2018.12.07 ON AIR

Otis Rush 追悼 vol.2 「コブラレコード時代のラッシュ」

Otis Rush/I Can’t Quit You Baby(The Cobra Sessions 1956-58) (P-Vine PCD-24038)

Otis Rush/I Can’t Quit You Baby(The Cobra Sessions 1956-58) (P-Vine PCD-24038)

Otis Rush/This One’s Good ‘Un(Blue Horizon 7-63222)

Otis Rush/This One’s Good ‘Un(Blue Horizon 7-63222)

 

ON AIR LIST
1.Double Trouble/Otis Rush
2.It Takes Time/Otis Rush
3.All Your Love(I Miss Loving)/Otis Rush
4.If You Are Mine/Otis Rush
5.My Love Will Never Die/Otis Rush

去る9月20に亡くなった偉大なブルーズマン、オーティス・ラッシュ追悼の二回目です。
前回、コブラレコード時代のラッシュのアルバムがなかなか手に入らなかった話をしましたが、今回はそのアルバム、コブラのラッシュです。
オーティス・ラッシュが50年代半ばにシカゴのコブラ・レコードに録音した曲を集めた赤い縁取りがしてある、通称「コブラのラッシュ」のレコード盤を初めて手にした時は感無量でした。アルバムタイトルは「This One’s A Good ‘Un」。1969年、リリースしたのはイギリスのレコード会社ブルーホライズン
このアルバムに収録されているオーティス・ラッシュの音源は現在日本のP-Vineレコードのコンピでリリースされている。間違いなくブルーズの歴史に残るものだ。

このアルバムのA面の一曲目にレコード針を載せた途端に聴こえて来たマイナー調のこのブルーズが、当時の自分の心に覆い被さり、訴えかけるような歌と泣き叫ぶようなギターの音色にたまらない気持ちになったのを覚えている。
社会の下層に生きる黒人若者の苦しみと苛立ちを感じさせるブルーズ。「愛も仕事も失ってダブル・トラブル(二重の苦しみや)オマエも一生懸命やれば大金もちになれるってみんなはいうけど、オレは着ていく服もないんや」
1.Double Trouble/Otis Rush
1958年の録音。

ラッシュは重いスロー・ブルーズで人気があるけれどアップにも素晴らしい曲がある。のっけのエグ味のある音でギターが切れ込んでくる次の曲は、当時のラッシュのブルーズマンとしての勢いさえ感じさせてくれる。
プロデューサーであるウィリー・ディクソンがベース、ドラムにフレッド・ビロウ、リズムギターにルイス・マイヤーズ、ピアノにリトル・ブラザー・モンゴメリーと、申し分のないシカゴの一流ブルーズマンがバックアップをした充実の一曲です。
2.It Takes Time/Otis Rush

ラッシュはマイナー調の曲が何曲があったことや、彼の歌声がヘヴィな印象を与えることから少し暗いイメージで捉えられている。それが好きではないと言う人もいるけど、日本ですごく人気があるのはその少し暗いイメージとウエットな感覚だと思う。いわゆる黒人のあっけらかんとしたファンキーな明るいイメージではない、内省的なものを感じさせる歌がやっぱりラッシュという感じだ。
次の曲はマイナー調の曲だけどラッシュにしてはファンキーな一曲。
3.All Your Love(I Miss Loving)/Otis Rush

1956年から58年の間にコブラレコードではシングルが8枚、つまり16曲録音された。インディーズとしてはラッシュのシングルは売れていたしまだまだコブラでリリースが続くはずだったが、情けないことに社長のイーライ・トスカーノが大の博打好きで借金を作ってしまい会社は倒産。社長はギャングに殺されてしまった。そこからラッシュの不遇の時代が始まる。
コブラが全盛だった50年代中後期はブルーズからR&Bに黒人音楽の主流が移っていく時代で、プロデュースのウィリー・ディクソンは次のようなR&Bタイプの曲を書いてヒットを狙ったのだと思う。
4.If You Are Mine/Otis Rush

