデイヴも仲が悪かったようです。仲が悪くなっても歌、ステージは最高なんです。

5.I Thank You/Sam And Dave

ソウルの男性デュオは他にもピック&ビルとかいるんですがやっぱり総合力でサム&デイヴです。サム・ムーアは解散後もソロとして来日してくれましたし、アメリカのテレビにでているのをたまたま観たこともありました。いつも全力投球で歌う姿は立派でした。グラミー賞はじめ多くの賞にも輝いたし、ロックの殿堂入りもしています。亡くなって間もないレコード店でこうしてサム&デイヴのベスト・アルバムと出会ったのも、初めて生で聴いたソウル・シンガーがサムだったこともあり何か繋がりを感じました。素晴らしいアルバムです。
最後にサム&デイヴに言いたいです・・I Thank You,Sam And Dave

 

2025.06.06 ON AIR

ホトケのレコード中古盤放浪記 
その9

若い頃買えなかったブルーズ名盤を50年経って廉価中古盤で買う

“Soul Of The Blues”「ブルースの魂」/Big Joe Williams(東芝EMI LLS-70047)

ON AIR LIST
1.Oh Baby/Big Joe Williams
2.Hand Me Down My Walking Stick/Big Joe Williams
3.Blues Round The World/Big Joe Williams
4.EveryBody’s Gonna Miss Me When I’m Gone/Big Joe Williams
5.Pearly Mae/Big Joe Williams

日本にブルーズのブームが起こったのが1974年くらいから 76年頃まででした。日本のレコード会社はどこもブルーズのアルバムをリリースして1ヶ月でリリースされる枚数が多すぎて欲しいけど買えなかったアルバムもたくさんあった訳です。
今ちょっと昔の1974年に刊行されたニューミッジック・マガジンの増刊号「ブルースのすべて」をいまパラパラとめくってレコード会社の広告をみると、まずビクター・レコードが「チェス・ブルース・コレクション」でチェス・レコードのマディ・ウォーターズ、ハウリン・ウルフ、サニーボーイ・ウィリアムスン、エルモア・ジェイムズ、バディ・ガイなどをシリーズで毎月リリースして、画期的な日本編集の「RCAブルースの古典」というLP3枚組もリリースしてます。ちなみにこれが価格¥5,400。 当時かなり無理して買った記憶があります。東芝レコードはT.ボーン・ウォーカー、B.B.キングのアルバムを立て続けに出し、ライトニン・ホプキンスやリル・サン・ジャクソンなどのカントリー・ブルース系もリリースしてます。そしてCBSソニーはロバート・ジョンソンの歴史的録音はじめリロイ・カーやブッカ・ホワイト、サン・ハウスなどの名盤を次々にリリース。トリオ・レコードはデルマーク・レコードを一度に10枚発売してその中にはマジック・サム、ジュニア・ウェルズ、スリーピー・ジョン・エステス、ロッバートJr・ロックウッドなどの名盤がずらり並んでいる。つまり当時20代中頃の定職にも着いていない金のないバンドマンの私がそんなに買えるわけもなかったわけです。その頃買えなかった、買いそびれた、買い逃したアルバムはかなりあるわけです。その一枚に先日中古レコード店で遭遇しました。それが今日聴いてもらうビッグ・ジョー・ウィリアムスの”Soul Of The Blues”「ブルースの魂」と題されたアルバムです。これは当時東芝レコードの「ブルース名盤シリーズ」という企画でリリースされたものです。当時モダン・ブルーズとシカゴ・ブルーズあたりを買うのが精一杯でなかなかこういうカントリー・ブルーズには手が回りませんでした。
まず一曲。歌詞を聞いているとロバート・ジョンソンの”Sweet Home Chicago”の最初の一節”Come On Baby,Baby Don’t You Wanna Go”が同じですが、ブルーズは伝承音楽でもあるのでこういう常套句はいろんなブルーズマンが自分の曲で使ってます。でもそのあとの一節がシカゴではなくて「おいでよベイビー、行きたくないかい。エル・パソ、テキサス、メキシコまで歩いていくんだ」です。エル・パソ、テキサス、メキシコまで歩いていくというところが本物の放浪のブルーズマン、ビッグ・ジョー・ウィリアムスらしい一節です。

