2021.04.30 ON AIR

昨年ON AIRした「New Moon Jelly Roll Freedom Rockers」の第二弾!

New Moon Jelly Roll Freedom Rockers Volume 2 (BSMF-2724)

ON AIR LIST
1.She’s About a Mover/Alvin Youngblood Hart
2.Can’t Stand to See You Go/Jim Dickinson
3.Messin’ with the Kid/Jim Dickinson
4.Blues For Yesterday/Charlie Musselwhite

昨年11月に番組でON AIRして好評だった「New Moon Jelly Roll Freedom Rockers」の第二弾が3/19にリリースされました。
メンバーは前回と同じで「ノース・ミシシッピ・オールスターズ」のルーサーとコーディのディッキンソン兄弟にこのアルバムを録音して亡くなってしまった父親のジム・ディッキンソン、そしてハーモニカのチャーリー・マッセルホワイト、アルヴィン・ヤングブラッド・ハートにジンボ・マシス。

まずアルヴィン・ヤングブラッドハートが歌っている曲を聴こうと思うのですが、これどこかで聞いたことある・・と思ったら今は亡きダグ・サームのデビューした頃のサー・ダグラス・クインテットで録音した65年のヒット曲ですね。いいところから選曲してきます。曲を書いたダグ・サームは60年代から活躍していていわゆるテックス・メックスと呼ばれるテキサスとメキシコの音楽がミックスしたような音楽をやってまして、ブルーズはもちろんカントリー&ウエスタン、ケイジャン、ヒルピリーなどのテイストも取り込んだ面白いアルバムを作ってきた人です。残念ながら99年に58歳で亡くなりました。
「いつも通りを歩いているキレイな女の子に見とれていたら、ある日あなた名前は何ていうの?と聞かれて有頂天になるという若い男の歌」です
1.She’s About a Mover/Alvin Youngblood Hart
テンションの高いアルヴィンの歌がいいですね。
この曲はビートルズのリンゴ・スター、ソウルのオーティス・クレイもカバーしてます。

このアルバム「New Moon Jelly Roll Freedom Rockers vol.2」は2007年に録音されていて、録音後にギターとプロデュースの役目もやっていたお父さんのジムが亡くなり14年間日の目を見なかったのですが、カナダのストーニー・プレインというレコード会社から去年リリースされました。その第二弾が今日聞いてもらっているアルバムです。
ルーサーとコーディのディッキンソン兄弟はこの番組でもON AIRしたメイヴィス・ステイプルズの最近のアルバムをプロデュースしたりするオルタナ系のミュージシャンで、ジンボ・マシスもその系統のミュージシャンです。チャーリー・マッセルホワイトは60年代のシカゴでブルーズを始めた白人のベテラン、ハーモニカ・プレイヤー、アルヴィン・ヤングブラッド・ハートはこのレコーディング・メンバーの中でたった一人のアフリカン・アメリカンで1963年のウエストコーストのオークランドに生まれてます。それで子供の頃におばあちゃんがいるミシシッビに夏休みに行ってそこでチャーリー・パットンなどの古いブルーズを聞いてからブルーズに入ったミュージシャン。

次はジミー・リードのダウンホームなブルーズをディキンソンのお父さんジムが歌ってます。ジミー・リードはいろんな曲をよくカバーされるブルーズマンですが、この曲をカバーしている人はあまりいません。
「彼女が去って行くのを見るのは耐えられない」という内容ですが、「初めて会った夜に俺のこと愛してるって言うたの覚えてるか」とか言うてるんですが、最後にはもし行ってしまうやったら電話くれよ。俺は待ってるよ。一人っきりで暮らしてるんや」とえらい情けない話になってます。でも、こういう場合、女性はもう帰ってきません。
2.Can’t Stand to See You Go/Jim Dickinson