このコブラレコードが60年代を待たずに倒産してしまい、ラッシュはウィリー・ディクソンの紹介でチェスレコードと契約するのだが、チェスはいまいちラッシュをプッシュしなかった。この素晴らしい才能を持った若いブルーズマンに力を入れなかった。それでボビー・ブランド、ジョニー・エースがいるデュークレコードと契約するのだが、ここでもわずか”Home Work”一曲しかリリースされないまま数年が過ぎてしまった。いったいデュークレコードは何を考えていたのかと思うが、そんな不遇の60年代の10年をラッシュはコンピレーション・アルバムに単発でレコーディングするだけでソロアルバムはずっとないまま過ごしてしまう。やっと出たと思った69年コテリオンレコードからリリースした”Mourning In The Mornig”はプロデュースがよくなくて本領は発揮できていない。そして71年にキャピトルに録音した”Right Place,Wrong Time”はその後5年も発売されないというまたまた不遇な時を過ごしてしまう。

こういう風にレコードがリリースされない状態が何年も続いたことはラッシュの精神にダメージを与えたと思う。
来週はその60年代終わりにリリースした”Mourning In The Mornig”から始めたいと思います。
今日聴いたコブラレコード時代のラッシュはどうしても聴いて欲しいブルーズです。赤いアルバムジャケットも出していますので番組のHPを見てください。

2018.11.30 ON AIR

天国へ行ってしまった偉大なブルーズマン、Otis Rush追悼 vol.1

Door To Door/Albert KIng Otis Rush (CHESS /MCA ビクター MVCM-22028)

Door To Door/Albert KIng Otis Rush (CHESS /MCA ビクター MVCM-22028)

Chicago/Blues/Today! (Vanguard /KING KICP2130)

Chicago/Blues/Today! (Vanguard /KING KICP2130)

 

ON AIR LIST
1.So Many Roads/Otis Rush
2.It’s A Mean Old World/Otis Rush
3.I Can’t Quit You Baby/Otis Rush
4.It’s My Own Fault/Otis Rush

 

闘病中だったオーティス・ラッシュが、残念なことに去る9月20日に亡くなりました。83才でした。
オーティス・ラッシュには初来日の日比谷野音の演奏や、ブレイクダウンとツアーをまわった時の演奏、それからシカゴのラッシュご自宅におじゃましたこととか、いろいろな思い出があります。
これでシカゴ・モダン・ブルーズの四天王(ジュニア・ウエルズ、マジック・サム、オーティス・ラッシュ、バディ・ガイ)もバディだけになってしまい寂しい限りです。
それで今回から三回に渡ってオーティス・ラッシュの追悼をしたいと思います。