1.Oh Baby/Big Joe Williams

先頃公開された若き日のボブ・ディランを描いた「名もなき者」という映画を観た方もいらっしゃると思いますが、そのディランが憧れた放浪のブルーズマンがこのビッグ・ジョー・ウィリアムスです。10代の頃にディランは放浪しているビッグ・ジョーに付いて回ったという話もあります。
ビッグ・ジョーはスライド・ギターもやるんですが次はそのスライドギターが最初から切り込んでくるスリリングな一曲です。

2.Hand Me Down My Walking Stick/Big Joe Williams

歌もギターも豪快で気持ちいいです。
ビッグ・ジョーは普通の六弦ギターに弦を自分で足して9弦にしたもので、世界で一つの9弦ギターというのを使ってました。僕は彼が来日したとき、日比谷野音の楽屋で見せてもらいましたがよくわからない構造のギターでした。長い放浪生活でずっとギターも旅をしているのでケースもギターもボロボロで見る人によってはガラクタにしか見えないのですが、一旦ビッグ・ジョーに抱えられると今ような素晴らしい音を出すのです。
次はBlues Round The Worldという曲名で直訳すると「ブルーズ世界一周」となりますが、歌詞の内容を聴くと女性世界一周という感じです。「キューバでもスペインでもイギリスのロンドンでも俺は女がいた」と始まるのですが、「いろいろ女遊びをするのをやめてアメリカに帰って心を入れ替えて昔の女とやり直そう」となり最後に「オレはお前を落ち込ませてしまう。やっぱりお前が必要じゃないんだ。旅に出るよ」とまあわがままのことを言ってますが、Blues Round The WorldではなくてWomen Round The Worldに曲名を変えた方がええやろ。

3.Blues Round The World/Big Joe Williams

とにかく歌声がめちゃでかいのがわかります。そんなにいろんなパターンがあるブルーズマンではないんですが、70年代後半まで現役でやり続けられたのはやはりそのライヴに魅力があったからでしょう。
このライナー・ノーツを書いている故中村とうようさんが「生きたブルースが大きな背中を見せて歩いて行く」とタイトルをつけています。その生きたブルースが日本にやってきたのは1975年7月。時にビッグ・ジョーは72歳。私は日比谷野外音楽堂で観ましたが多分どこで歌っても彼は変わらないと思う堂々とした歌いっぷりでした。彼しか持っていない、彼しか弾けない不思議な9弦ギターで力強い歌とパーカッシヴなギターと息を飲むようなスライドギターを聞かせてくれました。
そのスライドが聞ける曲を。「俺が死んだらみんな寂しくなるだろう。金があるときは友達が寄ってくる。金がなくなると友達はいなくなる。俺が死んだらお前は寂しく思うだろう」

4.Everybody’s Gonna Miss Me When I’m Gone/Big Joe Williams

次の歌は出て行ってしまった彼女に寂しいから帰ってきてくれという歌詞ですが、曲名は彼女の名前です。”Pearly Mae”ですから「真珠のようなメイ」になります。なかなか素敵な名前ですよね。

5.Pearly Mae/Big Joe Williams

1903年にミシシッピで生まれて若い頃から放浪を続け1941年には放浪のブルーズマンらしい「Highway 49」という歴史に残るブルーズを録音し、僕もカバーしている今やブルーズ・スタンダードとなった「Baby Please Don’t Go」も彼のオリジナルです。ヨーロッパやいろんな国でも演奏し、82年に故郷ミシシッピで79歳で亡くなりました。彼のギターとギターケースを見た時にその厳しい放浪の日々がわかるような気がしました。
今日聞いたのは1974年東芝EMIがリリースした「ブルース名盤シリーズ」の一枚ビッグ・ジョー・ウィリアムスの「ブルースの魂」でした。素晴らしいリアル・ブルーズ・アルバムです。
ホトケのレコード中古盤放浪記 その9

