2022.09.30 ON AIR

黒人音楽の殿堂アポロ劇場を描いた名著「黒人ばかりのアポロ劇場」の再版にちなんでJames Brown/Live At The Apollo を聴く

James Brown/Live At The Apollo

ON AIR LIST
1.MC/Introduction
2.Think/James Brown
3.Cold Sweat/James Brown(3:30cut out)
4.Kansas City/James Brown
5.Bring It Up/James Brown

ニューヨークのハーレムにある黒人音楽の有名老舗劇場「アポロ・シアター」
そのアポロ・シアターで繰り広げられたライヴを幼い頃から見ていたアポロの経営者の息子、ジャック・シフマンが書いた本”The Story Of Harlem’s Apollo Theatre”の翻訳本が新たに改訂されて出版されました。
タイトルは「黒人ばかりのアポロ劇場」翻訳されたのは武市好古さん。実は1973年に初版本が出版されてそれも持っているのですが、今回買い直して読んで見たら73年の時とは違う思いが湧いてきました。
とにかく「アポロ劇場」は黒人ミュージシャンにとって格別な場所でここで観客にウケなければダメという、エンターテイメントのランクが高い劇場で30年代からブルーズ、ジャズ、R&B、ソウル、ファンクといった音楽だけでなくコメディやミュージカル、ダンス、お笑いといった黒人エンターテイメントの殿堂です。ここで録音された素晴らしいライヴ・アルバムもいくつかありますが、今日は私が初めてアポロ劇場を知ったアルバムでもあり、聴いてもらうジェイムズ・ブラウンの素晴らしさを知ったアルバムでもある。ジェイムズ・ブラウンの名盤”James Brown/Live At The Apollo”を聴きながらアポロの話をしたいと思います。
まずは一曲
司会のMCから曲に入って行くライヴ感も楽しんでください。1967年6月25日のニューヨーク、ハーレムのアポロ・シアターへ

1.MC/Introduction

2.Think/James Brown

J.B.と一緒に歌っていた女性シンガーはマーヴァ・ホイットニー。彼女の強烈な歌声も印象に残りますが、J.Bの歌とバックのグルーヴがタイトに繰り出すスピード感がすごいです。
僕は初めてこのアルバムを聴いた時まだロックを聴いていたんですが、ロックにはないこのタイトなリズムや気持ちのいいグルーヴ感に虜になりました。ほぼ毎日このアルバムを聴いてました。
そして、そのあとにブルーズにハマってどんどんと黒人音楽の世界に入って行きました。だからこのアルバムは自分の記念碑的アルバムです。
J.B.は「ファンクの王様」ですが、そのJ.Bのファンクが完全に確立された曲が次の”Cold Sweat”
これを初めて聴いた時は自然と体動いて、リズムの渦の中に入ってる気持ち良さをすごく感じました。

3.Cold Sweat/James Brown(3:30cut out)

もうJBのあまりのカッコよさに今でもホレボレします。今でもこんなすごい演奏できるミュージシャンってそんなにいないと思います。
1962年にもJ.Bはアポロでのライヴ・アルバムをリリースしていて。これが2枚目です。
アポロの話をします。まずはニューヨークのハーレムという黒人たちが住む地域があり、そこではアポロができる前からベッシー・スミス、キャブ・キャロウェイ、ルイ・アームストロングなど黒人一流ミュージシャンたちが活躍し夜な夜な素晴らしいライヴが繰り広げられていました。アポロができる前から「コットン・クラブ」、ラファイエット劇場とかハーレム・オペラハウスなどクラブ、劇場がたくさんありましたが、時代の流れや景気などでなかなか長く続けるのは難しいことだったようです。そんな中、1930年代に開かれたアポロは黒人のための劇場で同胞の黒人観客にウケるかウケないか、ここでは観客の厳しい目がありました。そして有名なアマチュア・コンテストのイベント「アマチュア・ナイト」からも有名ミュージシャンが生まれている。エラ・フィッツジェラルド、ルース・ブラウン、グラディス・ナイト、ジャクソン5などアポロのアマチュア・ナイトに出演しています。
この本「黒人ばかりのアポロ劇場」にも書かれていますが、どんな有名なミュージシャンでもアポロのステージに上がる時はすごく緊張するといいます。それはやはり同胞に受け入れられるかどうかということが、それからの活動の源にもなるからでしょう。
次はブルーズのKansas Cityのカバーですが、J.B流のリズムとサウンドのアレンジがめちゃクールなかっこよさ。

