2020.10.16 ON AIR

永井ホトケ隆が選ぶブルーズ・スタンダード曲集 vol.25

女性ブルーズ・シンガーたちのスタンダード曲集vo.1「ブルーズの皇后、ベッシー・スミス」

Martin Scorsese Presents The Blues/Bessie Smith (Sony MHCP-2056)

 

ON AIR LIST
1.Down Hearted Blues/Bessie Smith
2.’Tain’t Nobody’s Bizness If I Do/Bessie Smith
3.Nobody Knows You When You’re Down And Out/Bessie Smith
4.Me And My Gin/Bessie Smith
5.Careless Love/Bessie Smith

今日は女性ブルーズシンガーが歌ったブルーズのスタンダード名曲を聴きます。
みなさんは女性のブルーズ・シンガーというと誰が思い浮かびますか、ビッグ・ママ・ソーントンやココ・テイラー、ロックを好きな方はジャニス・ジョップリンやボニー・レイットを挙げるかも知れません。ジャズならダイナ・ワシントン、ビリー・ホリディの名前も出るでしょう。R&B、ソウルならエスター・フィリップスやエタ・ジェイムズ、ルース・ブラウンもブルーズ・テイストの強いシンガーです。でも、まずは「ブルーズの女帝(Empress)」と呼ばれたこの人、ベッシー・スミス。
スタンダードに選ぶべきいい曲がたくさんあって今日はベッシー・スミスだけです。

1923年にニューヨークでベッシー・スミスは初録音しました。
ベッシーが歌ったこの曲はスタンダードとなって歌い継がれ、しかもいまも多くの女性シンガーたちにベッシーがリスペクトされていることを考えると、この曲はブルーズだけでなくアメリカの音楽歴史上の重要な一曲ということになります。
「愛してる男がオレはオマエだけのものになると言ってくれていたのに他に女を作る。愛してくれない人を愛している自分。ずっとトラブルばかりでただただ落ち込んでしまう。一生のうちに愛した男はたった3人。その3人は自分の父親と兄と、そしてあの男(だから男として愛したのはあの男ひとり)。
最後の方で「あなたが私を捨てる日に私もあなたを捨てるわ」と歌っているところが、僕はいいなぁと拍手を送りたいです。
1.Down Hearted Blues/Bessie Smith
ベッシー・スミスの初期の録音はピアノだけの伴奏で歌っています。ちなみにこの1923年のヒットチャート1位になってます。ベッシーは29才くらい。

次は’Tain’t Nobody’s Bizness If I Do。
僕が24才の時にウエストロード・ブルースバンドで初めてカバー録音した曲ですが、僕はB.B.キングとジミー・ウィザースプーンを聴いてカバーしたのですが、オリジナル録音はこのベッシー。ジャズのビリー・ホリディも録音しています。
「お金のない友達がいたら、私のお金を全部あげるよって言う。でもそれは私のやることだからつべこべ言わないで。日曜日には教会に行く。でも次の月曜には自堕落なことをするけどほっといて欲しい自分がやることだから」とつづくのですが、要するに自分のやりたいようにやるという歌です。いつの時代にも人の気持ちを代弁している普遍的な意味のあるブルーズです。この曲はいろんなシンガーが歌って自分なりの歌詞を付け加えたバージョンも多く、10番くらいまで歌詞があるものもあります。
1923年録音ピアノはクラレンス・ウィリアムス
2.’Tain’t Nobody’s Bizness If I Do/Bessie Smith
1923年録音というと日本は大正12年、関東大震災の年です。僕も今も時々歌っていますが、いまもたくさんのシンガーに歌い継がれているブルーズ名曲です。

次の曲もブルーズスタンダードにふさわしい1曲
いつの時代にも共通する人生への戒めを歌った内容ですが、タイトルが「落ちぶれたあなたのことを誰も知らない」
お金をもって羽振りがよかった頃はみんなにシャンペーンや高い酒を奢っていたけど、自分が落ちぶれはじめたら誰も寄り付かなくなっていくというよくある話です。とくに音楽やショービジネスの世界はアップ&ダウンが激しいので、この曲をいまでも歌うミュージシャンは多い。
実際のベッシー・スミスもこの歌を歌った1929年頃、30代半ばはすでに人気は下降気味でアルコールへの依存も強くて健康状態もあまりよくなかった。
3.Nobody Knows You When You’re Down And Out/Bessie Smith
1929年録音でまだベースとドラムはありませんが、コルネット、チューバ、サックス二本、ピアノとバンドスタイルが始まってます。

1920年代から30年代初期までアメリカはアルコールの製造販売を禁止する禁酒法を施行していて、次の歌はその頃作られた。
アルコールへの依存が強かったベッシーのリアルなブルーズ。別名Gin House Blues
「近寄らないで私は罪を置かしているから・・警察が来たらそれは私と私のジンが悪いの。気分がハイになったら何でもやるよ。たくさん呑めばあんたをいい感じにしてあげる」
4.Me And My Gin/Bessie Smith
1928年に作られたこの曲もたくさんカバーされていまして、ジャズのニーナ・シモン、ロックのアニマルズ、日本の浅川マキさんそして亡くなったブルーズの盟友、ウィーピングハープ妹尾くんなど。妹尾くんはお酒を呑まないのにこのブルーズが好きでしたね。

1920年代の終わり頃には音楽の流れがより洗練されたものへと変わり、1929年の世界大恐慌の影響もあり彼女のレコードも売れなくなって行きます。
1933年が最後のレコーディングになっていますが、それ以降もライヴでは人気があったので彼女は旅をして歌い続けました。そして、1937年に彼女は旅の最中に43才で交通事故で亡くなってしまいます。

100年近く前の曲ですが、歌われている内容はいまの時代にも共通することがたくさんあります。「友達の彼氏を好きになってその友達から奪ったけど、彼も友達も失った・・私は軽はずみな恋をしてしまった」と、後悔している歌です。
5.Careless Love/Bessie Smith
ベッシー・スミスは身長は182センチで体重は90キロ近くあったらしく、酒も強くて男も負けてしまうほど腕力も強かったそうです。「ハウス・ロッキン」、歌っている「店を揺らす歌手」と呼ばれ人気のあるシンガーで、経済的にも自立して男に頼らないで、男性とも女性ともセックスをするバイセクシャルな女性でした。
いまの時代にもベッシー・スミスの名前が多くの女性シンガーからリスペクトする人として名前が出るのは、歌手としての実力はもちろん1920年代30年代という時代に自立して精神的に自由な女性だったということも大きいと思います。今日はベッシー・スミスが残したブルーズスタンダードの名曲を聴きました。

今日聴いてもらった曲は映画監督のマーティン・スコセッシが制作指揮をした「ブルース・ムービー・プロジェクト」の関連で2003年にリリースされたベッシー・スミスのコンピレーションアルバムから聴いてもらいました。興味のある方は番組HPをどうぞ。http://blues-power.jp