僕がブルーズを聴き始めた70年代初期、オーティス・ラッシュのソロ・アルバムはなかった。
唯一50年代半ばのコブラレコードのシングルの録音をイギリスのプルーホライズンというレーベルが編集したブートレッグの輸入盤だけだった。
そのアルバムは「コブラのラッシュ」とかジャケットが赤で縁取られていたので「赤いラッシュ」と呼ばれていたが、枚数が少なくてなかなか手に入らなかった。そして、値段がも高かった。
それでもレコード屋に行くと「コブラのラッシュ」「赤いラッシュ」と呪文のように頭のなかで唱えて、そのレコードを探したものです。
その頃よく聴いていたのがコンピレーション・アルバムに入っているラッシュだった。どれが最初だったのかもう覚えていないのですが、今日はそのいくつかのコンピ盤からラッシュを聴いてみようと思います。
まずは1969年にチェスレコードがリリースしたアルバート・キングとのカップリング・アルバム”Door To Door”からです。
1.So Many Roads/Otis Rush
このアルバムには6曲ラッシュは収録されているが、録音されたのはその約10年前1960年。
このSo Many Roadsがすごく印象に残って何度もこの曲だけを聴いた覚えがある。
とにかくシャープなギターの音と「So Many Roads~」と始まる歌のインパクトに心奪われた一曲でした。バックでガッガ・ガッガと機関車のようにステディにリズムを刻むマット・マーフィのギターもいいなと思いました。
そして、次はこれも同じ頃にリリースされた”Chicago Blues Today”というアルバムに入っていたラッシュ。
疾走感のあるギターと豊かな歌声で歌うラッシュがかっこよくて、ブルーズを歌い始めたその頃にカバーした自分の思い出の一曲。一緒にバンドをやっていたギターの塩次伸二もこの曲が好きでした。
「ひとりで生きていくにはつらい世の中。愛してる女は他の男に惚れてる」
2.It’s A Mean Old World/Otis Rush
美しいギターの音色と美しい歌声、ブルーズに対するラッシュの美学がわかるような素晴らしい曲です。僕はT.ボーンの原曲は歴史的な一曲だと思うが、このラッシュのカバーも非の打ち所のない優れたカバーだと思っている。
このアルバム”Chicago Blues Today”は1966年のヴァンガードレコードのリリースで、当時シカゴのクラブで互いに上へ這い上がろうとしていたジュニア・ウエルズ、ジェイムズ・コットン、オーティス・スパンなどこれからが期待されるブルーズマンたちが収録されている。
このアルバムにはもう一曲忘れられないラッシュの素晴らしいスロー・ブルーズが入っている。
イントロの張りのある、そして伸びる歌声からもう心を持っていかれるラッシュの名唱だ。歌の内容は結婚して嫁も子供もいるのに好きな女が出来てもう「オマエと離れられへん」I Can’t Quit You Babyというもの。
君はオレの家庭をめちゃくちゃにして、子供にも冷たくしてるという歌詞が出てくるんですが、自分の苦しい心の内をずっと歌ってるんですが浮気したのオマエやろと言いたいけど・・。
3.I Can’t Quit You Baby/Otis Rush
I Can’t Quit You Babyはレッド・ツェッペリンのカバーを先に知っていたが、オリジナルのラッシュを聴いてみるとツェッペリンのヴァージョンにはわざとらしさを感じるようになってしまった。演奏も大げさに思えて、とくに歌、歌唱の違いをまざまざと感じて・・・その頃からロックを離れて完全に黒人ブルーズに突入してしまった。
当時、僕はウエストロード・ブルーズバンドを京都で結成してブルーズを歌い始めた頃で、ブルーズのレコードも何を買っていいのかわからないところから始まった。でも、その最初にいいアルバムに出会えたことは運がよかった。当時の自分の力量にとってはハードルの高い曲でしたが、次の曲をカバーして京都のディスコで歌ってました。ディスコの支配人に呼ばれるといつも「あんなスローブルーズ歌とてんともっと流行の曲歌わんか!」と怒られてました。そしてウエストロードの最初のアルバムでレコーディングしました。冷や汗ものの稚拙な歌です。これはB.B.キングをカバーしたと思っている方も多いのですが、実は次のオーティス・ラッシュをカバーしました。
自分に貢いでくれるいい女がいたのに他の女に手を出していたら、貢いでくれてた女が他に男を作って逃げられたという最悪の歌だけど大好きなブルーズ。
4.It’s My Own Fault/Otis Rush
最後に最初のアルバート・キングとのカップリング・アルバム”Door To Door”に入っている曲で、この曲はすでに録音していたコブラレコードの”Keep On Loving Me”の再録音だとあとから知りました。

最初はこんな感じでラッシュのソロアルバムがないのでいろんなコンピレーション(当時はオムニバス・アルバム)でオーティス・ラッシュを聴いていました。
次回はいよいよコブラのラッシュをゲットする話とその永遠のラッシュのブルーズを聴きます。

