2020.02.21 ON AIR

永井ホトケ隆が選ぶブルーズ・スタンダード集 vol.10

戦後エレクトリック・シカゴブルーズ-2
シカゴブルーズで最もヒット曲を出し、スタンダードを残したリトル・ウォルター

Little Walter The Complete Chess Masters (1950-67)/Little Walter( Geffen BOO12636-02)

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ON AIR LIST
1.My Babe/Little Walter
2.Blues With A Feeling/Little Walter
3.You’re So Fine/Little Walter
4.Sad Hour/Little Walter

先週はルイジアナの有名ブルーズ・スタンダード曲を特集したのですが、そのルイジアナにも50年代のシカゴ・ブルーズの勢いは影響を及ぼしてました。とくにジミー・リードや今日聴いてもらうリトル・ウォルターは何曲もヒットチャートの上位に曲を送り込んだので全米に大きな影響を与えました。
天才ハーモニカ・プレイヤーと呼ばれるリトル・ウォルターはブルーズにおけるハーモニカという楽器のイノベーターでした。50年代はじめ、それまでハーモニカは歌を歌うマイクを使って吹いていたが、ハーモニカ用のマイクを使いそれをギターと同じようにアンプに入れて音を増幅させて聴かせるという方法、つまりアンプリファイドが生まれた。最初にそれを効果的に使いシカゴからヒットを何曲も出したのがリトル・ウォルター。彼の曲をたくさん作ったウィリー・ディクソンとともにブルーズへの功績はとても大きいものです。
前に「戦後エレクトリック・シカゴブルーズ-1」のON AIRをしたので、今日は「戦後エレクトリック・シカゴブルーズ-2」をやるつもりでしたが、結局最初に選んだリトル・ウォルターにスタンダード曲が多いので全部リトル・ウォルターの特集みたいになってしまいました。

ポップなテイストのあるこの曲。自分の彼女が真面目で、人をだましたり、馬鹿にしたりするのが大嫌いでしかも可愛いんだとのろけてる歌ですが、たくさんの女性たちに囲まれ大酒のみでホラ吹いて喧嘩ばかりしていたウォルターはどんな気持ちで歌ったのか・・と思うんですが、まあ女性を口説く手段のひとつだったのかも知れません。飲み屋で女性に「あの曲はな、オマエのことを歌ったんやでぇ」とか。
1955年R&Bチャート2位
1.My Babe/Little Walter
4ビート感をもったシャッフルで軽快にスイング。ドラムはフレッド・ビロウ、ベースはウィリー・ディクソン、ギター、ロバートJrロックウッドそしてハーモニカと歌のリトル・ウォルターと・・50年代シカゴブルーズ鉄壁のメンバーです。

13才で家を飛び出てニューオリンズのストリートでプレイし、そのあとシェリヴポート、ヘレナ、メンフィス、セントルイスと渡り歩き1945年シカゴのマックスウェル・ストリートにたどり着く。まだ15才、中学三年です。そして、17才の時にシカゴのマイナーレーベルでジミー・ロジャースのレコーディングでハーモニカを吹く。その後ジミー・ロジャースは御大マディ・ウォーターズに「めっちゃハーモニカのうまい小僧に会ったよ」と伝え、そこからウォルターの運は開けて行く。
マディの録音に呼ばれた彼はそこでハーモニカの新しいサウンドとグルーヴ、フレイズを残すことになった。
そして、御大マディの曲よりもたくさんヒット出すシカゴ・ブルーズスターなったリトル・ウォルター。

