2017.09.29 ONAIR

多彩なブルーズ・ハーモニカが聴けるコンピレーション・アルバム

Blues Masters, Vol. 4: Harmonica Classics(RHINO R2 71124)

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ON AIR LIST
1.Juke/Little Walter
2.Help Me/Sonny Boy Williamson [II]
3.Rocket 88/Jimmy Cotton Blues Quartet
4.Steady/Jerry McCain
5.I Got Love If You Want It/Slim Harpo
6.Messin’ With The Kid/Junior Wells’ Chicago Blues Band

 

 

 

 

今日はブルーズ・ハーモニカを聴いてみようと思います。今日聴くアルバムはコンピレーション・アルバムでいろんなブルーズマンのハーモニカ・プレイが入ってます。これをリリースしているレーベルはいつも抜群のセンスでコンピレーションしてくれるライノ・レコード。タイトルはBlues Masters, Vol. 4: Harmonica Classics。かなり前に出ていたのを僕は中古盤屋さんでゲットしたものです。
ブルーズのハーモニカというのは本当にいろんな種類があって、いちばんよく知られているのがシカゴ・ブルーズ・ハーモニカ・スタイルだと思います。まあ、そのシカゴ・ブルーズのハーモニカにもいろんなスタイルがあって一概にこれがとは言えないんですが、まずはシカゴ・ブルーズのハーモニカ・プレイヤーとしてというよりすべてを含めたブルーズのハーモニカ・プレイヤーとしてトップにいまも立ち続けるリトル・ウォルター。聴いてもらうのはまだマディ・ウォーターズのバンドのメンバーだった時の録音で、ギターは御大のマディ、そしてギター名人ジミー・ロジャース、そしてドラムはエルジン・エルウッド。 R&Bチャートで1位になったリトル・ウォルターの1952年の大ヒット。
1.Juke/Little Walter
リトル・ウォルター22才の時の大ヒットJuke。ニューオリンズ生まれですが、なんせ12才(小学6年ですから)で家を出てニューオリンズへひとりで行ってからヘレナ、メンフィスあたりからシカゴへ流れ渡ったもう強者です。そのハード生き方を証明するように顔は傷だらけで、彼が喧嘩早い奴だったという話も納得の顔です。
初めての人はチェスレコードからリリースされているベスト・オブ・リトル・ウォルターをまずゲットするといいと思います。

次はリトル・ウォルターと双璧の実力者でウォルターとは違うサザン・ハープ、南部のハーモニカのスタイルを作りあげた偉大なブルーズマン、サニーボーイ・ウィリアムスン。南部のヘレナ、メンフィスそしてミシシッピーのハーモニカ・プレイヤーでこのサニーボーイの影響を受けた人はかなり多い。さっきのリトル・ウォルターはハーモニカの音をアンプを通したアンプリファイドした音にしてサウンドを作った人ですが、サニーボーイはアンプを通さないスタイルです。
彼は映像もいくつか残っていますが、かの伝説のロバート・ジョンソンと一緒に放浪の旅していたこともあり、歌もハーモニカもその演奏する姿からもなんか底知れない怖さみたいなものを感じます。
これから聴く「Help Me」もオレを助けてくれなかったら、オレの面倒を見てくれなかったらオレは新しい女を見つけるさという・・まあオレには女はいっぱいおるんやからな・・と暗に言うてる歌ですが、なんか怖いです。まあオレには女はいっぱいおるんやからなって言うてみたいですけどね。
1963年サニーボーイ・ウィリアムスン
2.Help Me/Sonny Boy Williamson [II]
いまの曲のムードが抜群にいいですよね。本当にブルーズの中のブルーズみたいな曲で曲のグルーヴ感とサニーボーイのなんか地獄の果てまで知ってるような歌声、そのあとに出てくるハーモニカ・プレイもまさにブルーズ。ブルーズのかっこよさ、クールさを持った名曲だと思います。
前も話ましたけどブルーズの世界にはサニーボーイ・ウィリアムスンがふたりいまして、いまのサニーボーイは本名アレック”ライス”ミラーで二番目のサニーボーイということでサニーボーイIIと呼ばれています。で、サニーボーイ1の方は2よりも先にシカゴで活躍したブルーズマンで本名がジョン・リー・ウィリアムソン。ブルーズのスタンダードになっている”Good Morning Little School Girl”を歌ってヒットさせた人です。
やはり、このサニーボーイ1の影響を受けた人もたくさんいるので外せないハーモニカ・プレイヤーですが、このアルバムには収録されていないのでまた次回紹介します。