2018.11.23 ON AIR

サザン・ソウル・シンガー、ウィリー・ハイタワー78才のニューアルバム
Out Of The Blue/Willie Hightower (ACE CDCHD 1520)
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ON AIR LIST
1.I Found You/Willie Hightower
2.Somewhere Dry/Willie Hightower
3.Tired Of Losing You/Willie Hightower
4.Easy Lovin’/Willie Hightower
5.Raining All The Time/Willie Hightower

7月に昔のアルバムをON AIRしたウィリー・ハイタワーが日本に来てくれました。
10月27日に東京のビルボードのセカンドステージを僕は観たのですが、落ち着いたサザン・ソウル・マナーの歌は派手さはないんですが、心のこもった誠実な歌でした。
御年78才なので若い頃のハイトーンのところは少し声が出にくそうな感じもありましたが、全体的には78才でここまで歌えるのか・・と感激しました。
そして来日の前になんと初めてのトータルなソロ・アルバム”Out Of The Blue”をリリースをしたことにも驚きました。今日はその新譜を聞きます。しかも全曲新曲です!
今日はウィリー・ハイタワーのニューアルバム”Out Of The Blue”です。
まずは収録されている1曲目
「愛を失ったときのことを想い出すよ。すごく好きだった人が行ってしまってオレは泣けるだけ泣いた。死にたくなるような気持ちなんて初めてだった。この世の中が終わりに思えたし、二度と恋はしないと思っていた。でも、でも、君を見つけた。君と知り合ってしまった」
1.I Found You/Willie Hightower
まだこんなに歌えるバリバリ現役です。
ビルボードで聴いたときに楽屋の出入り口の近くの席でした。それでこの新しいアルバムからの曲を一曲も歌わなかったので、ウィリーが楽屋に戻る時に握手して「新しいアルバムのI Found Youを聴きたいです」って言ったら満面の笑みでもう一度強く手を握り返してくれたので、これは歌ってくれるかなと思ったらサム&デイヴのカバーの「ソウルマン」でした。ちょっとがっかりでした。たぶん、ギターのスティーヴ・クロッパーが一緒に来ていたので有名なクロッパーを立てて彼が昔録音に参加した「ソウルマン」になったんでしょうが・・・。
クロッパーはウィリーの曲をいろいろ間違えてました。というかほとんどの曲ちゃんと弾けてなかったです。ギターの音が聴こえてない時もありました。
クロッパーは日本で知っているお客もそこそこいるので集客が増えるという意図で彼を入れたのでしょうが、もっとしっかり弾いて欲しかったですね。でも、そういう状況でもウィリーは一生懸命歌ってましたよ。

2.Somewhere Dry/Willie Hightower
こういう大人の男の失恋ソウルがまたたまらんのですよ。タイトルがね涙の出ないどこかSomewhere Dry・・

ウィリー・ハイタワーは1940年アラバマの生まれです。多くのソウルシンガーと同じように子供の頃から教会で歌い、ゴスペルクワイアの経験を経てソウル・シンガーになってます。1956年16才でプロに。この当時のソウルシンガーの多くはサム・クックの影響を受けてますが、ウィリーも同じです。7月にウィリーの昔の音源を聴きましたが、その中にウィリーのヒット”If I Had A Hammer”がありましたが、その曲もサム・クックが歌っていたからカバーしたものでした。1960年代なかばからシングルをいろんなレコード会社からリリースしているけれど、チャートのトップ10位に入るような大ヒットはないもののウィリーの歌に魅了される人たちは多かった。大きなヒットはないもののシンガーでいられたのはやはりライヴでの彼の歌の実力があったからです。70年代に突入しアラバマのフェイムレコードと契約し、そこで録音した”Walk A Mile In My Shoes”がチャートの30位に入った。これで勢いがつけばよかったのだけどその後が続かなかった。80年代に入ると録音も少なくなりあまり名前を聞かなくなっていきました。それが今回の久々の録音、78才初アルバムですから驚きました。