このNew Moon Jelly Roll Freedom Rockersというのはジャム・セッションのバンドで継続してずっとやっていこうという感じでもなかったと思います。スタジオにメンバーが円を描くように座ってそれぞれの好きな曲を持ち寄って順番に録音したらしいです。まあ、お互い音楽のルーツがまずブルーズにあることはわかっているし、カバーの曲を録音するのでもみんな知っていてやっている感じです。そういうお互いのルーツが解り合っているとこういうジャム・セッションも楽しいと思います。
次の曲なんかもたぶんジム・ディキンソンが「ジュニア・ウエルズのMessin’ with the Kidを歌おうと思うんやけどどうかな」と言ったら。みんな「ああ、あの曲ね、いいね」という感じだったと思います。
3.Messin’ with the Kid/Jim Dickinson

次はチャーリー・マッセルホワイト。これは彼のオリジナルですね。チャーリーは最近エルビン・ビショップと二人でアルバムをリリースしたり今も精力的に活動していますが、そのエルビンとのアルバム「100 Years Of Blues」でもこの曲をやっています。今年77歳になると思いますが、いろんなミュージシャンとのコラボも多くて本当にいい感じで音楽を続けています。
「転がり落ちるようにハイウェイを行くんだ。日没に向かって転がり落ちて行く。昨日はずっとブルーズだった。辛い時間だったけど俺たちは楽しかった。」
チャーリーの歌が薄味なのでアルヴィン・ヤングブラッドハートの濃い味のスライドギターでいい感じになっています。
4.Blues For Yesterday/Charlie Musselwhite

このNew Moon Jelly Roll Freedom Rockersのvol.2は日本のBSMFレコードからリリースされています。第一弾を聞いていない方是非それも聞いてください。

2021.04.23 ON AIR

永井ホトケ隆が選ぶブルーズ・スタンダード曲集 vol.29
ミシシッピー・デルタ・ブルーズ Vol.3

永遠に歌い継がれるロバート・ジョンソンのスタンダード名曲その2

THE COMPLETE RECORDINGS/Robert Johnson (SME RECORDS SRCS 9457-8)

ON AIR LIST
1.Love In Vain / Robert Johnson
2.From Four Until Late / Robert Johnson
3.Preachin’ Blues / Robert Johnson
4.Me And The Devil Blues / Robert Johnson
5.Kind Hearted Woman / Robert Johnson

前回に引き続きロバート・ジョンソンが残していまも歌い継がれている彼の名曲の紹介ですが、今回は優れたソングライターでもある彼の楽曲に焦点を当てています。
僕がロバート・ジョンソンという名前を初めて知ったのは19歳の頃。オールマン・ブラザーズなどブルース・ロックに興味を持ち始めていた頃にたむろしていたロック喫茶のオーナーが「ブルース聞くならこれやで」と聞かせてくれたのがジョンソンのアルバムだった。しかし、当時まだロック・フリークだった僕は弾き語りの古いジョンソンのブルーズの魅力が全くわからなかった。そして、ほぼ同時期1970年、リリースされたばかりのローリング・ストーンズの”Get Yer Ya Ya’s Out!”に収録されていた”Love In Vain”の解説でロバート・ジョンソンの名前を見つけ、それがジョンソンの曲であると知りました。ストーンズのカバー・バージョンはエレキ・バンドのサウンドということもありすんなり聞くことができたのですが、今から聴く弾き語りのジョンソンのオリジナルを受け入れられるようになるにはそれから2年ほどかかりました。
「虚しき愛」と邦題がつけられたこの曲は列車で去っていく彼女を駅で見送り、彼女との愛が終わったことを歌った悲しい曲です。列車が駅に入って来て彼女の目を見つめながら泣きそうになってしまう男。そして列車が出発して列車を見送る男の目に入ったのは自分の憂鬱を表すようなブルーのライトと自分の心の中を表すような赤いライト。そして虚しい気持ちだけが残る・・映画のワンシーンのような実に素晴らしい歌詞です。
1.Love In Vain / Robert Johnson
ボブ・ディランが20世紀最高の歌詞と言ったこの”Love In Vain”
ロバート・ジョンソンのような戦前の黒人ブルーズマンは教育をまともに受けられなかったので文字を読めない、書けない人が多かったのですが、ジョンソンは紙に文字を書いていたという話もあり、ひょっとするとこの美しい歌詞なども言葉を選んで紙に書いて作詞したものかもしれないですね。

