2019.11.15 ON AIR

永井ホトケ隆が選ぶブルーズ・スタンダード曲集 vol.3

Singin' The Blues/B.B.King (Crown / P-Vine PCD-4364)

Singin’ The Blues/B.B.King (Crown / P-Vine PCD-4364)

Greatest Hits Vol.One / Bobby Bland (Duke.Peacock/MCA MCAD-11783)

Greatest Hits Vol.One / Bobby Bland (Duke.Peacock/MCA MCAD-11783)

Sing The Blues/Howling Wolf (Crown / P-Vine PCD-23760)

Sing The Blues/Howling Wolf (Crown / P-Vine PCD-23760)

Driving Wheel / Little Junior Parker (DUKE/MCA MCD-32643)

Driving Wheel / Little Junior Parker (DUKE/MCA MCD-32643)

King Biscuit Time / Sonny Boy Williamson (ARHOOLIE / P-Vine PCD-93701)

King Biscuit Time / Sonny Boy Williamson (ARHOOLIE / P-Vine PCD-93701)

ON AIR LIST
1.Three O’Clock Blues/B.B.King
2.Farther Up The Road/Bobby “Blue” Bland
3.Next Time You See Me/Little Junior Parker
4.Moaning At Midnight/Howlin’ Wolf
5.Eyesight To The Blind/Sonny Boy Williamson

 

ブルーズ・スタンダード曲集の三回目。前回、前々回はシカゴ・ブルーズのスタンダード曲を特集しましたが、今日は少し南に下ってメンフィスのブルーズスタンダードを挙げてみます。
多くの黒人ブルーズマンは南部のミシシッピーやアラバマ、ルイジアナ、アーカンソーあたりの田舎で生まれ育ち、一旗挙げようとメンフィスやシカゴやセントルイス、ニューヨークのような都会に向かっていったのですが、メンフィスという街はテネシー州ですが州の最南端にあり州境を越えるとすぐミシシッピー州に入り、西の州境を越えるとアーカンソー州に入ります。
ミシシッピー川が近くを流れて、50年代には綿花や材木が南から集まって売買される大きな都市となったメンフィス。都市が出来るということは自然と繁華街や夜の街が作られて、クラブやラウンジが生まれ南部のミュージシャンたちが稼ぎに集まってくるわけです。そこでメンフィス・ブルーズと呼ばれるものが作られていったのです。メンフィスと言えば50年代にB.B.キング、ボビー・ブランド、ジュニア・パーカーはじめいわゆるモダン・ブルーズの素晴らしいブルーズマンたちがいて、現在も歌い継がれているスタンダードがたくさん残された街です。
あまりにも有名曲が多過ぎて最初に何をON AIRするか迷うところですが、まずはB.B.キングの初ヒット、1951年にチャート1位になったこの曲
「夜中の3時になっているのに目を閉じて眠ることができない。彼女がどこにいったのかわからない。もう終わりだ。でもベイビーオレの罪を許してくれ」

