2025.01.17 ON AIR

カントリー&ウエスタンをソウルにしたジニアス、レイ・チャールズの魅力

ON AIR LIST
1.I Can’t Stop Loving You/Ray Charles
2.Take These Chains From My Heart/Ray Charles
3.Careless Love/Ray Charles
4.You Are My Sunshine/Ray Charles
5.Born To Lose/Ray Charles

もっと早く紹介するべきだったのですが、去年の10月と11月に日本のBSMFレコードから名盤再発掘シリーズでレイ・チャールズのアルバムが4枚リリースされました。
1962年の『Modern Sounds In Country And Western Music』VOL.1、VOL.2そして65年『Country & Western Meets R&B』と66年『Crying Time』がリマスターされての再発です。レイ・チャールズが白人音楽であるカントリー&ウエスタンを自身のルーツであるゴスペルやブルーズのテイストを加えて新たに生命を吹き込んだ音楽になりました。またそれによってレイは白人聴衆にも受け入れられる存在となっていったのです。
50年代にアトランティックで「ホワッド・アイ・セイ」など多くのヒットを飛ばし、R&B界で頂点を極めソウル・ミュージックの先駆けとなったレイ・チャールズだが、60年代に入るとアトランティックを離れ、ABC/パラマウントと契約。そこでリリースしたポピュラー・ソング「我が心のジョージア」のカバーがナンバー1・ヒットを記録。そして1962年に立ち上げた自身のレコードレーベル「タンジェリン・レコード」からリリースしたのが白人のカントリー・ミュージックのカバーアルバム『Modern Sounds in Country and Western Music』が翌年のグラミー賞を受賞し、黒人ミュージシャン、さらにカントリーの中でも最も売れたアルバムとなった。そしてわずか6か月後にリリースされたVolume 2も前作同様、高い評価を受け多くのヒット・シングルを生みだしました。

今日最初の曲は元々はカントリー・ウエスタンの白人シンガー、ドン・ギブソンが作って歌った曲で1958年にリリースされた。700人以上のミュージシャンにカバーされたボビュラーすぎるほどポピュラーな曲で邦題が「愛さずにはいられない」。1962年リリース。

1.I Can’t Stop Loving You/Ray Charles

レイが白人のボピュラー・ソングをたくさん歌うきっかけになったのは1960年に発表した”Georgia On My Mind”が大ヒットしたことでした。日本でも邦題「我が心のジョージア」で大ヒットしました。このヒットで白人の曲を歌うとやり方によっては白人にも買ってもらえることがわかり、1962年に自身のレーベル「タンジェリン・レコード」を立ち上げたレイ・チャールズは白人の音楽であるカントリー&ウエスタンのカバー・アルバムを録音するようになります。その時レコード会社の幹部である白人たちは逆に「黒人なのに白人の音楽を歌って黒人に売れるわけはないだろう」とレイを説得したらしいです。でも、レイは黒人にも白人にも受け入れられるという確信があったようです。
50年代はアトランティック・レコードで黒人マーケット向けにアルバムをリリースしていたレイがここで一気にターゲットを変えたわけです。しかし、レイ自身の歌が変わるわけもなく白人の曲でもレイが歌うとゴスペルみたいに聞こえてしまうのですが、今のI Can’t Stop Loving Youでもそうですが、大げさなコーラスのアレンジ(恐らく白人のコーラス隊を使っている)が僕には要らないかなという感じです。でも、それがあるから白人層に売れたんでしょうね。

次の曲はカントリー &ウエスタンの大御所、ハンク・ウイリアムスが1952年に録音したのを1962年にリリース。レイのこのカバーも白人のポップチャートで8位、黒人のR&Bチャートで7位になり白人黒人両方でヒットした曲となりました。
「新しい恋人ができた彼女にもうぼくに愛がないのならこの鎖を解きほどいて僕を自由にしてくれ」という歌です。

2.Take These Chains From My Heart/Ray Charles

次の曲は1920年代からあり女性ブルーズシンガーの女王、ベッシー・スミスのテイクもあります。ダイナ・ワシントン、ナット・キング・コール、ブルック・ベントン、ブルーズ派ではスヌークス・イーグリン、ロックではヴァン・モリソンと多くのシンガーにカバーされています。ブルーズの範疇に入る曲ですがメロディが覚えやすく早くからボビュラーに取り上げられた曲です。