ジョンソンが次の曲を録音する1937年より15年前、1922年にジョニー・ダン・オリジナル・ジャズ・ハウンズという初期のジャズバンドが録音した”Four O’Clock Blues”という曲を元にしたのではないか、とか盲目のギター名人のブラインド・ブレイクの曲、またはジョンソンが好きだったピアニスト、リロイ・カーの曲から発想を得たのではないかとも言われています。つまり、ジョンソンの多くの曲には彼が聞いて来たそれまでの多くのブルーズ、ジャグ、ゴスペル、初期のジャズなどを自分の曲のテイストに取り込んでいます。自分の想いを歌にするだけでなくジョンソンには他の音楽も取り入れられる音楽的な力量とセンスがありました。次の曲はラグタイムのテイストですが、彼の曲の後ろには彼のミュージシャンとしての懐の深さを感じさせます。
この歌は「四時から夜遅くまで俺は手を握りしめて泣いていた」と始まる。いろんな男と騒いで楽しくやっている彼女に嫌気がさして俺はもうここから出ていくという歌。またしてもジョンソン得意の出ていく歌。
2.From Four Until Late / Robert Johnson

ジョンソンはデルタ・ブルーズの先輩であり師匠でもあるサン・ハウスの影響を強く受けていて、次の曲はサン・ハウスの曲が元になっています。のっけから「朝目が覚めたらブルーズが人間のように歩いてくる」とはじまります。こんな風にブルーズを人間に例えるいわゆる擬人化はブルーズの歌詞に時々見受けられるものです。やってくるブルーズが襲いかかって来て何もかもめちゃくちゃにしてしまう。怖いブルーズという存在に恐れを抱いている歌です。ブルーズという存在が不吉な、日本でいう何か悪い霊のような存在みたいに思えます。
この曲の聞きどころはジョンソンのリズム感のすばらしさが出ているギター・プレイ。グルーヴするワン・コードのギター・プレイにはのちに生まれるファンク・ミュージックの原型のようなものさえ感じられます。恐ろしいブルーズから逃げようとして走っているような曲の疾走感が素晴らしい。
3. Preachin’ Blues / Robert Johnson

ロバート・ジョンソンが悪魔に魂を渡した代わりにギターが上手くなったという有名な伝説があります。ギターの練習を夜中に墓場でやっていたとか、夜中に十字路で待っていると悪魔がやって来て命が短くなるのと引き換えにギターの上手さを悪魔から手に入れたというような話です。次は「俺と悪魔のブルーズ」というタイトルですが「朝早く悪魔がやって来てドアをノックした。俺はやあ、サタン、出かける時間だねと言った。俺は悪魔とかたを並べて歩いた。そして俺の女を気持ちが満足するまで殴ってやるんだ。俺の亡骸はハイウェイの横に埋めてくれ。そうすればグレイハウンドを捕まえて乗ることができるから」と、気持ちの悪い不気味な歌ですが、これもジョンソンならではの名曲です。実にこれも映画のように頭に映像が流れる歌詞です。
4.Me And The Devil Blues / Robert Johnson
「俺の女を気持ちが満足するまで殴ってやるんだ」というところの歌詞がとても不可解なのですが、日頃の不満、心に積もるイライラを女を殴ることでしか発散できないのか。それとも女性という存在に深い不信とか恨みがあるのか・・・本当のところがわかりません

次のKind Hearted Womanの日本盤に「心優しき女」というタイトルがついていたのでぼくは「心優しい女性にぞっこんホレているのに女性の方が何枚も上手で他にも男がいる」そういう歌なのだとずっと思っていたのですが、後からこのKind Hearted Womanというのは男を金で誘っていわゆるツバメ(ジゴロ)として自分の夜の相手にする女のことだとわかって驚きました。たぶんロバート・ジョンソンは放浪の旅の途中で何度もそういう女の世話になっていたようです。ある意味、「心優しき女」というタイトルとは真逆の意味です。「そういう女が何でもしてくれるんだけどあいつらは性格悪いよな」と歌った後に「オレはあの娘に夢中なのに、あの娘はオレを愛してないんだ」という歌詞が出てくるのですが、この場合のあの娘がその悪い女を指しているのかそれとも全く別の女のことを言っているのかは不明です。
この曲がジョンソンが1936年にテキサスのサン・アントニオで初めて録音した曲で実に85年前です。
5.Kind Hearted Woman / Robert Johnson
この曲はジョンソンが録音した後にマディ・ウォーターズ、ロバート・Jr.ロックウッド、ジョニー・シャインズ、エディ・テイラーといったブルーズマンがカバーし、ロックではジョニー・ウィンター、エリック・クラプトンなどがカバーしています。