リトル・ウォルターはマディ・ウォーターズやジミー・ロジャースなど他のブルーズマンのバッキングに回ったときもハーモニカの素晴らしいサポートぶりを残している。例えば。マディの”I Just Wanna Make Love To You”の途中のウォルターのハーモニカ・ソロとバッキングはあの曲の色を決定づけている。あのハーモニカなくしてはあの曲にならないくらい強烈なカラーを様々な曲で残している。ハーモニカの超絶なテクニックと絶妙なフレイジングとタイミング・・・いまだにブルーズにおけるハーモニカの頂点に立つのはリトル・ウォルターだと思います。
次の重厚なミディアムテンポのグルーヴもフレッド・ビロウとウィリー・ディクソンのリズム隊。ギターはデイヴ・マイヤーズ。
この曲もR&Bチャート2位 1953年
2.Blues With A Feeling/Little Walter
いい意味でのラフな感覚も失わず、グルーヴは緻密。

1954年にも次のYou’re So Fineがチャート2位まであがる売れっ子ぶり。
「もうオマエがええねん。オレのこと好きになってくれや。オレのものになってくれるまでお金も全部あげるしダイヤやなんでも買ってあげるよ。オマエが他の男を好きになったら気が狂いそうになる。オマエが可愛いねん。オマエが最高やねん」
もうめちゃホレてしまった女性への歌ですが、この曲がリリースされた1954年というとチャック・ベリーやリトル・リチャード、そして白人のエルヴィス・プレスリーたちが台頭したR&Rのブームが起きた頃で、一方で黒人音楽の主流はレイ・チャールズ、ルース・ブラウンなどのR&Bへ移っていく時期です。その時代の流れにブルーズは追いついていかなくなります。でも、リトル・ウォルターのブルーズには時代のR&Bのテイストをもったものが多くヒットチャートに上がりました。
普通のブルーズ進行の曲ですが、リズムの感じとか歌のメロディにちょっとしたポップさがあり、マディやウルフの時代とはちょっと違う感じになってます。
3.You’re So Fine/Little Walter
ザクっザクっというシャッフルのリズムが実に気持ちのいい名曲です。

いままでの3曲はいまもカバーする人たちがたくさんいるけれど、次のインスト曲はチャート2位まで上がった割にはカバーする人があまりいないのはなぜか。リトル・ウォルターのハーモニカ・プレイの素晴らしさを存分に味わってください。
ハーモニカ・インスト曲の名曲、名演です。
4.Sad Hour/Little Walter
ギターのステディなビートが刻まれる中を縦横無尽に駆け巡るようなウォルターのハーモニカが素晴らしいです。
まだまだEverything’s Gonna Be Alright,Off The Wall,Who,Boom,Boom,Out Go The Light.Last Nightといい曲がたくさんあるリトル・ウォルター。
R&Bの感覚がありながらもその底辺に深いブルーズが潜んでいて何十年聴いていても新たな発見や味わいが浮かび上がってくる素晴らしいブルーズマンです。
今日聴いてもらった曲はベスト盤のアルバムに収録されているものですが、できればLittle Walter The Complete Chess Mastersというチェスレコード時代のCD5枚組というのをお薦めします。それはリトル・ウォルターが素晴らしいだけでなく、曲や演奏も素晴らしかったシカゴブルーズの全盛期を聴くことができるからです。バック・ミュージシャンのロバート・Jr.ロックウッドとかデイヴ・マイヤーズ、ジミー・ロジャースたちの絶妙なバッキング・ギター、そしてドラムのフレッド・ビロウやオディ・ペインの体を揺らすシカゴ・ビート、ウィリー・ディクソンのプロデューサー&ベーシストとしての音楽的な支えを知ることができます。詳しい解説とレコーディングデータも役に立ちます。

若くして売れたウォルターは酒と女の日々を過ごし、酔っぱらっては喧嘩三昧の生活を続けて結局喧嘩で負ったケガで37才で亡くなりました。
13才でルイジアナの家から飛び出していろんな街をさまよってシカゴに落ち着いて、いちばんの売れっ子ブルーズマンになった彼の心にあったのはその日暮らしを続けてきた厳しさや孤独や悲しさではなかったかと、彼のブルーズをずっと聴いているとそう思います。時代がR&Bに向かう時代に一見ファンキーにも聴こえる彼のブルーズの中に重く、ヘヴィなブルーズがあるのを感じます。