3.Careless Love/Ray Charles

1962年にチャート1位となった次の曲もアメリカのよく知られたボビュラー・ソングですが、レイが歌うと重みとグルーヴ感が増してやっぱりゴスペルのテイストが感じられます。タイトルの通り「君はぼくの太陽だ」なんですが、歌詞を見ていくと「彼女が他に好きな人ができてしまってぼくの夢は壊されてしまった。空が曇っていてもぼくを幸せにしてくれる太陽だったぼくの太陽を奪わないでくれ」まあ他愛ない曲ですがレイが歌うとディープな感じがします。チャート一位の大ヒットになった曲です。
昔、この曲を君は僕の太陽だと歌っている能天気なラヴ・ソングだと思っていたのですが、よく聞いたら失恋ソングでした。しっかり聞けということです、

4.You Are My Sunshine/Ray Charles

次の歌はちょっとヘヴィです。でも、このヘヴィさというのはレイが元々持っているブルーズの感覚にあるもので50年代のアトランティック・レコード時代のブルーズを聴くとわかる彼のテイストです。
「俺は負けるために生まれたんだ。人生には虚しさしかなく、全ての夢は俺を苦しめるだけ。君はオレのたった一つの望みだったけど俺は君さえ失うんだ」
かなり絶望的な歌ですが、何も所有することのない貧しいアフリカン・アメリカンの人たちのことを思うと財産や土地どころか日々のお金もない黒人にとっては彼女の愛を失うというのは本当に全てを無くしてしまう、生きる術がなくなってしまうということなんでしょう。

5.Born To Lose/Ray Charles

また来週もBSMFレコードからリリースされたレイ・チャールズの60年代の4枚のアルバムからレイの素晴らしい歌を聞きます。

2025.01.10 ON AIR

80年代にブルーズを復活させたスタンダップ・ブルーズ&ソウル・シンガー、Z.Z.ヒル

ON AIR LIST
1.Please Don’t Make Me(Do Something Bad To You)/Z.Z. Hill
2.Down Home Blues/Z.Z. Hill
3.Hey Little Girl/Z.Z. Hill
4.Cheating In The Next Room/Z.Z. Hill

スタンダップ・ブルーズシンガーの特集最終回です
今日ON AIRするZ.Z.ヒルは黒人音楽にハマってからも私の中ではこれという決め手のない微妙なシンガーでした。60年代からブルーズとソウルを歌う上手いスタンダップ・シンガーということはわかっていてもジョニー・テイラーやボビー・ブランドほどのインパクトを感じたことがなかったんですね。
それが覆されたのが70年代終わりに南部ジャクソンのマラコ・レコードに移籍してから。当時、自分の中ではサザン・ソウルがブームになっていてOV.ライトやオーティス・クレイ、アル・グリーンなどを聴き漁っている時、あるバーで聞かされたのがマラコから初めてリリースされたばかりのZ.Z.ヒルのシングルでした。
こんな歌詞です「みんなが君はオレを騙そうとしているっていうんや。そんなのはほんまやないって言うてくれよ。オレは君だけを愛してきたんや。だから俺に悪いことをさせないでくれよ。君を傷つけたくないんよ。お前にはジョーンズいう男がいて、俺が仕事でおらん間にこの家にその男が来てるっていう、お前、それはあかんやろ。オレは嫉妬深い男なんや。だからお前に悪いこと、嫌なことはしたくないんや」

1.Please Don’t Make Me(Do Something Bad To You)/Z.Z. Hill

とてもソウルフルな歌です。これでZ.Z.ヒルへの印象が変わりました。彼はサム・クックとボビー・ブランドを尊敬していてダイレクトではないけれどその二人の影響が感じられます。ソウルに関してはサム・クック、ブルーズに関してはボビー・ブランドというのも聞いているとわかります。次のZ.Z. Hillの生涯の大ヒットとなった曲ではやはりボビー・ブランドのテイストが感じられます。
絶妙なミディアム・シャッフルのビートとゆったりとした南部ならではのダウンホーム・フィーリング。
これは女性の歌です。仕事を頑張っている女性が週末のパーティにやって来て靴(多分ハイヒール)を脱いで、髪を下ろしてお酒飲んでリラックスしているときに「そんな子供っぽい曲ではなくてダウンホーム・ブルーズをかけてよ」とDJに言ってる・・そんな歌。

