Sam Cooke-2
サムの中の揺るぎないルーツ、ゴスペル
ON AIR LIST
1.That’s Heaven To Me/Sam Cooke
2.Jesus Gave Me Water/Sam Cooke
3.Lovable/Sam Cooke
4.I’ll Come Running Back To You/Sam Cooke
50年代終わりから60年代初め新しいR&Bの動きがやがて「ソウル・ミュージック」と呼ばれる。その最初の礎を築いたのはレイ・チャールズであり、ジェイムズ・ブラウンであり、そしてサム・クック。
サム・クックが人気のゴスペル・シンガーからポピュラーシンガーとしてデビューした57年から60年の三年間在籍したキーン・レコード時代のコンプリート・アルバム5枚組がリリースされた。
キーンレコードで録音された音源には大ヒットした”You Send Me”や”Wonderful World”のようなサム自身のオリジナルもあるが、ほとんどは黒人歌手の先輩として成功していたナット・キング・コールを目指したジャズ・スタンダードのカバー曲でした。
しかし、ゴスペルから歌うことを始めた黒人シンガーたちは終生ゴスペルを忘れることはなく、常に彼らの心の拠り所はゴスペルつまり教会なのだ。あの豪胆に見えるリトル・リチャードでさえポップの世界から神学を学びゴスペルに舞い戻ったことがある。サムもキーンレコードでポピュラーな歌を歌いながらも常にゴスペルのことは忘れなかった。キーンでも少しだけどゴスペルを残しているので聴いてみよう。
「街を歩いている時に見えるものが私にとっては天国だ。5月に咲く可愛い花、一日の終わりに沈む夕陽、その道端で見知らぬ人を助ける人、子供たちがストリートで演奏しているそして会う人すべてに親しくこんにちはと歌う。木の葉が風で飛んでいくのさえ、私にとっては天国だ」サムのオリジナルゴスペルです。
1.That’s Heaven To Me/Sam Cooke
素晴らしい!歌も曲も・・・。英語がわからなくても心に沁み入りませんか。言葉とか性別とか貧富とか人種とかなんかすべてを越えてしまう歌です。つまり教会に行ってない者さえ取り込んでしまうサムの歌唱の凄さ。
いまのはゴスペル・グループ「ソウル・スターラーズ」にいた頃にサムが書いた曲ですが、サムは素晴らしいソング・ライターでもあります。10代の頃に参加していたゴスペルグループHighway QC’sの頃から曲を書いていました。Highway QC’sは高校生のゴスペルグループでしたが、実力のあるいいグループで人気もありツアーにも出ていました。そのリードだったサムはその頃から歌が上手く評判だったし、ルックスも含めてオーラがありすでに人気がありました。残念ながらHighway QC’s時代の音源は残っていません。
その頃サムにとって人生を変える出来事がありました。それはゴスペルグループのトップのひとつ「ソウル・スターラーズ」からリード・シンガーとして選ばれたことでした。いくらサムでもこれは驚いたと思います。しかも、「ソウル・スターラーズ」のそれまでのリード、R.H.ハリスはゴスペル界の超有名シンガー。サムが心から尊敬するシンガーでハリスの歌い方を学んでいました。その後釜というのはかなりのプレッシャーだったと思います。それでもやはりただ者ではないサムはスターラーズの最初の録音でこんなに素晴らしい歌を残しています。
2.Jesus Gave Me Water/Sam Cooke And The Soul Stirrers
サム以外のメンバーはたぶん40代くらいのおっさんです。おっさんの中に10代の歌の上手い若者が加入したわけです。有名なゴスペルグルーブのリードになるのに、最初サムで大丈夫かと思った人もたくさんいました。サムも初ステージはめちゃビビったそうです。何しろゴスペルの世界はすごい歌手がたくさんいてコンサートでいくつかグループが出るときは歌のバトルになります。どれだけ聴衆を沸かしたか、ウケたかがシビアに評価される場所です。
サムの前のリードシンガー、R.H.ハリスはトップクラスのシンガーでしたが、ハリスはスターラーズで何年もツアーを続けて家族をないがしろにしていたことに心を痛めスターラーズを辞める決心をしたのです。今度はサムが厳しいゴスペルツアーにでかけることになります。
僕もゴスペルの世界のことは昔あまり知らなかったのですが、ブルーズマンやR&Bのミュージシャンと同じくらいゴスペルシンガーたちもライヴツアーをやっています。黒人音楽のマーケットではゴスペルは有名になるとお金になり、アルバムも売れるしライヴのオファーもたくさんあります。
サムがゴスペルからR&Bの世界に移っていく様子が分かるのが”The Two Sides Of Sam Cooke”というアルバム。
これはThe Two Sides つまり二面、ゴスペルの面とR&Bの面とサムの両面の曲を収録したアルバムです。いまの曲はゴスペルでしたが、同じアルバムのR&Bの曲を聴いてください。
1956年リリース これはゴスペルの曲”Wonderful(He’s Wonderful)”をLovable(可愛い)に変えて、Heつまり神様をShe彼女に変えてラブソングに仕立てたものでメロディはほぼ一緒です。
3.Lovable/Sam Cooke
ソウル・スターラーズでスペシャルティ・レコードに所属していたサムは、この曲をデイル・クックという偽名でリリースしました。ゴスペルの世界ではゴスペルをやめてポピュラーなR&Bなんかを歌うことは「神様に背いた行為」「裏切り者」と非難する人たちがいて、R&Bを歌って売れればいいのですが、もし売れずに失敗したら・・と、サムはそれが怖かったので偽名を使ったのです。でも、誰もが聴いてすぐ「これサム・クックやろ」と気づくくらいサムの色が出まくってます。スペシャルティレコードから1957年1月にリリースされたこれは売れませんでした。この時期はキーンとスペシャルティとレコードの契約でもめている頃ですが、この後にキーンレコードが九月”You Send Me “をリリースして大ヒットし、あわててスペシャルティが次の曲をリリースした感じです。57年R&Bチャートは1位ポップでは17位。僕の大好きな曲です。
「噂では君は新しい恋人ができたらしいけど、僕の名前を呼んでくれたら僕はいつでも君の元に走って戻るよ」彼女と別れたことを後悔している歌です
4.I’ll Come Running Back To You/Sam Cooke
ソウル・スターラーズでゴスペルを歌っていたサムはキーンレコードに移り、今度はそこから大手のRCAレコードに移籍します。その間に彼は音楽出版社を立ち上げ、1959年自分の”SAR”というレーベルも作りそこではゴスペルのレコードも録音し、いろんなソウル・シンガーをデビューさせました。
サムのあとにジェイムズ・ブラウンやレイ・チャールズが成功して自分のレーヘルを立ち上げましたがサムはその先駆けだったのです。
そして、そこでレコーディングに選んだのが自分のゴスペルの古巣「ソウル・スターラーズ」だった。サムは自分のレーベルで録音して、黒人による黒人のためのレーヘルを作り、出版社をつくりそれまで白人に搾取されていた録音による権利やお金を黒人のものにしょうとしていたのです。
来週はサムのヒット曲を聴きながらポップス界で成功していくサムの話をしたいと思います。