シカゴに南部から続々と素晴らしいハーモニカ・プレイヤーがやってきたのが、40年代50年代で、次のジェイムズ・コットンも南部メンフィスで叩き上げのブルーズマンで、いま聴いてもらったサニーボーイ2に直接教えを受けた数少ないプレイヤーのひとつりです。最初はサザン・ハープ・スタイルでしたが、シカゴに移ってからはやはりアンプを通した豪快なハーモニカ・サウンドになっていきました。彼の多彩でパワフルなハーモニカもすごく魅力的です。
聴いてもらうのは1965年シカゴでの録音、当時はジェイムズではなくてジミー・コットンと記載されています。
3.Rocket 88/Jimmy Cotton Blues Quartet

僕は1976年にアメリカで初めて彼のプレイを生で聴いたのですが、ちょうど「100%コットン」というファンク・ブルーズの名盤をリリースした直後で、まあライヴはのけぞるくらいすごかったです。最後に唇から血を出すくらい激しいハーモニカ・プレイでした。
次はダウンホームなサザン・ハープの典型でもあるジェリー・マッケイン。
ゆったりしたシャッフル・ビートに乗って広がりのあるおおらかなハーモニカ・サウンドで南部の綿花畑を車で走っているような感じです。
4.Steady/Jerry McCain
こういうゆったり感はハーモニカもそうですが、バックの演奏もダウンホームにならないと出来ません。
最近はハーモニカが流行ってます。ハーモニカは手軽ですぐ音も出るものですから、日本でもたくさんハーモニカを吹いてブルーズをやる人が増えました。簡単そうに見えるし、聴こえますがハーモニカはなかなか奥深く難しいです。とくにブルーズのハーモニカはテクニックも多彩ですが、自分の音が出来てブルーズのムードが作れるのに時間がかかります。でも、身近ないい楽器ですからみなさんもひとつ買ってみて吹いてみてください。
次はルイジアナを代表するファンキーなブルーズマンで60年代のローリング・ストーンズはじめヨーロッパのロックバンドにもめちゃ受けしたスリム・ハーポ。所属したエクセロレコードの独特のサウンドと彼の歌とハーモニカ、そしてギターがぴったりとうまく合わさった唯一無二のかっこいいブルーズサウンドです。
5.I Got Love If You Want It/Slim Harpo
そして、最後はもう一度シカゴに戻り、リトル・ウォルターやサニーボーイの後輩にあたるジュニア・ウエルズ
ジュニアは歌にもハーモニカにも独特の匂いがある人で、この匂いが60年代シカゴのストリートのリアルなブルーズです。
6.Messin’ With The Kid/Junior Wells’ Chicago Blues Band

今日聴いてもらったこのアルバム「Blues Masters, Vol. 4: Harmonica Classics」には、他にもJimmy Reed、Billy Boy Arnold、Snooky Pryor、Paul Butterfield、Lazy Lesterなど素晴らしいハーモニカ・プレイヤーがたくさん収録されています。是非、ゲットしてみてください。ブルーズのハーモニカ・アルバムとしてお薦めです。

2017.09.22 ON AIR

メイヴィス・ステイプルズの75才の誕生日と
彼女の功績を祝ったコンサート

I’ll Take You There – An All-Star Concert Celebration [Live] /Mavis Staples

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ON AIR LIST
1.Respect Yourself/Mavis Staples & Aaron Neville
2.Will The Circle Be Broken/Mavis Staples, Bonnie Raitt, Taj Mahal, Gregg Allman & Aaron Neville
3.The Weight/Full Ensemble
4.Turn Me Around/Mavis Staples & Bonnie Raitt