2.Down Home Blues/Z.Z. Hill

ダウンホームとはアメリカの黒人の人たちにとっては南部の故郷のこと。つまり、リラックスしてくつろげる場所のこと。

Z.Z.ヒルは50年代にゴスペル・シンガーとして出発してからいろんなレーベルを渡り歩きました。大きなところではケント、ユナイテッド・アーティスツ、コロンビアなど。しかし最もヒットしてチャートに上がったのは62位の”Don’t Make Me Pay for His Mistakes”なので全国区のシンガーというわけではなかったのです。でも、レコーディングするレコード会社があるということは業界では歌の実力を認められていたということでしょう。
それがやっと花開いたのがマラコ・レコードに入ってからで遅咲きのシンガーでした。マラコ以前の曲ではKentレコード時代の曲にいいのがあるのですが、大きなヒットには至らなかった。次の曲はぼくのバンド「ブルーズ・ザ・ブッチャー」でハーモニカのコテツくんが歌ってますが、最近歌いませんね。マラコレコードに入るほぼ20年前のケント・レコードでの録音です。

3.Hey Little Girl/Z.Z. Hill

マラコに移籍して最初にチャートに上がったのが次の”Cheating In The Next Room”
Cheatというのは浮気。「隣の部屋で浮気している。浮気相手と次に会う計画をしている。電話で小声で話して次に会う約束をしている。おまえのキスと愛の営みはずっと偽りだったや。でもうまくいくことを願ってそれについて来た。でももう自分の気持ちを利用されるよりは自分で踏み潰したほうがマシや」なんや怖い歌です。

4.Cheating In The Next Room/Z.Z. Hill

アメリカの皆さんはこういう不倫ソングが本当に好きなんですね。まあそれだけ不倫がよくあるということなんでしょうけど・・。

Z.Z. Hillは1984年に交通事故の後遺症で足に血栓ができてそれが原因で心臓発作を起こして急死してしまいました。48才という若さでした。79年にマラコに入って5年後です。せっかくその実力と人気が一致して南部のスター・シンガーになれたのに本当に残念です。実は彼がマラコレコードでヒットを出したことでそのあとにジョニー・テイラー、リトル・ミルトン、デニス・ラセール、ボビー・ブランドたちがマラコに入社して南部のブルーズシーンは再び盛り上がったのです。彼の存在は”Blues Is Back”(ブルーズが戻って来た)と銘打ったマラコにとっては看板のような存在でした。そのブームの先駆けでした。亡くなったあとにはメモリアル・アルバムもリリースされました。
そして、彼が尊敬していたボビー・ブランドは先日この番組で特集したようにこのマラコレコードで素晴らしいアルバムを残し、晩年を悠々自適に暮らすことができたと思います。敬愛するブランドに恩返しできたとZZは思っていたのではないでしょうか。
今年も素晴らしい、いい曲をON AIRします。Hey,Hey,The Blues Is Alright

 

2025.01.03 ON AIR

新年最初はマラコ・レコード時代のボビー・ブランド

ON AIR LIST
1.Members Only/Bobby Bland 
2.In The Ghetto/Bobby Bland
3.That’s The Way Love Is/Bobby Bland
4.Stormy Monday/Bobby Bland,Johnnie Taylor,Bobby Rush

