2020.11.20 ON AIR

映画”The Making Of Motown”公開記念モータウン・レコード特集vol.3

ABC/The Jackson5 (Motown/Polygram POCT-1945)

What’s Going On/Marvin Gaye (Motown 530 022-2)

Innervision/Stevie Wonder (Motown/Polydor POCT-1810)

The Motown Box(Shout/Motown B0074AW43A)

ON AIR LIST
1.ABC/ The Jackson5
2.What’s Going On / Marvin Gaye
3.Living For The City/ Stevie Wonder
4.Stop! In The Name Of Love / The Supremes

モータウンレコードの軌跡を追った映画”The Making Of Motown”の公開が始まり、それに合わせて60年代のモータウンレコードの曲をここ二回聞いてきたのですが、今日は60年代の終わりからです。映画を観ていただけるとわかるのですが、60年代のモータウンはもう工場のように曲やミュージシャンの管理をしっかりして質のいいもの(歌、演奏、音質、歌詞、振り付け、ふだんの仕草まで)を、しかも黒人にも白人にも受け入れられるポップス性のあるヒットをたくさん作ることに邁進したわけです。
その路線の最後に登場するのがジャクソン5です。
1969年には当時10歳だったマイケル・ジャクソンをリード・ヴォーカルにした「ジャクソン5」はモータウンからデビューシングルの”I Want You Back”を出して、すぐに一位を獲得。次の70年の二弾目のこの曲も一位になりました。
1.ABC/ The Jackson5
最初はジャクソン5とモータウンレコードの関係は良かったのですが、3年くらいするとずっとアイドル売りをされていることや、自分たちの作った楽曲がアルバムにとりあげられない不満からジャクソン5はモータウンを辞めて1975年にCBSに移籍してしまいます。そのあとモンスター、マイケル・ジャクソンの世界的な活躍が始まるわけですが、モータウンが逃した魚は大きかった・・ですね。

70年代に入ると鉄壁のヒット・メーカーだったモータウンにもいろいろと異変が起こります。
設立された1960年から10年間は怒涛のようにヒット曲をチャートに送りこみ、所属ミュージシャンも増えて大きな会社に成り、黒人が企業したレコード会社としてはいちばん大きな有名なレコード会社になりました。そして、社長のベリー・ゴーディは70年代に入ると、当時彼の愛人でもあったダイアナ・ロスの映画を作ったり、テレビ番組を製作するためにニューヨークとロスに支社を作りました。まあ音楽だけでなく商売を手広くしたわけです。社長のゴーディは映像のメディアに力を入れて、音楽のプロデュースはノーマン・ホイットフィールドという右腕がやるようになりました。
実はそれまでたくさんのヒット曲を作り出していた作詞作曲チームのホーランド=ドジャー=ホーランドの三人が社長と印税のことでもめて辞めてしまったのです。つまり、お金に対する要求がスタッフやミュージシャンから出てきて体制が少し揺らいでくるわけです。
そして、マービン・ゲイやスティービー・ワンダーのように自分で作詞作曲してプロデュースも自分でやりたいというミュージシャンが出てくるようになりました。その背景には公民権運動、ベトナム戦争反対運動、人種差別撤廃運動など様々な政治社会の動きがあり、マービンやスティービーはそういうことに対する自分の考えを音楽で表現したい、いつまでも恋愛の歌ばかり歌っていられないと思い始めたわけです。それで売れることが第一主義の社長のゴーディと対立することもあり、次第にモータウンはミュージシャンの意向を取り入れないとどうしょうもなくなってしまい、ゴーディが完全に掌握することは無理になっていきました。
そして、社長のゴーディが売れないと言ったマービンの曲が黒人音楽の歴史に残る画期的なアルバムとなり、1971年セールスもR&Bチャートで一位、ポップで二位を獲得します。自分自身による作詞作曲そしてマービン自身のセルフ・ブロデュース作品であり、ベトナム戦争に反対の意思を表明したこの曲の衝撃は大きかったのを僕も覚えています。
2.What’s Going On / Marvin Gaye
このあたりから社長のベリー・ゴーディ自身も音楽の流れが単にヒット曲を出すだけではいけなくなってきていることを感じ始め一線から少しずつ離れていくのですが、そのあたりは映画をごらんください。