 

2025.05.30 0N AIR

ホトケのレコード中古盤放浪記 
その8

LPのタイトルとコンピレーション曲の興味だけで買ったら充実したいいアルバムだった

The Real R&B (Tasty Records Mono)

ON AIR LIST
1.Little Queen Bee/Slim Harpo
2.Goin’ Crazy Over T.V. /Jimmy Anderson
3.Baby Let’s Play House/Arthur Gunter
4.Still Rainin’ In My Heart/Slim Harpo
5.I Had A Dream Last Night/Lonesome Sundown

中古レコード店で「本物のR&B」(The Real R&B )と題された派手なオレンジ色のジャケットに手が止まりました。参加ミュージシャンを見るとスリム・ハーボ、サイラス・ホーガン、ライトニン・スリム、ロンサム・サンダウンなどの名前でルイジアナのエクセロ・レコードの音源のコンピレーション・アルバムとわかる。実際ジャケット裏の英文ライナーには「エクセロからのセレクト」と書いてあ理、リリースしているのは”Tasty Records”(テイスティ・レコード)はイギリスのサウス・マンチェスターのレコード会社。
リリースは1964年だけどライナーを読むと前に”Authentic Rhythm And Blues”というやはりエクセロ・レコードの音源を使ったコンピレーションを出していてそれが評判が良かったのでまたリリースしましたとある。ライナーの最後には「多くの人がリズム&ブルーズって何?って訊くがこのレコードがその答えを出していると思う」と自信満々にかいてあります。
まずA面の一曲目。エクセロ・レコードの一番の売れっ子スリム・ハーポの曲から。
曲名”Little Queen Bee”「私の可愛い女王蜂に新しい王様ができた。新しい王様はきっと彼女を幸せにしてくれるだろう」と始まる曲は昔付き合っていた彼女にまだ未練があって自分のところに戻って欲しいと思っていたけれど彼女には新しい男がいてそれは無理だったという失恋ブルーズです。

1.Little Queen Bee/Slim Harpo

スリム・ハーポにはローリング・ストーンズもカバーし、今やスタンダードになっている”King Bee”という大ヒットがありそれのアンサーソングを自分で作った感があります。
以前エクセロ・レコードの特集をやったときにシカゴ・ブルーズの大ヒット・メーカーだったジミー・リードが南部ルイジアナのブルーズマンたちにも及ぼしていた大きな影響の話をしましたが、今から聞いてもらうこのアルバムに入っているジミー・アンダーソンはジミー・リードと間違えるくらいめちゃ似てます。笑うくらい似てます。ちょっとブルーズ知っている人に「ジミー・リードの未発表曲が出た」と言うて聞かせたらまず信じると思います。

2.Goin’ Crazy Over T.V. /Jimmy Anderson

歌もハーモニカもギターもサウンドもリズムも曲も全てジミー・リード調です。ルイジアナのレイドバックしたフィーリングにシカゴのダウンホーム・ブルーズマン、ジミー・リードのレイドバック感が合うんでしょうね。なんか無理して真似してる感じがないところがいいです。絶対本人は「オレ、ジミー・リード命やねん」と言うてたと思います。
今日紹介しているこのThe Real R&Bというアルバムには歴史的な一曲が入ってます。それがアーサー・ガンターの”Baby Let’s Play House”という曲で1954年にエクセロ・レコードからリリースされました。これがなんとR&Bチャートの12位まで上がる健闘ぶりを見せました。するとこの曲を翌55年にかのエルヴィス・プレスリーがカバー・リリースしました。こっちはR&Bチャートではなく白人のカントリー・チャートで5位まで上がりました。黒人の曲を白人がカバーしてヒットさせるというのはたくさんありましたが、アーサー・ガンターがR&Bチャート、プレスリーがカントリー・チャートというのも50年代半ば当時の人種で分かれるチャートの感じがよく分かります。多分白人のリスナーはこれはカントリー・ウエスタンの曲やと思って聴いていたと思います。いやいやカントリー&ウエスタンやなくてね、素晴らしくダンサブルなロッキン・ブルーズですよ。