明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。
ちょっと間が空いてしまいましたが、スタンダップ・シンガー特集ボビー・ブランドの4回目です。
ギターとかピアノとかハーモニカとか楽器を演奏しないで歌だけ歌うブルーズマンをスタンダップ・ブルーズシンガーと言いますが、ボビー・ブランドはその代表的なブルーズマン。2013年に83才でなくなるまでブルーズ・シンガーとしての風格と威厳があった人でした。
80年代にマラコ・レコードに入ってからは南部の同胞黒人たちに向けたダウンホーム感のあるブルーズで人気がありました。
ジョージ・ジャクソン、トミー・テイト、ジーター・ディヴィスなど優れたソングライターたちによって書かれた曲をマラコレコードの腕利きミュージシャンたちで録音しリリースしました。今日の最初は1985年の名作”Members Only”からそのタイトル曲
「メンバーズ・オンリーのプライベートなパーティなんだ。金もいらないしチェックブックも必要ない。持ってくるのは君の傷ついた心だけだ。今夜はメンバーズ・オンリーなんだよ」とぐっと泣かせる歌詞です。

1.Members Only/Bobby Bland

この曲をカバーして歌う人が多いのですが、やっぱりブランドのように歌手として懐が深くないとシンプルな曲だけに安っぽく聞こえるんですよね。簡単に歌えるようですが難しい歌です。
次の曲もブランドの深い歌声だから説得力があるという曲です。
貧しい黒人たちはじめマイノリティたちが住んでいるゲットーについて歌ったこれもいい曲です。

2.In The Ghetto/Bobby Bland

ボビー・ブランドは2003年のアルバム”Blues At Midnight”までマラコレコードに在籍してコンスタントにアルバムを発表しました。その11枚のアルバムの中には”Live On Beale Street”というブランドの唯一のライヴ・アルバムがあります。長いキャリアの中でライヴ・アルバムはB.B.キングとデュエットしたものだけで単独のライヴ・アルバムはこれ一枚です。
彼はいつもホーン・セクション入りのバンドを抱えてしっかりしたアレンジがされたサウンドの中で自分のブルーズを歌い続けてきました。盟友のB.B.キングが白人聴衆も巻き込んで世界のB.B.となっていきましたが、彼は同胞の黒人聴衆から非常に強い人気があり黒人のサーキットを回るライヴも続けました。このライヴ・アルバムもメンフィスのビール・ストリートというかって若い頃にB.B.キングたちと切磋琢磨した街のクラブで録音が行われました。
今から聴くこの曲もその若き日に歌っていたでしょう。”Live On Beale Street”から

3.That’s The Way Love Is/Bobby Bland

このライヴに飛び入りゲストのような感じで参加しているのがジョニー・テイラーとボビー・ラッシュ。その二人をステージに呼んでブランドの十八番の一つであるStormy Mondayを歌っています。
ボビー・ラッシュはアーシーなミシシッピ・スタイルのハーモニカを披露しています。ジョニー・テイラーの歌が素晴らしく主役のボビー・ブランドに肉薄しています。
こんな風にブルーズで歌を交えてセッションできて高いクオリティを出せるというのもやはり歌の力を人一倍持っているシンガーたちだからできることです。これ歌の力がなかったら本当につまらないセッションだと思います。

4.Stormy Monday/Bobby Bland,Johnnie Taylor,Bobby Rush

昔、アメリカの黒人ソウル・フード・レストランに夜中行った時、ジュークボックスからMembers Onlyが流れてお客さんみんなで大合唱になったことがありました。この歌がいかにアフリカン・アメリカンの特に中年層の胸に響いているのかよくわかった時でした。
ずっと昔からボビー・ブランドの素晴らしさを言い続けているのですが今もギタリスト・ブルーズマンに人気がいく日本です。
新年一発目に改めてここに記しておきます「ブルーズは歌だ。ギターじゃない」
では今年もよろしくお願いします。Hey Hey The Blues Is Alright!

2024.12.27 ON AIR

Thank You For Loving The Blues…2024

今年を振り返りながら・・・

ON AIR LIST
1.Anna Lee Blues/Robert Nighthawk
2.Cummins Prison Farm/Calvin Leavy
3.Bright Lights, Big City/Jimmy Reed
4.Mean Old World/T.Bone Walker