60年代にヒットを出してツアーもやっていたミュージシャンたちは特に南部にツアーに行くと人種差別を強く感じるわけです。モータウンがあったデトロイトは大きな都会で南部ほどの差別はか感じていなかったと思います。
それでよくよく自分の周りの都会の暮らしを見てみると、都会で暮らす黒人の生活も低賃金で貧しく、頭が良くても一流と言われる会社に就職することができないわけです。つまり黒人は努力してもずっと報われない生活が続くのかという怒りと、自分たちがそれを変えなければいけないという思いをスティービーは次のこの歌に託しました。

3.Living For The City/ Stevie Wonder
しかし、アメリカの人種差別は今もこの頃と何も変わっていないと最近のBlack Lives Matterのニュースを見ていると思います。
この曲は1973年のアルバム「インナーヴィジョン」に収録されているんですが、その73年頃僕はもうブルーズにどっぷり浸かっていてサザン・ソウルには興味があったのですが、モータウンにはあまり興味がなくなっていきました。だからスティービーとかマービンのアルバムは聴いてましたが、モータウン全体は聴いていませんでした。
三週に渡って映画「”The Making Of Motown”」の公開を記念して聴いて来ました。最後ということでぼくにとってのモータウンはやっぱりシュプリームスなんですよ
中学三年の頃でシングルで買った初めてのシュプリームスです。
5.Stop! In The Name Of Love / The Supremes

多分映画はDVDもリリースされると思います。是非ご覧ください。
三回に渡ってお送りした映画「The Making Of Motown」の公開を記念してモータウンレコードの特集でした。

2020.11.13 ON AIR

映画”The Making Of Motown”公開記念モータウン・レコード特集vol.2

The Motown Box(Shout/Motown B0074AW43A)

ON AIR LIST
1.Shot Gun/Jr.Walker & The All Stars
2.This Old Heart of Mine/The Isley Brothers
3.I Heard It Through The Grapevine/Gladys Knight & The Pips
4.Ain’t No Mountain High Enough / Marvin Gaye & Tammi Terrell
5.A Place In The Sun/Stevie Wonder

先週に引き続き九月に公開された映画”The Making Of Motown”の公開記念でモータウン・レコード特集の2回目
1960年にベリー・ゴーディという黒人社長によって設立されたモータウンは黒人によるインディーズレーベルとして始まったわけですが、60年代が終わる頃には最も成功したレコード会社の一つになっていました。とにかく60年代中頃からのモータウン・レコードのヒット連発は破竹の勢いでした。当時イギリスのビートルズの世界的な人気に対抗できるのはアメリカではモータウンくらいでした。それはモータウンが黒人による黒人音楽のレーベルででしたが、白人にも受け入れられるように様々な点で考えられていたからです。その辺は映画のネタバレになるので・・。

60年代の初期のモータウンのヒット・シンガー、グループというとスモーキー・ロビンソン&ザ・ミラクルズ、テンプテーションズ、スプリームス、メリー・ウエルズ、マーヴェレッツ、フォー・トップスあたりですが、そのあたりとはちょっと毛色の違うグループもありました。次の曲などはモータウンにしてはどこかいなたい感じがします。
曲名のショット・ガンは元々ダンスの一つの名前でそういう振り付けのダンスがあるそうです。当時は「マッシュポテト」とか「モンキー」「ドッグ」とかいろんなダンス・スタイルが考え出されました。
1965年のリリースでR&Bチャートは一位、ポップチャートは四位まで上がるヒットになりました。
典型的なパーティ・ソングですが、イントロのショットガンのピストルの音からドラムとジュニア・ウォーカーのサックスがなだれ込むように入ってくるところがかっこよくて斬新です。ジュニア・ウォーカーの歌もうまいというわけではないのですが、パワーがあってサックスと同じで歯切れのいい歌です。
1.Shot Gun/Jr.Walker & The All Stars
余談ですが、この「ショット・ガン」を僕はウエストロード・ブルーズバンドの84年のアルバム”Junction”で録音しています。
サックスというとジャズのイメージがありますが、R&Bのサックスというのが40年代のルイ・ジョーダンあたりから流行って60年代にはキング・カーティス、メイシオ・パーカーなどR&Bでも人気のサックス・プレイヤーが出てきました。