2021.04.16 ON AIR

永井ホトケ隆が選ぶブルーズ・スタンダード曲集 vol.28
ミシシッピー・デルタ・ブルーズ Vol.2
永遠に歌い継がれるロバート・ジョンソンのスタンダード名曲その1

THE COMPLETE RECORDINGS/Robert Johnson (SME RECORDS SRCS 9457-8)

ON AIR LIST
1.Come On In My Kitchen / Robert Johnson
2.I Believe I’ll Dust My Broom / Robert Johnson
3.Walkin’ Blues / Robert Johnson
4.Ramblin’ On My Mind / Robert Johnson
5.If I Had Possession Over Judgment Day / Robert Johnson

このブルーズ・スタンダード・シリーズのミシシッピー・デルタ・ブルーズの第一回でロバート・ジョンソンの“Sweet Home Chicago”と”Cross Road Blues”を選んだ。
ジョンソンはまだ後世にも聞かれるだろう名曲がたくさんあり、今日のブルーズ・スタンダード・シリーズはロバート・ジョンソンの名曲、スタンダード曲だけを選曲します。
1911年に生まれ、38年に27歳の若さで亡くなったロバート・ジョンソンは29曲を録音しただけですが、この29曲の中にはブルーズ史上重要な曲が多くあります。
ジョンソンはウィスキーに毒を入れられ毒殺されるというセンセーショナルな死だったことや、写真も3枚ほどしかない放浪のブルーズマンだったことからミステリアスにと捉えられがちですが、「ブルーズの作詞作曲家」として最重要人物の一人です。

“Come On In My Kitchen”は人気のある曲でカバーもたくさんされています。ロックだとピーター・グリーン、エリック・クラプトン、デラニー&ボニー、レオン・ラッセル、ジョニー・ウインター、シンプリー・レッドなんかもカバーしていて、ジャズ系のカサンドラ・ウィルソンも絶妙のアレンジで歌っています。末端の私も録音したことがあります。
「雨が降りそうだから台所の中に入っておいでよ」と歌うこの歌が全体的に何を歌おうとしているのか正確に捉えるのは難しいのです。親友から奪い取った女がまた他の男と何処かへ行ってしまいやるせない気持ちの主人公。外には冬の冷たい風も吹き、雨も降りそう。そんな外にどうも思わせぶりな女性がいる。その女に台所に来ていいことしょうぜと誘っている。厳しい冬が来るけれどオマエ、蓄えがなくて冬を越せないだろう。だから台所に入って来いよ。つまりオレといれば心細くないぞ・・と口説いている歌のように思える。降りそうな雨、冬を迎える冷たい風、女に逃げられた男と気をもたせて外から男を見る女、夜が迫るミシシッピの広野の寂しい風景・・そういったものが映画のワンシーンのように心の中に広がる。
30年代綿花畑が広がる南部の田舎で貧しく頼る者も少ないアフリカン・アメリカンの心象が浮かんでくる名作。
1.Come On In My Kitchen / Robert Johnson
スライド・ギターの音色もあり曲全体の寂寥感が滲みでて来る優れた曲です。一緒に旅をしたことのあるブルーズマン、ジョニー・シャインズによると、ある夜、ジューク・ジョイントでジョンソンがこの曲を演奏していたところそこにいた男も女もみんな涙してしまったという話もあります。