4.Kansas City/James Brown

実は僕は三回アポロに行ってますが中に入ったことがないんです。70年代中頃に二回行ったんですが、その頃は経営が上手くいってなかったのかアポロがずっと閉められていた時期で、そのあと再開されて90年代にニューヨークにレコーディングに行った時も訪ねましたがその時は休みの日で、悔しかったのはその3日後がB.B.キングのライヴだったという・・・。
「黒人ばかりのアポロ劇場」にはステージからは見えない舞台裏の話(ギャラのことやステージ前のミュージシャンの姿など)が生き生きと書かれています。
ビル・コスビーはじめコメディアンたちのイタズラや辛辣な話も出てきます。ぜひ、ブルーズはじめ黒人音楽ファンには読んでもらいたい一冊です。
ではもう一曲、J.Bのクールなファンクを。

5.Bring It Up/James Brown

実はJBは4年前の1963年にアポロでライヴレコーディンしたアルバムも素晴らしいです。J.Bはいい演奏ができるアポロが好きだったんでしょう。

2022.09.23 ON AIR

エルヴィス・プレスリーに大きな影響を与えた歌手ロイ・ハミルトン

Mr. Rock and Soul/Roy Hamilton

On Air List
1.You Can Have Her/Roy Hamilton
2.Unchained Melody/Roy Hamilton
3.I’ll Come Running Back to You/Roy Hamilton
4.I’ll Come Running Back to You /Sam Cooke
5.Mr. Rock and Soul/Roy Hamilton

私も長い間ブラック・ミュージックを聴いて来たのですが、今日のロイ・ハミルトンは名前を知っているだけでなんとなくずっとスルーして来ました。しかしこの夏にエルヴィス・プレスリーを取り上げた映画「エルヴィス」が公開されて、エルヴィスに影響を与えたシンガーの中にロイ・ハミルトンの名前があり一度しっかり聴いてみようと今回アルバムをゲットしました。
エルヴィスは黒人のブルーズやR&B,ゴスペルそして白人の音楽であるカントリー&ウエスタンやヒルビリーに影響を受けて自分の歌唱スタイルを築き上げたシンガーです。貧しい白人家庭に生まれた彼は黒人たちが住むのと同じ地域に住んでいて自然と黒人音楽に親しんでいました。1950年代という時代に白人であるエルヴィスは音楽によって人種の壁を超えていったシンガーでもありました。その中に今日のロイ・ハミルトンが彼の大好きなシンガーとしていました。
ロイ・ハミルトンは1929年ジョージア州の生まれ。黒人シンガーとしては珍しくオペラやクラシックの歌唱法を勉強し、しかも教会でも歌っていたのでゴスペルの歌唱もできるシンガー。ハミルトンはエルヴィスはじめジャッキー・ウィルソン、”Good Rockin’ Tonight”の大ヒットがあるロイ・ブラウンはじめ多くのシンガーに影響を与えたシンガーです。特にプレスリーに与えた影響は強くて時々「ああ、こういう歌い方をエルヴィスは真似したんだな」とわかるところがいくつかあります。50年代の半ばに大手のエピック・レコードからデビューして”You’ll Never Walk Alone”がR&Bチャートの1位になり。そのあと次々とヒットを出すのですが、なんでも歌ういわゆるスタンダード・シンガーのスタンスなのでぼくはあまり興味がもてなかったのです。
エルヴィス・プレスリーはリトル・リチャードやジャッキー・ウィルソンなど黒人のブルーズ、R&Bシンガーの影響を受けたと言われているのですが、一番影響を受けたのは間違いなくこのロイ・ハミルトンでしょう。個人的にも2人は交流があったようです。