今回のアルバムはほとんどテンポがミディアムで早い曲はないのですが、そこがもの足りないと思う人もいるかも知れませんが、僕は返って落ち着いたアルバムになっていると思います。
3.Tired Of Losing You/Willie Hightower
ウィリーはすごく有名にもならなかったし、しばらくシーンから離れて歌っていない時もありました。その時はお母さんの身体の調子が悪くて他の仕事をしながら面倒を見ていたそうです。
4.Easy Lovin’/Willie Hightower

僕はソウル・ミュージックとブルーズが好きになったのが同じ70年代最初に同じように好きになったので、その垣根はなくずっと聴いてきました。オーティス・レディングはじめメンフィスのスタックスレコードのシンガーたち、ジェイムズ・カーやスペンサー・ウィギンスに代表されるゴールドワックスレコードのシンガーたち、バックビートのO.V.ライト、O.Vはその後ハイレコードに移りましたが、そこにいたアル・グリーン、オーティス・クレイ、アン・ピーブルズ・・・本当にサザンソウルが輝いていた60年代70年代でした。いまも活躍しているシンガーもいますが、ディープなフィーリングとソウルという言葉に表されている魂を感じさせてくれるいわゆるサザンソウル・シンガーはすっかり少なくなってしまいました。そんな中、78才のウィリー・ハイタワーのこの新譜はうれしくなる一枚です。
最後にウィリーに言いたいです「たぶん、ステージの上の演奏があなたの思うようにはなってなかったと思います。でも、あなたが心を込めて一生懸命歌ってくれたことをたくさんの人がちゃんとわかってます。少なくとも僕は。だからまた日本に来てください」
Thank You For Coming To Japan,Willie! And I Love Your New Album”Out Of The Blue” Please come to Japan once again.

2018.11.16 ON AIR

追悼:アレサ・フランクリン vol.4
アレサの人生

Love Songs/Aretha Franklin (Atlantic/RHINO/east west japan AMCY-2127)
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ON AIR LIST
1.I Say A Little Prayer/Aretha Franklin
2.Don’t Play That Song/Aretha Franklin
3.OH ME OH MY(I’m A Fool For You Baby)/Aretha Franklin
4.Do Right Woman Do Right Man/Aretha Franklin

ここ三回亡くなったアレサ・フランクリンを聞いて、前回はアレサのゴスペルを聴きました。今回は最後でアレサはどんな人だったのかな・・という話。
アレサは有名な牧師さんの子供として生まれましたが、決して幸せな子供時代ではなかったようです。というのもお父さんは牧師さんでありながらも女性が好きでいつも浮気をしているような人でした。それが原因でお母さんは家を出ていってしまいます。そしてお母さんは若くして亡くなってしまいます。そんな中でアレサは歌がすごく上手かったので教会のマスコット的な存在になり、お父さんが説教をしている時には後ろでちょこんと座り、お父さんに促されると誰もが驚くほどうまくゴスペルを歌いました。お父さんに連れられてゴスペルのツアーに連れられていくこともあり、学校にもあまり行かず大人の世界の中で育ちました。
母親がいない、お父さんは女好き、でも歌ではお父さんに認められたい、歌が上手いので周りからチヤホヤされる、それからアレサは3姉妹なんですがふたりにも歌で負けたくない・・・ある種いびつな世界で彼女は成人したんですね。
お父さんは牧師さんで信仰の世界に生きている人ですから、世俗のことが好きではないと思われがちですが、さっきも言った女性が大好きでもありジャズやR&Bを避けることもなく、アレサがコロンビアレコードでデビューすることが決まった時もお父さんは大喜びだったようです。そして、デビューしたもののあまり売れなかったのでお父さんもイライラし、アレサも私はこんなに歌が上手いのに・・と落胆もしたようです。
やはり、ジェリー・ウェクスラーというプロデューサーに声をかけられてアトランティックレコードでヒットを連発できて本当によかったです。
それで今日はアレサの特集の最後で、まだまだあるアレサのいい曲を聞きます。
僕がたぶん19才くらいの時に初めて買ったソウルのコンピレーション・アルバムで”This Is R&B”というのがあって、それにはサム&デイヴとかウィルソン・ピケットとかパーシー・スレッジとかが収録されてたんですが、その中に入っていたアレサの一曲がこの曲でした。
邦題は「小さな願い」
「朝起きてメイクをする時に、髪をきれいにして服を選ぶ時に私は小さな願い事をする。ずっとあなたのことを愛していますようにと願う。別れないようにと願う」という普通の女性が思う切ない、小さな願いの歌で僕は大好きです。
1.I Say A Little Prayer/Aretha Franklin
バート・バカラックとハル・ディヴッドが作ったこの歌はアレサが歌った68年の前の年にディオンヌ・ワーウィックが歌って最初に大ヒット。でも、アレサのバージョンもポップチャート10位、R&Bチャート3位まで上がるヒットになりアレサの代表曲のひとつとなりました。アレサの最後のライヴとなった昨年11月のエルトン・ジョンのエイズ基金のコンサートの時もアレサはこの曲を歌ったようです。こういうスタンダード的な、ポップの曲を歌ってもお聞きのようにアレサが歌うとソウルになってしまうん。そういう感じはレイ・チャールズにもありますが、歌唱力の底力を感じます。