次の曲もロバートJr.ロックウッド、ハウリン・ウルフ、ラッキー・ピーターソン、ピーター・グリーンとカバーの多い曲で私もカバーし録音していますが、私はエルモア・ジェイムズがバンドスタイルでカバーしたものを元にしました。
原曲のロバート・ジョンソンは弾き語りにも実は元があり、先輩のブルーズマン、ココモ・アーノルドの歌詞からいくつかを引用しています。ジョンソンは歌詞だけでなく、メロディや曲想もいろんな先達のブルーズマンの曲から引用しており、それまでのブルースの美味しいところを的確に取り入れる才能もありました。
“I Believe I’ll Dust My Broom “のI’ll Dust My Broomとは「俺は出て行く」という意味で「朝が来て目が覚めたら、俺は出て行くよ。お前の好きなあの黒い野郎を部屋に引きずり込むんだろう」と始まるこの曲は、いろんな男に色目を使う女性への不信感に溢れています。ジョンソンにはこういう女性に対する不信感がいつもあり、それゆえにその夜だけの女と一夜を過ごすとさっさと次の街へ行ってしまうということを繰り返したのではないだろうか。
2.I Believe I’ll Dust My Broom / Robert Johnson

次の”Walkin’ Blues”は高校生の頃聞いたポール・バターフィールド・ブルースバンドのカバーでした。これもマディ・ウォーターズ、ジョニー・シャインズ他ロックのボニー・レイット、グレイトフル・デッドにカバーされている。
これも旅に出る歌で「朝起きたら靴を探して出て行きたい気分だ。朝起きたら可愛いバニースもいないし、こんな寂しい家から出て行きたい。最悪の気分だ。貨車に飛び乗って何処かへ行こう。こういうブルーな気分も悪くはないとか言う奴もいるけど、これは最悪の気分だ。」
3.Walkin’ Blues / Robert Johnson
“Walkin’ Blues” は先輩のサン・ハウスの影響が感じられるワイルドな歌と演奏。
ザックザックとリズムを切りながらの見事なスライド・ギターのプレイが聞けるが、弾き語りのブルーズも当然ダンス・ミュージックであったわけでこのジョンソンのようなギターのグルーヴ感、リズムの良さは客を躍らせるのには不可欠だった。
それまではピアニストが左手でガッガ、ガッガ、ガッガ、ガッガとシャッフルのリズムを打ち出していたビートをジョンソンがギターでやったわけですが、このウォーキン・ベースと呼ばれる奏法は今では当たり前ですがブルース史上では画期的なことでした。
次の曲はそれがよくわかるグルーヴィーな曲です。
「放浪したい、ぶらぶらと何処かへいきたい。彼女とは別れたくないけどあいつはオレによくしてくれないからな。走って駅に行って一番電車に乗るんだ」とまたしても女への不信と旅に出る歌。
4.Ramblin’ On My Mind / Robert Johnson
エリック・クラプトンやキース・リチャーズがジョンソンの録音を初めて聴いた時にギタリストがもう一人いると思ったらしいのですが、僕も最初二人だと思ってました。いまの曲を聴いていてもそれを感じます。

次の曲はジョンソンの曲の中ではすごく有名というわけではないのだけど、戦前のこうした弾き語りのブルーズマンが何を歌っていたか教えてくれる一曲です。曲の音楽的な形式は古くからある”Rollin’ And Tumblin’”と同じものですが、歌詞の内容は難しいものです。曲名の「If I Had Possession Over Judgment Day」の Judgment Dayとは、キリスト教でこの世界の最後の日にイエス・キリストが人々に対して行う最後の審判のことで天国に送られる人と地獄に送られる人がいるというもの。だから曲名は「もしオレが最後の審判の日を自分のものにしたなら」となります。ある意味とても怖いタイトルであり、キリスト教から見るととんでもない不届きな考えということになるのでしょう。結局、「ホレていた女を他の男に取られて落ち込んで一晩中泣きあかし、その腹いせに最後の審判の日に神に代わって自分がその女を裁けるのなら、女が神に祈ることさえやらせないぞ」という復習のような歌ではないかと思います。
5.If I Had Possession Over Judgment Day / Robert Johnson
ブルーズにも当然ながらこういう宗教の言葉や神への気持ちが入った曲がいくつもあります。聖なるスピリチュアルズとかゴスペルという宗教歌と俗な歌であるブルーズと両方歌ったブルーズマンもたくさんいます。
アフリカン・アメリカンの日常に神、宗教がいかに根を張っているのかがこういう歌詞でもわかります。