 

 

 

 

今日は大好きなメイヴィス・ステイプルズの75才を祝うコンサートのライヴ・レコードを聴きます。リリースは今年6月ですがコンサートが開かれたのは2014年の11月ですから、リリースまでにずいぶんと時間がかかっています。

お祝いのコンサートということでメイヴィス・ステイプルと親しいミュージシャンが本当にたくさん参加しているので、僕があまり知らない人もいるのですが知っているところで名前を上げると、ボニー・レイット、ウィルコ(ジェフ・トゥウィーディ)、グレッグ・オールマン、タージ・マハル、ジョーン・オズボーン、アーロン・ネヴィル、マイケル・マクドナルド、エミルー・ハリスなどです。
ではまずアーロン・ネヴィルとのメイヴィスのデュエットを。曲はメイヴィスがステイプル・シンガーズ時代1971年にリリースされたもので、ゴスペル・グループであり、メッセージ・ソングを歌い続け平等や平和そして人種差別の撤廃を訴えたグループらしい歌です。「君自身を大切にしょう、そして仲間も大切にしょう」
1.Respect Yourself/Mavis Staples & Aaron Neville

いまアーロン・ネヴィルが歌っていたパートがメイヴィスのお父さんローバック”ポップ”ステイプルズが歌っていたパートです。お父さんは2000年に亡くなりましたが、ステイプル・シンガーズというグループは1940年代にお父さんと子供たちで結成されたファミリー・ゴスペル・グループです。結成された時、メイヴィスは10才くらいだったと思います。53年メイヴィス14才の時にレコード・デビューです。そして17才くらいの頃にVee Jayレコードからリリースされた「Uncloudy Day」や「Will The Circle Be Broken」がヒットして、それはいまもゴスペルの名曲になっています。
では、その名曲「Will The Circle Be Broken」をこのコンサートで超豪華メンバーで歌っているので聴いてみましょう。
2.Will The Circle Be Broken/Mavis Staples, Bonnie Raitt, Taj Mahal, Gregg Allman & Aaron Neville
寒くて曇った日に亡くなった妹が霊柩車に乗せられて行く時に、運転手に少しゆっくり走ってくれないか、大好きな可愛い妹がいなくなるのが辛いんだよ。神様、天国では輪(The Circle)は壊れることなく、空にはもっといい安住の家があるんですよねと訊ねている歌です。

いまのメンバーの中のグレッグ・オールマンはこの前この番組で追悼特集しましたが、今年の5月に亡くなってしまいましたが、きっと空の上の安住の家にいるんだと思います。
メイヴィスはステイプル・シンガーズ時代からいろんな歌を歌い、さっきのRespect Yourselfをリリースしたスタックス・レコード時代のあとはカーティス・メイフィールドのカートム・レコードで映画のサントラにもなった”Let’s Do It Again”というナンバーワンヒットも出しました。ちょっとポップな歌も歌ったこともありましたし、プリンスのプロデュースでメイヴィスはソロを2枚だしましたが、ずっと一貫して変らないのはゴスペルとメッセージソングを歌いつづける姿勢です。その大きな柱は75年間なにも変っていません。
次の曲は覚えているロック・ファンの方もいると思いますが、ザ・バンドの最後のアルバム「ラスト・ワルツ」でステイプル・シンガーズで歌ったザ・バンドの曲です。これはこのメイヴィスの75才記念アルバムに参加した人みんなで歌ってます
3.The Weight/Full Ensemble
ここ数年メイヴィスはこれまた僕の好きボニー・レイットとよくデュオでライヴをやっているんですよ。YouTubeにも映像が出てるんですが、なんとかこのふたりを日本に呼ぶことはできませんかね。まあ、ふたりともアメリカの音楽の国宝みたいな人たちですからね、ギャラも高いと思いますが・・・・。
4.Turn Me Around/Mavis Staples & Bonnie Raitt
メイヴィスは年とともに少し声が出づらくなっていますが、元気でライヴ活動を続けているし、ここ数年はメイヴィスをリスペクトする白人のロックバンド「ウィルコ」や「ノース・ミシシッピ・オールスターズ」などにプロデュースやバックアップされていいアルバムをリリースしています。
オルタナティヴな音楽を目指す若い白人の彼らは、変らない彼女の音楽への姿勢に共感するところがたくさんあるのでしょう。
僕は1975年にロスで初めて生のステイプル・シンガーズをテレビの公開ライヴでみました。それから3回メイヴィスを見ています。いつもソウルフルで本当に素晴らしい歌を聴かせてくれます。ずっと元気で歌い続けて欲しいです。I Love Mavis!