次のグループ、アイズレー・ブラザーズはすごく息の長いソウル・ファンク・グループで、モータウンに入る前から”Shout”とかビートルズがカバーした”Twist&Shout”のヒットがあったグループで、モータウンを辞めた後も”It’s Your Thing”などファンクのヒットを出しています。モータウンには60年代半ばに三年ほど在籍してました。その時に出したヒットが今から聴く”This Old Heart Of Mine”
「ぼくの干からびた心は何度も傷ついてきたんだ。君がぼくを愛していない、戻って来ないのではないかと不安なんだ」途中で「一緒に居られるのは一週間に一回」って出てくるんですが、不倫ですかね。
2.This Old Heart of Mine/The Isley Brothers
この曲はロッド・スチュアートのカバーも有名です。
66年アイズレー・ブラザーズがモータウンに残した唯一の大ヒットですが、アイズレーは二年でモータウンを辞めてしまいます。
モータウンは確かにヒット曲をたくさん作れる有能な作詞、作曲家チームとアレンジャー、プロデューサーがいましたが、必ずしもモータウンに入ったミュージシャンがみんなそのやり方に満足していたわけではなく、アイズレー・ブラザーズのように短期間で辞めたグループとか、オーディションを受かったもののデビューできなかったミュージシャンもいるし、1,2曲のシングルのリリースだけでモータウンから離れたミュージシャンもいます。
次のグラディス・ナイト&ピップスもモータウンレコードにいた頃は聞いてもらう一曲しか代表曲がなく、モータウンを辞めてからグループのキャリアを作った人たちです。
では邦題は「悲しいうわさ」「君はもう僕を愛していないという悲しいうわさを聞いたよ。嫌なうわさだ。君の心にはぼくはもういないんだ」
3.I Heard It Through The Grapevine/Gladys Knight & The Pips
72年までモータウンレコードに在籍したグラディス・ナイト&ピップスでしたが、73年にブッダ・レコードに移籍して大ヒット「夜汽車でジョージアへ」や「つきせぬ思い(I’ve Got To Use My Imagination)」といった代表曲をたくさんリリースして70年代中頃には有名ソウル・コーラスグループとなりました。

次は男女のソウル・デュオで僕がいちばん好きな曲です。マービン・ゲイとタミー・テレルの”Ain’t No Mountatin High Enough”ですが、タイトルは高すぎる山なんてない、「越えられない高い山なんてない」ということだと思います。「もし、僕のことが必要なときは電話してくれ、君がどこにいようと、どんなに遠くにいようと、ぼくは駆けつけるから心配しなくていい。越えられない高い山なんてない。渡れない谷も渡れない川もない。」
1967年、当時の映像を見るとどう見ても二人は恋人どうしに見えます。タミーは可愛いし、マービンはいい男、曲は切ないし、売れるでしょ、これは。
4.Ain’t No Mountatin High Enough / Marvin Gaye & Tammi Terrell
夫婦のソウル・デュオ、アシューフォード&シンプソンが作った曲です。

次のスティービー・ワンダーはダイアナ・ロスやスモーキー・ロビンソン、マービン・ゲイと並んで長くモータウンに在籍したひとりですが、60年代にデビューした頃はまだリトル・スティービー・ワンダーという芸名でした。

1966年僕は高校一年でしたが、ラジオからこの曲が流れてくる前にDJの方が歌詞を説明してくれました。
「みんなに太陽が当たる、希望の持てる場所があるんだ。生きている間にその場所を探そう」という歌詞が今も好きです。メロディも最高です。いろいろと不安だった年頃、夜中にラジオから流れてきたこの曲は今もずっと胸に残って居ます。僕と同じ年、スティーヴィ・ワンダー16歳の時のヒットです。
「陽の当たる場所」
5.A Place In The Sun/Stevie Wonder
60年くらいこの曲を聴いているんですが、このコロナ感染の厳しい現在聴くとなんか泣けてきます。いい未来があると思わせてくれるいい曲です。
途中の語りが「うまくいかない時あなたが悲しく感じる時、いつもあなたに思い出して欲しい・・太陽の当たる場所を」いいですね。
来週もこのモータウンレコードの続きをやります。

2020.11.06 ON AIR

映画”The Making Of Motown”公開記念モータウン・レコード特集vol.1

The Motown Box(Shout/Motown B0074AW43A)

ON AIR LIST
1.Please Mr. Postman /The Marvelettes
2.You’ve Really Got A Hold On Me /Smokey Robinson & The Miracles
3.Where Did Our Love Go /The Supremes
4.My Girl/The Temptations
5.My Guy/Mary Wells