次回もまだまだあるロバート・ジョンソンのスタンダード名曲集の第二回です。

2021.04.09 ON AIR

現在トップの女性ブルーズシンガー、シェメキア・コープランドの新譜

Uncivil War / Shemekia Copeland (Alligator ALCD5001)

1.Uncivil War / Shemekia Copeland
2.Walk Until I Ride / Shemekia Copeland
3.Under My Thumb/ Shemekia Copeland
4.Love Song// Shemekia Copeland

1998年に18歳でデビューしたシェメキア・コープランドの登場はブルーズ・シーンに光を灯すものだった。確かな歌唱力を持ちソウルフルに歌えるブルーズ系の女性シンガーの登場にブルースシーンの期待は大きかった。
ブルーズマン、ジョニー・コープランドの娘として生まれたシェメキアは10代の中頃から父親のステージでオープニング・アクトをしてツアーにも出ていたが、もっと幼い頃から歌い始めていた。病を持ちながらもずっと現役を続けて来た父が97年に突然亡くっなてしまい、その1年後98年にシェメキアは19歳でデビュー・アルバム”Turn The Heat Up”をリリース。そこから2.3年に一枚、着実にアルバムをリリースしながら自分の音楽を作り続けて来た。グラミーにノミネートされてもいるし、いろんな賞も獲得して来た。歌唱力には高い評価を受けているがこれといった大きなヒットにはまだ恵まれていない。今回のアルバムが彼女の更なる飛躍になればいいのですが。

シェメキアの前のアルバム「America’s Child」はブルース・ミュージック・アワードの年間ベストアルバム賞を受賞。そのプロデューサーのウィル・キンブロウが今回もプロデュースとギターで参加している。キンブロウについてはあまり詳しくないのだが90年代から南部で活躍するシンガー・ソング・ライターで、ニール・ヤングの影響を強く受けたようです。「ウィル&ザ・ブッシュメン」はじめいくつかのバンドを結成して解散後ソロになり、ソングライターとして高い評価を受けています。
まずはアルバム・タイトル曲「Uncivil War」
歌詞の内容は「この野蛮な、無益な戦いをいつまで私たちはするのだろうか。誰も勝つ者なんていないこの戦いを」というもので、トランプ前大統領によって分断された現在のアメリカ人たちが憎しみ合うことに警鐘を鳴らす歌になっています。最初にマドリンの音が聞こえて来ます。マドリン・ブレイヤーとしてはもうレジェンドと言ってもいいサム・ブッシュの牧歌的なマドリンの音とこれまたラップ・スティール・ギターの名手ジェリー・ダグラスのドブロ・ギターの音色が印象的にこの曲を彩っています。そして力強いシェメキアの歌声。
1.Uncivil War / Shemekia Copeland
今回のアルバムは前大統領のトランプによってもたされた分断、人種差別そしてずっと解決されない銃社会、性差別、格差などアメリカの持つ問題の提起とそれらに対するシェメキアなりの意見を音楽にして表明したものです。こういう重い問題を音楽としても聴けるものにすることが我々日本人は下手で、やたらメッセージだけに主張が置かれ音楽的でないものが多いのですが、アメリカやイギリスのミュージシャンは音楽的にも受け入れやすいものを上手く作りますね。

次の曲はメイヴィス・ステイプルズが歌いそうなゴスペル・タッチのオリジナル曲。
「空から雨が降ってくる中、タクシーを拾おうとしているけど、どれも止まってはくれないどころかスピードを落とそうともしない。だから私は乗るまで歩く。そして私は頭を高く上げ続ける。私の自由は奪えても私のプライドは奪えない。朝、私の子供が熱を出して泣いている。子供の熱がとても高くなり私は救急に電話をするけれど彼らがやってこないことを私は知っている。だから私は歩く。歩く。私たちは貧しさ、失業、空腹、失望、そして喜びもない中、歩き続ける。乗るまで歩き続ける」
2.Walk Until I Ride / Shemekia Copeland
60年代の公民権運動の頃に作られたような曲でした。