今年最後のON AIR。
辛いこととか嫌なこととか悲しいことの多い今年でした。戦争や紛争が今も続いていることや世界的な気候の変動と災害、日本やアメリカの選挙で垣間見られる利権や癒着そして権力への執着など人間の嫌な面を見ることが多かったような気がします。楽しかったのは大谷くんの活躍。ぼくの好きな大相撲でも大の里 や豊昇龍などが闘志あふれる取り組みを見せてくれたり、そしていよいよラグビーの季節がやってきました。ぼくもジャパンラグビーのリーグ戦を観戦にいくのですが楽しみにしています。
振り返ると今年は年が明けてすぐに能登半島の地震があり、なんか嫌な年の幕開けやなぁと思っていたところに1/28に小出斉くんが急逝した知らせがきました。少し体調を崩していると聞いていたのですが、ショックでした。ブルーズ・プレイヤー、そしてブルーズに関するライターとして長く活躍してきた小出くんですがぼくより7才年下でかってはぼくのブルー・ヘヴンというバンドで同じ釜のメシを食べた仲間です。その小出くんがバンドに参加してくれた頃、彼がよく歌ってたのがロバート・ナイトホークやジミー・ロジャースなどのダウンホーム・ブルーズでその辺のブルーズの面白さを最初に教えてくれたのは小出くんでした。
彼がよく歌っていた曲を。

1.Anna Lee Blues/Robert Nighthawk

小出くんが亡くなってブルーズ関係者が気落ちしているところに今度は5/30に日暮泰文さんが亡くなられました。この番組でも日暮さんの追悼番組をさせていただきました。日本のブルーズ・シーンを先頭に立って70年代から引率されてきた日暮さんの逝去は一つの時代が終わった感じさえします。
先々週ON AIRしたB.B.キングのコンピレーション・アルバムを手がけられたように日暮さんは最後まで精力的に自分のやるべき仕事をされた感じがします。ここ数年、執筆者としてもいろんなブルーズ関係の本を出版されて、どこか自分にとってブルーズとはなんだったのかという答えを探しているような感じがしていました。ぼくにとって日暮さんの思い出のブルーズは彼が立ち上げたP-Vineレコードが最初にリリースしたカルヴィン・リーヴィのこの衝撃的なブルーズです。

2.Cummins Prison Farm/Calvin Leavy

日暮さんと小出くんという日本のブルーズにとってはとても大切な二人がいなくなったのは計り知れない痛手です。これからも二人が書かれた本を何度も開いて読むことになると思います。改めてお二人のご冥福をお祈り致します。

今年もたくさんツアーをやり各地のライヴハウス、イベンターの皆さん、そして何より来てくださった皆さんに感謝します。ありがとうございました。特に9月から10月はツアー・ラッシュで10日間連続ツアーが二回あって、ツアーが終わってもしばらく身体が痛い状態が続きました。そういう長いツアーをやるのもあとどのくらいかなという年齢になってきました。僕は喉が強いので10日間くらい歌っても平気なんですが、身体は疲れが取れないままなのでキツくなってきました。まあ、あと少しツアー回れるうちに聞きにきてください。
それでツアーから車で戻ってきて夜中に東京の明かりが見えると別に東京に愛着はないのですが、やはり「ああ、やっと帰ってきた」と思います。次のブルーズは都会に憧れて出ていく彼女に歌った歌ですが、東京の明かりをみると時々この歌を思い出します。

3.Bright Lights, Big City/Jimmy Reed

日本のブルーズ・シーンはもう日本語で自分流に訳して歌うか、日本語のオリジナル・ブルーズと称する歌を歌う人たちが大半になり最初にカヴァーする人が少なくなりました。まあ、音楽の表現は自由なのでどんな風に歌っても自由なのですが、それにブルーズを感じるかどうか、その人たちにとって何がブルースなのかは気になるところです。亡くなられた日暮さんも小出くんもそのあたりは危惧していたと思います。後続の若い人たちに言ってあげたいこともありますが、説教みたいに捉えられるのは嫌なのでほとんど言いません。とにかく僕はあまり長いとは言えないだろう残りの時間を自分の思うブルーズを歌うだけです。
今年は先ごろON AIRした山岸潤史とのアコースティックなデュオアルバムを作ったこともあるのですが、最近は個人的にはダウンホームなブルーズに興味が向かっているのと同時に戦前の弾き語りブルーズをよく聞くようになってきました。昔から聴いてはいるんですがそういう古いブルーズの味わいがよりわかるようになってきた感じです。
今年最後のON AIR曲はT.ボーン・ウォーカーが1943年にヒットさせたブルーズの名曲
「一人で生きていくには辛い世の中だ。愛した女は他の男を愛している。辛い気持ちを知られたくないから笑って、悲しみから逃れるために酒を飲むんや。いつの日か俺も6フィート土の下の墓の中や。耐えられない奴隷になった気持ちや」
人生の深いところを端的な歌詞にして歌った素晴らしいブルーズです