東京では9/18から公開された映画”The Making Of Motown”。”The Making Of Motown”のモータウンというのはモータウン・レコードのことで、1960年代初めから70年代に入ってからも破竹の勢いでソウル・ミュージックのヒット曲を出しつづけたレコード会社のことです。ソウル・ミュージックを語る上では絶対に外せないレコード会社です。ちなみにモータウンというのは会社が自動車産業で有名なデトロイトにあったのでモーター・タウンからモータウンとなったわけです。
映画は創始者であり元社長のベリー・ゴーディと彼の右腕であり初期のヒット・グループ「ミラクルズ」のリーダーであり、才能のあるシンガー・ソング・ライターのスモーキー・ロビンソンの二人が昔を振り返りながら話をするスタイルで進みます。
モータウンの曲はこの番組で少し前にもオンエアーしているんですが、今回は僕自身の想い出を折り込みながら話をしたいと思っています。とにかくミラクルズ、マーヴェレッツ、テンプテーションズ、フォートップス、スプリームス、スティービー・ワンダー、マーヴィン・ゲイともうモータウンには素晴らしいミュージシャン、グループが多すぎて何から始めようかという感じですが、モータウンの曲を聴いたのは次の曲が最初だったと思います。でも、それはビートルズがカバーしたもので、当時は中学生で最初はビートルズのオリジナルだと思っていました。
ザ・マーヴェレッツのデビュー・シングル、1961年リリースでモータウンレコードにとってもマーヴェレッツにとっても初めてのシングルチャートのNO.1になった曲です。ポップチャートとR&Bチャートと両方で一位になりました。ポップで一位ということは白人層にも買われたということで、それはモータウンレコードにとっては大切なことでした。モータウンは黒人によって作られた会社でしたが、黒人層だけをターゲットにしているのではなく白人にも受け入れられることを狙っていました。
郵便配達のおじさんに「私の愛する彼からの手紙がそのカバンの中に入ってるんじゃないの」と彼からラヴレターを待ち焦がれている女性の気持ちを歌った曲です。
1.Please Mr. Postman /The Marvelettes
ぼくは63年のビートルズの2枚目のアルバム”With The Beatles”に収録されていたこの曲を初めて聞きました。女性グループのマーヴェレッツの歌詞を少年の気持ちに置き換えて歌ってビートルズのカバーもすばらしいです。今のオリジナルのマーヴェレッツを聞いたのは60年代半ば頃でした。イントロのドラムの後にすぐ”Wait!”待ってと歌い始めるんですが、すごく印象に残るそのイントロの後のメロディがポップで覚えやすくて、これは黒人だけでなくポップでヒットする曲というのがわかります。
60年代はぼくにとって丁度10代の10年間なのですが、1962年にビートルズがデビューしてそこから自分で音楽を探すぼくの音楽歴は始まったのですが、当時は中学生でしたから小遣いも少なくてとりあえずビートルズやローリング・ストーンズのレコード、それも主にシングルを買うのがやっとでした。次の曲も”With The Beatles”に収録されているのですが、実はこの曲をぼくは大学生の頃に始めたバンドでビートルズ・バージョンでカバーしたのですが、めちゃ難しかった想い出があります。ちょっとブルージーでいい曲です。
R&Bチャートで一位、ポップで8位まで上がったヒット曲です。
「君のことを好き(Like)なんやなくて愛して(Love)いる」と始まるところすぐに曲に引き込まれます。You’ve Really Got A Hold On Me つまり君に囚われてしまった。夢中になっているということ。
2.You’ve Really Got A Hold On Me /Smokey Robinson & The Miracles
ビートルズのカバーも素晴らしくてほぼ原曲そのままにやってるんですが、原曲そのままというのが難しい曲なんです。ビートルズはモータウンのコーラスワークをかなり研究していて自分たちのオリジナルのコーラスワークにも役立てていたと思います。
ぼくは10代の頃レコードが少ししか買えないのでラジオの洋楽のヒットチャート番組をよく聞いていました。そのチャートのトップ10で時々聞こえてきたキュートな歌声がダイアナ・ロスがいたシュプリームスです。もちろん彼女たちがモータウンのグルーブとは知らなかったです。というかレコード会社がどこかなんて興味もなかった。三人の魅力的なコーラスに惹かれてシングル盤を買いに行きました。それがこの曲です。
「ベイビー、ベイビー、置いていかないで一人にしないで、私たちの愛はどこへ行ったの」
3.Where Did Our Love Go /The Supremes
これをリアル・タイムで聴いていた頃は気にしていなかったんですが、イントロの手拍子とかタンバリンをよく使うんですよねモータウンは。そういうポップな明るい感じが白人にも受け入れられた大きな要素でしょう。