1.You Can Have Her/Roy Hamilton

基本的にバリトンの声なのですが高音へ行く時の声の伸び方が尋常じゃないです。音域の広さも歌のダイナミズムもすごいです。ライヴでこれを聴いたら興奮するでしょう間違いなく。
ロイ・ハミルトンはいくつかニックネームがあって”Mr.Rock And Soul”とか”The Gentle Giant”更には”The Golden Boy Of Song”なんていうのもあります。とにかく歌のうまさは最初から高く評価されていました。いろんな曲を聴いてみると彼を少し前に売れていたナット・キング・コールのように白人にも受けるシンガーにしょうとするレコード会社の意図が感じられます。バックはオーケストラでストリングスも入れてコーラスも入れてゴージャスなサウンドにしてますが、そこが僕があまり好きではないところです
次の歌なんかも彼の歌を聴かせるにはオーバー・アレンジで楽器が多すぎると思います。
白人のライチャス・ブラザースもロイの影響を受けたグループですが、次の曲は映画「ゴースト」で使われていたので知っている方も多いと思います。映画ではライチャス・ブラザーズのバージョンが使われてましたが、今日はロイ・ハミルトンで聞いてみてください。

2.Unchained Melody/Roy Hamilton

ロイさん、楽勝で歌っています。声の音域もすごく広いですし、元々の地声もいい声してます。そういう自分の特性を充分に発揮した上にクラシックの歌唱が入った朗々とした歌い方です。このあたりも好きになれるかどうかの分かれ目です。前今日のロイ・ハミルトンに強い影響を受けたジャッキー・ウィルソンも僕はすごく好きにはなれない。偉そうに言わせてもらうと歌いすぎ。歌が押しすぎというか目いっぱいありすぎて聴いているとしんどくなるんですね。こんな歌うまい人に本当に失礼ですれど。そこにオーケストラにストリングスと・・隙間がなくてちょっと息苦しい感じがします。

次はそのあたりを感じながら聴き比べを聞いてください。同じ曲ですが、ロイとサム・クックです。最初にロイを聞いてください。

3.I’ll Come Running Back to You/Roy Hamilton

4.I’ll Come Running Back to You /Sam Cooke

2人とも上手いのですが、この違いをなんて言うか難しいところです。どちらがいいと言うことではなくロイ・ハミルトンの方はやはりスタンダードな曲作りになっていて自分風のフェイクのテクニックを使ってを歌っていますがそのあたりが分かれ目で、サム・クックの方は歌も音もシンプルでサムが目の前で歌ってくれているような良さがあります。サムはこのあとソウル・ミュージックを作って行く偉大なミュージシャンになるのですが、この歌に関してもソウルの原型みたいなものを聞くことができます。ロイはやはり歌の上手いスタンダード・シンガーという立ち位置なんですね。
最後に”Mr.Rock And Soul”と呼ばれたロイのそのままのタイトルの曲です。

5.Mr. Rock and Soul/Roy Hamilton

エルヴィスはブルーズやカントリー・ウエスタンのカバーから始まり次第にスタンダード歌手になっていったのですが、そのプロセスで憧れたのがそしてお手本にしたのがロイ・ハミルトンでした。たぶんライヴを見たらロイ・ハミルトンの良さはもっとわかると思うのですが、ロイは1969年7月20日に心臓発作で40歳という若さで亡くなりました。

2022.09.16 ON AIR

評判の映画「エルヴィス」そのエルヴィス・プレスリーの初期の歌を聴く

Elvis At Sun/Elvis Presley (BMG BVCM-31120)

ON AIR LIST
1.That’s All Right/Elvis Presley
2.That’s All Right/Arthur Crudup
3.Blue Moon Of Kentucky/Elvis Presley
4.Good Rockin’ Tonight/Elvis Presley
5.Mystery Train/Elvis Presley
6.Milkcow Blues Boogie/Elvis Presley

