2023.12.08 ON AIR

朝ドラで話題の音楽「ブギ・ウギ」ってなんだろうvol.1

伝説のブギ・ウギ・ピアノ(ユニバーサル UCCC-3041)

ON AIR LIST
1.Pinetop’s Boogie Woogie/Pinetop Smith
2.Cow Cow Blues/Cow Cow Davenport
3.Head Rag Hop/Romeo Nelson
4.Texas Stomp/Dot Rice
5.Overhand/Mary Lou Williams

皆さんはいまNHKテレビで放送されている朝ドラ「ブギ・ウギ」をご覧になっていますか。
日本のブギの女王と呼ばれた歌手笠置シズコさんをドラマのモデルにしていることもあって僕は興味深く見ています。しかもブギ・ウギという音楽はブルーズから生まれたものなので・・。だからこの機会に「本当のブギウギ」を知ってもらいたいと今回からしばらくブギの特集を続けたいと思います。
それでまずブギウギの入門アルバムとして1997年に日本のユニバーサル・ミュージックからリリースされた「伝説のブギ・ウギ・ピアノ」を紹介したいと思います。メーカーでは廃盤になっていますが、ネットでは中古盤が出ているので是非ゲットしてください。
このアルバムは1928年から46年までの録音をコンピレーションしたもので、いろんなブギ・ウギの曲が収録されていて選曲と監修をされた故中村とうようさん。とうようさんの解説もとても役立ってます。
まずはブギ・ウギという曲名がついた史上初めて録音された曲。ブルーズ・ピアニストのパイントップ・スミスが1928年に録音したこの曲から

1.Pinetop’s Boogie Woogie/Pinetop Smith

ブギ・ウギとはピアノから始まった音楽で1小節に8つのビートがある音楽で”8 To The Bar”とも呼ばれます。ピアノの左手でそのビートが打ち出されるます。これはのちにジャンプ・ブルーズというダンサブルな音楽を生み、それが50年代にチャック・ベリーやリトル・リチャードの登場でR&Rのビートの基礎となったリズムです。録音でブギ・ウギというタイトルが付けられた最初がいまの「Pinetop’s Boogie Woogie」ですが、それ以前、20世紀の初め頃からこういう音楽は黒人ダンスミュージックとして存在していました。
次のカウカウ・ダヴェンポートの曲は今の曲より少し前に録音されてブギウギと付いてないですがブギの曲です。
1928年の録音

2.Cow Cow Blues/Cow Cow Davenport
 
ピアノの左手の力強いビートと右手から繰り出されるいろんなフレイズが本当に見事。
いろんな本やネットにブギ・ウギが華開いたのは1920年代のシカゴと書かれてますが、実際は1900年くらいにはニューオリンズやミシシッピやテキサスの酒場のピアノで弾かれていたことがわかっています。特にテキサスでは材木伐採や石油を掘って採取する仕事に多くの黒人が労働者として集まっており、彼らの宿舎の近くにある安酒場のピアノで流れ者のピアニストが弾いたダンス・ミュージックのひとつがブギ・ウギの発祥とも言われています。
この「伝説のブギ・ウギ・ピアノ」のアルバムには全部で26曲が収録されてて、どれも素晴らしい演奏ですが、録音されたブギ・ウギ・ピアニストの中には変わった人もいて、次のロミオ・ネルスンは4曲しか録音が残っていないのですが、どうもギャンブラーだったらしくてピアノを弾いてもギャンブルやるほど金にならないというのでピアノにはあまり気持ちがいかなかったようです。
こんなに個性的でアグレッシヴなブギウギ・ピアノを弾くのにギャンブラーにならずもう少し録音を残してくれれば・・と思います。

3.Head Rag Hop/Romeo Nelson

初めてアメリカへ行った75年に私がすごいなぁと思ったのはクラブやバー、ラウンジ、酒を飲むところにピアノが置いてあることでした。中にはオルガンがある店もかなりありアメリカの黒人音楽とピアノやキーボードの関係の濃さを感じました。多分昔の酒場なんかのピアノは調律も狂っていたりしたのでしょうが、そんなの関係ないとばかりブギでみんな踊ったのでしょう。
次のドット・ライスは女性のブギウギ・ピアニストですがこのアルバムでしか彼女の名前を知りません。20年代、30年代には女性ブギウギ・ピアニストもかなりいたようです。聞いてもらうとわかるように女性とは思えない豪快なピアノで、ピアノの音がすごく大きく鳴っているのがわかります。鍵盤を叩く手の強さも相当なものだったのでしょう。

4.Texas Stomp/Dot Rice

もうひとり女性ピアニスト。メアリー・ルー・ウィリアムズはブルーズ畑の人ではなく、ジャズ畑で有名な人です。作曲、アレンジでも有名で偉大なデューク・エリントンやベニー・グッドマンとも仕事をして100を超える録音を残しています。聞いてもらう曲ももろにブギウギの曲ではなくラグタイム・ビアノやオールドジャズのテイストが感じられます。

5.Overhand/Mary Lou Williams

今日聞いてもらった音楽が本当のルーツのブギウギです。
こうやって聞いてくるとアメリカではブギはピアニストにとっては弾けなければいけない、弾けなければ仕事にならない必須のジャンルだったのでしょう。ピアノ一つあればそこに人が集まってハウス・パーティでも酒場でもみんなでブギで楽しく踊れる。それは貧しい黒人たちにとって憂さを晴らす最高のダンス・ミュージックだったと思います。また来週もこのアルバム「伝説のブギ・ウギ・ピアノ」から歴史的に貴重な録音を聴いてみようと思います。「ブギで踊れ!」永井ホトケ隆でした。