次の曲はテンプテーションズを代表する曲で映画やテレビ、コマーシャルにもよく使われているので皆さん、ご存知の一曲です。
「曇りの日に太陽が刺したみたい、外は寒いのに僕は五月のように暖かい・・・」と、愛する女性がいる幸せな気持ちを歌ったソウル名曲です。1965年。ポップチャート、R&Bチャート共に一位になりました。
4.My Girl/The Temptations
モータウンの専属スタジオ・ミュージシャンだったロバート・ホワイトが弾くイントロのギター・フレイズが耳に残る曲。このMy Girlを作ったのもスモーキー・ロビンソンですが、スモーキーはモータウンレコードの制作の裏方としても才能を発揮しました。ボブ・ディランがスモーキーを「現代最高の詩人」と呼んだのも納得の才能です。歌ったテンプテーションズはモータウンを代表する男性5人のコーラスグループですが、歌はもちろんルックスも踊りも衣装も全てが洗練されていて本当にクールでした。
次の曲もスモーキーが作りました。
実は次のMy Guyのアンサー・ソングが今聞いてもらったMy Girlで作ったのは同じスモーキー・ロビンソン。アンサー・ソングと言っても二つは全く違う曲で両方ともポップス性の高い素晴らしい曲です。
「私にとって誰がなんと言おうと彼が最高なの。ぜったいに別れないから」という熱愛の歌ですが。1964年全米一位。こういう歌も10代の子供達に受けたのだと思います。
メリー・ウエルズはダイアナ・ロスとはまた違う声に魅力のあるシンガーで、当時はアイドル的な存在だったそうでステージにファンの男子が上がってきて彼女に抱きついたという話も残ってます。
5.My Guy/Mary Wells
メリー・ウエルズは他にも”The One Who Really Loves You”,”You Beat Me The Punch”,”Two Lovers”などのヒットを出したモータウンレコード初期の稼ぎ頭でした。
当時、ぼくはレコードを買う小遣いが欲しくて朝、牛乳配達のバイトを始めたんですが、夜は遅くまでラジオ聴いているし、朝は配達で早くて起きれなくて大変でした。でも、バイトしてもらったお金を持ってレコード屋さんに行く時のワクワク感がよかったですね。今も時々その頃買ったシングル盤を聞くとスイートな気持ちになります。
少し前にスティービー・ワンダーがモータウンレコードを辞めて自分のレーベルを作るというニュースがあり、たくさんのミュージシャンがすでにモータウンを去ってしまった中で、スティービーだけはずっとモータウンにいるだろうとみんな思っていたので驚きのニュースでしたが、スティービーは「自分の心はモータウンにあります」とモータウンへの感謝を述べています。
来週はそのスティービー・ワンダーの名曲もON AIRします。
モータウン・レコードはもうヒット曲が多すぎてどの曲をON AIRするか悩むところです。

2020.10.30 ON AIR

永井ホトケ隆が選ぶブルーズ・スタンダード曲集 vol.27

女性ブルーズシンガーたちのスタンダード曲集 vo.3

The Original Hound Dog/Big Mama Thornton (Peacock / ace CDCHD940)

Ball And Chain/Big Mama Thornton (Arhoolie 1039)

The Best Of Esther Phillips 1962-70 / Esther Phillips (Atlantic/east west japan AMCY-2353-4)

at last! / Etta James (CHESS /MCA CHD-12017)

Rockin’ In Rhythm(The Best Of Ruth Brown) / Ruth Brown (Atlantic eastwestJapan AMCY-2007)

 

ON AIR LIST
1.Hound Dog/Big Mama Thornton
2.Ball And Chain/Big Mama Thornton
3.Double Crossin’ Blues/Esther Phillips
4.Roll With Me Henry(The Wallflower)/Etta James
5.Mama He Treats Your Daughter Mean/Ruth Brown