次もすごく好きな歌です。71年にリリースされた”Spirit InThe Dark”というアルバムに収録されています。
「その曲は聴きたくない。あの人と一緒だった頃を思い出して胸が痛むの。初めてのデートも初めてのキスも覚えている。でも、あなたは嘘をついてたんだよね。ああもうその曲は聴きたくないの」
2.Don’t Play That Song/Aretha Franklin
アレサが録音したほぼ10年前1962年にベン・E・キングが歌ったのがオリジナルです。

次は以前イギリスの女性歌手Luluさんを特集した時にもON AIRした曲です。アトランティックレコードで最初に録音したオリジナル・シンガーはルルさんです。1969年録音でした。これもアレンジからなにからとても上手くできた曲でアレサは1972年に「Young Gifted And Black」というアルバムに収録されています。
「あなたを笑わせるためにおどけてバカみたいにしてるの。みんなは冷たい目で見るけど私は気にしてないわ。あなたをつなぎ止めるのならすべてあなたにあげる。あなたがいなくなったら私の心は壊れてしまう。ああ、あなたのことがすごくすごく好きなの。あなたに夢中なの・・・」Oh Me Oh My I’m A Fool For You Babyというところが切なくてたまりません。
3.OH ME OH MY(I’m A Fool For You Baby)/Aretha Franklin
盲目の愛といいますが、本当に切ない歌です。本当にいい曲でいい歌です。ヒモのような旦那との結婚生活がうまくいかなかった当時、アレサは誰に向かってこれを歌っていたんでしょう。ラブソングはジーザス、神様に向かって歌っていたという話もあります。それとも、最初の幸せな気持ちだった頃に戻りたいと思っていたのか・・・。

最後はアレサがアトランティックで初めて録音した曲で4週に渡って特集したアレサ・フランクリンを終えたいと思います。
最初のシングルのA面になったのは大ヒットした有名な”I NEVER LOVED A MAN THE WAY I LOVE YOU”、で、これはそのB面。でも、アレサらしい深みのある曲にしています。
「女もひとりの人間、おもちゃじゃないんだってわかるべき。男と同じように生きて血が流れているの。だから一緒にいて欲しいのなら私を、女を大切にして欲しい」ダン・ペンとチップ・モーマンが作った本当にいい曲です。アレサはひどい旦那に
4.Do Right Woman Do Right Man/Aretha Franklin

