永井ホトケ隆が選ぶブルーズスタンダード曲集 vol.13
ジャンプ&ジャイヴ・ブルーズ-1
ON AIR LIST
1.Let the Good Times Roll/Louis Jordan
2.Minnie The Moocher/Cab Calloway
3.Choo-Choo Ch’ Boogie/Louis Jordan
4.Saturday Night Fish Fry /Louis Jordan (fadeout)
5.Caldornia/Louis Jordan
いままでテキサスブルーズとかシカゴブルーズとかミシシッピブルーズとか地域単位のブルーズの括りでブルーズスタンダード曲集をやってきましたが、今回はブルーズのジャンルのひとつであるジャンプ&ジャイヴ・ブルーズからスタンダード曲を選んでみようと思います。
なぜ地域的な分類ができないかと言えば、ひとつにはジャンプ&ジャイヴ・ブルーズの流行が全米的な全国区なものだったからです。時代的に言うと40年代。そして40年代のジャンプ&ジャイヴ・ブルーズの流れが50年代に流行るR&B,R&Rの土台になっていった。そして、B.B.キングたちの50年代から60年代のモダン・ブルーズの土台にもジャンプ&ジャイヴ・ブルーズは重要な音楽でした。
では、ジャンプ&ジャイヴ・ブルーズとは何かと言えば、まずジャンプ・ブルーズというのは、ジャズのスイングやブルーズのブギのビートの上にホーンセクションを加えダイナミックかつダンサブルにしたブルーズのことです。ジャイヴというの元々「おふざけ」とか「からかう」「だます」という意味があり軽妙なウィットのある歌詞を歌うことです。ジャンプ・ブルーズに面白いジャイヴな歌詞をつけて歌うことが多かったことからジャンプ・ジャイヴ・ブルーズと言ってます。
では、まずそのジャンプ&ジャイヴ・ブルーズのボスとも言える、代表的なミュージシャン、ルイ・ジョーダン。
「さぁ、楽しくやろうぜ」というパーティ・ソング。
1.Let the Good Times Roll/Louis Jordan
この曲聴いたことがある方もいると思いますが、1980年公開の「ブルーズ・ブラザーズ」の映画でジョン・ベルーシがムショから出てきてアパートでレコードを聴くシーンで流れたのがこの曲です。
そして、その「ブルーズ・ブラザーズ」の映画に登場したのがルイ・ジョーダンの先輩にあたり、30年代から40年代黒人音楽のエンターテナー王様として君臨したキャブ・キャロウェイ。キャブはジャイヴという黒人独特の言い回しで喋ったり、歌ったりしながら、肩幅が広く丈が長いズート・スーツで髪を振り乱して踊りました。
映画にも出演する30年代最高の黒人スターでもあり、ルイ・ジョーダンのノヴェルティな面白い歌詞はこのキャブ・キャロウェイから来ています。
今日はキャブを代表するこの曲を彼も出演した映画「ブルーズ・ブラザーズ」のサントラ・アルバムから聴いてください。
2.Minnie The Moocher/Cab Calloway
こういう面白いというかウィットに富んだ音楽はブルーズ中に古くからあり、黒人音楽のひとつの伝統です。ただ、キャブやルイ・ジョーダンのエンターテイメントは楽しい面白いだけでなく、素晴らしい音楽性や演奏力に裏打ちされていることです。
1990年だったと思いますが、僕はニューオリンズでキャブ・キャロウェイのステージを見ることが出来ました。バックはジャズのイリノイ・ジャケーのオーケストラでドクター・ジョンやチャールズ・ブラウンが先に出て、トリにキャブが出てきて姿を現すと会場の客もミュージシャンもそこにいた全ての人たちがスタンディング・オベーションでキャブを迎えました。アメリカのエンターテイメントにおいては国宝級の偉大な人というのがよくわかる光景でした。
いま聴いてもらった二曲でも少しわかるようにバックグラウンドはジャズなのですが、大衆芸能としてのジャズというのがアメリカにはありまして、芸術としてジャズを追い求めたチャーリー・パーカー、マイルス・デイヴィス、ジョン・コルトレーンたちとは立ち位置が違います。日本のジャズにはこのエンターテイメントとしてのジャズを追い求めた人があまりいません。しかもルイ・ジョーダンが流行っていた40年代日本は戦争に明け狂っていたのでジャンプブルーズがあまり入って来なかったという事情もあります。
さて、ブルーズ・スタンダード・ヒット曲の王様ルイ・ジョーダンに戻りますが、次の曲などはブルーズの伝統的なブギのリズムを使ったつい歌いたくなる楽しい歌です。
3.Choo-Choo Ch’ Boogie/Louis Jordan
ルイ・ジョーダンは最初ジャズのチック・ウェッブのオーケストラでサックスを吹いていました。そして、自分がサックスを吹いて歌うバンド「ティンパニー・ファイヴ」を結成したのが1938年。30才の時です。そして39年から15年くらいデッカというレコード会社に所属してヒット曲を連発し、R&Bチャート1位の曲がなんと18曲もあります。彼の曲もポップで覚えやすくていいのですが、歌詞が黒人たちの日常生活をうまく捉えたもので次の曲なんかもそうです。タイトルが日本語に訳すと「土曜の夜は魚のフライ」
イントロが「ニューオリンズへ行ったことがあるなら知ってるやろけど、土曜の夜になったら大騒ぎや」と始まりますが、つらい仕事に明け暮れるウィークデイを終わって、土曜の夜に誰かの家でハウスパーティをやるんだけど、安くて美味しい魚のフライが必ずパーティに出てきます。それで「土曜の夜は魚のフライ」これもチャート1位。
4.Saturday Night Fish Fry /Louis Jordan (fadeout)
次の曲もチャート1位
カルドルニアという自分より彼女が背が高くて、何にも食べなくて痩せてるんだけど彼女がめちゃ好きやという歌ですが、これ太ってる女の人が多かったアメリカの黒人社会でどうなんでしょう。カルドルニアなんて名前ないやろと思うんですが、あだ名ですかね。日本やとケメコみたいなことでしょうか。B.B.キングは1999年にルイ・ジョーダンのトリビュート・アルバムを出すくらいルイが好きやったんですが、この曲ももちろん歌ってます。
5.Caldornia/Louis Jordan
思い起こせば、B.B.キングのショーでは今日一曲目に聴いてもらったLet the Good Times Rollが一曲目に歌われることも多かったです。B.B.はトリビュートアルバムでルイ・ジョーダンの写真を載せて彼について短い文を書いているのですが、その中で「ルイ・ジョーダンは最初のラッパーだった。彼のライムはあなたを笑わせてくれて、そして踊らせてくれる」と書いてます。確かにいまの曲なんかラップですよね。
ルイの次の時代に流行ったチャック・ベリーのR&Rのあの軽妙な、ノヴェルティな歌詞はあきらかにルイの影響です。そして多くの50年代R&Bもルイの影響をたくさん受けました。
今日はジャンプ・ジャイヴ・ブルーズのスタンダード曲を聴くつもりが結局あまりにヒット曲の多いルイ・ジョーダンで終わってしまいました。来週はロイ・ブラウンやワイノニー・ハリスなどのジャンプ・スタンダードをお送りします!