前回、前々回と戦前の女性ブルーズシンガーが歌ったブルーズの名曲を聴きましたが、今日は戦後の女性ブルーズシンガーの名曲です。この戦前、戦後という言い方をブルーズでよく使いますが、第二次世界大戦が終わった1945年を境に戦前戦後と分けています。もちろん戦前から戦後に渡って活躍した人もいるのでそのボーダー・ラインは微妙です。
戦後になるとブルーズのサウンドもエレクトリック化されてバンド形態が増えてくるという特徴もあります。
前回と前々回にON AIRした女性ブルーズ・シンガーの先駆け「クラシック・ブルーズ」と呼ばれたメイミー・スミスやベッシー・スミス以降の女性シンガーたちはブルーズだけ歌うのではなく、ジャズやポピュラーな曲も歌いました。しかし、ジャズ・シンガーと呼ばれるダイナ・ワシントンやビリー・ホリディもブルーズのテイストは強く、ブルーズも彼女たちの重要なレパートリーでした。その後のルース・ブラウンやエスター・フィリップス、エタ・ジェイムズになると今度はR&Bのテイストも入り込んで、ブルーズ、ジャズ、R&Bとレパートリーはとても幅広くなります。だからロックンロールの殿堂入りもしたルース・ブラウンは「ブルーズシンガー、R&Bシンガー、ジャズシンガー、ロックンロール・シンガー・・なんとでも好きなように呼んでちょうだい」と言ってます。
そういう戦後の女性ブルーズシンガーの中でもブルーズの度数が高いのがビッグ・ママ・ソーントンでした。
ビッグ・ママと呼ばれるくらいで大きくて、体重が300ポンドつまり140キロくらいあったそうです。アラバマ州モンゴメリーの出身ですが、最初に音楽を始めたのはテキサス、ヒューストン。彼女を有名にしたのはR&Bのボス、ジョニー・オーティスのバンドをバックにして歌った1953年のこの大ヒットでした。
1.Hound Dog/Big Mama Thornton
ヒットチャート7週1位の大ヒット、その後エルヴィス・プレスリーが白人チャートで更にヒットさせてこの曲は文句なしのブルーズ・スタンダードになりましたが、曲調的にはすでにR&Bテイストが入っています。
Hound Dogより彼女のブルーズ・シンガーとしての力量がわかる曲が次の”Ball And Chain”ですが、これは白人ロック・シンガーのジャニス・ジョップリンのカバーで知っている方も多いと思います。ジャニスはサンフランシスコのクラブでビッグ・ママが歌っているのを聴いてカバーしたいと思ったそうです。
2.Ball And Chain/Big Mama Thornton
体が大きいだけでなく歌声も相当でかくて、あと女性としても自立していてユーモアもあり人間として大きな人だったそうでビッグ・ママというのは本当に彼女にふさわしい綽名でした。

ビッグ・ママを”Hound Dog”の大ヒットでデビューさせたプロデューサー、ジョニー・オーティスがビッグ・ママの前、1950年にデビューさせたのが当時13才だったエスター・フィリップス。当時はまだリトル・エスター・フィリップスという名前でした。ザ・ロビンズというコーラス・グループとエスターを組み合わせてジョニー・オーティスが自分のオーケストラをバックにリリースしたこの曲がR&Bチャート1位になり14才のエスターは子供ながら大人たちとツアーにも出ることに・・・中学1年でしょ、大丈夫か。
3.Double Crossin’ Blues/Esther Phillips
子供なのに大人のミュージシャンに混じってバスでツアーする14才のエスターは、学校の勉強の本を持ってツアーに出たもののバスの中では大人のミュージシャンたちがギャンブルやったり、酒を呑んで騒ぐので勉強はほとんど出来なかったそうです。そして、彼らが使うドラッグもやることになりエスターは終生ドラッグに苦しむことになります。そういうことだけでなく、50年代や60年代にまだ未成年の女性が大人のミュージシャンたちとツアーを回るのはいろいろ大変なことがあったと思います。
エスターは他にもブルーズ・スタンダードに挙げたい曲があるのですが、それはまた次の機会に。
エスターとビッグママをデビューさせたジョニー・オーティスがもうひとりデビューさせた女性シンガーがエタ・ジェイムズ。エスターと同じ14才。
そしてエタ・ジェイムズも1955年のこのデビュー曲でR&Bチャート1位を獲得しました。
4.Roll With Me Henry(The Wallflower)/Etta James
実はいまの曲、リリースの前の年1954年にハンク・バラッドとミッドナイターズがヒットさせた”Work With Me Annie”のアンサーソングとして作られたものなんですが、そもそもその”Work With Me Annie”が下ネタ(Work Withが)の歌でそれをRoll With Me Henryにしたわけですが、Roll Withというのも下ネタなので未成年の女子が歌うのはどうかというので途中でWallfolwerという曲名に変更されています。Wallfolwerというのは「壁の花」でダンスパーティで男の人に誘ってもらえない女性のことですが、曲名だけ変えても歌詞を変えてませんから意味ないんですけどね。日本ではいまでもこういう歌を若い女性シンガーは絶対歌わないでしょうけど、文化の意識の違いをすごく感じます。AKBの娘がRoll With Me Hotokeって歌うようなもんですから。
エスター・フィリップス、エタ・ジェイムズと来たらやっぱり僕の中ではルース・ブラウンです。
悪い男にひっかかった歌ですが、でもその男に夢中になってるんですね。これはいつの時代もあって「その男はやめといた方がええで」と言うてんのにその男にホレてまう女性がおるんですよ。まあ、偉そうなことは言えまへんが・・。1952年R&Bチャート1位
5.Mama He Treats Your Daughter Mean/Ruth Brown
ルース・ブラウンは「アトランティック・レコード」の初期のいちばんの売れっ子で出す曲、出す曲チャートの上位に上がってアトランティックは彼女がいたから会社の基盤をつくれたと言ってます。いまの曲もブルーズにサビの部分がついていたり、全体のサウンドもR&Bのテイストが濃いんですが、この辺りからブラック・ミュージックの主流はR&Bに向かっていきます。それにつれてストレートなブルーズを歌う女性シンガーは減っていくことになります。