4回に渡って、アレサ・フランクリンの特集をしました。本当に偉大な、ソウルの女王と呼べるのはやはりアレサしかいないです。僕にとっては彼女の歌が強過ぎて聞くのにこちらもパワーが必要です。ある人はアレサの歌は過剰、多過ぎると言いましたが、それがわかります。でも、彼女がなぜ過剰になるほど歌わなければならなかったのか、それは歌にしか彼女の心の行き先がなかったのではないかと思います。有名な牧師の娘に産まれて、絶対音をもつ才能をもったゴスペルシンガーとして育ち、周りからも期待されて、でも母親は早くからいなくて・・無口な子供だったそうです。謎に包まれている13才での出産やいろんなことがあり、やっと結婚しても旦那がダメな奴だったりと・・・大人になってからも彼女が解放されるのは歌っていた時だけだったのでは・・・と思います。アレサのいろんな写真やフィルムを見ていると彼女が沈んでいる顔つきのものがよくあります。僕は彼女の歌に、ポップなものを歌っても、ゴスペルを歌っても、ジャズを歌っても、すべてソウルフルですがいつもその後ろに彼女のブルーを感じてしまいます。
みなさんもまたゆっくりアレサ・フランクリンを聞いてみてください。アレサの冥福を祈ります。

2018.11.09 ON AIR

追悼:アレサ・フランクリン vol.3
アレサのゴスペル

Amazing Grace/Aretha Franklin(Atlantic/RHINO R2 75627)
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ON AIR LIST
1.What A Friend We Have In Jesus/Aretha Franklin
2.How I Got Over/Aretha Franklin
3.Precious Lord/Aretha Franklin
4.Amazing Grace/Aretha Franklin

8月16日に逝去してしまった偉大なシンガー、アレサ・フランクリンの追悼特集は三回目になります。
今日は彼女の音楽的なルーツ、ゴスペルを歌ったアレサを聴いてみようと思います。
知っている方も多いと思いますが、アレサのお父さんは非常に有名なレヴァレント、つまりバプティストの牧師さんだったのです。クラレンス・ラヴォーン・フランクリン、C.L.フランクリンといいます。
レヴァレントの多くは黒人たちの日常の大変さや苦しみの話をしながら、それを神様が救ってくれていつの日か苦しみのない天国に行けるのだというような説教をしながら歌にそのまま流れていくというスタイルです。そのレヴァレントの中でもアレサのお父さんは「百万ドルの声」と呼ばれたほど声がよくて、録音されたレコードは50年代にすごい勢いで売れました。ゴスペルのレコードの中にはほとんど説教で終わっているものもたくさんありますが、アレサのお父さんが途中で歌いだす声は素晴らしくて普通に歌手としても成功したのではないかと思います。
サム・クックはじめ自分の父親が牧師さんというシンガーはたくさんいます。でも、アレサのお父さんは超有名でした。その有名な牧師さんの子供として、しかも歌のめちゃ上手い子供としてアレサは有名でした。当然、父親も自慢の娘で自分の教会で歌わせるだけでなく、ツアーにもつれていき14才で初めてゴスペルを録音しています。その音源を聴くと大人になってからと何も変わっていない。つまり、14才ですでにアレサは超一流の歌手として出来上がっています。

小さい頃の彼女の当時のアイドルはゴスペルのウォード・シンガーズのリード、クララ・ウォードでした。クララも当時超人気のゴスペル・シンガーで、お父さんの教会へ来て歌うこともたびたびあり、アレサの憧れのシンガーでした。
でも、クララはお父さんの愛人でもありました。アレサの歌い方にクララの感じが入っているのはお父さんに「ほら、私はクララみたいに歌えるよ」と言いたかったのかも知れません。
ちなみに牧師さんというと清廉潔白なイメージがありますが、アメリカでは必ずしもそうではなく愛人がいたり、旅先で女性に手を出したり、お金に汚かったりという牧師さんも結構います。つまりゴスペルはレコードも売れるし、ゴスペルシンガーも説教をする有名な牧師さんも教会のアイドルでひとつのビジネスでもあるわけです。ゴスペルの天才少女をもち、「百万ドルの声」といわれた牧師父C.L.フランクリンはそれはみんなにチヤホヤされ、お金もあり・・ということで女性にも手を出していたわけです。
では、今日はまずアレサのゴスペル・アルバムとして有名なライヴ・アルバム”Amazing Grace”から一曲
ゴスペルのスタンダードな曲
クワイア(聖歌隊)をバックに本当に堂々とした・・というかここが自分のホームのような自由なアレサの歌が聴けます。
1.What A Friend We Have In Jesus/Aretha Franklin

