2020.01.31 ON AIR

永井ホトケ隆が選ぶブルーズ・スタンダード集 vol.8

ルイジアナ・ブルーズvol.1

The Things That I Used To Do/Guitar Slim (Specialty/P-Vine PCD-1909)

The Things That I Used To Do/Guitar Slim (Specialty/P-Vine PCD-1909)

Those Lonely Lonely Nights/Earl King (P-Vine PCD-93018)

Those Lonely Lonely Nights/Earl King (P-Vine PCD-93018)

The Singles Collection 1953-62/EarlKing (Acrobat ADDCD 3271)

The Singles Collection 1953-62/EarlKing (Acrobat ADDCD 3271)

New Orleans Barrelhouse Boogie/Champion Jack Dupree (SONY SRCS 6707)

New Orleans Barrelhouse Boogie/Champion Jack Dupree (SONY SRCS 6707)

ON AIR LIST
1.The Things That I Used To Do/Guitar Slim
2.I Done Got It Over/Guitar Slim
3.Those Lonely Night/Earl King
4.Trick Bag/Earl King
5.Junker Blues/Champion Jack Dupree

不定期にやっているブルーズ・スタンダード集、今回はルイジアナのブルーズ。ルイジアナのブルーズマンと言えば、僕がすぐに思い浮かぶのはギター・スリム。
ギター・スリムは元々ミシシッピーのグリーンウッドと言う町の生まれです。ミシシッピーのブルーズマンたちは北へ向いメンフィスからシカゴへ行く者が多かったけれど、彼は南へ下りルイジアナ、ニューオリンズへ行ってます。どうしてかな・・と考えてみたところ、彼のファンキーな芸風はシカゴよりニューオリンズの方が似合っているような感じがします。
スリムが行った50年代当時、ニューオリンズで一番クールだったクラブは「デュー・ドロップス・イン」という店でした、ここでピアノのヒューイ・スミスとバンドを組んでギター・スリムはすぐに人気者になります。
人気の要因はそのアグレッシヴな演奏と派手なスーツに身を包み、ギターを背中で弾いたり派手なアクションで弾いたり・・つまりエンターテナーとしても素晴らしかったからです。歌はゴスペル・ルーツでギターは大音量で歪みぱなしというものでした。
まずはブルーズ史上に残る名作。ギターの音がでかすぎて録音するのが大変だったという話が残っています。1954年に最も売れたブルーズの大ヒット曲はこれでした。
1.The Things That I Used To Do/Guitar Slim
「前はオマエの手を握って、泣きながら頼むから行かないでくれなんて言うたけど、あんなことはもう二度とやらへんで。一晩中オマエを探しまわったこともあったけどしょうもなかった。オマエは他の男のとこへ行っておれはひとりになった。もうオマエとはやってられんわ」
という決別の歌ですが、これがチャート1位になって50年代なかばにメチャ流行ったわけです。カバーもバディ・ガイ、B.B.キングほかたくさんある名曲です。
次の曲も別れた女への恨み節みたいな歌ですが、「最初出会ったときはめっちゃ可愛くみえたんや。でも、しばらくすると最悪や。めちゃ惚れてたけどめっちゃ惨めやったわ。振り返るといつも他の男とオマエ遊んでたもんなぁ」これも一度聴いたら忘れられない
2.I Done Got It Over/Guitar Slim
当時のルイジアナ、テキサスあたりの大スターになったギター・スリムにめちゃ影響を受けて追っかけみたいにしてたのがアール・キング。アール・キングのライヴ・ステージは何回か観たのですが、ギター・スリムと同じように黄色や紫の派手なスーツで登場して、アクションもするんですがちょっとイナタイ。まあ、ギター・スリムもいなたいですけど。でも、彼を観ていると「ああ、ギター・スリムってこんな感じでステージやってたのかな」と想像できました。実際、ギター・スリムの曲をほとんど演奏出来たアール・キングは「私がギター・スリムだ 」と名乗ってルイジアナの田舎のライヴに出てたらしい。すごい話ですが・・・。
そのアール・キングは素晴らしいソングライターでもあるのですが、聴いてもらうこの曲、たったふたりのコードなのに印象に残る素晴らしい曲です。
3.Those Lonely Lonely Nights/Earl King
「君がいなくなってから寂しい夜が続く。ふたりは決して別れへんというてたのに・・。この寂しい夜なんかいやや」ジョニー・ギター・ワトソンのカバーで知っている人もたくさんいると思います。
もう一曲アール・キングで「おまえ、オレを罠にはめたな」女房がとなりの男と浮気していて喧嘩になったら、女房の親がバット持って押し掛けて来て「うちの娘に何すんねん。オマエはただの義理の息子やからな」と言われるという理不尽な歌。
曲調としてはブルーズというよりR&Bに近いかも知れません。同じニューオリンズのファンク・グループ、ザ・ミーターズほかロバート・パーマー、ジョニー・ウィンター、ロベン・フォードなどカバーもたくさんあります。
4.Trick Bag/Earl King
次のチャンピオン・ジャック・デュプリーはニューオリンズに生まれましたが、2才の時に両親が白人の人種差別団体KKKに焼き殺されたので黒人浮浪児収容所に入れられ、14才でそこを出てからいろんな仕事をしてピアノを弾き始めました。アウトローなヤバい世界にも顔を突っ込み、売春宿でピアノを弾いたこともあり、チャンピオンという名前も実際にプロのボクサーをやって生きていた時代があったからです。
そういう彼の代表曲ですが、日本語に訳すと「ヤク中ブルーズ」です。最後に「ドラッグなんかやっているとそのうち死んじまうよ」という歌詞が出てきます。ニューオリンズR&Bからポップの世界でまで売れたファッツ・ドミノのデビュー曲”Fat Man”の元歌です。ファッツの方はもちろんヤバい歌詞は完全に変えられてます。この曲はR&Bテイストですが、ブルーズからR&Bへのとても需要な曲のひとつだと僕は思ってます。
5.Junker Blues/Champion Jack Dupree
チャンピオン・ジャックは1960年にイギリスにツアーに行ったときに人種の差別があまりないヨーロッパが好きになり、住み着いてしまいます。たぶん、ヨーロッパに住んだ最初のブルーズマンだと思います。そして、1982年までアメリカに行くことはありませんでした。アメリカでのそれまでの人生がつらかったからかも知れません。人種の差別を受けて親を殺されたけれど、彼はこう言ってます「ピアノを開けるとそこに自由がある。でも、白鍵だけ弾いて黒鍵を弾かないというわけにはいかない。両方弾かないといいハーモニーは生まれないんだよ。大切なのはハーモニー」胸に残ります。