映画「エルヴィス」が公開されてかなり評判になっていましたが、皆さんご覧なりましたか。
エルヴィス・プレスリーはビートルズ世代の僕よりひとつ前の世代になります。小さい頃、近所のやんちゃなお兄ちゃんたちがプレスリーを真似したリーゼントのヘアーで歩いていたのをおぼえてます。
今日はエルヴィス・プレスリーがその初期に録音を残した「サン・レコード」時代の音源を聴いてみようと思います。メンフィスのサン・レコードはブルーズ・ファンには愛着のあるレーベルでハウリン・ウルフ、ジュニア・パーカー、ジェイムズ・コットンなどのブルーズの録音をたくさんリリースしていました。メンフィスはエルヴィスの地元であることから彼も当然サン・レコードのブルーズをたくさん聴いていました。そして彼が子供の頃住んで地域が黒人たちの居住区と近かったために彼は自然とブルーズ、ゴスペルなど黒人音楽を耳にしていたと言います。
今日聴いてもらう”Elvis At Sun”というアルバムはエルヴィスが初期にどういう音楽的嗜好をしていたのかよくわかる一枚です。
ブルーズ派としてはやはりアルバムに収録されているブルーズ曲が気になりますが、まずは1946年にアーサー・クルーダップが発表した”That’s All Right”のカバー。この曲は1954年エルヴィスのデビュー曲となりました。最初に三曲録音した中の一曲で、他二曲のバラードがあまりバッとしなかった後に歌われました。プロデューサーでもあるサン・レコードの社長サム・フィリップスはこの曲でプレスリーの大きな可能性を見出したと言います。エルヴィスのアコースティックギターのリズムから曲に入ります。エレキ・ギターがスコッティ・ムーア ウッドベースがビル・ブラック。1954年7月のエルヴィスのデビュー・リリース

1.That’s All Right/Elvis Presley

ではここでこの曲の原曲、アーサー・クルーダップのオリジナル・バージョンをちょっと聴いてみましょう。

2.That’s All Right/Arthur Crudup

聴き比べてみるとエルヴイスはブルーズ・テイストもありますが、白人のカントリー・ウエスタンのテイストがありベースも弦をはじくスラップ奏法を使ってます。編成がギター、ウッドベース、そしてエルヴィスのアコースティックギターだけですが、リズムが良いのでグルーヴしていて音が薄いと感じさせません。その頃の社長のサム・フィリップスの口癖は「黒人のように歌える白人のシンガーが出てきたら売れるんだけどなぁ」でしたが、まさにその白人の若者がでてきた瞬間でした。
そしてB面は白人のブルーグラスのシンガー、ビル・モンローの曲のカバーでした。

3.Blue Moon Of Kentucky/Elvis Presley

いま思い出しましたが、確かこの曲、ビートルズのポール・マッカートニーがMTVのアンプラグドのライヴでカバーしていたと思います。
A面”That’s All Right”そしてB面”Blue Moon Of Kentucky”このシングルが売れたことで以後サン・レコードからリリースされたエルヴィスのシングルは片面がブルーズ、もう片面がカントリー、ヒルビリーというセットになりました。つまり、白人にも黒人にも買ってもらえるという目論見でしょう。しかしラジオで流れてくるのを聴いたほとんどの人はエルヴィスのことを黒人シンガーだと思ったようです。
2枚目のシングルのA面となったのはGood Rockin’ Tonight。オリジナルは1947年に黒人シンガーであり、この曲を作ったロイ・ブラウンによってリリースされた曲ですが、その後に歌ったワイノニー・ハリスで大ヒットしてチャート一位になりました。ロックン・ロールの始まりの1曲としても有名な曲です。
プレスリーは1954年9月、さっきのファースト・シングルのリリースから2ヶ月後の2枚目のリリース

4.Good Rockin’ Tonight/Elvis Presley

これもB面がカントリーの曲”I Don’t Care If The Sun Don’t Shine”でした。
今回聴いてもらってるエルヴィスのデビュー直後のサン・レコードの音源でブルース・ファンが気になる一曲は次の「ミステリー・トレイン」でしょう。同じサン・レコードの黒人ブルーズシンガー、ジュニア・パーカーが曲を作り歌った1953年の作品を2年後の1955年にエルヴィスがリリース。
「16両編成の列車がやってきた。俺の彼女を乗せて行ってしまったのさ」と彼女に逃げられた歌かと思いきや3番の歌詞では「線路の上を列車がやってくる。俺の彼女を乗せてやってくる」と彼女は戻ってきたみたいです。