2017.09.15 ON AIR

オールドスクールスタイルのシカゴ・ブルーズ
「The Cash Box Kings」の新譜”Royal Mint”

Royal Mint/The Cash Box Kings (Alligator Records ALCD 4976)
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ON AIR LIST
1.House Party/The Cash Box Kings
2.Flood/The Cash Box Kings
3.Build That Wall/The Cash Box Kings
4.Daddy Bear Blues/The Cash Box Kings
5.I Come All The Way From Chi-Town/The Cash Box Kings

 

 

 

今日は現在シカゴを中心に活躍する「キャッシュ・ボックス・キングス」のニューアルバム「ロイヤル・ミント」を聴いてみようと思います。
「キャッシュ・ボックス・キングス」は白人のハーモニカのジョー・ノセクが中心になって作られたバンドで2003年にアルバム・デビューしています。40年代50年代のオールド・スクールのシカゴブルーズを目指すバンドとして人気も定着し、アルバムもコンスタントにリリースしていて今回で8枚目か9枚目になると思います。途中から黒人のオスカー・ウィルソンをヴォーカルに据えてバンドの評判が一気に上がりました。やっぱりブルーズは歌ですからね。
今回の主なメンバーはドラムは曲によってケニー・スミスとマーク・ヘインズが叩き、ギターはビリー・フリンとジョエル・ピーターソン、ベースはブラッド・バーというのがキャッシュ・ボックス・キングスとしてクレジットされていて、あとそこにゲスト・ミュージシャンが数人参加していて、そのゲストには僕の友達のピアノのLeeちゃんが参加しています。
まずはジャンプ・ブルーズ的な賑やかなブルーズからアルバムは始まります。
1.House Party/The Cash Box Kings

ジャンプ・ブルーズの王様のルイ・ジョーダンに同じ曲名の曲があるんですが、それとは違ってましたが誰の曲なんでしょうか。確かエイモス・ミルバーンにも同じ曲名があったと思います。
一曲目でこれからパーティが始まるよっていう感じですね。
実は2ヶ月ほど前に僕のライヴのホームである東京のライヴハウスJIROKICHIで演奏終わったあとに流れてたのが次の曲で、僕は思わずハーモニカのコテツくんに「これってマディ・・?やないよね」と言ったくらい歌声もバックもオリジナルのマディに似ていて笑いました。バックのミュージシャンたちも腕利きで、コピー能力がすごいのでほとんどマディのオリジナルのシカゴ・ブルーズ・サウンドの雰囲気そのままのムードが出ています。マディ・ウォーターズやというてもだまされる人がいると思います。
典型的な50年代シカゴ・ブルーズのアンサンブルでシカゴ・ブルーズが大好きな方は「いいね」と気持ちが落ち着く一曲やと思います。途中でピアノ・ソロが出てきますが、ピアノはLEEが弾いてます。
2.Flood/The Cash Box Kings
オスカーさんはマディの息子ビッグビルモーガンフィールドよりいい感じです。
そして4曲目に突如ロックンロールというよりロカビリーな曲が出てきます。最初にオールドスクールスタイルのシカゴ・ブルーズを目指す「The Cash Box Kings」と言いましたので、これはどういうことなんや?と思う方もいると思いますが、前からこういうポップ・ロカビリー的なレパートリーがあるようです。
ちょっと唐突な感じがしないでもないです。こういうロカビリーのセンスはハーモニカのジョー・ノセクらしいのですが、この曲も彼のオリジナルで歌も彼が歌ってます。
3.Build That Wall/The Cash Box Kings