この日のライヴにはアレサが尊敬したゴスペル・シンガー、クララ・ウォードも聴きに来ています。もちろんお父さんも、でも、クララはお父さんの愛人でもあるわけです。そんな中、アレサはクララも歌ったゴスペル・クラシックを歌っています。どんな気持ちだったのでしょう。
「How I Got Over どんな風に私は乗り越えてきたのだろう。神様のおかげだ。私達のために命を捧げなくなった神様に私は感謝する。神様は私を導いてくれる」
2.How I Got Over/Aretha Franklin
実は僕は1975年にロス・アンゼルスでアレサのライヴを一度観ています。フォーラムのような大きな会場で、ちょっとクリスマスが近づく頃でほとんどゴスペルをアレサは歌いました。今日聴いているライヴのように大勢の聖歌隊が最初に歌っていたのですが、何人いてもアレサが登場すると彼女の声はスコーンと通るんです。もうとんでもない声量、そして揺るがないピッチ、そしてどんど聴く者を高みつれていく歌の力にほんとうに驚きました。

このアルバム”Amazing Grace”は1972年にロスの教会でライヴ録音されたものですが、バックのメンバーはドラムにバーナード・パーディ、ギターにコーネル・デュプリー、パーカッションにポンチョ・モラレス、この3人は前年の素晴らしいフィルモアウエストのライヴのメンバーと同じです。ベースはチャック・レイニー。アレンジはすべてアレサ本人がやっています。そして牧師のジェームズ・クリーヴランドがこの日の司教でこの催しを取り仕切り、説教もし歌も歌っています。
そして、このアルバム”Amazing Grace”の特徴はゴスペルの曲とポップな曲を融合したところで、マーヴィン・ゲイの「ホーリー、ホーリー」を歌ったり、インストですがジョージ・ハリスンの”My Sweet Lord”も演奏されています。
次の歌はイントロの歌い出しはキャロル・キングの名曲”You’ve Got A Friend”でそこからゴスペルの”Precious Lord”へ流れ、また”You’ve Got A Friend”へ戻るというアレンジですが、このアレンジはアレサだから歌えるので他の歌手では無理です。もう神がかってます。ポップの曲をゴスペルにしてしまうというワザはやはりアレサだからです。
3.Precious Lord/Aretha Franklin
もう鳥肌ものというか・・・信仰のない僕のような者までを天国に連れて行くようなこの歌の力はなんでしょう。多くの黒人たちが日曜日教会で牧師さんの説教とこういうゴスペルの歌に日々の苦しい、抑圧された心を解放される理由がなんとなくわかります。こういうゴスペルの中にいる時だけ高揚する心を彼らは自由にできる。つまりアレサは苦しんでいる黒人たちをそのゴスペルの歌の力で自由にし、束の間ですが解放してあげているわけです。
そして、歌っているアレサ自身も愛人のいる父のことも、それゆえに家を出ていった母のことも、ヒモのようないいかげんなDV男である旦那のことも忘れられ、心を神様に捧げるように全身全霊をもって歌い、心を解放できたのではないでしょうか。
最後にアルバム・タイトル曲、Amazing Graceを16分以上あるんですが、聴けるところまで聴いてください。
4.Amazing Grace/Aretha Franklin

このアルバム、是非ゲットしてください。ネットでもレコード店でも手に入ります。たぶん一生聴くアルバムになると思います。
そして、アレサのことをもっと知りたい方はアレサ・フランクリン「リスペクト」というディヴィッド・リッツが書いて、新井崇嗣(あらいたかつぐ)さんが訳された本を一度読んでみてください。