5.Mystery Train/Elvis Presley

次の曲は少し前にON AIRしたココモ・アーノルドがオリジナル・シンガーの曲でミルクカウ・ブルーズ
この曲はスロー・ブルーズで始まるのですが、プレスリーが演奏を止めて「ちょっと変えようぜ」と言ってアップ・テンポのロッキン・ブルーズ、つまりR&Rになるというアレンジ。これでわかるようにロックン・ロールは基本的にそれまでの黒人ブルーズのビートを変えたもの、つまりダンサブルにした音楽だとわかります。
歌詞は出て行ってしまったカウ(乳牛)つまり彼女か、嫁さんに「お前は出て行ったけど、その内オレが恋しくなって俺にしたことを悔やむだろうよ」という曲。

6.Milkcow Blues Boogie/Elvis Presley

エルヴィスは黒人ブルーズにカントリーのテイストを入れて泥臭さを取り、それをロックする早いビートで歌いそれが当時の黒人のブルーズやR&Bを聴きに行けない白人の若者たちに受けたという面もあると思います。それに端正な顔、イケメンでありファッションも最先端。つまりとても歌の上手いルックスのいい白人のアイドルが50年代半ばに誕生したわけです。
来週はエルヴィスが歌手として最も影響を受けただろう、と言うか歌い方がそっくりのロイ・ハミルトンという黒人シンガーの特集です。

2022.09.09 ON AIR

レヴォン・ヘルムが最後に残したメイヴィスとの美しい歌のアルバム”Carry Me Home”

Carry Me Home / Mavis Staples Levon Helm

ON AIR LIST
1.The Weight/ Mavis Staples Levon Helm
2.You Got To Move/ Mavis Staples Levon Helm
3.I Wish I Knew How it Would Feel to Be Free/ Mavis Staples Levon Helm
4.This Maybe The Last Time/ Mavis Staples Levon Helm

70年代数々の名盤を発表し歴史に残るロックバンド「ザ・バンド」。そのドラマーでありヴォーカリストでもあったリヴォン・ヘルムが亡くなったのは2012年。晩年は病と闘いながら最後まで自分のスタジオで録音やライヴ配信などを続け強い意思を持った素晴らしいミュージシャンでした。彼が亡くなる前年2011年にレヴォンのウッドストックのスタジオでこのアルバムは録音されていました。
スタジオ・ライヴ的に録音された曲も多く、特にレヴォンが楽しそうにドラムを叩くシーンがYou Tubeで公開されています。
この録音にはレヴォンのバンドとメイヴィスのバンド、二つのバンドが参加しています。レヴォンのバンドはドラムがリヴォン、ラリー・キャンベル(ギター、マンドリン)、バイロン・アイザックス(ベース)、ジム・ウィーダー(ギター)とブライアン・ミッチェル(キーボード)そしてレヴォンの娘さんのエイミー・ヘルム、そしてテレサ・ウィリアムスがコーラス、そこにホーンセクションという編成。一方メイヴィスのバンドはバンマス的存在でもあるギターのリック・ホームストロム、ジェフ・タームズ(ベース)、スティーヴン・ホッジズ(ドラム)にメイヴィスの姉イヴォンヌ・ステイプルズ。そのイヴォンヌも2018年に亡くなりました。あとダニー・ジェラード、ヴィッキー・ランドルがコーラスで参加。
メイヴィスとレヴォンが仲良くなったのはおそらくザ・バンドの最後のコンサート1978年の有名な「ラスト・ワルツ」に「ステイプル・シンガーズ」としてメイヴィスが参加してからでしょう。
そのラスト・ワルツでも歌っていたザ・バンドを代表するこの曲をまず聞いてください。このアルバム”Carry Me Home”の最後に収録されています。この時あまり歌えなくなっていたレヴォンでしたが、この歌だけシンガーとして絞り出すように歌っています。

