2019.11.22 ON AIR

永井ホトケ隆が選ぶブルーズスタンダード曲集 vol.4
テキサス~ウエストコースト

モダン・ブルース・ギターの父/T.Bone Walker (Capital/東芝EMI TOCP-6380)

モダン・ブルース・ギターの父/T.Bone Walker (Capital/東芝EMI TOCP-6380)

Hard Times & Cool Blues/Charles Brown (Sequel NEX CD 133)

Hard Times & Cool Blues/Charles Brown (Sequel NEX CD 133)

ON AIR LIST
1.Call It Stormy Monday But Tuesday Is Just As Bad/T.Bone Walker
2.T-Bone Shuffle/T.Bone Walker
3.Mean Old World/T.Bone Walker
3.Driftin’ Blues/Charles Brown
4.Merry Christmas Baby/ Charles Brown

このブルーズスタンダード曲集のシリーズで僕がモダン・シカゴブルーズとかモダン・メンフィスブルーズとか言っているそのモダン・ブルーズの元祖であり、ギターに関しては「モダンブルーズギターの父」と呼ばれるのがT.ボーン・ウォーカーです。彼はテキサスの出身ですがロスアンゼルスに移ってからブルーズのヒットをたくさん出して、多くのモダン・ブルーズマンの先駆けとなった人です。40年代、ミシシッピーとかアラバマ、アーカンソーあたりの南部の黒人たちはメンフィスからシカゴへと北上していったのですが、テキサスあたりの黒人たちは西のウエストコースト、ロスアンゼルスに仕事を求めて移住しました。
だからウエストコーストのブルーズにはテキサスの匂いがある曲が多くあります。

T.ボーン・ウォーカーと言えばまず「Stormy Monday Blues」でしょう。ブルーズをよく知っている人の中には、この曲のカバーも多くあり「もう聞き飽きた」なんて言う人もいるのですが、僕は聞き飽きたなんてことはない。
この曲がたくさんのカバーを生み、いまも歌い継がれているのは実にこの曲がうまくできていて、人間の生活や心根をうまく表しているからです。
「月曜から金曜までつらい仕事に働きに行く男は金曜に給料をもらって、土曜にはその金を持って遊びに行き、日曜には教会へ行ってお祈りをする。神さま、オレの心はボロボロですよ。せめて彼女をオレのところに戻してくださいよ」毎日毎日つらい仕事をして、週末に羽目を外して遊びに行く、でも何か満ち足りない。好きな彼女はどこかへ行ってしまい。楽しいことなんてない。日曜には教会に行ってお祈りするけど満たされない。せめて彼女だけでも自分のところに戻ってくれないだろうかという気持ちなんだと思います。でも、そういう生活を送っている人はいまも昔もたくさんいるわけで、だから歌い継がれているんだと思います。
曲はすごくストレートですが、T.ボーンのギターはもちろんバックのトランペットやサックス、ピアノ、ウッドベースの響きが都会の夜の孤独みたいなものをうまく表現しているように思います。
1.Call It Stormy Monday But Tuesday Is Just As Bad/T.Bone Walker
たった3分3秒のこのブルーズが人生の断面をうまく語っていると思います。それからこの曲のコード進行ですが、7小節目、8小節目に2度マイナー、3度マイナーと展開するコード進行がよく使われるのですが、聴いてもらったようにT.ボーンのオリジナルではそれは使われてません。2度マイナー、3度マイナーと行くのはボビー・ブランドがこの曲をカバーするした時にそのコード進行を使い、それをロックのオールマン・ブラザーズ・バンドがまたカバーして広まったのです。曲名も本当はこんなに長いんです。