3.Baby Let’s Play House/Arthur Gunter

次は一曲目に聞いたスリム・ハーポをもう一曲聞こうと思うのですが、タイトルが”Still Rainin’ In My Heart”です。このタイトル聞いただけでスリム・ハーポを知っている人ならニヤッと笑うと思います。じつはそのStillのない”Rainin’ In My Heart”という曲がハーポの代表曲で同名のアルバムまで作られたくらいでなんです。だから「その続編みたいな感じで作ったらまた売れるんとちゃうか」と盛り上がって作ったんやと思います・・知らんけど。メロディは全く同じです。
「俺の心の中にはまだ雨が降ってる。そして俺らはまだ離れ離れや。今になって俺が間違ってたとわかるけど、でもベイビーお前が必要なんや、帰ってきてくれよ」「俺は賢くはなかったとわかってる。そやから俺の心にはまだ雨が降ってんねん」とヨリを戻したいという未練タラタラの歌ですが、まああかん、彼女は戻らんでしょうね。

4.Still Rainin’ In My Heart/Slim Harpo

最初の”Rainin’ In My Heart”が61年にヒットして半年後にはこの続編が録音されたということはやはり柳の下にドジョウが二匹を狙ったと思いますが、ちっょとそれはあんまりやなという意見があったのかリリースされたのは3年後の64年になってます。あまりヒットしませんでした。やっばりな。
このアルバムを録音したエクセロ・レコードのスタジオ・ミュージシャンがいつも素晴らしいと思うのですが、メインのシンガーにダウンホームなレイドバックした歌手が多いので全体がレイドバックしてるように思うのですが、ビートはすごくタイトにグルーヴしていて決してゆるくはないんですよ。次の曲のリズム・ギターのビートの裏打ちなんか素晴らしいです。

5.I Had A Dream Last Night/Lonesome Sundown

このロンサム・サンダウンという芸名もなんかルイジアナらしいといえばそうですが、直訳すると「さみしい日没」ですよ。芸名につけますかね。この芸名は南部の有名プロデューサーにつけられたんですが、「今日から君、ロンサム・サンダウンいう名前でいくから」と言われた時どんな気持ちやったんですかね。サンライズやなくてサンダウンやからね・・・・
何かとツッコミどころの多いアルバムですが、このエクセロのブルーズはどこかポップなテイストがあって重くなくてカラッとしてるところが特徴です。
「The Real R&B」というアルバム・タイトルとコンピレーション曲目の興味だけで買ったら充実したいいアルバムだった今日の「ホトケのレコード中古盤放浪記 その8」でした。

 

 

2025.05.23 ON AIR

ホトケのレコード中古盤放浪記 
その7

全く知らないミュージシャンの中古LPを買う時の心得

買ってよかった素晴らしいサンダース・キング

Saunders King/the first king of the blues

ON AIR LIST
1.Summer Time Boogie PT.1/Saunders King
2.Summer Time Boogie PT.2/Saunders King
3.S.K.Blues/Saunders King
4.Empty Bedroom Blues/Saunders King
5.Goin’ Mad/Saunders King

レコード店で中古盤を掘っていると全然知らんアルバムなんやけどでもなんかジャケット写真とかアルバム・タイトルとかミュージシャンの名前とか顔が気になるアルバムが出てくることがあります。そういう時は何かヒントがないか探すわけですが、輸入盤の場合はまずアルバムに英文ライナーノーツが書いてあれば、英文ライナーノーツをできる限り頑張って読みます。参加ミュージシャンやプロデューサー、作詞作曲家のクレジットとかも大切な情報源です。輸入盤の場合、日本盤のように帯やジャケット中のライナーや歌詞カードはまず入ってないので裏ジャケットに書かれている英文の情報があればそれを読むしかないわけです。まあネットで検索することもできますがレコード店にいるときはそれはやりたくないんですよね、もちろん裏ジャケに何にも書いてないアルバムもたくさんあります。そういう時はもうジャケット写真頼りで清水の舞台かに飛び降りるしかありません。
今日紹介するアルバムは清水の舞台かに飛び降りるほどの値段ではなかったですが、アルバムタイトルの”the first king of the blues”(ブルーズの最初のキング)というのがまず気になりました。ミュージシャン名はサンダース・キング(Saunders King)で全く知らない名前です。ライナーの最初にはB.B.やアルバート、フレディなどキングと付くブルーズマンはいるけど最初にキングとついたのはこのサンダース・キングなんやと力強く書かれています。
いろいろ話す前にまずこのアルバムのA面の一曲目を聴いてみましょうか。

