2020.01.24 ON AIR

永井ホトケ隆が選ぶブルーズ・スタンダード集 vol.7

ミシシッピ・デルタ・ブルーズ

The Complete Recorded Works/Charley Patton (P-Vine PCD-2255/6/7)

The Complete Recorded Works/Charley Patton (P-Vine PCD-2255/6/7)

The Original Delta Blues/Son House (SME SRCS 9459)

The Original Delta Blues/Son House (SME SRCS 9459)

The Original Recordings/Robert Johnson (Sony Music MHCP 233-4)

The Original Recordings/Robert Johnson (Sony Music MHCP 233-4)

ON AIR LIST
1.High Water Everywhere/Charlie Patton
2.Death Letter Blues/Son House
3.Sweet Home Chicago/Robert Johnson
4.Sweet Home Chicago/Magic Sam
5.Cross Road Blues/Robert Johnson

ブルーズ・スタンダードの7回目
ブルーズがいつ歌われ始めたのか、誰が最初にブルーズを歌ったのか、それがどこだったのかはわかりません。
ミシシッピかアラバマかルイジアナかとにかくアメリカの南部と言われています。
その中で多くのブルーズマンが生まれ育った州がミシシッピ州。B.B.キングやアルバート・キング、マディ・ウォーターズのようにミシシッピで生まれ、やがてシカゴやメンフィスで花開いた人は多いです。あまりに多過ぎて誰からどこから手をつけていいのかわかりませんが、ブルーズが録音され始めた頃にさかのぼってみます。
ミシシッピ・デルタと呼ばれる地帯がありまして、そこはミシシッピー川とヤズー川に挟まれた細長い地帯で、そのミシシッピ・デルタで多くのブルーズマンが生まれ育ちました。20年代、30年代です。その当時の録音が残っている有名なブルーズマンというと、ロバート・ジョンソン、チャーリー・パットン、サン・ハウス、ブッカ・ホワイト、スキップ・ジェイムズといった人たちが思い浮かびます。
その中で最初に売れ、南部一帯で広く知られた最初のブルーズマン、チャーリー・パットンが残したブルーズ・スタンダードをまず聴いてみましょう。
1927年に起きたミシシッピ川の氾濫を歌ったもので「どこもかしこも水びたしだ」と川の氾濫に苦しむ貧しい人たちの様子を歌ったものです。日本でも去年はいろんなところで台風や大雨で川の氾濫がありましたが、苦しむのはいつも普通の人たちというのは昔もいまも変らないんですね。
1929年パラマウントレコードからリリースされた
1.High Water Everywhere/Charlie Patton

「水が押し寄せてくるからここにいたらあかん、もっと高いところに行かな」という言葉があり切迫している感じがわかります。そして、最後に「オレはヒル・カントリーに行くつもりだ。もうこんなことはこりごりだ」と歌っています。
日本も台風や大雨で最近は川が氾濫することが多くて、そのたびに僕はこのブルーズを想い出します。
チャーリー・パットンは写真が一枚しか残っていません。顔を見ると顔立ちが白人っぽいのですが、父親は黒人ですがインディアンの母親に白人の血が入っていたとのことです。
次はチャーリー・パットンと同じくらいデルタ・ブルーズの重要なブルーズマン、サン・ハウス。サン・ハウスはチャーリー・バットンより10才ほど若く1902年生まれ。パットンと一緒に演奏していたこともあったそうです。
サン・ハウスのブルーズ・スタンダードとして挙げたのが、カサンドラ・ウィルソンやホワイト・ストライプスなどにもカヴァーされている「Death Letter 」「死の手紙」朝起きたら彼女が亡くなったという手紙が届いたので、急いでかけつけたけど彼女はもう冷たい板の上に寝かされていた」というサン・ハウスを代表する曲です。
2.Death Letter Blues/Son House

サン・ハウスは若い頃ブルーズを歌う前にバプティストの教会でゴスペルを歌っていたので神とか死とか天国とかへの想いが強かったようです。ブルーズを歌いながらもスピリチュアルズやゴスペルの曲を歌うときもあり、まあ聖なる清い気持ちとブルーズの世俗の気持ちの間を行き来していたんでしょう。

チャーリー・パットン、サン・ハウスときて、そのふたりに憧れたのがロバート・ジョンソン。もうデルタ・ブルーズの3大スターみたいになりますが、ロバート・ジョンソンはカバーされている曲も多く知名度はいちばん高いでしょう。ジョンソンはギターと歌がテクニカルだったこともあり、もちろんソウルフルなのですが天才的な扱いをする人もいますが、やはり音楽的な発想の素晴らしさと練習のたまものだと僕は思います。
ロバート・ジョンソンのスタンダード曲というと、クリーム、エリック・クラプトンがカバーしたCross Road Blues、ローリング・ストーンズがカバーしたLove In VainやStop Breakin’ Downなどあるのですが、やはりブルーズの定番中の定番となってしまったSweet Home Chicagoでしょう。ですがロバート・ジョンソンの歌詞で歌っている人は少なくシカゴ・ブルーズのマジック・サムの歌詞が多い気がしますが、まずはオリジナルと。
3.Sweet Home Chicago/Robert Johnson

僕もマジック・サムのヴァージョンでこの曲歌っています。他にもブルーズ・ブラザーズも歌ってました。この曲をみんなが歌うのでもう聞き飽きみたいなことを言う人もいるんですが、それだけ知られている覚えやすい曲がブルーズにあるのはいいことだと思います。また、こうしてオリジナルを改めて聴いてみると素晴らしい趣があります。
では、たぶんいちばんスタンダードにしたマジック・サムのヴァージョンも聴いてみましょう。1967年録音。
4.Sweet Home Chicago/Magic Sam

歌詞も曲の感じもロバート・ジョンソンとは違います。ブルーズと言う音楽はアフリカン・アメリカンの人たちの継承民族音楽なので歌い継がれていく間に歌詞が歌い手によって変えられたりすることはよくあります。つまり、その歌をより身近に引き寄せようとして歌詞を替えたり、新たな歌詞を加えたりするわけです。中には曲のタイトルだけで中の歌詞はほとんど違うというのもあります。
では、もう一曲ロバート・ジョンソンのスタンダード。クロスロード・ブルーズこれもエリック・クラプトンが歌っているのでそちらで知っている人の方が多いと思うし、カバーされる場合はほとんどクラプトン・ヴァージョンなんですが原曲のイメージはほとんどないと言ってよいと思います。この曲に関して伝承している感じはなく、僕はもう違う曲という捉え方をしています。
では、1936年のロバート・ジョンソンです
5.Cross Road Blues/Robert Johnson

放浪しながら歌っていたジョンソンが車に乗せてもらおうと路上でヒッチハイクするのだけど車が止まってくれない。やがて陽が沈んで真っ暗になってしまうのにみんな行き過ぎていく・・・というひとり旅をする不安と寂しさを歌ったブルーズです。
ギターのリズムの正確さと歌の合間に入れるオブリガードの多彩さ・・・やはりふたりいるように聴こえてしまう。ひとりなんですけど。ひとりで南部の砂埃舞う大きな道で夕暮れの中取り残されて行く悲しさを感じます。