アルバムの4曲目になっていきなりいまの曲が来て、ここで「このアルバムのコンセプトはなんやねん」という感じになる人もいると思います。とくに初めてキャッシュボックス・キングスを聴いた人は・・。箸休め的な感じでちょっとテイストの変った曲を入れるのだったら8曲目に入っている同じノセクさんが歌っている次のようなブルーズの曲で充分箸休めになると思うのですが、どうでしょう。
典型的なブルーズ・バラッドでちょっとジャズ・テイストというこの曲が、アルバムのコンセプトも守りつつ充分に箸休めになっていると思います。
4.Daddy Bear Blues/The Cash Box Kings
Leeのピアノ・ソロもバッキングのギターも見事です。
次はジョン・リー・フッカー・スタイルの曲で、ビリー・フリンとジョエル・ピーターソンのふたつのギターが本当に上手い。あえて希望を言うならもう少しミシシッピ的なアーシーな破壊力欲しいですね。ギター、上手すぎます。でも、歌がやはりいいので聴いてしまいます。
5.I Come All The Way From Chi-Town/The Cash Box Kings
現在のブルーズのあり方はすごく多様になっていて例えばキャッシュボックス・キングスのように、40,50年代の全盛期のシカゴブルーズをリメイクスするようなオールド・スクールなグループもあれば、今年グラミーのコンテンポラリーブルーズ部門を受賞した「ファンタスティック・ネグリート」のように歌詞の内容に現代のブルーズを入れ込んで、サウンド的にはファンクやロック、ヒップホップの要素を柱にブルーズを塗りこんでいるような人たちもいるし、ケブ・モのように戦前ブルーズを踏襲しながら弾き語りのブルーズをやる人、ロバート・クレイのようにソウルよりになっている人、ノース・ミシシッピー・オールスターズのようにルーツにブルーズを持ってオルタナティヴ・ロックをやる人、あと白人のブルーズロックなバンド、そしてバディ・ガイのように毎回違うものをやる人・・・いろいろいるんですが、何を指してブルーズというのか難しくなっています。
僕自身はシカゴ・ブルーズに固執するとか、ニューオリンズものだけとかという限定する気持ちもないし、オーソドックスなブルーズを守ろうという気持ちもないです。僕はブルーズ・ザ・ブッチャーでメンバーが好きな曲を毎回ある程度コンセプトを決めて、自分たちのバンド・サウンドで成り立つものということだけ意識しています。もちろん。個人的には出来てないこともたくさんあります。
ブルーズという音楽は昔に生まれたものですが、古い音楽ではないです。その音楽が新しいか古いかというのはブルーズを演奏する人が、聴く人が「オレ、古い音楽やってるんだよね」とか「古い音楽聴いてるんだ」と思えばもうそれは古いです。でも、昨日新しいものは今日には古いし、昨日古かったと思ったものが今日新しく思えるものもあります。僕はブルーズは、僕がやっているブルーズはいつもずっと新しいと思ってやってます。だからことさら新しさを意識してアルバムを作ったり、演奏することもないし、古いくていいものだから残そうという気持ちもないです。
また、ことあるごとに自分なりのブルーズへの気持ちはこの番組で言っていきたいです
今日はシカゴのいまのバンド「キャッシュボックス・キングス」の新譜ロイヤル・ミントを聴きました。

2017.09.08 ON AIR

ミシシッピー・ブルーズのバックボーンをもつ
オルタナティヴ・ロックバンド”North Mississippi Allstars”の新譜「Prayer For Peace」

Prayer For Peace/North Mississippi Allstars(Sony Legacy SICP5329)