1.Summer Time Boogie PT.1/Saunders King

聴いてすぐわかるのはジャズ・ジャンプ・ブルーズ系統ですね。名前も知らない初めて買うミュージシャンのアルバムですから「どんなんやろ」と不安もあるわけですが、家でターンテーブルに載せて一曲目を聴いて「これはしっかりしたミュージシャンのしっかりしたアルバムや」と一安心な感じです。
ライナーを読むと42年に自分の6人編成のコンボバンドを結成してレコーディングも初めています。キャブ・キャロウェィが広めたジャンプ・ブルーズがオーケストラからコンボになってルイ・ジョーダンが現れてジャンプが全盛に向かう頃ですね。
ここでこのアルバムを買った理由の一つはレコード・レーベルが”ace”だったことです。aceはイギリスのレコード会社でなかなか信用できるレーベルです。いいコンピレーション・アルバムを作ってたくさん再発しています。
さて、今のSummer Time Boogie PT.1の次にPT.2が収録されています。時々パート1.パート2というのがありますが、例えばジェイムズ・ブラウンの”Sex Machine”のシングル盤は演奏時間が長くてA面に収まり切れなくてB面に続きの演奏が入っています。レイ・チャールズの”What’d I Say”のパート1,2もそのタイプです。ではSummer Time Boogie PT.2を聴いてみますか。

2.Summer Time Boogie PT.2/Saunders King

ライナーを読み進むうちにこのサンダース・キングには1942年に「S.K. Blues」という大きなヒットがあったと書いてあります。あとでネットで検索したところこの「S.K. Blues」はエレキ・ギターをフィーチャーした最も初期の録音と書いてあります。つまりヒットしただけでなく歴史的な意味合いもある曲で「おお、これなかなかのアルバムやん」と嬉しくなる訳です。歌詞が「可愛いベイビー、おまえの柔らかい素敵な体を俺の膝の上に乗せなよ。お前の耳元で愛を囁きたいそして俺の悩みを聞いてもらいたいんだ」と最初歌ってるんですが、途中から「俺が買ってやったウィッグ(カツラ)を返してくれ。そして頭はハゲてしまえ。お前がずっと俺にちゃんとしないから頭の毛が全部なくなってしまうぞ」というひどい歌詞になります。

3.S.K.Blues/Saunders King

曲名のS.K.というのは名前のSaunders Kingの頭文字ですね。ギターソロも良かったですね。今の曲は後にビッグ・ジョー・ターナーやジミー・ウィザースプーンにカバーされたということですからやはりかなりヒットしたのでしょう。しかし今の曲1942年のヒットですからウィッグを女性にプレゼントする、買ってあげるようなことがそんな昔からあったんですね。すごいです、アメリカのウィッグ文化! 日本も最近はウィッグが普通になってきましたが、昔は「あの人カツラなんやて・・」とこっそり言う感じでしたよね。僕は女性でも男性でも綺麗に見えるならウィッグなんかどんどんやればいいと思います。ぼくはまだ地毛ですけどね。
そこでさらにライナーを読み込むと1909年にルイジアナで生まれウエストコーストに引っ越してオークランドでお父さんが教会をやっていたとのこと。つまりお父さんは牧師ですね。それで幼い頃から歌っていてピアノやバンジョーも練習したらしいです。若い頃は「サザン・ハーモニー・フォア」というゴスペル・グルーブにも参加して歌ってます。その後1938年にギターを始めてブルーズに入っていくわけですからギターを始めたのは29才ということになります。かなり遅いですね。
このアルバムに収録されている曲では他に”Empty Bedroom Blues”というのがR&Bチャート9位まで上がったヒットになっています。