次の歌はローリング・ストーンズでおなじみです。オリジナルのストーンズは男目線で歌っているので、「気ままに振舞っていた態度のでかいわがままな女を自分の女にして思うようにしてやったぜ。いい気分だ。」ということなんですが、ここでは女性が自分の思うような男にしてやった。偉そうな男をおとなしく変えてやったとなるわけです。アメリカの女性は強いですからね。アメリカでは男性の女性へのセクハラやパワハラに声をあげた”ME TOO”の運動が昨今あって、そういうこともバックにありつつの皮肉った歌とも取れます。
3.Under My Thumb/ Shemekia Copeland
何気ないなかなかいいアレンジだと思います。

前のアルバム「America’s Child」でも亡き父のジョニー・コープランドの曲を歌ってましたが、今回のアルバムでもジョニーの曲を最後に歌ってます。
多分お父さんは立派になった娘の歌に喜んでいると思います。
4.Love Song

大好きなシェメキアが今のままでもいいのですが、何か大きなヒット曲があれば彼女の良さがもっと知れ渡り、日本にも来てもらいやすくなるのではないかな。

2021.04.02 ON AIR

永井ホトケ隆が選ぶブルーズ・スタンダード曲集vol.30
モダン・ブルーズ-2
Albert Kingが残した名曲

Born Under A Bad Sign / Albert King (Atlantic SD 7723)

ON AIR LIST
1.Don’t Throw Your Love on Me So Strong / Albert King
2.Cross Cut Saw / Albert King
3.Laundromat Blues / Albert King
4.Born Under A Bad Sign / Albert King

ロック・ミュージシャン特にロック・ギタリストに大きな影響を与えたブルーズマンといえばまず今回聞いてもらうアルバート・キングでしょう。ジミ・ヘンドリックス、エリック・クラプトン、スティービー・レイボーンなど多くのロック・ギタリストがアルバートの曲をカバーし、そのギター・プレイをコピーした。大胆なチョーキング奏法を多用したアルバートのダイナミックなギター・プレイに魅了された気持ちはよくわかる。しかし、今回はスタンダード曲集という楽曲の話なのでギターのことは横に置いての話。
アルバートはミシシッピ生まれ、アーカンソー育ち。アーカンソーでグループを始めてギターを弾いていたが、ジミー・リードとかジョン・ブリムのバンドではドラムを叩いていたこともある。アルバートの最初のヒットは1961年R&Bチャート14位になった。ボビンというレーベルで録音してキングレコードからリリースされた”Don’t Throw Your Love on Me So Strong “
直訳すると「そんなに強く君の愛をオレに投げないで」ですが、歌の内容を聞くと勝手気ままに彼女に振り回されている男が最後に「いつの日かお前が心変わりして世界中オレを探してももうオレを見つけることはできないぜ」と捨て台詞を吐いてます。ギターもいいですが「スモーキー・ヴォイス」と呼ばれるアルバートの膨らみのある独特の歌声が耳に残ります。
1.Don’t Throw Your Love on Me So Strong / Albert King
気ままな女に対して「お前の愛は水道の蛇口みたいだ、水(愛)を出すのも止めるのもお前次第だもんな」という歌詞が英語ならではの洒落た表現がいい。

2メートル近い長身のアルバートのトレード・マークはレフティで弾くギブソンのフライングVという矢のようなシェイプのギター。しかし、まだこの頃はそのギターのことも話題になるほど知られていなった。
彼が全米で知られるメジャーなブルーズマンになったのは1966年にメンフィスの「スタックス・レコード」と契約してからです。スタックスにはブッカーT&MG’sというスタジオ専属のバンドがあり、作詞作曲家チームもいてプロデュースもしっかりしていました。しかも60年代の新しいソウル・ミュージックの動きにも対応していたレコード会社でアルバートにとってはとてもラッキーな契約でした。
スタックスと契約してすぐ66年にR&Bチャートの34位まで上がった次の”Cross Cut Saw”は、元々1941年に弾き語りのブルーズマン、トミー・マクレナンが録音した曲でデルタ・ブルーズマンがよく歌うポピュラーなブルーズだった。それを1964年にメンフィスのR.G.Ford(この人は弁護士と書かれているけどよくわからない人物)という人がプロデュースし歌詞を変えて、地元のローカル・バンド”Binghamton Blues Boys/ブリンガムトン・ブルーズボーイズ”を使って録音した。それはスローブルーズのアレンジになっていて、スタックスはそれを更にラテン・テイストにアレンジしてアルバートに録音させた。
一つの曲にも歴史があります。
2.Cross Cut Saw / Albert King
ファンキーなアレンジで歌詞の「オレはノコギリ(横ノコ)オマエの丸太を切ってやるよ。オレのノコギリはよく切れるから切ってやった女は「また来て切ってね」って言うのさ」とまあノコギリを男性のナニに喩えた歌です。
2018年にこの曲はブルーズの”classic of blues recording”としてブルーズの殿堂入りをしました。