1.Three O’Clock Blues/B.B.King
まだB.B.キングのスクウィーズ・ギターが完成される前でT.ボーン・ウォーカーのフレイズなども出てくるギターソロですが、でも歌にもギターにもすごく熱量があって素晴らしいブルーズです。
このアルバム”Singing The Blues”には他にもEvery Day I Have The Blues,Sweet Little Angel,Woke Up This Morning,You Upset Me Babyなどなどいまも歌われているスタンダード曲がたくさんあり、それをON AIRしているとこのアルバムだけで終わってしまうので、また順番にスタンダード曲集で流して行くとして、次はB.B.とメンフィス・モダンブルーズの双璧、ボビー・ブルー・ブランド。
ボビー・ブルー・ブランドはボビー・ブランドとブルー抜きで呼ばれることもありますが、売れ始めた頃はボビー・ブルー・ブランド
彼もたくさんブルーズ・スタンダードを残してくれましたが、まずはエリック・クラプトンもカバーでも有名な1957年の初ヒットのこの曲
「ここから先オマエはオレにしているように誰かに傷つけられるだろうよ。古い言葉に自分で蒔いた種は自分で刈り取らなければならないってあるだろう」
2.Farther Up The Road/Bobby “Blue” Bland
「いまオマエは笑ってるけどいつか泣く日がくるんだよ」とまあフラれた女への悔し紛れの言葉とも思えるのですが・・・でも「蒔いた種は自分で刈り取らなければならない」って本当にその通り。こういう言葉もブルーズの歌詞で覚えました。”You got to reap just what you sow, that old saying is true”
ブルーズは英語の勉強にもなります。
いまの歌の最後の「オマエがヨリを戻したいとオレに頼んでも、オレには新しい女がいるだろうよ」You’re gonna ask me to take you back baby, but I’ll have somebody newというくだりの英語の表現とか僕はたまらんですね。
さて、メンフィス・モダンブルーズの偉大なもうひとりジュニア・パーカー。
ジュニア・パーカーもデビューの時はリトル・ジュニア・パーカーという芸名でした。そういえばこの曲にも”You got to reap just what you sow”の歌詞が出てくるですよ。黒人ブルーズマンは好きなんでしょうか。
この歌も次に会う時のオレは昔のオレじゃないよというような歌ですが、ふられるときになんかそう言いたいんですね、男は。まず女の人は戻って来ないです。僕の経験では・・・。
3.Next Time You See Me/Little Junior Parker
1956年リリース。ジュニア・パーカーとさっきのボビー・ブランドは「デューク・レコード」というレコード会社と契約していたのですが、このデュークレコードの音作りというのが聴いてもらったようにホーン・セクションを入れて、アレンジもしっかりされていて、バックのミュージシャンも腕のいいミュージシャンを揃えてしっかりした作りになっています。だから例えば、ジョン・リー・フッカーやライトニン・ホプキンスのような思いつくままに弾き語るブルーズを好きな人が聴くと、ちょっとスクウェアなカチッとし過ぎのブルーズに聴こえるかも知れません。でも、50年代の都会メンフィスのクラブでは少しお金を持った黒人たちがきれいなドレスやスーツにで着飾ってクラブに来てこういうゴージャスなブルーズ・サウンドで夜を明かすのが、都会の黒人のステイタスやったんですね。
でも、50年代にメンフィスはそういう少しオシャレなブルーズが流行ってましたが、川を渡るとすぐにあるアーカンソー州のウエストメンフィスでは、また違うワイルドでラフなブルーズを人気のこの男がいました。

4.Moaning At Midnight/Howlin’ Wolf
さっきのジュニア・パーカーやボビー・ブランドより少し前の51年の録音ですが、比べると土着性のあるアーシーなブルーズで、こういうビートを「サザンビート、南部のビート」というんですがハウリン・ウルフの歌ももう南部の匂いがプンプンするワイルドさ。こういう曲はできる限り音量を上げて聴いてください。もうパンクなんて問題やないです。そして耳から消えないウルフのうーんという唸り声。南部の荒野に放り出されたような気分になります。
こういうウルフのワイルドでラフでタフなブルーズはこの後シカゴのチェスレコードに移籍しても変らないで、彼は全国区のそしてイギリスにもファンをもつ人気のブルーズマンとなりました。
でも、この曲はそんなにヒットしなかったし、カバーしている人もあまりいませんが、ブルーズのスタンダードとして、そしてウルフ代表する曲として入れておきたいですね。
ウルフが活躍したウエストメンフィスから更にミシシッピー川沿いに南へ行ったところにある街がヘレナ。
そのアーカンソー州ヘレナで40年代から南部一帯に知れ渡っていたブルーズマンがハーモニカも抜群の腕だったサニーボーイ・ウィリアムスン。彼はヘレナのKFFAというラジオ局で「キングビスケットタイム」という番組を持っていた。その人気番組でバンド編成による最新の彼のブルーズが南部一帯にON AIRされていた。サニーボーイは間違いなく当時のサザン・ブルーズのボスでした。そんなヘレナ時代の録音から彼のスタンダードとして今回選んだのは、B.B.キングも名盤「ジャングル」でカバーしたこの曲

5.Eyesight To The Blind/Sonny Boy Williamson
これはトランペットというレーベルで1951年にリリースされたサニーボーイのデビューシングルだ。少し前シカゴ・ブルーズの時にON AIRしたサニーボーイとは別人物で、本名はライス・ミラー。
サニーボーイもハウリン・ウルフもこのあとシカゴのチェスレコードで録音をしてヨーロッパでも人気を博し、また素晴らしいブルーズを残していくのですが、その話はまたあとで。