1.The Weight/ Mavis Staples Levon Helm

宗教的でもあり私たちが完全に理解するのはなかなか難しい歌ですが、背負っている荷物をおろして休んで楽になるんだという意味でしょう。

メイヴィスは家族で結成された「ステイプル・シンガーズ」のリード・ヴォーカルとして10代からずっとゴスペルやスピリチュアルズを歌い、60年代の後半からソウル・コーラスグループとしてもヒットを出して有名になったのですが、基本的なゴスペルの精神はずっと失わなかったグループでした。
次の歌も古いトラッドな黒人霊歌。1965年に南部のブルーズとゴスペルを歌うフレッド・マクダウェルが録音し、それをローリング・ストーンズがカバーしたことで一躍世の中に広まった曲です。
「身分が高くても低くても、金持ちでも貧しい者でも神様が決めた時にはあの世に行かなければならない」という歌

2.You Got To Move/ Mavis Staples Levon Helm

実はぼくが今度リリースした初めての弾き語りアルバム”Kick Off The Blues”でもカバーしています。聞いてください。

それぞれのバンドで録音した曲もあるようですが、次の曲は二つのバンドが一緒に録音している様子がYouTubeに映像でアッブされてます。本当にレヴォンもメイヴィスも楽しそうに笑いながら、そして周りの人たちもみんなが幸せそうに録音に参加している様子がいいです。曲はニーナ・シモンが作りました。
「自由であるというのがどういう気持ちなのか知りたい。私を縛る鎖を壊すことができるのなら、そして私が言うべきことを全て言えたなら、私は世界中が聞こえるように大きなはっきりした声で言うだろう」
黒人が全てに抑圧されている状況に反発したニーナ・シモンが作った名曲です。

3.I Wish I Knew How it Would Feel to Be Free/ Mavis Staples Levon Helm

最後はメイヴィスのお父さん、ポップ・ステイプルズが作ったゴスペルソング
「これがたぶん最後だろう」と言う意味ですが、レヴォンにとっては最後のアルバムになってしまいました。

4.This Maybe The Last Time/ Mavis Staples Levon Helm

98年に喉頭癌と患ってしまったレヴォンは晩年を病と闘いながら素晴らしいアルバムをリリースし続けました。”Dirt Famer”(2007) ”Electric Dirt”(2009)”Ramble At Thee Ryman”(2011) ライマン
そしてこの”Carry Me Home”を録音したのが最後となりました。偉大なドラマーであり素晴らしいシンガーでありました。個人的にはザ・バンドのメンバーで一番好きです。そのレオヴォンの気持ち、志を持ってメイヴィスは春からずっとツアーを続けて今も元気です。
今日はレヴォン・ヘルムとメイヴィス・ステイプルズがコラボした素晴らしいヴォーカル・アルバム”Carry Me Home”を聞きました。このアルバム買い!です。

2022.09.02 ON AIR

弟エドガー・ウィンターが亡き兄ジョニーに捧げた渾身の追悼アルバム”Brother Johnny”
久々の痛快なブルーズロック・アルバム!

Brother Johnny / Edgar Winter(Quarto Valley Records)

ON AIR LIST
1.I’m Yours And I’m Hers/Edgar Winter
2.Rock ‘n’ Roll Hoochie Koo/Edgar Winter
3.Got My Mojo Workin’/Edgar Winter
4.Drown In My Own Tears/Edgar Winter

ブルーズ・ロックの代表的ミュージシャンのひとりジョニー・ウィンターが亡くなって8年が経ちました。亡くなった少し前に来日して日比谷野音でやったライヴを僕も観に行きました。ジョニー・ウィンターは60年代終わりにデビューし、いつもブルーズを大切にしながら自分の道を歩き続けた人でした。そして多くのギタリストにも影響を与え、現在も彼のフォロワーがたくさんいます。そんな彼の追悼盤というのが長い間発表されなかったのですが、先ごろジョニー弟のエドガーがプロデュースしたアルバム”Brother Johnny”がとうとうリリースされました。仲の良い兄弟で 共演もしてアルバムにも参加してきたので、追悼盤を作るのはやはりエドガーが一番適任だったと思います。
このアルバムにはエドガーとゲスト参加したミュージシャンたちの愛が溢れています。