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ON AIR LIST
1.Stealin/North Mississippi Allstars
2.Deep Ellum/North Mississippi Allstars
3.You Gotta Move/North Mississippi Allstars
4.Miss Maybell/North Mississippi Allstars
5.Bid You Goodnight/North Mississippi Allstars

 

 

 

今日は「ノース・ミシシッピ・オールスターズ」の新譜”Prayer For Peace”を聴いてみようと思います。オールスターズというてもメンバーはふたりなんですけどね。
このバンドはルーサー・ディッキンソンとコーディ・ディッキンソンの兄弟で作られたバンドで、ルーサーがギターリストとヴォーカル、コーディはドラムスですがピアノやプログラミングもこなします。ルーサーはブラック・クロウズというバンドにも参加しているので知っている方も多いと思います。
1996年にベーシストのクリス・チューと3人で結成され、2000年に”Shake A Hands With Shorty”というアルバムでデビュー、そのアルバムがグラミーのコンテンポラリー・ブルーズ部門にノミネートされて最初から評判になっていたバンドです。バンドの名前のようにミシシッピで育った彼らはフレッド・マクダウエルやR.Lバーンサイドといった南部の黒人ブルーズマンの影受けたのですが、若いのでパンク的なものやジャム・バンドの影響も受けつつ普遍的な音楽を求めてきました。でも、ブルーズの影響はありますが、ブルーズバンドではないです。

まず一曲聴いてみましょう。この曲で60年代終わりから70年代のサザンロックやザ・バンドを想い出す方もいるかも知れません。オリジナルは1920年代にメンフィス・ジャグ・バンドが録音したものでジャグの有名曲です。
1.Stealin/North Mississippi Allstars
僕はサウンドを聴いてすぐにザ・バンドを想い出しました。
いつも言われて本人たちは嫌かもしれないけれど、彼らのお父さんは60年代からスタジオ・ミュージシャンやプロデューサーとして活躍し、まあライヴもやってましたが、有名なジム・ディキンソン。フロリダのスタジオ・バンドの「ディキシー・フライヤーズ」のキーボードで、アレサ・フランクリンやリタ・クーリッジ、デラニー&ボニー、ローリング・ストーンズのアルバムにも参加してます。自分のソロも出しています。
お父さんは2009年に亡くなられてますが、お父さんが残した功績が大きくていつもお父さんの名前を出されてしまう「ノース・ミシシッピ・オールスターズ」
彼らは楽器もいろいろこなすし、サンプリングもつかうので音楽のテイストはひとつではないので、いまのStealinみたいな曲が続くわけではないんです。スライドギターがフーチャーされた次の曲なんかはもろサザン・ブルーズロックです。
2.Deep Ellum/North Mississippi Allstars
スライド・ギターもうまいんですが、聞くところに依ると物心ついて音楽に興味を持った頃からふたりとも近所の子供とかと遊ばないでスタジオでいろんな楽器をさわって演奏してたらしいです。まあ、音楽オタクっぽいですよね。その音楽オタクみたいなミュージシャンは最近多いんですが、いろんな機材買って自宅録音で自分でひとり録音を楽しむっていう。僕なんかはそういう気持ちが全然ないのでよくわからないし、音楽は何人かでつくるのが楽しいし、録音のノウハウもないですしね。そういう人たちの感じはよくわからないです。