それでT.ボーンにはたくさんスタンダードとして挙げたい曲がありますが、次はこのシャッフル・ビートの曲。このグルーヴ感はブルーズにおけるシャッフルというリズムの基本と言ってよいと思います。
T.ボーンがモダン・ブルーズギターの父と呼ばれるのは、いまでは普通になっているブルーズを演奏する時のエレキギターのソロを流れるように、しかも素晴らしくリズムがよく印象に残るように弾いた最初の人だったからです。
B.B.キングもジョニー・ギターやゲイトマウスも40年代から50年代のギタリストは絶対にどこかでこの人のギターを一度はコピーしたはずです。だから、いまブルーズギターを弾いているあなたもT.ボーンなくしてはそのギターは弾けなかったということです。だからエレキでブルーズギターを弾く人はT.ボーンまでさかのぼって聴いてコピーしてもらいたいですね。

「さぁ、髪を下ろして楽しもうよ。君が楽しくなければ何も楽しくないよ」
2.T-Bone Shuffle/T.Bone Walker
イントロからギターのテーマから絶妙なタイミングで入ってくるサックスの音色がまたたまらん感じです。そして、クールでドライな歌声の素晴らしさ、そのあとのジャズ風味のギターソロ。そして全編をグルーヴするドラムとベースとピアノのリズム。完璧と言ってよいほどのブルーズ・スタンダードです。
そして、もう一曲、僕はどうしてもこのT.ボーンの曲をこのスタンダード曲集に入れたい。
1942年、彼の最初のヒット”Mean Old World” ロスのメジャー・レコード会社「キャピトル」と契約したT.ボーンの栄光の歴史はここから始まるのですが、歌詞は人生のすべてを歌ったかのような心に残るものです
「ひとりで生きていくにはつらい世の中。愛する女を手に入れたと思ったら、彼女は他の男を愛してる。悩みから逃れるために酒を飲んで、泣きたくないから笑ってるんだよ。自分の心の中を知られたくないからね。でも、いつの日か土の下6フィートの墓の中にオレはいるんだよな。奴隷みたいな扱いをされてこの街をうろついてなんかいないよ」とどこか人生を達観したような深い曲です。
3.Mean Old World/T.Bone Walker

ブルーズという音楽はただ愛しているとかフラれたとかというだけの歌ではなく、こういうように人間の内面を歌った曲もたくさんあります。次のチャールズ・ブラウンの”Driftin’ Blues”もそういう曲のひとつでたくさんのカバーが作られ、歌い継がれてきたブルーズです。
チャールズ・ブラウンはT.ボーンと同じように40年代からウエストコーストでスター・ブルーズマンとして活躍したピアニスト・シンガーだ。
T.ボーンの歌とギターにはエッジがあり、ソリッドだったりするが、チャールズ・ブラウンの歌とピアノはソフトでまろやかな独特の味わい。
「オレは海に出た船のように漂っている」と歌いだすこの曲もやはりMean Old World のように田舎から出てきて都会で暮らす人たちの孤独を描いている。
チャールズ・ブラウンもテキサスの出身で、彼は21才の時にロスに移り住んでいます。元々はナット・キング・コールのような洗練されたスムーズな歌とピアノのジャズを目指してザ・ブレイザーズというピアノトリオで活動していました。1945年にチャート2位まで上がり、23週間チャートインしていた”Driftin’ Blues”の大ヒット。以後、都会的なジャズ・テイストのあるブルーズを歌うブルーズマンとして活躍しました。
では、数多くのカバーを生んだブルーズの名曲です。「海に浮かぶ船のようにオレは漂っている」と不安な都会の生活を歌ったブルーズ
4.Driftin’ Blues/Charles Brown
チャールズ・ブラウンにはまだまだいい曲がありますが、ブルーズのクリスマスソングとしてたぶん一番有名な”Merry Christmas Baby”もブルーズスタンダードに入れておきましょう。
名人ジョニー・ムーアのギターも素晴らしい。
5.Merry Christmas Baby/Charles Brown
チャールズ・ブラウンはサム・クックやレイ・チャールズにも影響を与えていて、レイ・チャールズの初期はチャールズ・ブラウンそっくりさんみたいな曲もあります。