4.Empty Bedroom Blues/Saunders King

Empty Bedroom Bluesというベッシー・スミスの同名曲がありますが、それとは関係ない曲です。
ネットにサンダース・キングのインタビューがアップされてまして、最初に好きになったギタリストはジャズで最初にエレキギターを使ったと言われているエディ・ダーラムとのことで、今度はエディ・ダーラムを探してみようと思います。
彼はやはりジャズ・ミュージシャンとの交流が多く、チャーリー・クリスチャン、ビリー・ホリディ、サラ・ヴォーンとも仕事をしたことがあるそうで逆にブルーズ・ミュージシャンとはあまり接触はなかったようです。
実はB.B.キングがサンダース・キングのファンだったこともわかりました。つまり、いろいろ調べてみたらサンダース・キングはかなり有名なミュージシャンだとわかりました。ぼくが知らなかっただけで・・。いや、まだまだ知らんこと多いです。失礼しました。

5.Goin’ Mad/Saunders King

予備知識のあまりない知らないミュージシャンのアルバムと初めて出会った時は家で初めてターン・テーブルに載せて聴くまでドキドキします。今回のサンダース・キングは「当たり!」でした。外れる時もあります。それも楽しいと言えば楽しい。でもやっぱり外れないようにレコードや音楽の知識をどんどん頭に入れることです。

 

 

2025.05.16 ON AIR

5月にニューアルバム”From Here”をリリースしたいま聴いてもらいたい女性シンガー、Yoshie.N

From Here /Yoshie.N(MSR-004)

ON AIR LIST
1.Fields Of Gold/Yoshie.N
2.People Get Ready/Yoshie.N
3.Nobody Knows You When You’re Down and Out/Yoshie.N
4.Do Right Woman,Do right man/Yoshie.N

私は女性シンガーに対して結構好き嫌いがはっきりしている。好きでないシンガーは取り上げていないのですが、先ごろ来日したメイヴィス・ステイプルズのように好きだと何度もON AIRしてしまいます。歌が上手いとか音域がどうのこうのという前に私にとってはその歌声の声質が大切なのです。どんなに上手い、素晴らしいと言われている歌手でもその声質が自分の好みではないと心に入ってきません。それはギターはじめ楽器の音質も同じで音質は私にとって決定的な要素です。ライヴで演奏する場合、プレイヤーは自分の好きな音質で演奏するわけですがその音質がずっと私にとっては好きではないということもあります。長くなりましたが、ギターやエレクトリックな楽器はアンプなどでその音質を変えることができますが、歌声の質を変えることはできません。それで声質は決定的な要素になってしまいます。
今回紹介する女性歌手Yoshie.Nさん(いつもヨシエちゃんと呼んでいるのでヨシエちゃんと言いますね)の声質はその歌い方とも相まってとてもなめらかでナチュラルで気持ちのいい歌声です。
では、Yoshie.Nさんの先月リリースされた新しいアルバム”From Here”からまず一曲

1.Fields Of Gold/Yoshie.N

この曲は1993年にスティングがリリースした彼の5枚目のアルバム”テン・サマナーズ・テイルズ (Ten Summoner’s Tales)”に収録されています。
原曲の美しさを失わず無理のないヨシエちゃんの自然な歌唱で聞いていて本当に気持ちのいい歌声です。
アルバムの一曲目に収録されていてとても印象に残ります。
このアルバムはいつもライヴを一緒にやっているピアノの堺敦生くんとヨシエちゃんの二人で録音されたデュオ・アルバムで、アレンジも二人で行われたそうです。
普段からライヴを一緒にやっているので息もピッタリで4時間でアルバムの11曲を収録したそうです。
プロデューサーは上田正樹先輩
このアルバムのライナーにもヨシエちゃんが「師匠上田正樹さん」と書いているようにヨシエちゃんの才能を見抜いたのはキー坊(上田正樹)。キー坊(上田正樹)のライヴでコーラスも担当しています。僕が最初に彼女の歌声を聞いたのもそのコーラスの時だったのですが、時々ソロのパートをキー坊に回される時に彼女の歌声の良さに気づきました。それから何度かステージを一緒させてもらううちに彼女のソロが聴きたくてソロ・ライヴも聞きに行ったりしています。
今のFields Of Goldはオリジナルのスティング以外に聞いたことないのですが、他にカバーしているシンガーっているんでしょうか。
ちなみにスティングとヨシエちゃんは誕生日が同じだそうです。
次は少しエモーショナルな彼女の歌です。ソウル・ミュージックの偉人、カーティス・メイフィールドがコーラスグルーブ「インプレッションズ」時代の1965年に発表した名曲でこれはアレサ・フランクリン、ディオンヌ・わーウイック、ジェフ・ベックとロッド・スチュワートなどカバーがたくさんあります。