ジョニー・ウィンターは1969年にCBSレコードからメジャー・デビューしその時のキャッチ・フレイズが「100万ドルのギタリスト」すごくテクニックのあるブルーズ・ギタリストとして注目されていました。しかし彼はブルーズが大好きなひとりのミュージシャンでギターだけを取り上げられるのは本意ではなかったようです。しかし、ロックの中でエレキ・ギターが主役になっていった時代でギターそのものだけでなくアンプやエフェクターも改良され、新しいものもたくさん出てきた頃でギターに注目が集まる時代でした。
そのファースト・アルバムはマディ・ウォーターズのベーシストそしてソングライターでもあるウィリー・ディクソンやハーモニカのウォルター・ホートンが参加していてブルーズ色の強いものでした。そのアルバムに収録されていた曲がカバーされてこの追悼盤にも収録されているのでまずはそれを聞いてみましょう。曲はジョニーのオリジナルです。Z.Z.トップのビリー・ギボンズがリード・ヴォーカルとギター、そしてスライドギター、デレク・トラックスがゲスト参加しています。

1.I’m Yours And I’m Hers/Edgar Winter

70年代はじめに私がよく聴いたロック・アルバムの一つにジョニー・ウィンターの「ジョニー・ウィンター・アンド」があります。当時はロック喫茶でもよく流れていたライヴ・アルバムでブルーズとロックンロールがミックスされたロックの名盤の一枚です。そのアルバムに収録されていた”Rock ‘n’ Roll Hoochie Koo”が今回の”Brother Johnny”でも録音されています。これはジョニー・ウィンター・アンドに参加していたリック・デリンジャーが作りスマッシュ・ヒットさせた曲です。当時のロックの輝きがある曲です。今回のアルバムではエドガーが歌い、ギターにスティーヴ・ルカサーが参加しています。

2.Rock ‘n’ Roll Hoochie Koo/Edgar Winter

しかし今回のこのアルバムの参加ミュージシャンを見るとジョニー・ウィンターの多彩な交流と彼がいかに多くのミュージシャンに尊敬され愛されていたかがわかります。
ざっと名前を挙げるとジョー・ボナマッサ、ケブ・モ、ビリー・ギボンズ、デレク・トラックス、ジョー・ウォルシュ、スティーヴ・ルカサー、ドイル・ブラムホールII、ウォーレン・ヘインズ、ロベン・フォードといったギタリストにマイケル・マクドナルド、リンゴ・スター、ボビー・ラッシュなどなど。
ひとつ忘れてはいけないのは、ブルーズのレーベル「チェスレコード」が倒産した後に在籍してた偉大なマディ・ウォーターズに手を差し伸べてアルバムを作ったのはジョニー・ウィンターでした。ジェイムズ・コットンやパイントップ・バーキンスなども入れたバンドを組みマディをメインにしたコンサートもよくやっていました。ブルーズへのリスペクトのある人でした。そのマディの曲をヴォーカルにボビー・ラッシュを立ててエドガーはピアノを弾いています

3.Got My Mojo Workin’/Edgar Winter

今の曲はブルーズの詩人と呼ばれたパーシー・メイフィールドが1964年にリリースした曲でその原曲はラテン調のファンキーなアレンジなのですが、ジョニー・ウィンターのカバーはまるっきりアレンジして今のようなヘヴィなロックにしていました。
ではジョニーがファースト・アルバムに収録した曲で、レイ・チャールズのヴァージョンが有名なのですが恐らくそのレイのヴァージョンをカバーしたのだと思いますが、今回の追悼盤でエドガーが歌っています。

4.Drown In My Own Tears/Edgar Winter

”Brother Johnny”いいアルバムです。ブルーズロック好きの方は是非ゲットして聞いてみてください。