次はローリング・ストーンズもかってカバーしたミシシッピの偉大なブルーズマン、フレッド・マクダウェルのカバーです。
「貧乏人だろうが、金持ちやろうが、ストリートの女だろうが、警官だろうが、誰もが神様が決めた時には動かなければならない」
僕は神様が決めた時にはあの世に行かなければいけないという意味だと解釈しています。
3.You Gotta Move/North Mississippi Allstars
僕はこの曲のカバーに関してはストーンズに軍配を上げます。ノース・ミシシッピも悪くないですけど、リズムのアレンジがあまり好きではないというか、この曲に合ってないような気がします。
元々ディキンソン一家はテネシーに住んでいたんですが、兄弟が10代になった頃北ミシシッピに引っ越したんですよ。そこではジュニア・キンブロウやRL. バーンサイドといった地元のアーシーな黒ブルーズマンたちがヒル・カントリー・ブルーズというもうめちゃ泥臭いブルーズをやっていて、彼らはその影響をすごく受けたわけです。
次はその彼らのルーツのひとつであるヒル・カントリー・ブルーズのテイストでワン・コードで延々とグルーヴが繰り返されるブルーズ。
僕はこういうの大好きです。
4.Miss Maybell/North Mississippi Allstars
今日このNorth Mississippi AllstarsをON AIRしたひとつの理由は、6月から自分バンドのツアーで全国まわっているんですが、僕と同じか少し下の世代の人たち、まあ音楽好きと自称しているおっさんたちとライヴのあとに一緒に飲んだりするんですが、そのおっさんたちがブルーズもロックも含めて昔の音楽しか聴いていない人たちが多いのにちょっとびっくりしています。
音楽を聴くのはパワーいるんですよ。何か素晴らしい音楽を見つけようと昔はしていたのに年取って来るとライヴにも行かないし、あまり新しい人のアルバムも聴かないっていうおっさんが多いです。新しいものを聴いてないのに批判的だったり、無視したりというのはどうかと僕は思うわけです。やっぱり聞いてみてそれでいろんな人たちと音楽について話したりするのが楽しいです、僕は。話してると意見が合わなかったりすることも多いですけど、そういう聞き方、考え方もあるのかと思うことも多いです。それが音楽を聴く楽しみ方のひとつではないでしょうか。家でYouTubeばかり見ていてはダメです。それで音楽を知った気になったらダメです。
最後はアーロン・ネヴィルほかいろんな歌手が歌っています。トラッドなスピリチュアルズ・ソングです
5.Bid You Goodnight/North Mississippi Allstars

他にもいい曲たくさん入ってます。ノース・ミシシッピ・オールスターズのニューアルバムPrayer For Peace。いいですよ。

2017.09.01ON AIR

かって黒人音楽のメッカだったメンフィスの黒人音楽の継承を
伝えようとする映画”Take Me To The River”

Take Me To The River/Sound Track (CSAZ-0001)

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ON AIR LIST
1.Push And Pull/Bobby Rush featuring Frayser Boy
2.Ain’t No Sunshine/Bobby Bland featuring Yo Guti
3.Wish I Had Answered/Mavis Staples And North Mississippi All Stars
4.If I Should Have Bad Luck/Charlie Musselwhite and The City Champs

 

 

 

この春に”Take Me To The River”(約束の地、メンフィス)という映画が公開されました。かってソウルやブルーズの拠点だったメンフィスの音楽を振り返りながら、次の新しい世代が音楽の町メンフィスを受け継いでいくという内容でした。映画は感動するところもたくさんあり、亡くなったボビー・ブランドやオーティス・クレイの姿を見るだけでおっさんはウルウルしてしまいました。でも、メンフィス・ソウルの重要なシンガー、アル・グリーンやアン・ピーブルズが出てこないのはなぜか・・と、まあ不満な点もありましたが、メンフィスの音楽事情を知ってもらうのにはいい映画でした。今日はその映画のサントラ盤を聞いてみようと思います。先週ON AIRしましたチャーリー・マッセルホワイトもこの映画に出てきます。