2.People Get Ready/Yoshie.N

黒人公民権運動が盛り上がった60年代半ばにカーティス・メイフィールドが聖書の内容を引用しながらいつか人種差別や貧困のない日がくることを祈って書いた曲です。
ヨシエちゃんの気持ちが盛り上がってエモーショナルな歌に向かっていくのは、当然その歌詞も理解しているからだと思います。このアルバム”From Here”にはブルーズの曲も何曲か収録されているので聞いてみます。
クラシック・ブルーズと呼ばれる20,30年代に活躍した女性ブルーズ・シンガー、ベッシー・スミスが広くヒットさせた曲ですが、作ったのは1923年ジミー・コックスというピアニストです。
金を持っているときには気前よくみんなに酒を奢ったりして豪勢にやっていたが自分が落ちぶれたら誰も見向きもしてくれないといういつの世の中にもある話です。

3.Nobody Knows You When You’re Down and Out/Yoshie.N

あとヨシエちゃんの歌のいいところはギミックなところがないことです。変にフェイクしたりしないところもいいです。
次の曲はアレサ・フランクリンが1967年にリリースした有名な”Do Right Woman, Do Right Man”です。これはエタ・ジェイムズ、ウィリー・ネルソン、ディオンヌ・ワーウィックなど幅広くカバーされ、曲を作ったダン・ペン自身のヴァージョンもあります。
歌詞の内容は「正しいことをする女性を求めるのなら、あなたも正しいことをする男にならなくてはいけない」「女性は男の遊び道具ではないし一人の生き生きとした血の流れる人間なんだから」と現在の性暴力や性差別へりプロテストにも繋がる不滅の名曲です。

4.Do Right Woman,Do right man/Yoshie.N

なんかね、ジワジワくるんですよ。すごいインパクトで最初からドーンとくるシンガーもいるんですがヨシエちゃんの歌はジワジワなんです。だから是非ライヴに行っていただきたいのですが、ライヴで最後まで聞くとそのジワジワが広がって最後にジーンとします。
今回ヨシエちゃんにとっては4枚目のアルバムになるそうですが、今回一曲をのぞいてカバー曲にしたのは今まで自分を育ててくれた曲たちへの感謝と敬意の気持ち、そしてそれらを継承していく思いを込めたそうです。
このアルバムにはブルーズが”Stormy Monday”,”Blues Before Sunrise”とさっきの”Nobody Knows You When You’re Down and Out”と三曲入っているのですが、一曲だけ入っているヨシエちゃん自身のオリジナル”Who Is The Blues?”もブルーズっぽい曲です。
こういうルーツ・ミュージックをしっかり歌いながらもオリジナルを歌うという人は少なくなってきています。彼女の歌を聴いていると底辺がしっかりしているなと感じます。アルバム・タイトル”From Here”の通りここから彼女がどこへいくのかすごく楽しみです。
一度是非ライヴで彼女の魅力的な歌声を体験してください。
そう言えば6月21日に東京高円寺JIROKICHIの50周年記念ライヴでヨシエちゃんとキー坊(上田正樹先輩)と僕そしてピアノの堺くんのライヴがあります。ぜひお越しください。

Yoshie.N公式HP / https://yoshie-n.com/index.html