2020.10.23 ON AIR

「永井ホトケ隆が選ぶブルーズ・スタンダード曲集 vol.26」

女性ブルーズシンガーたちのスタンダード曲集 vo.2

Memphis Minnie/The Essential Recordings (PRIMO PRMCD-6108)

Lucille Bogan/Black Angel Blues (P-Vine PCD-20094)

Mamie Smith/Complete Recorded Works vol.1 (document DOCD-5357)

ON AIR LIST
1.Me And My Chauffeur Blues/Memphis Minnie
2.When The Levee Breaks/Joe McCoy&Memphis Minnie
3.Bumble Bee/Memphis Minnie
4.Shave’em Dry/Lucille Bogan
5.Crazy Blues/Mamie Smith & Her Jazz Hounds

前回「ブルーズ・レディたちのスタンダード」の1回目は「ブルーズの皇后」と呼ばれたベッシー・スミスの名曲を聴きましたが、ベッシーの活躍から約10年後くらいから人気のブルーズ・レディとなったメンフィス・ミニーの名曲から今日は始めます。ベッシー・スミスとメンフィス・ミニーの大きな違いはベッシーが楽器を弾かないヴォーカルだけのシンガーでしたが、メンフィス・ミニーはギターを弾く弾き語りスタイルでした。しかも、このギターがまた上手い!ミニーは主に南部を旅しながら酒場などでギターを弾いて歌うダウン・ホームなブルーズ・スタイルでした。そして、ベッシーもミニーも200曲近く録音を残しています。つまりふたりともすごく人気があったということです。
まずメンフィス・ミニーを1曲
曲名が「私と私のお抱え運転手」ですが、「お抱え運転手」なんていう言葉が出てきたらまず男女の営み系のことです。車の運転を絡めながら私を運転してくれと言うてるわけです。車関係でこの手のセクシャルな歌はブルーズに本当に多い。この歌のお抱え運転手は運転が上手いんですよ(つまりセックスが上手いということなんですが)、それで他の女性も運転してしまうんですね。それでそんなことやってたら私はピストルであんたを撃ってしまうよ。新車のフォードのV8を私が買ってやるから他の女は乗せないで私を乗せて世界中ドライヴしてよ」
1941年録音
1.Me And My Chauffeur Blues/Memphis Minnie
日本の女性の歌にはこういうセックスをすぐに連想させるような歌詞はまずないですね。こういう下ネタな歌詞を男女ともに笑って楽しむ文化が日本にはないんですね。まあアメリカでもそういうのを嫌う人もいますが、日本よりは大らかな気がします。
いまの”Me And My Chauffeur Blues”はマリア・マルダー、ジェファーソン・エアプレインのグレイス・スリックなど多くの女性シンガーにカバーされています。ちなみにいまのもうひとりのギターはミニーさんの三番目の旦那さんのリル・サン・ジョーです。その前の二番目の旦那がカンザス・ジョーと呼ばれたジョー・マッコイで、そのジョー・マッコイと録音してヒットさせたのが次の”When The Levee Breaks”
レヴィは堤防のことですから「堤防が壊れる時」「堤防が決壊する時」という曲名ですが、これが録音された2年前1927年に大雨が降ってミシシッピ・リバーが決壊した時の歌です。
「雨が降り続けると堤防は決壊してしまう。決壊したらオレには居場所がない。泣いても祈ってもどうしょうもない。堤防が決壊したらどこかへいかなくては。昨日の一晩中彼女と幸せな家庭のことを考えて堤防の上でうめいた。シカゴへ行こう、シカゴへ行くんだ、ごめんね、オマエを連れて行くことはできないけど」
大雨でかなり切羽詰まった気持ちのブルーズです。ここ数年日本でも大雨で洪水が多いのですごくこういう歌詞はリアルに感じます。歌っているのは旦那のジョー・マッコイ。歌のバックでオブリガードを弾いているメンフィス・ミニーのギターの素晴らしさも聴いてください。
2.When The Levee Breaks/Joe McCoy&Memphis Minnie
いまの曲はレッド・ツェッペリンがカバーしていてツェッペリンのオリジナルと思っている人もいるのですが、いまのが1929年に録音されたオリジナルです。
男女ふたりで演奏して旅をするとなると僕はなんかめんどくさい感じがしないでもないんですが、どうなんでしょう。喧嘩なんかしてたら一緒に演奏する気持ちにならんでしょ。それとも演奏しているうちに仲直りしたりとか・・。いまの曲もどっちかが途中で小節数を間違って、でも元に戻るんですが「あんた、なんで間違えるん」とか言われそうでしょ。
ミニーさんの最初の旦那もメンフィス・ジャグ・バンドのケイシー・ビル・ウェルダンというミュージシャンです。まあ、一緒に演奏しているうちにやっぱりくっついてしまうんでしょうね。

