永井ホトケ隆が選ぶブルーズ・スタンダード曲集vol.22
戦前シティ・ブルーズ-2 ロニー・ジョンソンとビッグ・ビル・ブルーンジー
シティ・ブルーズのギター名人、ロニー・ジョンソンとビッグ・ビル・ブルーンジー
ON AIR LIST
1.Hot Fingers/Lonnie Johnson
2.Playing With The Strings/Lonnie Johnson
3.Guitar Blues/Lonnie Johnson
4.Pig Meat Strut/Big Bill Broonzy
5.Hey Hey/Big Bill Broonzy
1930年代から40年代にかけて北部のシカゴなどで流行った都会派のブルーズのことを、ミシシッピなど南部の田舎で広まった土着的なブルーズに対して「シティ・ブルーズ」と呼ぶ。
シティ・ブルーズが流行った1930年代前半はもちろんまだアコースティック・ギター。南部のブルーズのギターがリゾネーター・ギターのスライド奏法などでアーシーな感じやワイルドさを感じさせるのと比べると、今日聴いてもらうシティ・ブルーズのロニー・ジョンソンやビッグ・ビル・ブルーンジーの演奏は洒落ていて洗練されている。ジャズ、ラグタイム、フォーク、ポップスなど様々なテイストが彼らのギター・スタイルに入り込んでいて、音楽的にもテクニック的にも当時の最先端の音楽だ。
チャーリー・クリスチャン、T.ボーン・ウォーカー、B.B.キングなどジャンルに関係なく、多くのギタリストが憧れたのがギター奏法の革新者でもあるロニー・ジョンソン、そしてビッグ・ビル。
まずはロニー・ジョンソン。ジョンソンはソロでも売れたが、共演やゲスト出演、シンガーのバックなども多くて録音した曲は300曲くらいあると言われている。
まずは一曲、インストルメンタルの曲。
コードを弾いてリズムを切っているのが、デュオを組んでいたエディ・ラングでソロを弾いているのがロニー・ジョンソン。ジョンソンのソロはもうため息しかなく、支えるエディのリズムがこれまた素晴らしい。このふたりの演奏をいま目の前で聴いたらきっと唖然とすると思う。1929年録音。
1.Hot Fingers/Lonnie Johnson
リズムのエディ・ラングは白人でして、当時白人と黒人がデュオを組むというのも大変だったのでエディが偽名を使って録音しているものもあります。
ジャズもブルーズも同じように演奏されていたニューオリンズで生まれのロニー・ジョンソンには、あまり音楽の垣根はなかったように思える。そのギターの上手さを請われてジャズのデューク・エリントン楽団との録音などもあります。
ロニー・ジョンソンは上手いギタリストというだけではなく、優しい歌い口のシンガーでもありました。
実はロニー・ジョンソンと言えばこのヒット曲という1948年R&Bチャートに7週連続1位に輝いた”Tomorrow Night”があるのですが、僕はその曲をレコードでしか持っていなくて、今回のリモートは配信ではアナログレコードは使えないのでまたいつかON AIRします。
では、次はまるっきり1人、ロニー・ジョンソンの完全ソロ
2.Playing With The Strings/Lonnie Johnson
もう曲芸の域です。
ギターがめちゃ上手くてこういう”Tomorrow Night”というスウィートな曲で歌を聴かせてチャートの1位にもなり、いろんな有名なミュージシャンにも共演を望まれ、ヨーロッパにもツアーに呼ばれて行き、順風満帆でしたが、ロニー・ジョンソンは1953年頃から数年間音楽シーンから姿を消してしまいます。もう充分に長い間音楽をやったという気持ちがあったようで、その後は数年フィラデルフィアのホテルで雑用係のような仕事をして静かに暮らしていました。
それをラジオのDJがそういえばロニー・ジョンソンってどうしてるんだろうと番組でしゃべったところ、「この間フィラデルフィアのスーパーでみかけたよ」と番組に連絡があった。その連絡をしたのが同じギタリストのエルマー・スノーデン
1960年にそのエルマー・スノーデンと作った”blues &ballads”というアルバムも素晴らしいです、
ではもう一曲エディ・ラングとのギター・インストの名曲です。その名も・・・ブルーズ・ギター
3.Guitar Blues/Lonnie Johnson
次は時代的にはほぼ被っているもうひとりのブルーズギター名人、ビッグ・ビル・ブルーンジー。ロニー・ジョンソンもビッグ・ビルもそのギターの上手さから自分の録音だけではなく、いろんなミュージシャンの録音にも呼ばれている当時のスタジオ・ミュージシャンでもあります。自分の録音だけでなく他のシンガーのバックなどを含めると500曲は録音されているという。
最初に聴いてもらったロニー・ジョンソンのHot Fingersと1年違い1930年の録音です。リズム・ギターはフランク・ブラスウェル
4.Pig Meat Strut/Big Bill Broonzy
ロニー・ジョンソンほどフレイズは多彩ではないのですが名人芸です。フランク・ブラスウェルのリズム・ギターのバッキングも素晴らしい。やはり名人といえども一緒に演奏するミュージシャンの技量がなければ本領は発揮できないです。
演奏が進むにつれてビッグ・ビルとブラスウェルのふたつのギターがどんどんグルーヴしていくのがわかります。ビッグ・ビルはロニー・ジョンソンよりブルーズ寄りですが、最初はラグ・タイム・ギターを弾いていたのでそのフィンガー・ピッキングぶりはやはり素晴らしい。
曲が多過ぎてスタンダード曲集にどの曲を選ぶのかというのはもうお手上げ状態ですが、クラプトンが「アンプラグド」でカバーしたこの曲がいちばん知られているかも知れません。
5.Hey Hey/Big Bill Broonzy
ビッグ・ビルとかロニー・ジョンソンのようなシティ・ブルーズマンは、同時代のサン・ハウスやブッカ・ホワイトなど南部のブルーズマンと比べると音楽性が洗練されていて、幅も広く多彩です。
ビッグ・ビルが作った戦前のシカゴ・ブルーズを元にマディ・ウォーターズやハウリン・ウルフといったブルーズマンが戦後のエレクトリック・シカゴ・ブルーズをつくりあげて一時代を築くことになっただが、兄貴肌のビッグ・ビルは音楽だけでなく南部からシカゴに出てきた後輩のマディたちの面倒もよくみたそうだ。そして、世話になったマディはビッグ・ビルの死後、ビッグ・ビルへのトリビュート・アルバムを録音しています。