4.Mean Old World/T.Bone Walker

今年もこの番組を聞いてくださってありがとうございます。バックアップしてくださっている青南商事さんにいつも感謝です。それからキー局のアップルウェーブ始めネット各局のスタッフの皆さん、そして何より聞いてくださっているみなさん、ありがとうございます。
もし、機会があればたくさんの方にこの番組のことを知らせてください。そして番組のHPに掲載している文章は僕が自ら書いたもので自分のブルーズに関する大きなアーカイヴスの一つです。この番組に自分がブルーズと生きてきたこと、ブルーズから得たことをこれからも発信していきます。でもまあ気楽に聞いてください。
では良いお年を。HeyHey The Blues Is Alright!

 

2024.12.20 ON AIR

クリスマス・ソングで大ヒット曲を2曲持つブルーズマン、チャールズ・ブラウンのクリスマス・アルバム

Sings Christmas Songs/Charles Brown

ON AIR LIST
1.Please Come Home For Christmas/Charles Brown
2.Merry Christmas Baby/Charles Brown
3.Christmas Blues/Charles Brown
4.Christmas In Heaven /Charles Brown

今年もクリスマスの季節になりました。この時期はウキウキする人もいるでしょうし、年末の忙しさでそんな暇もないという人も多いでしょうが、私は小さい頃からこのクリスマス・シーズンや年末は寂しい季節という印象です。子供の頃に私の家ではクリスマスやからと言ってプレゼントや特別なこともなく、ケーキを兄と分け合って食べていたくらいです。大人になってからも女性とロマンティックなクリスマスを過ごした記憶もなく、ライヴをたくさんやっていた思い出くらいです。
でもクリスマス・ソングは好きでいまもいろんなミュージシャンのクリスマス・アルバムを見つけると買ってコレクションしています。それで毎年この番組ではこの季節になるといろんなミュージシャンのクリスマス・ソングの特集をON AIRしているのですが、今年はとうとうブルーズのクリスマス・ソングの代表、チャールズ・ブラウンのクリスマス・ソング・アルバムをLPレコードでゲットしましたので今日はまるまるCharles Brown Sings Christmas Songsです。
なんとなくこのアルバムをいつも探していたので中古レコード店で見つけたときはかなり嬉しかったです。
このアルバムは1961年にリリースされているのですが、恐らくアルバム制作へのきっかけとなったのが、その前年60年に”Please Come Home For Christmas”がヒットしたからだと思います。しかもチャールズ・ブラウンには47年に”Merry Christmas Baby”というブルーズの枠を越えたクリスマスソングの大ヒットもあり「この際クリスマス・アルバムを作ってみようや。売れるんちゃうか」ということになったのでしょう・・・知らんけど。
ブルーズ界でクリスマスの大ヒット曲を持っている人はこのチャールズ・ブラウンぐらいで、しかも2曲もです。
まずはその久々のヒットとなったこの曲”Please Come Home For Christmas”(クリスマスには家に帰ってきてくれ)です。
「鐘の音が鳴り響いて喜びを告げるクリスマスやのになんでこんなブルーズやねん。クリスマスのお祝いをしてくれる彼女はおらんし友達もおらん。聖歌隊がサイレント・ナイトを歌い、キャンドルライトのそばにクリスマス・キャロル。クリスマスには帰ってきてくれへんか。もしそれが無理やったら新年の夜あたりにでも」と懇願してます。1960年リリース 。