まずは今年グラミーを受賞したボビー・ラッシュから聞きたいと思います。
歌っているのはメンフィスのR&Bに偉大な功績を残したルーファス・トーマスの曲で70年代のダンス・ナンバー
ボビー・ラッシュにぴったりの選曲です。
ボビー・ラッシュ フィーチュアリング フレイザー・ボーイ
1.Push And Pull/Bobby Rush featuring Frayser Boy
実はいま聴いてもらったようにほとんどの曲の途中でラップが入るんですよ。僕は別にラップを嫌いなわけではないんですが、もし、レジェンドと呼ばれるミュージシャンと若いミュージシャンをコラボするならそれは別にラップでなくてもいいだろうと思う。ラッパーではなくて若い歌手、ちゃんとしたシンガーがレジェンドたちの歌をどう引き継いで歌って行くかということなら僕はもっと興味が持てたと思う。
次は僕がいちばん「これはラップいらんやろ」とちょっとムカッとした曲でボビー・ブランドの”Ain’t No Sunshine”。曲は70年代にビル・ウィザーズがヒットさせたブルーズっぽい曲でビルも素晴らしいんですが、ボビー・ブランドもビルに負けないくらいいい歌を自分のアルバムで残してました。それを聴けると思ったらこれにまたすぐラップが入ってくるんですよ。ブランドはブルーズの世界の中でThe Manまさにこの男こそブルーズの男と言われた偉大なシンガーです。そこにラップはいらないです。ブランドの音楽を本当に愛しているならラップなんか要りません。ここは僕はっきり言うときます。ちょっと怒ってます。でも、聴いてもらわなわからんので聴いてください。ボビー・ブランドフィーチュアリング ヨ・ガッティ
2.Ain’t No Sunshine/Bobby Bland featuring Yo Guti
ボビー・ブランドは2013年に亡くってますが、この撮影の時もすでに車いす状態で録音している。それでスタジオに来てからラップと一緒にやると言われたような感じ。それもまったく面識のないラッパー。ブランドは優しいし、もう病気の身だし・・で「ラッパーとやるのはイヤだ」とは言えないでしょう。フィルムも回っているし。僕が監督なら、ブロデューサーなら絶対にブランドの歌だけで撮りました。言っておきますが、ラッパーの人たちにはなんの罪もないです。プロデュースの問題です。
今度ボビー・ブランドのAin’t No Sunshineのスタジオ盤いつか流しますよ。

それで次も大大大好きなメイヴィス・ステイプルズですが、彼女はオルタナティヴな白人の兄弟のロックバンド「ノース・ミシシッピ・オールスターズ」をバックに歌ってます。ラップはなしです。こういうコラボが正解やと思います。メイヴィスにもラップはいらないです。本当にレジェンドと読んでいるシンガーの歌を継承するなら、そのレジェンドの歌を壊さない無理をしないコラボのやり方が正しいと想います。
3.Wish I Had Answered/Mavis Staples And North Mississippi All Stars
ノース・ミシシッピの連中はメイヴィスの歌と音楽を実によく調べて、研究して、彼女の歌を引き立たせるサウンドを出しているしメイヴィスもご機嫌で歌ってます。これが若い人たちとコラボすることではないのでしょうか。

次のチャーリー・マッセルホワイトの映画の場面はめちゃ面白かったです。
プロデュースする側がインストの曲を用意して録音を始めるんだけど、なかなかいいテイクが取れなくてたぶんチャーリーも気に入らなくて、結局チャーリーは普通にブルーズやるんですが、それがすごくいいんですよ。バックはソウル・ジャズを演奏しているシティ・チャンプというメンフィスのバンド。
チャーリーの素晴らしいハーモニカから始まります。
4.If I Should Have Bad Luck/Charlie Musselwhite and The City Champs
バックのダウンホームなシャッフル・リズムと途中のギターソロも素晴らしい。いかにもスタジオのジャム・セッションというムードたっぷり出ていていいですよね。
つまりこういうことなんですよ。ブルーズのような赤裸裸な音楽にラップを加える必要はないんですよ。このシンプルな音楽の中でお互いに音のやり取りをするのがブルーズです。ラップいれてもそれは付け加えるだけでやり取りではなく、つまりコラボやないんですよ。
結局、僕自身がブルーズを歌っていても「こんなに歴史のある、深い、楽しい音楽がなぜもっとたくさんの人たちに聴かれないのだろうか」と思います。でも、聴いてもらいたいからブルーズに何か加えたり、変に換えてみたりということはしたくないです。ブルーズは生身のままがいちばんいいということを僕は確信しています。つまり、Real Bluesということです。