次の”Laundromat Blues “(ローンドラマット・ブルーズ)のローンドラマットとはコインランドリーのこと。これはコインランドリーで他の男と密会している奥さんの話で、朝早く汚れたブラウスでも持ってコインランドリーに行くとそこに浮気相手が待っている。うまくやっているつもりだろうけどオレは忠告しておくよ、お前はどんどん夢中になっててやばいよ。すっかりきれいにならなくてもいいけど一回自分の生活を洗った方がいいんじゃないか」とランドリーにかけた歌詞があるところが憎い。
3.Laundromat Blues / Albert King
コインランドリーで密会という設定にびっくりしますが、アメリカでは多いんですかね。

1967年にアルバートのスタックスでのシングルをコンピレーションしたアルバム”Born Under A Bad Sign”は誰もが認めるブルーズの名盤であり、恐らくこれからもずっとたくさんの人たちに聞かれるアルバムだ。
アルバート・キングのいちばんの代表曲と言えばそのアルバム・タイトル曲「悪い星の下に生まれて」という邦題がつけられた「Born Under A Bad Sign」ロックバンド「クリーム」のカバーでこの曲を知った人も多いはず。
この曲はアルバートの自作ではなくスタックス・レコードのスタジオ・ミュージシャンであったブッカー・T・ジョーンズとソウル・シンガーでありソング・ライターでもあったウィリアム・ベルの共作。バックの演奏はブッカー・T・ジョーンズのバンド、MG’s
「悪い星の下に生まれて、這い這いをし始めた赤ん坊の頃からずっと最低の生活。オレには悪運しか運なんてないよ。不運と揉め事がオレの友達、10才からひとりでなんとかやってきた。字の読み書きもロクにできない。オレの人生はずっと一つの大きな戦いだ。ワインと女がオレの欲しいもの。がっしりした太い足の女がオレを墓場まで運んでくれるさ。悪い星の下に生まれて、這い這いをし始めた赤ん坊の頃からずっと最低の生活。オレには悪運しか運なんてないのさ」
4.Born Under A Bad Sign / Albert King
My Whole Life Has Been One Big Fight(オレの人生はずっと一つの大きな戦いだ)という歌詞に教育をまともに受けられず字の読み書きもままならない南部の田舎から出てきた男が、少しでもいい生活を求めて都会で生きよう戦っている姿が浮かびます。でも、生活は変わらず自分にGood Luck(幸運)なんてない。自分にはBad Luck(悪運)しかないのさと自嘲気味に歌わざるを得ない。そこにアフリカン・アメリカン、黒人たちの厳しい生活を見る思いがします。この歌の思いがバックのMG’sの重い8ビートのリズムと重厚なサウンド、そして切り裂くようなアルバートのギターによってファンク・テイストで演奏され質の高いブルーズとなりました。正に名曲。ブルーズスタンダードだと思います。

アルバート・キングにはトップ10に入った曲はない。最高位で最初に聞いた”Don’t Throw Your Love on Me So Strong”のR&Bチャート14位。しかし、そのユニークでパワフルなギター・プレイとスモーキー・ヴォイスと呼ばれる歌声で印象に残る曲がいくつもある。またそれらの曲は後続のブルーズマン、ロック・ミュージシャンにとってブルーズのスタンダード曲になり今も数多くカバーされている。