1.Please Come Home For Christmas/Charles Brown

まあ私のような古い日本人はクリスマスソングが好きでも別にパーティやろやなんちゅうことにはなりません。昔、バブルの頃に若い男どもが一年も前から高いホテルを彼女のためにクリスマスに予約して・・いう話がよくありましたが、あんなんまだやってるヤツおるんでしょうか。そもそもクリスマスってキリストが生まれたのをお祝いするキリスト教の宗教行事ですからね。そんな聖なる夜に高いホテルで性なることをするってどうやねんいう話です。年寄りの愚痴みたいに聞こえるでしょうけどね。
ではチャールズ・ブラウンのもう一曲のクリスマス、大ヒットソング
「メリークリスマス、ベイビー、クリスマスの日に彼女はよくしてくれるねん。ダイヤモンドくれるし俺は天国にいる気分や。ラジオからもええ音楽が流れてくるしええ気分や。ヤドリギの木の下に立ってる間にお前とキスしたいなぁ。夜中の3時に煙突からサンタさんがやってきた見たこともない素敵なプレゼントを置いていってくれる。メリークリスマス。今朝はまだ酒飲んでないからクリスマスツリーのようにしっかり立ってるで」

2.Merry Christmas Baby/Charles Brown

「今朝はまだ酒飲んでないからクリスマスツリーのようにしっかり立ってるで」っていうところがブルーズ。ということはこいつはいつも朝から酒飲んでるのか・・・と。いいですね、この歌詞。
いま思い出したんですが、年末のカウントダウン・コンサートいうのもまだやってるんでしょうか。私も毎年のようにカウントダウン・コンサートに呼ばれてでていたんですが、あれ本当にイヤでした。特に年が変わる前からみんなで10,9,8,7・・ってカウントするやないですか、あれがね何が嬉しいのか楽しいのかわからないんです。アメリカみたいに隣にいる女の子にキスできるわけでもなく、みんなで秒読みするのがなんか子供っぽくて「しょーもな」と思ってました。
曲に戻りましょか。次の曲はチャールズ・ブラウンのピアノ始め参加メンバーがいかに腕の立つミュージシャンだったかよくわかる曲です。いわゆるジャズ系のミュージシャンたちですが、バックの演奏も聴いてください。

3.Christmas Blues/Charles Brown

メンバー全員が腕の立つミュージシャンです。
少しチャールズ・ブラウンの話をしますと、”Please Come Home For Christmas”と”Merry Christmas Baby”というクリスマス・ブルーズが有名なんですが、実は”Driftin’ Blues”が46年R&Bチャート2位、51年にはR&Bチャート1位になった”Black Night”というブルーズ史上に残る名作を作ったピアニスト&シンガーでブルーズ界のナット・キング・コールとも呼ばれる人です。聞いてもらっているように柔らかい歌い口でソフトなムードでありながら都会の孤独を歌ったブルーズがウエストコーストの都会に住む黒人たちにウケました。
かのレイ・チャールズはチャールズ・ブラウンのコピーからデビューしたようにピアノ・ブルーズマンの多くがチャールズ・ブラウンに憧れました。クリスマス・ソングのヒットで売れただけのポッと出のミュージシャンとは違います。

ブルースのクリスマス・ソングというのはたくさんあるんですが、やっぱり多いのはクリスマスの日に彼女がいないとか、クリスマスには戻ってきてくれよとかいう情けない内容です。次の曲はB.B.Kingのバージョンで何回かON AIRしましたが、今日はチャールズ・ブラウンで。
「君とここに一緒にいて天国にいるようなクリスマスだよ。もし、君がいなくなったら僕はどうしたらいいかわからない。クリスマスに天国にいる、君といると1年中クリスマスだよ。君がキスしてくれて、天使たちが聖夜の間歌いつづけてくれるのを聴く。雪が降って来て、やどり木があってもういい感じだね。君とここに一緒にいて天国にいるようなクリスマスだよ」

4.Christmas In Heaven /Charles Brown

ブルーズマンとして60年代にクリスマス・アルバムをリリースしたのはチャールズ・ブラウンくらいだと思います。B.B.キングは90年代になってからクリスマス・アルバムを初めてリリースしたとき「クリスマス・アルバムのリリースは私の念願だった」と書いていました。そこには私たち日本人にはわからない深い思いがあるのだと思います。