2020.12.04 ON AIR

Black Lives Matterに連動してリリースされた差別、貧困、格差を訴える曲

Freedom And Justice(P-Vine PCD-24982)

ON AIR LIST
1.Wake Up / Willie Rodgers 
2.Cummins Prison Farm / Calvin Leavy
3.Let’s Make A Better World / Earl King
4.No More Ghettos IN America / Stanley Winston

今年のアメリカはコロナ感染の問題だけでなく、人種差別問題の「Black Lives Matter」(以下BLM)の運動に揺れてます。この「黒人の命も大切」という人種差別反対運動は2012年くらいから始まっていたのだけど、今年5月にミネアポリスで黒人のジョージ・フロイドさんが白人警官による過剰な取り調べで首を足で押さえつけられて窒息死するという事件から運動が再燃したことは皆さんもご存知だと思います。その時のフィルムをニュースで見た方もたくさんいると思いますが、フロイド氏が「呼吸ができない」と訴えているにも関わらず、無抵抗な彼に対して白人警官が続けた行為はやはり過剰なものでした。その後、別の街でも黒人が白人警官に拳銃で撃たれる事件が勃発してBLMの運動はますます大きくなっていきました。こういう黒人あるいは有色人種に対する一部の白人の差別意識は今に始まったことではなく、黒人を奴隷としてアフリカから連れて来た時から始まっていることです。全ての白人がそういう差別意識を持っているわけではないのですが、ここ数年のトランプ政権になってからそれがひどくなって来た気がします。
そんな折に最近P~Vineレコードからリリースされた今回のコンピレーションアルバム「Freedom And Justice」「自由と正義」
過去、いろんな黒人ミュージシャンが差別や貧困、格差について歌った曲を集めたものでソウル、ファンク、ブルーズ、ゴスペルと多彩な選曲になっています。
まずはアルバムの一曲目、先日この番組のゴスペル特集でもON AIRしたゴスペルカルテット「ソウル・スターラーズ」の60年代後半メンバーだったウィリー・ロジャースが歌う”Wake Up”
「同胞を愛することを学ぼう、同胞を信じよう、目を覚まそう、手遅れになる前に」というメッセージを強烈なファンク・ビートに乗せた一曲
1.Wake Up / Willie Rodgers 
ストレートなメッセージもさることながら曲としてもかっこいい、60年代からのファンクの流れを感じさせるいい曲です。
いまの曲はウィリー・ロジャースがソウル・スターラーズから独立してソロになった71年最初のシングルのB面としてリリースされた曲ですが、さすがゴスペル出身の強力な歌です。

ブルーズでも表現のスタイルは違うのですが、昔からプロテストのメッセージが出されている曲はありました。
次に聴いてもらうのは。今日のこのアルバム「Freedom And Justice」をリリースしたP-Vine レコードが創立された最初のアルバムとして出されたものです。カルヴィン・リーヴィーの「カミンズ・プリズン・ファーム」そのタイトル曲を聴いてみましょう。
「アーカンソーの向こうのミズリーで生まれた」から始まるこのブルーズは貧しいがゆえに盗みをして刑務所でひどい目に遭う毎日を歌ったもの。刑務所の看守によって行われていた虐待を告発した歌でもありました。何度聞いても衝撃を受けます。途中の突き刺すようなギターソロも印象的です。

2.Cummins Prison Farm / Calvin Leavy

人種差別の問題は単に人種のことだけでなく黒人層の貧困と格差の問題もからんでいます。白人との所得の格差や例えば表沙汰にならない賃金や昇進の格差がずっとなくならないんですね。露骨ではない目に見えない差別は本当にたくさんあるのがアメリカの社会です。
普段から行われているこういう人種の差別や格差の問題が表面化すると必ず暴動が起こります。そういう暴動には銃を持った警官だけでなく、暴動を押さえこむために軍隊まで出動するのがアメリカです。警官が犯人をすぐ銃で撃つというようなことは日本では考えられません。実は僕はロスにいた時に警官に銃を向けられたことがあります。それはハリウッドで起きた強盗事件の犯人の車が僕が乗っていたキャデラックと同じような車だったらしくて、何人もの警官に取り囲まれて車を止めるように指示されてドアから外へ手を挙げて出て、車の屋根に両手を載せて動かないでじっとしていたのですが、ものすごく怖かったです。変な動きをしたらアメリカの警官はすぐに銃を撃つと聞いていたので本当に恐怖でした。
でも、そういう社会、すぐに銃が出てくる社会になっているアメリカという国が本当に大嫌いです。アメリカにある音楽や文化は好きなのに残念です。
銃社会をやめられない民主国家ってあり得ないです。

次の歌は希望のある歌です。「倒れている隣人がいたら助け起こしてあげよう。お互いに助け合って自由の鐘を鳴らそう。みんなで助け合ってより良い世界にしょう」
こういう歌が生まれて来るアメリカは大好きなんですけどね。ニューオリンズの大好きなミュージシャン、アール・キング
3.Let’s Make A Better World / Earl King

最後の曲はほとんど知られていない歌手で、あまりにも情報がないのでこのアルバムをリリースしたP-Vineレコードの担当の方に聞いてみました。
でも、やっぱりどういうミュージシャンなのか実態がよくわからなくて、分かったのは全部でシングルを3枚だしている。それだけです。
もうアメリカにゲットーはいらないという歌で、ゲットーというのは貧しいアフリカン・アメリカンやラテン子系、アジア系のアメリカンが住んでいる地域のことです。スパイク・リーの映画「Do The Right Thing」の舞台になっている街のようなところです。犯罪も起こりやすく、治安も悪いところが多いです。つまり、この歌のゲットーはもういらないというのは貧しさや格差への告発です。

4.No More Ghettos IN America / Stanley Winston
こういうアメリカの人種差別の話をしたり、関連の音楽を聴く時に必ず考えなくてはいけないのは「では自分自身は日常の中で、この日本に住んでいて誰に対しても差別の気持ちはないのか、人種はもちろん性別、体格、容姿、所得などで知らないうちに差別の気持ちが自分の中で起こっていないか」ということだと思います。