彼女はルイジアナ生まれですが13才の時に家を出てメンフィスに来て、たくさんのブルーズマンがしのぎを削ったビール・ストリートで歌い始めるのですが、13才ってただの家出少女でしょ。ええんかな・・・。それで19才でジョー・マッコイと出会って一緒に演奏を始めるんですが、その最初のヒットが次の”Bumble Bee” (マルハナバチという蜂)これも男が蜂で家を出て外でいろいろ女性を刺しにいくんですね。まあ彼女がええかげんしてくれ、やめてくれと言ってる歌です
3.Bumble Bee/Memphis Minnie
女性ブルーズシンガーのセクシャルな歌の極め付けといえばルシール・ボーガンです。セクシャルというかもう猥褻の領域です。ルシール・ボーガンは裏世界のヤバいつながりもあって、セックスに関する歌だけでなく売春やギャンブル、ドラッグといった歌もあります。日本のP-Vineレコードから一枚アルバムが出ているのですが、解説を書いている小出斉くんも訳すのを憚っている曲でFUCKが平気で歌詞に出てきます。最初が「私のおっぱいは・・」から始まります。その後に「私の足の間にあるもの・・」と来ます。これさすがに発売されなかったらしいですが・・・ルシール・ボーガンを代表する曲で、ブルーズにはこんな歌もあるんだということで選びました。
4.Shave’em Dry/Lucille Bogan
曲名のShave’em Dryの意味もここでは話すのはぼくでも無理なくらいLow Downな内容で猥褻の領域です。こういうブルーズのことをBawdy Bluesといい「Bawdy Blues」というコンピアルバムもあるくらいブルーズでは下ネタ、猥褻な歌がたくさんあるのですが、ルシール・ボーガンはボーディ・ブルーズの女王だと思います。
ブルーズの録音が始まったのは1920年でメイミー・スミスの”Crazy Blues”がその最初です。ブルーズの最初の録音というだけでなく、女性シンガーとして初めてレコードに歌声を残したのがメイミー・スミス。その後にベッシー・スミス、アイダ・コックス、ビクトリア・スパイヴィ、ルシール・ボーガンなど、その初期は女性ブルーズ・シンガーがたくさんいました。みんな苦労しながらも逞しく時代を生き抜いた女性たちでその後の黒人女性シンガーたちへの道を残した偉大な先人たちです。
では今日の最後はその記念すべきブルーズの初めての録音そして黒人女性シンガー初めての録音、メイミー・スミスの”Crazy Blues”。
「夜眠ることもできない、食べることもできない。愛した男が私に優しくしてくれないから。彼は私を憂鬱にさせて私はどうしたらいいかわからない。私は時々座り込んでため息ついて
そして泣き始める。だから親友は私にあいつと別れてしまいなよと言う。彼の手紙は読めるけど彼の心が読めない。そして彼と別れてから私はクレイジーブルーズに取り憑かれている」
5.Crazy Blues/Mamie Smith & Her Jazz Hounds
このブルーズが録音された1920年ですがいまも男女の恋愛事情は変らない、人の心は変らないと思います。
この曲のクレジットがMamie Smith & Her Jazz Houndsとなっていますが、今日最初に聴いたメンフィス・ミニーのような南部で活躍した女性シンガーは違いますが、ニューヨークのような都会で歌った女性ブルーズシンガーはジャズバンドをバックにしていました。ベッシー・スミスもそうです。まだいろいろ話足りない女性ブルーズ・シンガーですが、次回もこの続きをやります。